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ヘルプマン

2013.09.28 UP

「クールジャパン」のケアを 台湾市場に根付かせる

台湾の国立介護施設「東區老人之家」と提携し、アジア進出を視野に入れるのが群馬県に拠点を置く「しんまち元気村」です。経営室長代理を務める八木大輔さんは、大手鉄道会社を経てMBAを取得したマネジメントのプロ。「クールジャパン」として人気の高い日本製品のように、日本の介護サービスも“ブランド”として海外展開できると語ります。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)

介護施設で働きながらMBAを取得

学生時代は何となく大手企業にあこがれ、鉄道会社、損保、大手広告代理店と受けてそれぞれ内定はいただいたのですが、新幹線好きだったのとMBA留学制度があるという理由で鉄道会社を選択。ところが実際に入社してみると誰でも留学できるわけではないということが判明、だったら自力で取ってやろうと思い1年強で鉄道会社は退職しました。

大学院のあった京都の仏教系の介護施設で準職員として働きながら2年間通学し、MBAを取得。介護の仕事は生活のためでしたが、これがやってみると面白い。自ら自立支援や看取りケアの現場を体験しつつ、研究者としては高齢者福祉事業に携わっている人たちのモチベーションをテーマに調査を開始。フィールドワークとして他のさまざまな介護施設を見て回り、定量・定性の調査を実施して修士論文にまとめました。

研究の過程で浮かび上がってきた自分の問題意識は、例えば「採用」を見ると各施設とも福祉系の専門学校・大学から実習に来た生徒・学生をそのまま採用するケースがほとんどでしたが、それが本当に正しいことなのか?という疑問。また、新人教育はせいぜい2~3日であとはOJTという名の現場任せで、理念が実際の業務にどのように落とし込まれているのかのレクチャーがない。さらに利用者様と「タメグチ」で話すなど、サービス業の基本である顧客視点という部分が欠落していることを実感しました。

逆に言えば、まだまだ未成熟な業界だからこそ、伸びしろがある、何とかしがいがある業界だとも思いました。

「介護リーダー養成プロジェクト」
を立ち上げ

大学院修了後は地元に戻って本格的にケアの仕事に取り組むため、「しんまち元気村」に入職、理論を実践に移す作業に取り組みました。
元気村ではそれまでも大卒を採用していましたが、ここ2年は、文学部や経済学部など福祉系以外の学生も積極採用しています。

なまじ介護の知識などないほうが客観的に介護ビジネスを見ることができ、個々のオリジナルの視点で介護に斬り込んでいけると私は考えます。人材教育では、2009年に大学院時代の恩師を巻き込み、経済産業省と一緒に「介護リーダー養成プロジェクト」を立ち上げ、約3週間の新人教育とその後のOJTの体系を作り上げました。新人研修では一般企業でのサービス実習や外資系航空会社の現役CAによるマナー研修なども取り入れました。OJTは基本的な介助技術のほか、医療知識や接遇マナー、入居者理解などのプログラムがあり、200項目程度のチェック項目を設定、5段階評価を実施することで自分の課題が明確になります。

プリセプター(教育訓練者)研修を同時に行い、新人よりもむしろ教える側を鍛え、全体のクォリティを上げることがこのプロジェクトの狙いです。

元気村のコンセプトは「普通に生きる」。
できるだけ利用者様に障害を意識させないケアを目指しています。
例えばここではオムツを使用している利用者様はいません。

新人研修ではオムツに人工便をつけて一晩過ごす体験もします。
当然、みんな眠れずに朝を迎えることになります。
それによってオムツがどれだけ不快なものかを体で理解できます。

