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2017.08.07 UP

「ダンス×福祉」であらゆる境界を越える! 総勢500人がつながるイベントも開催

ダンスパフォーマンスを通じ、すべての境界を越えて多くの人をつなげる。そんな活動を続けているのが、ダンスチーム「SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャルワーカーズ)」だ。「障がいの有無に関係なく、いろんな人にダンスを届けてハッピーになること」を目指し、全国の福祉・介護施設でダンスパフォーマンスを行い、夏にはダンスパーティ・イベント「チョイワルナイト-DANCEと福祉をつなぐ-」を開催。2017年、このイベントは第8回を迎えるが、出演者も含めた参加者数は500名規模にまで成長。障がい者や福祉従事者はもちろん、福祉に縁のなかった一般の会社員や学生、高齢者も参加し、ダンスを介してボーダーレスなコミュニケーションを楽しんでいるという。同チームの創立者であり、代表を務めている笹本智哉さんにお話を伺った。

高校3年生で介護資格を取得
ヘルパーとダンス活動を並行

笹本さんが福祉の道を志したのは、発達障がいのある幼なじみがいたことや、祖母が高齢者向け給食サービス会社で働いていたことがきっかけだったという。

「幼い頃から福祉に触れる機会が多かったので、自然と『将来は、障がい者福祉に携わりたい』と思うようになりました。障がい者の行動が世間に理解されないことを歯がゆく感じることもあり、もっとコミュニケーションをとれるようになりたいという気持ちがあったんですよね。高校3年生のとき、福祉系の学部への進学を決意し、ホームヘルパー2級課程(現:介護職員初任者研修)を修了。休日には障がい者の介護をするヘルパーのアルバイトをしていました」

一方、中学時代から続けてきたストリートダンスの活動も並行。仲間とダンスチームを組んでパフォーマンスを行い、高校・大学時代にはクラブイベントへの出演やバックダンサーとしても活躍した。

「ダンスに目覚めたのは、中学2年生のときです。TRFのダンサー、SAMさんが出演するテレビの深夜番組『RAVE2001』を偶然見て、ダンスチームの姿に衝撃を受けたことがきっかけ。そこから僕もダンスを始め、ストリートに出てパフォーマンスをするようになりました」▲「すべての人々が共存するインクルーシブ社会の実現には、あらゆる社会資源が手をつなぐようなソーシャルワークが必要。この考え方を広めていくため、ダンスチームの名前もSOCIAL WORKEEERZにした」と語る笹本さん。一般のクラブイベント・音楽フェスのゲスト出演などでも活動する実力派のチームだ

ダンスで障がいのある人と一体に
この感覚を広めようと福祉施設訪問を開始

ダンスと福祉を結びつけようと考えついたのは、高校時代に福祉のボランティア合宿に参加したときのことだった。軽度から重度まで、さまざまな障がいのある方と交流する合宿で、笹本さんは、コミュニケーション・スキルもなく、ひたすら緊張するばかりだったという。

「合宿中のレクリエーションで太鼓のパフォーマンスが行われることになり、施設の職員さんに『ダンスやってるなら踊っちゃいなよ』と言われて。ヒップホップのダンスを受け入れてもらえるだろうかと不安に思いながらステージに飛び出すと、皆さん、音やダンスに反応してくれたんです。舞台に上がって一緒に踊り出す子もいたし、重度の障がいで寝たきりの子も一生懸命に顔をこちらに向けてくれた。その一体感に感動しましたね」

笹本さんは「この感動を多くの人に知ってほしい」と考え、たった一人で全国の福祉・介護施設を回り、ダンスパフォーマンスを行う活動を開始。合宿で知り合った福祉関係者に熱意を伝え、受け入れてくれる施設を紹介してもらった。多いときには月に3回、北は茨城県、南は香川県まで訪問を続けたという。

「大学に進学した後も続けました。やがて『多くの人にダンスを体験してもらう機会を作り、関心を持ってくれる人の数を増やしたい』と考えるようになったんです。そこで、ダンス仲間に声をかけ、障がい者支援を行うNPO団体の合宿中にダンスイベントを開催しました。これが、『チョイワルナイト』の前身となりましたね」▲2016年に開催されたダンスイベント、「チョイワルナイト」の集合写真。出演者や運営ボランティアのスタッフ200名、参加者は300名で、総勢500人が集まるほどの規模に

TV番組に取り上げられたことを機に
活動の幅をさらに広げようとチームを結成

大学卒業後、障がい者入所施設で働くことになった笹本さんは、自分が抱いていた理想との大きなギャップを感じたという。

「あくまでお世話する側とされる側であり、自分が思い描いていたような、人間同士のつながりを感じるコミュニケーションをとることができなかったんです。そこで、レクリエーションとしてダンスイベントを提案しましたが、他の職員からは『前例がない』と反対されるばかり。みんなが踊り出してハイタッチする、あの自由な楽しい時間を作れるはずなのに、と当時は残念に思っていましたね」

笹本さんは、就職後も手弁当で福祉施設への訪問を続け、やがて、その活動があるTV番組で取り上げられることになる。世間の注目を浴びる中で、「一人の活動で終わらせてはもったいない」と考えて、2011年、ダンスチーム「SOCIAL WORKEEERZ」を結成する。

「『ダンスを通じたコミュニケーションで、障がいの有無や職業、性別、年齢など、すべての境界を取っ払って人と人をつなげる場を作る』という考えに賛同してくれるメンバーを集めました。当初は6名でしたが、現在は、ダンサー18名、運営スタッフ2名の合計20名となっています。児童養護施設の職員や特別支援学校の先生、保育士などの福祉関係者から、広告代理店やIT会社で働く会社員、公務員、プロダンサーまで、メンバーの職業は多種多様ですね」

