ヘルプマン
ドッグランやストリートバスケット・コートがあり、ライブハウスからは軽快な音楽が街に流れてきます。美術大学の学生がアトリエ付きのアパートに住み、高齢者の話し相手になります。障がい者はカフェやクリーニング店で忙しく働いています。石川県の「Share(シェア)金沢」は、障がい者や高齢者が社会から隔離されることなく、みんなが共に助け合って生きていく「ごちゃまぜ」のコミュニティ。僧侶であり、青年海外協力隊で海外ボランティア経験もあり、起業家でもある理事長の雄谷良成氏に、地域や福祉への思いを伺いました。
プロフィール紹介
1961年金沢市生まれ。祖父が住職だった日蓮宗行善寺の障がい者施設で障がい者らと一緒に育つ。福祉の理論を学ぶため金沢大学へ進学するが、机上の学問に飽き足らず、次の福祉のヒントを求めて、青年海外協力隊の指導員養成のプログラムに参加。帰国後は北國新聞社に入社し、地域おこしのイベントなどを担当。1994年に実家の佛子園に戻り、「星が岡牧場」「日本海倶楽部」「三草二木 西圓寺」「Share金沢」など、地域交流のコミュニティ拠点を作る。日蓮宗普香山蓮昌寺の住職でもある。

働く、遊ぶ、アートする。
何でもありのコミュニティ、「Share金沢」

2014年3月にオープンした「Share金沢」は、佛子園が病院跡の敷地に住まいや文化施設などを配置して、一からつくり上げた街です。「私がつくる街」をコンセプトに計画段階から地元の自治会や町民館などの人たちを巻き込み、ドッグランも住民の要望で実現しました。

子どもや大学生、高齢者まで、世代や障がいの有無を超えて、さまざまな人が一緒に暮らし、フリーマーケットなどの企画や施設の運営など、暮らしに関わることは住民参加で決めていきます。地下600mから湧き出す天然温泉やカフェは、地元の人など誰もが気軽に利用でき、同じ館内に高齢者や障がい者のためのデイサービス、訪問介護の機能も備えています。

街の中心部にはサービス付き高齢者向け住宅と学生向け住宅が隣り合って建ち、家庭菜園や農園で一緒に土いじりを楽しむこともできます。周辺には高齢者が交替でレジを打つ共同売店やクッキング教室、クリーニング店などのほか、近所の子どもたちが走り回る全天候型グラウンドやアルパカの牧場まであります。

音楽や芸術を楽しみたい人、温泉や農園、ショップで働きたい人、ワイングラス片手に語り合いたい人、いろんな人が混じり合い、共に暮らすのが「Share金沢」なのです。
▲「Share金沢」の中心施設・本館から街を望む。ここには温泉やカフェがあり、誰でも気軽に立ち寄ることができる。温泉のメンテナンスやカフェの厨房では障がい者も一緒に働く
▲本館の売店では佛子園で作ったみそや梅干しのほか、近隣の農家から持ち込まれる野菜やお米も販売。野菜を売りに来た人が温泉で汗を流して、カフェでビールを一杯…といった光景も日常だ。ここは、“高齢者や障がい者のための施設”というバリアとは無縁だ
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社会保障に寄りかからないドミニカの人々

実は「Share金沢」の原点は、中米のドミニカ共和国にあります。

大学卒業後、青年海外協力隊に応募し、障がい者教育の指導者育成に携わりました。現地を訪れると、学校は水も電気も通っておらず、廃墟同然。そこで、まずは指導者となる人や障がい者と一緒に鶏小屋を作って鶏を育てたり、鶏糞で野菜を作ったり、木を伐って家具にして売ったりして資金を貯めました。貯まったお金で電気や水を引き、黒板を買って、自分たちの手で学校を整備しました。

