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2015.03.19 UP

「孤独」に苦しむあらゆる人を救う コミュニケーションロボット登場!

寝たきりになっても孤独を感じず、社会に参加して人生を謳歌することができたら……。そんな願いをかなえてくれるのが、オリィ研究所代表の吉藤健太朗さんが開発した“分身ロボット”「OriHime」です。スマートフォンやタブレット端末を使えば、ユーザーは自由に「OriHime」が見ている世界を体験でき、ロボットの周りにいる人もユーザーの“分身”がそこにいるかのように、会話を楽しんだり行きたいところに連れていけるといいます。病院や施設のベッドにいても、孤独や寂しさを感じることなく、離れて暮らす家族とだんらんしたり、お出掛けや社会参加が可能になる世界がすぐそこまで来ているようです!

「OriHime」の目的は
孤独や寂しさを解消すること

寝たきりの人や引きこもりの人、ひとり暮らしの人などが感じる孤独や寂しさを解消する。これが「OriHime」の目的です。

もともと私はものづくりが好きで、工業高校では“絶対に傾かずに段差を昇れる電動車いす”の開発に取り組んでいました。

そんな私が「孤独の解消」をテーマにロボットの研究を始めたのは、ISEF(国際学生科学技術フェア)に参加して地元のメディアに取り上げられ、高齢者や障がいのある人からさまざまな悩みや相談をいただくようになったことがきっかけです。

いろんな話を伺う中で、身体的な問題よりも孤独感や寂しさでストレスを抱えている人が非常に多いことを知りました。実は私も孤独に苦しんでいた時代があって、小学校高学年から中学校にかけて約3年半、不登校で自宅に引きこもっていたんです。だからこそ “孤独の解消”のために何かしよう、これに命をかけようと決意できたのだと思います。

人工知能は孤独を“軽減”できても
“解消”はできない

▲インタビュー中、ものの数十秒で折り紙のバラ、その名も「吉藤ローズ」を折ってみせてくれた吉藤さん。折り紙でもロボットづくりでも「考えてやるのではなく考えずにやる。その中でヒントを拾えることがある」という初めは人工知能のロボットを開発しようと、専門の先生がいる香川県の高専に4年次編入しましたが、人工知能は1年で見切りをつけました。

もちろん、人工知能を搭載したかわいいロボットがいたら、落ち込んだ気持ちが和らいだり、鬱々とした気持ちを払拭してくれると思います。でも、それは孤独の“軽減”であって“解消”ではありません。

ベストな回答を探す中で大きなヒントとなったのは、親友と一緒に立ち上げた「奈良文化折紙会」の活動でした。私は小さいときから折り紙が好きで、奈良の法隆寺で折り紙を教える会を開いたところ、下は8歳から上は88歳まで、幅広い世代の人が集まってくれたんです。

リピーターが増え、世代を超えたコミュニティが広がっていくのを目の当たりにして、孤独を解消できるのは人工知能ではなく、やはり、リアルな“人”とのつながりだと感じました。

自分の経験を思い返してみても、家族や友人、先生など、自分を支えてくれる人の存在があったからこそ、孤独の悪循環の中から社会に出ることができた。人との関係性を持ち続けることこそが、孤独を解消できると気付いたんです。

“自分の分身”と認識してもらうため
デザインはあえてフラットに

▲オリィ研究所のホワイトボード。2015年初頭に、福祉施設や学校、病院などで導入される量産向け機が完成した。夏からは月5万円前後での貸与がスタートするベッドの上にいる人が、会いたい人と会うためにはどうしたらいいか。“クローン人間”をつくることはできないけれど、テクノロジーを用いれば、自分の“分身ロボット”をつくれるのではと考えました。

そこで、ロボット工学に強い早稲田大学に進学し、2009年に、よりよいものづくりを実践するためのオリィ研究所を自費で立ち上げたのです。

開発を進める中で重要だったのは、周りの人にロボットを“ユーザーの分身”だと認識してもらうこと。そのために、ロボットの外観はキャラクター性を持たせず、あえてフラットなデザインにしています。

