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介護業界人事部から

2016.08.31 UP

「何もしない時に見えてくるものがある」、「教える」のではなく「気付いてもらう」4泊5日の軽井沢研修で職員を元気に

「何もしない時に見えてくるものがある」、「教える」のではなく「気付いてもらう」4泊5日の軽井沢研修で職員を元気に/社会福祉法人 新生寿会

夏に開催される、4泊5日の軽井沢研修。その中身とは…

社会福祉法人新生寿会は、2014年度より複数施設から職員3~4名を集め、軽井沢で4泊5日の宿泊研修を実施している。
軽井沢にある「宅老サロン Peaceful Heart 」でお手伝いをするというカリキュラムなのだが、送り出される職員は周囲に「リフレッシュしておいで」「楽しいよ」という言葉をかけられるそう。
果たしてその研修の中身とは?毎年夏に3~4名ずつのメンバーで計4回実施されているうち、4回目のグループ最終日にHELPMAN JAPANがお邪魔した。▲軽井沢駅より車で数分にある可愛らしい一軒家が研修会場。いたるところにお洒落な飾りやオルゴールなどがあり、新生寿会の職員向け冊子も置いてある。

参加した職員は普段異なる施設で働く3名。
研修での気づき、学びを笑顔で語ってくれた。

研修最終日にインタビューに答えてくれた豊田さん、岩本さん、新井さん。3名は普段異なる施設で働いており、この研修が初対面だったという。この研修でどんなことをしたのか?どんな学びがあったのか?率直な内容を聞いてみた。
すると驚いたことに、この研修では知識や技術的な要素を学ぶコンテンツは計画されていない。まず1日目では、職員同士の働く悩みを共有していたというのだ。

「地域密着である点を魅力に入職したが、数年経過し、地域に密着しているという実感を持つことが徐々に難しくなってしまった。」「職員体制が変わり自分の経験年数も長くなり、働き始めたころの抱いていた純粋な気持ちが薄れてしまっている感じがした。」「後輩が入り、自分の業務もままならないのに教育しなければならない苦しさがあった」・・・など、悩みは三者三様だが、その悩みを共有した時は全員が号泣するほど共感しあったという。初日こそ初対面で緊張する雰囲気もあったが、悩みを共有し参加者同士の心は徐々に溶けていった。2日目以降はテニスやアーチェリー、軽井沢の街散策など様々なことを自由に実施。4泊5日を通じ、彼女たちは明らかに表情も話す内容も輝きを増している。何が変化のきっかけだったのか、特に印象的だったエピソードを紹介したい。

自分の経験年数も長くなり、働き始めたころの抱いていた純粋な気持ちが薄れてしまっているという悩みを抱えていた職員。研修先の宅老サロンオーナー、山家さんに「一回何もしないということをやってみたら?何もしないことで見えてくるところもあるよ」と声をかけられ、他の職員が昼ご飯の準備をしているときに何もせずソファにずっと座ってみた。すると、彼女は自分が普段のお年寄りの立場に立っていることに気付く。そして「自分はお年寄りに対してすごく怖い顔をしてしまっていたのではないか。業務に縛られ、スタッフや仕事ばかり見ていたことでお年寄りとコミュニケーションをとれていなかったのではないか」ということに気付いたのだ。

こうした自分自身の気づきにより、それぞれの悩みは研修終了後の行動目標に変化していた。「自分から発信し、地域に密着した取組を実践していきたい。」「色々な話を聞いて、人の見えないところでもちゃんと自分で仕事に向き合っていこう。」「今自分に足りないものが再確認でき、原点に戻れた。まずはお年寄りと一緒にいる時間を作りたい」・・・その変化は、この研修を初年度から牽引しているユニットリーダー松下さんも思わず涙ぐむほど。「ここで感じたことを、ここで終わらせず戻って実践しようと職員自ら話していたんです。みんなの未来は明るい。感謝しています」と松下さんも笑顔で語った。▲この日のお昼ご飯はロコモコとスープ。すべて職員の手作りで、ご近所さんが持ってきてくれた野菜も使った栄養満点のメニュー。▲ご近所さんにワンコインのお弁当として配達も実施。とても美味しく、職員の優しさやまごころを感じると大好評。こんなに若い方々が作っているのかという驚きの声もあったという。

