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ヘルプマン

2015.02.01 UP

介護人口を減らせ。予防に力点をおく 低価格予防モデルとは

産直野菜販売とヨガスタジオのコラボによる「エイジング予防ヨガスタジオ 東京マルシェ」。
かつて企業のM&Aやベンチャー支援などを手がけていた敏腕金融マンであった小瀧歩さんが立ち上げたのは、介護予防に着目したビジネスです。3店目となる池上店では、ヨガスタジオにデイサービスを併設し、負担の少ない椅子ヨガなどのプログラムや産直野菜のヘルシーランチを提供。続く柏の葉店では、健康関連企業とコラボレーションすることで、ヨガなどのプログラムを低価格で提供する“低価格予防モデル”を提案しています。目指すのは、子どもからお年寄りまでが集まるコミュニティスペースであり、地域の健康コンシェルジュとなること。さまざまなリソースを駆使して、工夫に満ちた経営を行う小瀧さんを池上店に訪ねました。

野菜の引き売りからスタート。
敏腕金融マンの0からの挑戦

金融業界出身で、かつては企業の再生に取り組み、数年で企業の株価を倍に押し上げるような仕事をしてきました。やりがいは大きいものの、ストレスも大きい。そこで週末は、過疎の村を訪れて温泉に入ったり、農作業を手伝うなどして心身のバランスを保っていたんです。

でも、40歳を過ぎた頃から「俺の人生これでいいのか?」と自分への疑問が生まれました。もっと自分の好きなこと、地域活性に繋がるような仕事ができないかと。思い切って、無農薬で育てた産直の野菜を売ってみようと決めたのです。でも、自分は金融しか知らない。それならイチから商売を知ろうと、野菜の引き売りから始めることにしたんです。麻布十番で野菜を引いて歩く。金融マンから八百屋に転身しました。

『東京マルシェ』というブランド名は、そのとき付けたもので商標登録もできました。その後、1年ほどで店舗にし、1店舗目は目黒不動商店街の中の小さな長屋のような場所でしたが、とても雰囲気の良い場所でした。そこで、八百屋の奥でヨガ教室をやろうと思いつきました。私自身もヨガが好きだったためです。そこで、ヨガインストラクターを5名雇い、ヨガと八百屋とのコラボショップをスタート。

池上への出店は、都立小山高校の先輩との縁。自分の持っているビルの1階に店を出さないか、という提案でした。私は池上育ちなので、二つ返事で話を受けました。その時、八百屋とヨガにプラスして介護を組み合わせられないか、という発想が浮かんだのです。▲代表取締役社長 小瀧歩さん。『東京マルシェ 池上店』では、高齢者向けのヨガをはじめとして月間100を超えるプログラムが楽しめる。目指すのは、高齢者からお子さんまで3世代が通えるデイサービス兼スタジオだ

高齢者向けに「椅子ヨガ」を開発。「八百屋」「カルチャー教室」の顔も持つ、三毛作型施設

ここ池上店の特徴は、八百屋、ヨガスタジオ、デイサービスの三つの顔を併せ持っていること。デイサービスの形を取りながらも、施設にいる大半の時間を、ヨガをして過していただけることです。施設に来るという感覚より、みなさん習い事感覚で来て下さっていますね。

教えているヨガは椅子ヨガと言い、椅子に掴まりながらできるので、お年寄りでも負担が少ない。みなさん楽しそうに体を動かしているように見えますが、普段は杖を付いている方や軽度の認知症の方などもいらっしゃいます。

そして、もう一つの特徴が、産直の有機機能性野菜を使った手作りランチです。素材はもちろん、栄養素にもこだわり、塩分は控えめに。物足りない味にならないようネギやゴマなど香りのよいものをふんだんに使っています。ヨガで体を動かす横で調理するので、いい匂いに誘われて、自然と食欲も刺激されるようです。そのせいか、普段、食が細い方もあっという間にたいらげてしまわれます。ランチの後はおしゃべりタイム。にぎやかに発散して、お昼を過ぎたらご自宅までお送りします。

そして、その後は、エントランスに野菜を並べて八百屋になり、夕方からは地域の方向けのカルチャー教室の顔になる。そんな新しい形のサービスが今の私たちの姿です。▲ランチは産直野菜と手作りにこだわって。調理を担当する望月聡子さんは、ヨガインストラクターも兼務。本日の食材や調理法の説明に、みなさん興味シンシンの様子▲今日のランチは、豆腐ステーキ 梅甘辛ソース。ささみときゅうりの和え物 紅くるり大根(讃岐)のゴマ油としょうゆ和え、ほうれん草と玉子のみそ汁。自宅では食が細い方も、ここではたっぷり召し上がるそう

老化の改善効果の期待が高い「ヨガ」、
理想実現のために、低価格予防モデルを考案

私たちのサービスの大切なキーファクターである、高齢者向けの椅子ヨガは、私たちが独自に開発したものです。これは、体が不自由な高齢者でも、取り組みやすいよう椅子を使ったヨガプログラムで、理学療法士や作業療法士などリハビリのプロと一緒に開発してきました。「日本椅子ヨガ協会」も設立し、現在は多くの方に利用してもらっています。