例えば、顔の部分は能面からインスピレーションを得ました。私は大学で演劇をやっていたんですが、能面は何者にも見えないけれど、見る人の想像力をかき立ててくれますよね。想像力を託す余地を残しておくデザインにすることで、ロボットの顔に“ユーザーの顔”が焼き付くようにしたかったのです。

持ち運びやすさや壊れにくさを優先し
人間らしい動きにもこだわる

▲「OriHime」を操作する吉藤さん。映像や音声はWi-Fiを通じてやりとりされ、うなずく、首を振る、手を上げるといった動作も直感的に行うことができる2010年に完成した1号機は二足歩行タイプでしたが、最新の「OriHime」は可動する首と手が胴体に付いていて足はなく、大きさも10cm四方程度とコンパクトです。

足を省いたのは、持ち運びのしやすさと、壊れにくさを優先したから。手のパーツも省こうと思ったのですが、人の手は空間を捉えられるというか、手を叩いたり上げるだけで周りの注目を集めることができますから、「OriHime」を操作する側も見ている側にも価値があるものとして残しています。

ただし、ひじ関節や指までも再現するとリアルになり過ぎてしまうと考え、現在のような形に落ち着きました。「手を叩く」「手を上げる」という動作をはじめ、「なんでやねん!」ってツッコミを入れられる機能もある(笑)。とても人間らしい動きをするんです。

「OriHime」を操作するためのアプリのインターフェースも、誰もが使いやすいシンプルな設計にしています。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)や脳波デバイスにも対応しているため、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で目しか動かせない人も操作できる。ユーザーそれぞれのニーズに対応できるようにしているんです。

「お母さんの分身が
そこにいるとしか思えなかった」

プロトタイプをいろんな方に使ってもらったら、精神的な安心感を得られるとか、救いになったと言ってくれる人がとても多かったです。

例えば、急性白血病で無菌室に入っていたあるお母さんの自宅に「OriHime」を置いてもらったときは、お母さんの分身がそこにいるとしか思えなかったと言ってもらえました。“要件があるから利用する”電話などと違ってコミュニケーションが途絶えることもありませんから、息子が家に帰ってきたときに「おかえり」「ただいま」って自然な会話ができるし、朝、学校に行くときも「忘れ物はない?」とか「いってきます」って自然なコミュニケーションができるんです。

寝たきりの高齢者が「OriHime」でお墓参りや結婚式に参加したこともあります。今後は、リハビリ中のモチベーション維持への活用や、「OriHime」を使って生涯学習講座で講義したり、逆に生徒として受講することもできるでしょう。

「OriHime」があれば
寝たきりになっても社会参加できる

▲本邦初公開というオリィ研究所のアトリエ。3Dプリンターなどが並び、「OriHime」の開発が日夜行われている実際、いまオリィ研究所には、4歳のときに交通事故に遭って以来21年間盛岡の病院で寝たきりになっている男性が、「OriHime」で“インターンシップ”に来ています。彼には私と一緒に講演会に登壇し、プレゼンテーションを担当してもらっています。こうした体験で本人の性格も変わり、Facebookで友達が増えてチャットもバンバンやっている。いまでは病院のベッドの上からアルバイトを始めたいと言っているくらいです。

「OriHime」は孤独を解消し、生きがいを得ることができるロボットです。いままでは高齢になって身体が自由に動かなくなってしまうと、生きがいを見つけるための選択肢は限られていましたよね。でも、これがあれば成長する孫の姿を家族と一緒に見たり、両親が料理をつくっているときに孫に昔話を聞かせてあげることだってできます。

寝たきりでも意識さえはっきりしていたら、死ぬまで社会に参加して、人生を謳歌することができる。「OriHime」は究極の癒やしなんです。

【文: 成田敏史(verb) 写真: 高橋定敬】

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