業界最新トレンド
人手不足が叫ばれる介護業界においては、人材の確保が課題となっている。そんな中、業界にとって歓迎すべき流れがある。「セカンドキャリアを介護職で」と考える高齢者が増えているというのだ。年齢を問わず第一線で活躍できる業界とあって、今後一層、この流れは注目度を増していきそうだ。今回は、そうした高齢者人材の採用に早くから取り組む株式会社ソラストに話を伺った。
プロフィール紹介
株式会社ソラスト
日本初の医療事務教育機関として、1965年に創業。医療事務の業務委託事業にも着手し、現在も全国の1300を超える医療機関にて、医療事務業務に取り組む。「医療と介護の連携」の必要性を重視し、介護保険制度制定前夜の1999年には介護事業をスタート。さらに2002年からは保育園の運営を開始。「人、パートナー、社会を元気に」という理念のもと、事業に取り組んでいる。2012年に株式会社日本医療事務センターから株式会社ソラストに社名変更し、設立51年目を迎えた2016年6月には東証一部上場も果たしている。

60歳以上で活躍する介護スタッフは
全体の約17%。最高齢は81歳

株式会社ソラストでは、2016年3月現在で219の介護事業所を運営している。2560人のスタッフが現場で活躍しているがそのうちの実に429人が60歳以上だ。

「70歳以上は156人、最高齢は81歳の方が複数人いらっしゃり、現役の訪問介護スタッフとして活躍中です」(遠藤さん)

労働省老健局調べでは、ホームヘルパーの有資格者は全国で383万人。しかし、実際にホームヘルパーとして従事しているのはそのうちの11%、42万人にすぎない(厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」より)。また、厚生労働省では、2025年に介護業界で37.7万人の人材が不足すると予測している。

一方で、65歳以上の高齢者数は今後増加の一途だ。これからの10年間で介護業界のマーケットは現在の10兆円規模から倍増の20兆円規模にまで成長するといわれているが、そうした成長ポテンシャルを生かすためには、人材の力が欠かせない。

そこで同社が注目したのが、介護業界へ興味を持った60歳以上の方々が働きやすい環境を整備し、力を借りようというアイデアだった。「セカンドキャリアを介護業界で」というコンセプトは、同社の経営理念にも合致していた。

「60歳以上の方の多くは、まだまだ社会貢献したいと強く望んでいらっしゃいます。介護業界には、“社会に求められる仕事でセカンドキャリアを築きたい”という人にとって、活躍できる場がたくさんあるんです」(遠藤さん)

彼らが現場で働くことの一番の強み・メリットとなるのが、「利用者と年齢が近いところ」だという。

「例えば、若いころにはやった懐かしい歌の話で盛り上がることは、たわいもないことかもしれませんが、ご利用者にとってはすごくうれしいことです。同じ時代を生きてきたからこそ、『あんなことがあったよね』という話ができるのは、大きな『安心感』の提供につながるようです。それが自立、そして元気につながるのだと思います」(遠藤さん)
▲新卒入社者から80代まで、現場によっては幅広いケアワーカー・ホームヘルパーなど(介護職)が活躍しているのが同社の特徴だ。社員の方々も口をそろえて「世代を超えて協力し合える楽しい職場」と話す
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定年後のキャリアだけでなく
「親の介護経験を生かしたい」という人も

同社での高齢者の採用募集は、ハローワークだけでなく、国や自治体が運営している高齢者の採用に特化した媒体や、民間企業が運営する各種求人媒体も活用している。複数の媒体を使って広くアプローチする際に、常に意識していることがあるという。

「求人票では、多くの60歳以上の方が活躍していることを積極的に打ち出すようにしています。以前、『70歳以上の方もたくさん活躍しています』と記事作成したところ、60代後半の方から『これは本当ですか?』とたくさんの問い合わせをいただきました」(遠藤さん)

最近増えているのが「親を介護した経験を仕事として生かしたい」と考える人だという。

「親の介護が終わり、『落ち着いたのでそろそろ働こうと考えている』というご高齢の方からの問い合わせは多くなっていますね。その他、社宅の寮母をやっていたご夫婦など、何かしらの事情で仕事をたたむことになった方もいらっしゃいます」(遠藤さん)

そうした求職者の方々が働きやすいように、会社としてさまざまなサポートを行っている。無理のない範囲で勤務できるよう、各事業所と相談しながら「自分のペース」を最重視したシフトの作成には何より力を入れているという。また、訪問介護の場合、自転車での移動が不安であれば三輪自転車を用意したり、徒歩で移動できるような近距離のシフトを組むといった工夫も。さらに、資格取得に向けた講習会の実施や、取得費用のバックアップなども行っているという。
▲現在ソラストでは、事務作業の効率化を目指してシステム化を進めている。高齢の介護スタッフが多くいるソラスト小岩事業所では、こんな光景も。「機械操作はまるでダメですが、管理者の林田さん(左)と一緒に、時間をかけながら少しずつ練習しているところです」と語る、ホームヘルパーの井上加津枝さん