一緒に働きながら感じたのは、地域コミュニティの強さ。口は悪いけれど、足の不自由な子の通学に、2時間遠回りして付き添う優しさがある。帰国前には指導者が全国から集まる集大成の発表大会を開催したのですが、なぜかメインスピーカーが来ない。何をしていたかと思ったら、「隣のかみさんが風邪をひいて面倒見てた」ですって。「ふざけんな!」と思いましたが、それくらい仲間の連帯意識が強いんです。

日本では社会保障が充実すればするほど、それに寄りかかってコミュニティがひ弱になっていきました。コミュニティを再生していくには、福祉だけでなくもっと社会全体を見ないといけないと気付いて、帰国後はまず、地元の新聞社で働くことにしました。
▲日用品・生活雑貨を扱う「若松共同売店」では、お年寄りや学生が交替でレジを務める。「行けば誰かが必ずそこにいる」という安心感が、地域の人たちを街につなぎとめる
▲「Share金沢」の学生向け住宅には、金沢大学や金沢美術工芸大学などの学生や海外からの留学生が暮らす。月30時間のボランティア活動を行う代わりに家賃は良心的だ

廃寺を居心地最高!の地域の拠点に再生

新聞社では、地域おこしのためのイベントの責任者として活動し、市町村の行政長とも顔なじみになって、行政とのパイプができました。1994年に佛子園に入り、重度の障がい者支援施設「星が岡牧場」や、障がい者が地ビールづくりやレストランの接客をして、働きながら暮らす施設「日本海倶楽部」を開設しました。

同じ時期に小松市の西圓寺というお寺の檀家総代をしていた方から「お寺が荒れ果ててこのままではお化け屋敷になるので何とかしてほしい」という相談がありました。檀家の人たちと一緒に荒れ果てた寺を修理し、最終的には障がい者や高齢者のサポート施設とすることを条件に、法人が寺の譲渡を受け、再生することにしました。

住民の「お風呂があるといいね」という声を生かして、温泉を掘り、周辺の人の温泉利用は無料にして、みんながお堂の中で飲んだり、食べたりできるコミュニティを目指しました。以前はひとり住まいの高齢者は孤立しがちでしたが、最近では昔ながらに風呂に飛び込む子どもをおじいちゃんが怒鳴る風景や、風呂上がりの一杯を、常連さんがカウンターで楽しむ風景が西圓寺の日常です。

カフェでは障がい者がカレーの仕込みを手伝い、みそづくりや漬物づくりを地元の高齢者に学んでいます。一度は町を離れた若い夫婦も戻ってくるなどして、施設ができて以後、一帯ではこの町だけ、居住者が55世帯から68世帯に増えました。当初、私たちも予測し得なかった、理想的なコミュニティの形がそこにありました。
▲「三草二木 西圓寺」には天然温泉や広いお堂の一角に食堂があり、高齢者のデイサービスと障がい者就労施設の顔も併せ持つ
▲お風呂上がりの子どもたちと気軽に会話を交わす常連のおじいちゃん。西圓寺では地元の高齢者の指導のもと、スタッフらも加わって、自慢のみそや梅干しづくりに精を出す

人と人が関わるためのエンジンを積んだ街

「三草二木 西圓寺」は佛子園の目指すひとつの理想形ですが、ごく限られた地域でお寺という核があったことも成功の要因だったと思います。これをさらに発展させ、都市部に近い場所で、30年後に成熟していくことを目標に、不特定多数の人が交流できる街を目指したのが「Share金沢」です。

キーワードは「ごちゃまぜ」で、西圓寺同様、世代や障がいの有無を超えたコミュニティを目指しています。ここには温泉やドッグラン、アルパカ牧場、キッチンスタジオなど、街の外からも人を呼び込んで、人と人が関わるためのエンジンとなる場がいくつもあります。

各施設には、昔でいえば銭湯の番台のおばあちゃんのように、人をつなぎとめる役割を持った人を配置しています。共同売店のおばあちゃん、クッキングスタジオの先生、ライブハウスのマスターなど、行けば必ずその人がいるという安心感は、コミュニティに不可欠な要素です。

