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漫画家と介護職の共通点を、「自分の度量や人間性をさらけ出さねばならず、ごまかしがきかないこと」と話すのは漫画『ヘルプマン!』の著者であるくさか里樹さん。その分、人と人の絆が濃く、互いを高め合える仕事だとも言います。介護現場に足しげく通い出合った、介護の面白さ、若手のパワー、人間ドラマ、そのすべてを語ってもらいました。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)
プロフィール紹介
漫画家。講談社発行の青年コミック誌『イブニング』に漫画『ヘルプマン!』を掲載中。2003年の連載開始以来、年代を問わず幅広い読者の支持を集める。2011年5月、『ヘルプマン!』で、第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞。全国各地の介護の現場へ足を運び、綿密な取材を通じて介護の面白さ、人間臭さ、若手のパワーと出会い、ドラマとして描く。 

大先輩の「胸を借りる仕事」

介護という仕事には、他の仕事ではとって代わることができない魅力があると感じます。人と人が知り合い、高め合っていく。これほど人と人の絆が濃密で面白い世界は、他には学校の先生ぐらいでしょうか。

先生と違う点は、相手が人生の大先輩であること。私が生まれた頃は、お年寄りの威厳や存在感は絶対的なもので、同じことを語ってもひと言の重みが全然違いました。そんな人生の達人たちの胸を借りていろんなチャレンジができる。

人として長い時間を歩んできた方たちの圧倒的な存在感を感じながら、異文化コミュニケーションに近い体験を重ねることができる。こんなに面白い仕事は他にないと思います。
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「現場力」が生み出す奇跡

現場のリアリティを感じるため、いろいろな施設に取材に伺います。どこへ行っても感じるのは介護って「熱い仕事」だということ。そしてクリエイティブな仕事だということです。ある時は歌手になり、ある時はコメディアンにも変身する。巧みな会話術で認知症などの障害を持つ入居者の方の五感を刺激しながら、生活をサポートする様子は芸術的でさえあります。

『ヘルプマン!』の第1巻には、入浴拒否の入居者を咄嗟のアイデアで自ら入浴するように誘導するエピソードが描かれていますが、それもここでの取材がもとになっています。こうした人と人の奇跡的なドラマこそ、まさに自分が描きたかった部分です。

ありのままの自分でいい

介護士と漫画家はすごく似ています。どちらも自分と向き合い、見つめざるを得ない仕事です。自分の度量や人間性をさらけ出さねばならず、ごまかしがききません。介護する相手や読者に認められるかどうかが、心の中で大きな部分を占め、成功のマニュアルもありません。デビュー間もない頃は、自分をさらけ出すこと、それを見る編集者や読者、明日が来ることすべてがこわかった時期もありました。

それを抜け出せたのはある時期を境に失敗しても何しても「これでいい」と開き直ることができたから。「ありのままの自分でいいんだよ」と肯定したら気持ちが楽になれたのです。『ヘルプマン!』を通じてメッセージしたいこともまさにこのひと言に尽きます。

暗闇に光を創り出すアーティスト

相手の人生を理解し、その場を和ませながらかわすべきところはかわす。介護とは究極のコミュニケーション作法ではないでしょうか。また、相手に対して誠実に自分の持っている思いを伝えようと工夫し、心を打つようなサインを発信すると、相手も共鳴してくれる。そんな意味では最終的にアーティストというのが一番近いかもしれません。

『ヘルプマン!』第15巻のエンディングでは、入居者の決めゼリフで、介護士の価値は「暗闇に光を創り出すことができること」「たったひと言で地獄を極楽に変えられること」であり、「介護士は超一流のアーティスト」と紹介、現場の方々からも大きな反響をいただきました。

地域との共生をはぐくむコンダクター

これからは団塊の世代が高齢者になっていきます。モノ申す老人がますます増えるでしょう。とことん人生を謳歌してきた世代ですから、ケアされるようになっても介護をプランする側に立っている可能性が高い。そうなった時には、介護業界が指揮官、コンダクター的な存在となり、縦割りの社会から、もっとお互いが響き合い、活かしあえるシステムが生まれるような期待を持っています。

例えば介護の場を拠点に地域活性の取り組みを仕掛けるケース。介護のボランティアサロンがご近所の農家に声をかけて生産を復活させ、知的障害者施設も巻き込んで生産加工場を立ち上げ、地場産品として売り出した例もあります。

介護業界を進化させるイノベーター

これまでの介護業界の常識や閉塞感を打ち破るような動きも、いろんな階層で始まっています。たとえば所属施設や事業所の枠に捉われず、現場の声をネットワークで共有したり、実際のミーティングで悩みやアイデアを交換したりする「NPOもんじゅ」の登場や、IT業界から名乗りを上げる若者たちが現れるなど、動きが活発化しています。

介護は他業界から見ればいろんな可能性があり、いじりがいのあるジャンル。彼らは従来とは全く異なる方法論による経営改善のアイデアを持ち、現状を打開するパワーを秘めています。『ヘルプマン!』では時代の半歩先を歩く感覚で介護の世界を描いてきたつもりですが、だんだん時代が追い付き、やがて追い抜かれ、近い将来、介護は洗練された発展性のある世界として捉えられていくはずです。

この国の若者は捨てたものじゃない

『ヘルプマン!』を描き始めて驚いたことは、介護や福祉に興味があり、高い志を持っている人が思った以上に多いこと。10代から70代まで幅広い層から反響があり、それぞれが介護への思いを強く持っていらっしゃいます。専門学校を取材した時にもほとんどの学生がしっかりとした目的意識を持って入学していて、そうした部分には同じ日本人として誇らしく感じました。

ただ、理想と現実との間にはギャップもあって、現実が肌になじむまでにこぼれていってしまうケースも少なくない。せっかくの志を形にしないまま去っていくのはとても残念。今は横の連帯も盛んなので、思いを共有しながら現状を変えていってほしいですね。

フロンティア中のフロンティア

今回の「HELP MAN ! JAPAN」の謳い文句である「世界最高齢を誇れる国へ。」という考え方には私も大賛成。もちろん、実際にそういう国を創っていくのは若い人たちだと思います。大学の学生イベントに講師として伺った時にも学生のみなさんが非常に熱心で、昔とはずいぶん変わった印象を受けました。

激しいグローバル競争の中にあって、日本の産業構造はサービス中心に軸足が移ると同時に、それぞれの業界が生まれ変わっていくチャンスも生まれてきます。その変化の先陣を切っていく「フロンティアの中のフロンティア」こそが介護であり、そこにチャンスも眠っていると思います。

いっぱい失敗したらいい

学生のみなさんは、可能性に燃えて目がキラキラしています。その言葉には「青いな」と感じることもありますが、そんな未熟な人たちだからこそ、挑戦し、失敗する権利があるのだと思います。私の地元の高知では、介護経験ゼロからデイサービス事業所を立ち上げた20代の若者もいます。そんなふうに若者らしく出しゃばってほしい。いっぱいチャレンジしていっぱい失敗したらいいと思う。

私自身も若い頃は何の根拠もなくプロの漫画家になれると信じていました。世の中を知らない人が実は一番強い。やっちゃったもん勝ちです。駄目なら一度リタイヤしてまた戻ってくればいいんです。私も「自画自賛」を自分の決めゼリフに、毎日机の上での格闘を続けていきます。
[
文: 高山 淳
写真: 松田 康司
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