飲食店のホールスタッフから転身。
ヘルパーの力の大きさを実感する日々

55歳でソラストに入社したホームヘルパーの井上加津枝さんは、66歳になる現在も訪問介護の現場で活躍中だ。前職は飲食店のホールスタッフ。勤めていたお店が閉店することになり、「介護の仕事なら人の役に立てるに違いない」と考えて、当時ソラストで行っていた未経験から会社の費用負担でホームヘルパーの資格を取得できるシステム(※現在は全額会社負担)を利用し、介護業界に飛び込んだという。

「始めた当初は、しっかり研修を受けてはいたものの、移乗介助や入浴介助、立って行うオムツの交換などの場面で不安を感じるときもありました。予期せぬことも多いですし、自分一人では支えられないといった場面も少なくないからです。そんなときこそスタッフ同士で力を合わせることが大事で、『一人で全部をやろうと考えない』ということを学びました」(井上さん)

井上さんは、“ご利用者から信頼されている”と感じられることが、この仕事のやりがいだという。

「『ありがとう』の一言は何よりうれしいですね。『あなたが来ると元気になるわ』と言っていただけることもありますし、寝込んでいた方が元気を取り戻してくれたりすると、人の役に立てている喜びを感じます。ご利用者の笑顔を見ながら『ヘルパーの力って、すごいんだな』と実感する毎日です」(井上さん)

現在は平日休みの週4日間勤務。最も多いときで一日10軒程度のお宅を回ることがあるが、大体は午前中に2、3軒、午後に3、4軒を訪問する直行直帰のスタイルだ。シフトの自由も利き、休みの希望も伝えやすいため、「気分転換で毎年海外旅行を楽しんでいます」と笑顔で話す井上さんだ。
▲「体が動く限りはこの仕事を続けていきたいです」と笑顔で語る井上さん。元気の源は、日々いろいろな出会いがあること。そして、「この人とどうすれば仲よくなれるか」を考えることだという

「疲れた」よりも「楽しかった」
豊富な人生経験が生かせる仕事

「私はこの仕事を『一生の仕事』だと思ってやっています。生涯現役で勤めたいですね」と語るのは、ソラスト薬園台でケアワーカーを務める伊藤佳世子さん。ソラストの前身である日本医療事務センターに入社後、レセプト社員などを経て、女性管理職として人材派遣事業部の転職支援センター次長など第一線で活躍してきた。

介護の仕事経験はなかったが、定年を迎えるにあたり、当時の上司から「現場で働いてみてはどうだろう」とすすめられたのがきっかけで介護業界へ。65歳から福祉事業部で各社事業所を訪ねたり、有料老人ホーム川口で3年勤務した後、ソラスト薬園台で働き始めて現在7年目となる。

「いまはデイサービスのスタッフとして働いています。この仕事で大事なことは、気配り、目配り、心配り。これらは家庭の延長線上にあるものだと思っています。何をしたらその人が一番喜んでくれるのかを考え、ご利用者に寄り添い、何を求めているのかを把握すること。自分一人の仕事ではないですから、チームワークを大切に、笑顔で仲よく、が基本ですね」(伊藤さん)

現在は週4日から5日の勤務で、8時15分から17時15分までが労働時間となっている。「仕事の後は『疲れたな』とは思いますが、一日無事に終わったことが喜びになりますね」と笑顔で語る。休みには、リフレッシュのためにハイキングに行くことが毎月一回の自分へのご褒美なんだとか。

「必要なスキルは仕事を続けていくうちに覚えられます。最も大事なことは、豊かな人生経験を持っていることではないでしょうか。ご利用者との会話の中で、土地の名前や名産、名所などの話ができたり、『あそこは山や湖がきれいよね』なんて共通の体験や経験から話ができたら、懐かしい気持ちになってとても喜んでくれるんです。長い人生、いろいろな経験をしてきた人なら十分に仕事を楽しめると思いますね」(伊藤さん)
▲「学びたいという気持ちがあれば、いくらでも成長できます。ご利用者の立場に立ち、求められているケアを行い、謙虚に仕事を覚えること。自分のことではなく、ご利用者に心を開いていただけるように傾聴していくことです」(伊藤さん)

今後関心が高まりそうな
高齢者のセカンドキャリア

介護保険法の改正により、要支援1および2の方たちへの支援として、平成29年4月までに市区町村が主体となり「介護予防・日常生活支援事業」がスタートすることになっている。今後は、こうした機会をきっかけに地域社会に貢献し、地域の中で健康的に充実した生活を送りたいと考える高齢者は増えていくのではないだろうか。

「社会とつながっていたい」「人の役に立ちたい」という高齢者が増えれば、おのずとセカンドキャリアへの関心は高まっていくだろう。そのときに、介護業界にとっては大きな人材確保の機会となる可能性は十分にあるはずだ。
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文: 志村 江
写真: 清水真帆呂、桑原克典(東京フォト工芸)
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