ライブハウスでは、僕らも知らない裏メニューをおじいちゃんがマスターに頼んでいたり、高齢者住宅のおばあちゃんが、近所の元魚屋さんに「あんたお魚持ってきなさいよ」と頼んで、軽トラックで宅配する仕組みがいつの間にかできていたり。僕たちの知らないところでだんだんと街が育っています。
▲「自分たちの風呂だから」と毎日の温泉の掃除に地元住民も参加
▲「Share金沢」では障がいのある人もクリーニング店のスタッフなどで接客をこなす

街全体をごちゃまぜの空間にする

「Share金沢」は大きな病院跡の敷地を思いきって買い取り、開発した街です。しかし、土地の確保や資金の問題などで、これを次々に展開するのは難しい。ごちゃまぜの街づくりを全国に広めていくためには、既存の街の中に同様なコミュニティを展開する仕組みが必要です。

そこで次に取り組んでいるのが、白山市にある佛子園の本部周辺の再開発プロジェクト。現在の施設を温泉などの核となる施設に改築し、周辺のグループホームや民家が一体となったコミュニティを作る、いわば「Share金沢」を街全体に拡大していく試みです。

10年前に白山市内にグループホームを計画した際に一部で反対があって以後、職員とともに町会の集まりや地域の清掃に参加したり、葬式のお手伝いをしたり、徹底的に街との交流を図りながら、1軒ずつグループホームを増やしてきました。今ではグループホームの人がいないと「静かで気持ちが悪い」と言われるほど。今度はグループホームの間に、家賃1万円ぐらいの学生向けゲストハウスをたくさん建てて、学生の力で街がどれくらい活性化できるかを徹底的に追求します。

本部施設の職員募集は、地域の人が主体で行い、「佛子園で働こう」という回覧板が回っている状態ですが、一般に福祉の求人1人に対する求職者の倍率が1以下なのに対して、うちは8倍以上。これこそが地域力だと思います。僕たち職員はあくまで黒子。“施設で働く”ではなくて、“地元の佛子園を応援する”という気持ちで臨むと、仕事への関わり方も、職員の思いも、よりポジティブな方向に向かうんです。
▲ところどころにテラスがあり、あちらこちらで住民同士の井戸端会議が始まる
▲高齢者住宅の玄関が大通りではなく小道側にあるのも、住民同士が自然に顔を合わせてコミュニケーションがとれるようにするための仕掛け

◇設計者から◇
株式会社五井建築設計研究所 
代表取締役 西川英治さん

雄谷理事長からいただいたテーマは、「高齢者も、若者も、障がいのある方も、ごちゃまぜで暮らせる街」。当初は中心になるモニュメント的な建築の提案もしましたが、最終的には、人と同じように個々の建築がそれぞれに役割を担っているというコンセプトのもとに、既存の緑を極力残し、街の随所に住民が憩えるヒューマンな空間を作りました。

例えば住宅棟の間に曲がった小径や井戸水が流れる小川を配置し、ゴミ集積所のわきには切り株を置くなど、日常のコミュニケーションが生まれるよう配慮しています。ほとんどの建物が平屋建てで、外壁の材料も木のムク材や鉄板などの素材を使用し、本館のフローリングは温かみのある杉を使っています。

私は建築家の仕事は、単に美しいハードを作ることではなく、暮らし方やコミュニティの在り方も含めた「気づくり」だと考えており、それが成功しているかどうか見ていただければと思っています。
実は次の佛子園本部の再整備も担当していますが、こちらは「Share金沢」をさらに発展させた、ひとつの地域コミュニティを作る試みです。これもこれまでにない面白いものになると思っています。
▲「街の随所に人と人がつながる仕掛けをほどこした」と語る設計者の西川さん
▲ほとんどが平屋建てで、もともとあった古木の緑を極力生かしている。切り株のベンチなど日常のコミュニケーションが生まれる仕掛けを随所に施している
[
文: 高山淳
写真: 中村泰介
]
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