「株式会社」設立で
機動的にニーズに対応

「しんまち元気村」は社会福祉法人です。そのため施設の増設などは自治体の整備計画に沿って行われるため、簡単にはできません。

しかし、施設の待機者は後を絶ちません。そこで社会福祉法人としては応じきれない地域のニーズにお応えし、機動力を発揮してサービスを提供しようと設立したのが株式会社日本ケアストラテジーです。ここで提供するのはサービス付高齢者住宅、住宅型有料老人ホーム、訪問介護サービス、デイサービスセンターなど。老人ホームについてはどうしても民間は高額というイメージがつきまとうため、特別養護老人ホームで培ったクォリティは担保しつつ、建物の材料費を必要以上にかけないなどコストを抑え、「洗練された介護サービスを可能な限り安価に」をモットーに事業を展開しています。

株式会社設立のもう一つの狙いはポストづくり。それぞれの事業の管理職のポストを新設できるため、中堅の職員が目指すべきキャリアの選択肢を増やすことができます。株式会社では新たに介護業界に参入しようという個人や会社のための技術・運営コンサルティングなども行っています。県内外問わずこれまで培ってきた採用・教育・経営のノウハウを提供し、各地域のニーズに応え、地域の介護産業の発展に寄与していきます。

台湾から日本の介護技術に熱い視線

2012年1月、台湾の国立介護施設「東區老人之家」と友好提携施設契約の調印を結びました。これはもともと、3年前に元気村の役員が台湾に施設見学に訪れたのがきっかけ。台湾はまだ介護はビジネスとして未成熟で、施設でも身体拘束などが日常的に行われており、介護技術も未発達でした。

現場を訪れて衝撃を受けた役員らは、その後も何度か台湾を訪れてチャリティで介護技術講座を開催。やがてこうした活動が評判となり、台湾の医科大学の教授や政府の福祉関係者向けにも講座を開催することになり、パワーリハビリなど最新の介護ソフトやその成果を紹介しました。

台湾はまだ高齢化率(全人口における65歳以上のシェア)が10%台ですが、将来は急カーブで高齢化が進み、日本を超えるかもしれないと言われています。政府は将来に備え、福祉施策の整備を進めており、近い将来に介護保険制度の導入も計画しています。日本を含む各国の保険制度を研究し、そのいいところを取り入れながら介護サービスの民間への開放などに舵を切ろうとしているのです。

「クールジャパン」の介護サービス

サービスを提供する側は「どうしたらご利用者がよりよく生活できるのか」を考え、ご利用者は「できるだけ安価でいいサービスが受けたい」と考えます。

しかし、台湾でも日本でもその需給バランスが崩れているのは同じ。高齢者が安心して暮らせる社会を目指すには、介護産業の健全な発展が不可欠です。私たちは台湾が将来、市場として大きな可能性を持っていると考え、市場調査を重ね、人脈を開拓してきました。台湾ではメイドインジャパンの商品・サービスは、「クールジャパン」などと言って人気があり、日本の介護サービスがある種「ブランド」として展開が可能だと考えています。現地の大学との提携により、将来サービスを担う人材育成についても布石を打っています。

こうした形で海外の拠点との行き来があるため、職員からは「介護をやっていてまさか海外出張のチャンスがあるとは思わなかった」という声も上がっており、思わぬ職員のモチベーション向上にもつながっています。
グローバル展開に加え、国内では高崎市の増床計画への参画、株式会社による他県でのサービス展開の加速、ターミナルケアの受け入れ体制の整備などに取り組みます。

介護はまだまだ多くの可能性を秘めている、私はそう実感しています。

八木さんからのメッセージ

ホテル産業や教育産業などと同様、介護はサービス産業の一つであって何ら特別な業界ではありません。ウィークポイントとしてよく待遇面が挙げられますが、当グループでは全職員の平均年収は400万円を超えています。20代前半で奥さんが専業主婦、子どもが2人いながら家を建て、最近も新車を購入したという職員もいますし、株式会社の施設長も持ち家で子どもが2人います。今どき共働きはあたり前ですから、そうすれば年収5~600万円も不思議ではありません。

介護業界ってたぶん、みなさんが思っているよりも悪くない業界だと思います。ぜひ、みなさんも選択肢を広げて考えてみてください。

【文: 高山 淳 写真: 山田 彰一】

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