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ヘルプマン

2014.03.31 UP

元アルマーニのトップセールスがめざす 120%満足の「感動する介護」

イタリアの一流ファッションブランド「ジョルジオ アルマーニ」で、夢をコーディネイトするおもてなしを学んだ馬場拓也さん。トップセールスとして活躍したあと、さらなるホスピタリティを追求する場として選んだのが介護業界でした。ファッションと介護、世界は180度違って見えても、お客さまのライフスタイルを追求し、その人の夢をかなえる仕事という点では同じ。経営企画室長として、ブランディングを再構築し施設のイメージを刷新、またグリーフケアへの挑戦など、120%の顧客満足をめざす「感動する介護」の実現に取り組んでいます。

アルマーニは夢をコーディネイトする

僕がアルマーニで学んだのは、お客さまに信頼いただき、一を言えば十わかるような最高のおもてなし。例えばお客さまから、「こんど映画の試写会に招待されたんだけど、試写会の後のパーティはどんな格好がいいかな?」とご相談を受けることもあります。

ファッションは、お客さまが“こうありたい自分”をかなえるアイテムのひとつ。ですから、セレブが集まる立食のカクテルパーティであれば、「思いきってボトムはデニムで、上はジャケットに中はシャツでノータイ、そのかわりにポケットチーフを差して、足元はエナメルのシューズにすると艶っぽくなりますよ」といったご提案をします。あとは来店に合わせ、あらかじめ本人のサイズで商品を用意しておき、試着して気に入っていただければ、お客さまもパーティ当日が待ち遠しくなるはずです。

上得意さまになると、本場ミラノコレクションでの買い付け時の、まだ商品化されていない段階から情報を仕入れてそれをお伝えし、早い段階から商品を確保しておきます。こうすることで「自分のためにミラノから服を買い付けてくれている」という夢をお客さまに売っているのだともいえます。こんなふうに夢をコーディネイトしてさしあげるのが、アルマーニの販売職としての価値なのです。

“期待以上の価値がそこにある”業界を
つくりたい

「とびきりエレガントな自分になりたい」という夢をかなえるのがアルマーニの販売職なら、「人生の終焉を幸せなまま迎えたい」という想いをかなえるのが介護という仕事。共通するのは人がそこに介在することで、消費者や利用者に付加価値を提供していること。

アルマーニではその人のライフスタイルまでを伺って洋服をコーディネイトしますが、介護でもアセスメントの際には、その方が生きてきた歴史やその人のものの考え方、暮らしぶりを伺ってケアの方針を決めます。より裾野が広く、奥が深いのが介護の世界です。介護はこれからの日本になくてはならないもので、これまでは必要最低限のサービスでも成り立っていました。しかし、団塊の世代が高齢者となり、次第に競争が激しくなる中では、経営サイド、現場サイドともに、介護の品質や価値を高める努力が不可欠です。

セレブリティを相手に、「最悪なくても困らないけど、あったらもっといい」というサービスを提供する業界にいた僕が、真逆の「絶対的になくては困る」サービスを提供する介護業界に来た。そこに大きな意味があります。僕は介護業界を「なくては困る」だけでなく、「期待以上の付加価値がそこにある」という業界に変えていきたいのです。20周年を機にブランディングに取り組み、グラフィックデザイナーに依頼してブランドロゴやユニフォームを一新した。事務職はパステルカラーから誠実な強さを表現するブラックに

セカンドベストも提案できる
オーダーメイドの介護

例えばお客さまが欲しいシャツのサイズがなかった場合、僕はそのまま帰っていただくのではなく、必ず別のスタイルを提案するようにしていました。その人が考えるコーディネイトが、必ずしも客観的に見てベストとは限りません。むしろ僕が提案したセカンドベストの代替案に満足し、笑顔で帰られるケースのほうが少なくありません。

介護の場合でも、例えば要介護の親を一緒に旅行に連れていきたいとご家族から相談があったら、階段を上がる杖はこれがいい、乗用車に乗るコンパクトな車いすならこれがおすすめなど、まずはオーダーメイドの提案をします。しかし、本人の障がいや健康状態などから、家族で温泉というプランそのものの実現が難しい場合もあります。

しかし、そこであきらめるのではなく、ご本人にはショートステイでゆっくりしてもらって、お風呂に入って、散髪してという時間を過ごしていただき、あとでお土産を持った家族と合流するという代替案を提案して、思った以上に喜んでいただけることもあります。そのようにお客さま本人が気付いていない、奥にあるニーズを掘り起こして提案できることも介護職の価値です。ミノワホームのムードメーカーである入居者の敏子さんと

意図して120%の満足をめざす
「感動する介護」

僕たちが最終的にめざすのは「感動する介護」。施設の中にはいま、色紙を使ったアートが随所に飾られていますが、これはお年寄りが動かなくなった手で紙を丸め、それで形を描いたものです。僕たちはそれをアシストして、完成した作品を見て一緒に喜び、たたえ、感動を共有します。

重要なのはそれをプロとして、ケアの一環として目的意識を持って実行すること。機能回復が得られたとき、それが狙い通り、向かっていった結果かどうかということが、プロとしては大切なことなのです。自ら意図して満足を感動に変えること、満足度を100%から120%に上げること。その取り組みの一例が「グリーフケア」です。グリーフとは悲しみや悲観のことで、ご家族の死別の悲しみを拭ってさしあげるサービスです。

職員は日ごろからデジタルカメラを携帯し、生前の様子を記録に残しています。成人式の振袖姿で遊びに来たお孫さんと楽しげに会話する様子や、焼き芋を焼くお年寄りの輪の中で、笑顔でいる様子など、普段ご家族が目にしたことのない姿をDVDに編集し、「家族の知らないある日の出来事」としてプレゼントします。介護サービスは通常ご本人が最期を迎えた段階で契約満了ですが、小売業でアフターサービスがあるように、亡くなったあとでもご家族が「ここで最期が過ごせてよかった」と思えるよう、心のケアまで含めたサービスを提供することも、「感動する介護」のひとつのかたちです。利用者が色和紙を丸めてつくった、ミノワホームのロゴのアートの前で

感動サービスをもっと外に発信していこう

アルマーニをはじめ、長くサービス業を経験してきた自分ですが、介護の世界で働く中で、改めて、この仕事は、サービス業の極致だと実感しています。ターミナルケア(看取りを含めた終末期のケア)ならば、命をお預かりし、納得して旅立っていただくという究極の価値を提供する使命があります。亡くなる瞬間までご本人の手を握りながら見送るということさえもあり、他のサービスでは決して経験することのないホスピタリティが要求されます。

ホテル業界や著名なテーマパークのおもてなしなど、僕らが他業界から学ぶ機会はめずらしくありませんが、これからは逆にそういうところに講師として出ていくべきではないかと僕は考えています。それだけの経験をしていると思うし、これを言語化したり、標準化したりすることで、もっとポジティブに外に開示していくべきだと思います。それによって業界が成熟し、働く人の価値が上がっていき、自分たちに誇りを持てるようになります。そしていつの日か、日本全体が介護業界で働いている人を高く評価するようになることが僕の理想なのです。セミナー講師などを通じて、グリーフケアの取り組みなど介護の価値について積極的に内外に発信する

【文: 高山 淳】

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