この椅子ヨガには、介護状態の改善や維持の効果も期待されています。また、すでに介護状態になった方だけでなく、まだ健康な50代や60代の方に介護予防プログラムとしてもっと利用してほしいと思っています。そこで、このプログラムを、あまり金銭的な負担をかけずに、利用してもらえる方法はないかと考えました。

思いついたのが、コーヒーメーカーや健康器具などを施設内に置くことで企業からスポンサーを募るという手法。こうしたものをスタジオに来る方に実際に利用していただくことで、興味喚起したり、ブランディングができる。スタジオには、高齢の方だけでなく、時間を分けてそのご家族も通われるので、通常のデイサービスとは異なり、多くの人が利用でき、年齢層も幅広い。マーケティングの場としても面白い場ではないのか?と考えました。

こうした形で、運営費の一部を確保することで、登録料を払えば3ヶ月間、ヨガプログラムの利用が月に4回まで無料という低価格モデルを導入している店舗もあります。▲ご利用者が揃うと、最初のヨガコースが始まる。じっくり40分体を動かすと、お茶の時間。少しの休憩の後は、また40分ほどのコース。コースの終わり間際は、顔のヨガ。頬を軽く叩いたり、「ほー」と口をすぼめて声を出す喉を使うヨガ。少しずつ表情が和らぎ、肌が透明感を増してくるのが印象的

ヨガと介護を組み合わせたモデルを
3年を目処に、300店舗まで拡大させたい

そんな私たちが、今後、目指していきたいのは、地域の健康コンシェルジュとして、地域に開かれた介護予防のモデルを、通所+在宅時のケア、ご家族のサポートも含めて実現していくことです。そして、その目標として、3年以内に300店舗ほどの展開を目指しています。理由としては、300店舗ほどの規模になると社会的にもインパクトを持てるだろうと考えたため。ちなみにこれは直営だけでなく、フランチャイズも視野に入れています。まず、なるべく簡易な形で広げることを念頭においていまして。

たとえば、地方のスーパーの中の空いたスペースを借りて、パーテーションを立てて柔らかい床に変える。後は、地元で椅子ヨガを教えられる方を育成して、あるいはインターネットでプログラムを配信して、ヨガと介護を組み合わせたモデルを作る。池上の店のようにお年寄りが帰ってからは、カルチャー教室にしてもいいと思います。あるいは、地元の介護施設とのコラボという形もあるかもしれません。

こうすることで、地域の高齢者や若手の雇用と言った問題の解決にもつながります。また、ヨガは介護に疲れたご家族のリラックスのためにもご利用いただけます。こんなふうに多彩なエッセンスを組み合わせることで、地域の問題を地に足のついた形で解決できる存在になっていきたい。そのためにも、もっと知名度を上げて、サービスの質を向上させていきたいと考えています。▲送迎にはヤフオクで落としたという“ベンツ”。小瀧さんは、「デイサービスに行く、ではなく、ドライブ感覚になれる方がいいのでは?」という思いもあって選んだそう。送迎を担当するスタッフは、インストラクターもヘルパーも兼務。一人何役もこなすのが、東京マルシェ流

「産直ランチの調理、インストラクター。
椅子ヨガの開発にも取り組んできました」

▲望月聡子さん チーフインストラクター
調理も担当する望月さん。ご自宅までお送りした際に、ご家族に「今日も、おいしいもの食べたよ」などと報告するお年寄りの顔を見るのも嬉しい瞬間だと言う父が病気がちだったせいもあり、「食」に強い関心があったのです。野菜にもヨガにも興味があったので、ここでは、自分のすべての「好き」を仕事にできている形ですね。ここの仕事は兼務だらけで(笑)。産直野菜のランチの調理から、ヨガインストラクター。そして、椅子ヨガの開発と、本当にマルチに活躍させていただいています。そして、この椅子ヨガは、ここで開発したものなので、思い入れもひとしおです。開発当初は、椅子に掴まりながらやるので、負担は少ないだろうと思っていましたが、高齢者には想像以上にハードだったようです。作業療法士の視点なども取り入れて、徐々に改良を重ねながら今に至りますね。そして、この椅子ヨガについても、今後さらに完成度を高めていきたいと考えています。

「三世代が楽しく通える、
地域の拠点を目指したい」

▲伊藤智章さん 作業療法士 所長
作業療法士として現場に入り込んでいた時代から、現在は所長として全体を見るように視野が広くなったと語る伊藤さん。リハビリへの専門知識はもちろん、その爽やかな風貌も、お年寄りから頼られる理由作業療法士の資格を持ち、池上店では所長を努めています。私の役割は、店舗全体を見ることのほか、運動学や解剖学などリハビリ的な知識を活かして、ヨガプログラムの開発を行っていくことです。現在、ここで教えている椅子ヨガの開発にも関わってきましたが、今後は、ご自宅でも手軽に取り組めるようなプログラムの開発にも取り組んでみたいと思っています。ここで行うヨガは3時間コースですが、お年寄りにとっては、週1日3時間では少し足りないと感じているため。また、今後の施設の方向性としては、もっともっと三世代が楽しんで通える存在になること。たとえば、お母さんがデイサービス、娘がヨガに、孫が武道を習いに来るといった具合に。そうして、さらに地域に開かれた存在になることで、介護のことなど、困ったときに相談できる場所「地域の健康コンシェルジュ」として機能していければと思います。

【写真: 中村泰介】

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