文具メーカーで働く会社員の森内久登さんは、社会人ダンスサークルのつながりからチームに加入した。

「客席でみんな飛び跳ねたり、演者と観客が混じり合って一緒にステップを踏んだり、普通のダンスイベントと違ってすごい一体感があるんです。『こんなに素直に開放的に楽しめるものなのか!』と驚きました。活動を続けるうちに、障がい者への理解が深まり、自分の価値観も大きく変わりましたね。僕は福祉と直接関わることのない世界にいますが、そこから自分にできることをしていきたいと思うようになりました」(森内さん)▲「イベントに希望や期待を持ってくれている人のためにも活動を続けていきたいですね」と森内さん▲「チョイワルナイト」でダンスを楽しむ風景。演者も観客も混ざり合って踊るという

ダンスイベントはすべて手作りで開催
障がい者、若者、高齢者…誰もが楽しむ場に

現在、SOCIAL WORKEEERZは、福祉施設や一般の学校でダンスパフォーマンスやワークショップを行う訪問活動を中心に、福祉関連の企業や自治体が開催するイベント、地域の祭りにも出演。また、ダンスパーティ・イベント「チョイワルナイト」は、神奈川県川崎市のNPO団体を中心とした約20の福祉団体の協力を得て、多くの出演・来場者を動員している。

「昼の福祉イベントなのに“チョイワルナイト”と名付けたのは、『福祉の世界でも、少しくだけたコミュニケーションをとったっていいんじゃない?』という思いからです。福祉施設に声がけをして参加者を集め、障がい者だけでなく、日頃から介助しているスタッフの方にも一緒に参加してもらっています。会場は、バリアフリー環境と音響施設が充実している公民館。準備はすべて自分たちで行います」

協賛企業には、資金面ではなく、ボランティア活動での協力をお願いし、見守りスタッフの人員を確保。体調を崩しても休めるように救護室も設け、安全に楽しめる環境を整えている。一方、音楽やダンスが苦手な人にも楽しんでもらえるよう、記念写真を撮影するブースや自閉症を疑似体験できるブースなどを設置し、ペットボトルでマラカスを作るワークショップなども開催している。

「音楽やダンスなどで出演してくれる人も含め、約200名の方々が協力してくれています。参加者からはチケット料金を頂いてますが、会場代などの運営費用に充てるので、団体の収益はほぼゼロですね。みんなが楽しんでくれることはもちろん、『自分もイベントを企画して開催したい。同じような活動をしたい』との相談を受けることが増え、僕らの活動が世の中に広がっていくことに喜びを感じています」

チーム結成当初から副代表を務める桑原一郎さんは、笹本さんが学生時代から所属していたダンスチームの先輩であり、現在は金融機関で働く会社員だ。

「僕たちは『福祉の現状を知ってほしい』なんて堅いことは考えていません。音楽とダンスの楽しさに、ストレートに反応してくれる障がい者と触れ合うと、自分の中に見えない壁があったことに気付きます。ダンサーとしてもインスピレーションを受けますし、ダンサー仲間からも『こんなボーダーレスな空間は見たことがない。いままで経験したイベントの中で一番楽しい』という言葉をもらいました。また、イベントに参加した会社の上司も『自分が凝り固まって身構えていたことに気付いた』と言ってくれました。会社員って、日頃は自分と似たような属性の人々とだけ触れ合うタテ割りの世界。これまで触れたことのない世界を知り、刺激を受けることが自分の糧になり、仕事にも生きていると感じています。この活動で、いろんな価値観を持つ人たちを横軸でつなげていきたいですね」(桑原さん)▲第8回の「チョイワルナイト」は2017年8月12日に、神奈川県川崎市の「溝の口ノクティホール」で開催される。入場料は、一般1500円、小・中学生、障がい者、介助者は500円だ▲イベント時に視覚・聴覚・触覚を制限する機器を身に着けて自閉症の感覚を体験できるブース。ほかにも写真撮影を楽しめるブースや、ワークショップのコーナーなどを展開▲最初にイベント出演したとき、参加者が舞台に上がって飛び入り参加してくる体験をしたという桑原さん。「『何だ、これは!』と衝撃を受けました。あの楽しさを一度ぜひ味わってほしいです」

介護・福祉の世界はもっと大胆になっていい
新たな挑戦をし、それを応援することが大事

着々とつながりの輪を広げるSOCIAL WORKEEERZ。今後の目標について、笹本さんは次のように話してくれた。

「大きな目標は、2020年のパラリンピックという大舞台で障がいのある人と一緒に、お客さんを巻き込むパフォーマンスをすることです。もう一つの目標としては、将来的に専任メンバーを設置できる程度の利益を確保していきたいですね」

当初は、介護・福祉業界の先輩から「ダンスイベントなんて、福祉から飛躍しすぎじゃないの?」と批判されることも多かった笹本さん。それでも活動を続けた結果、「介護・福祉の世界は、もっと大胆になっていい」ということを実感しているという。

「生活の介助をするだけが介護ではないと思っています。プラスアルファの楽しみや喜びがなくては、彼らの生活は満たされないはず。みんなのイキイキとした姿を見てきた僕としては、ここまで続けてきてよかったと思っていますし、これからも続けていきます! 若い人にはぜひ新しいことに挑戦してほしいし、先輩たちには夢を持ってこの業界に入ってきた若い人たちを応援してほしいですね」

【文: 上野真理子 写真: 阪巻正志】

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