この研修が生まれたきっかけは、一人の認知症患者とその家族とのエピソードにあった。

▲この研修を新生寿会とともに作り上げてきた宅老サロンオーナーの山家さん。この研修の始まりは3年以上前にさかのぼる。宅老サロンオーナーの山家さんは軽井沢で個人店経営を始めたが、別荘の所有者も高齢者が増え、夜中に高齢者の行方不明者を知らせる放送が相次いでいた状況に驚いたという。そしてお店をはじめて3年目に父がピック病を発症し、介護の為に軽井沢と実家を行き来する生活を送るようになる。
徘徊や暴力が絶えず、娘である自分のことも分からない時もあり、父が父でなくなってしまうような恐怖を感じていた山家さん。複数の介護サービスを受けるなかで新生寿会に出会い、週2回自宅に介護に来てもらうようになって以降、驚く出来事が起こる。父が自分のことをわかるようになり、質問に答えてくれるようになり、父らしさを取り戻していったのだ。
その後父は亡くなったが、山家さんは父の介護時に抱いた想いを新生寿会と実現したいと、施設運営を手掛ける原田さんに軽井沢での宅老サロンを提案。
「軽井沢という場所は素晴らしく、落ち着きを取り戻せる場所。普段介護をしているスタッフの方々に、この場所で幸せなひと時を過ごしてほしい」

最初に山家さんからこの話を受けた時、新生寿会の原田さんはオープン3年目の施設運営で多忙な時期を送っていた。運営体制を構築する中で疲弊するスタッフの表情を見て、「この現場から一度離し、原点に戻ることが必要だ。ロッジのような場所で語り合えるような機会を持てないか」と考えていた原田さんにとって、山家さんからの提案はまさにイメージに近い内容だった。

そして2014年夏に第1回目の軽井沢研修を実施。表情が変わっていくスタッフを見て、「これだ!」と思ったという原田さん。研修終了後、職員の高齢者へのケアの仕方が変わったなどの効果も見られ、毎年恒例の研修になっている。

統括原田さんの職員に対する想いとは。

▲職員が自ら気付く、考える研修の仕組みづくりを行ってきた統括原田さん。統括原田さんは職員100人以上が在籍するありすの杜きのこ南麻布の職場環境づくりを現在手掛けているが、職員育成については「教えるのではなく、気づいてもらう/考えてもらう」ことを最も大切にしている。その根底には、自分は仕組みづくりに徹し、最もお年寄りの近くにいる現場の職員たちが自ら考えたことを実践することで、仕事の喜びや自分の成長を感じられる組織風土を作ること。現場のリーダーや中堅職員を中心に実践や考えを後輩に示していくことで、ケアの質を底上げする体制が構築できるという考えがある。

この軽井沢研修の対象者は、まさしくリーダーやリーダー候補の3~4年目がほとんど。彼らが自分の原点に戻り、今後のアクションをもう一度考える機会があれば、その成長は目を見張るものがあると原田さんは話す。
「体力的に辛い時もあるけれど、リーダーやメンバーが自分の考えを話してくれたり、頑張ってレポートを作ってきてくれた時は本当に嬉しいし、かわいいと思うんですよね」と笑顔で語るその姿に、この法人の魅力を感じた。

利用者を大切にすることはもちろん重要だが、それは利用者をケアする職員を大切にすることによって生まれるのではと気付かされる取組であった。このような取り組みが今後も業界全体で増えていくことを期待したい。

【文: 阿部 奏子 写真: 阿部 奏子】

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