ヘルプマン
大学を卒業して、介護ベンチャーを興した安部諒一さん。新進気鋭の建築家や元一流ホテルのコックなど、各分野のスペシャリストとコラボして東大阪の有料老人ホーム『musubi』を運営しています。サービスの質でNO.1をめざし、新しい高齢者の生活サービスのブランドをつくりたいと語る安部さん。経営者としてデザインするのは、働きたい!と思える介護ベンチャーです。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)
プロフィール紹介
1986年生まれ。26歳。4人兄弟の長男。小学・中学・高校はサッカーに明け暮れる。大学では環境都市工学を専攻。祖父、父とも経営者だったことから、自分も早くから起業を志す。就職活動では外食系コンサルティングのベンチャー企業に内定していたが、祖父の会社の跡地に老人ホーム建設の計画が持ち上がり、「この機を逃すとしばらく起業のチャンスはないかもしれない」と内定を断り、介護ビジネスを立ち上げることを決断。将来は介護にとどまらず、「高齢者の生活を演出する」さまざまなサービス展開を構想する。

「表面はとんがってるけど、中身は温かい」
おむすび型のロゴ

東大阪で僕たちが経営する施設のネーミングは「musubi」といいます。

「老人ホームをもっと開放的で、もっと親しみやすい存在にしたい」「musubiができたことによって新たな交流が生まれ、新たな価値が創造される」そんな、いろんなヒト、モノ、コトの結び目になりたいという想いを込めました。三角形をロゴにするのってちょっととんがっていて挑戦的ですよね。既成概念に捉われず、常に価値転換と価値創出をしていき、業界に良い影響を与えていきたいという意志を込めたかったんです。でも温かみも大事にしたかったので、内側は角の丸いおむすび型にしました。

僕たちの会社のコンセプトのひとつは「Simple&Smart」。自分たちの想いをシンプルな形で、かつ誇張したりするのではなくて、地に足つけて伝えたいメッセージをちゃんと発信する。そして、当たり前のことを、当たり前に、丁寧に。そういうことが今の時代、凄く大事なのではないかと考えています。
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規模ではなく
サービスの質でNo.1を目指す

介護業界の事業会社は、サービス業として成熟する前に事業者数が急速に拡大していったため、サービスの質が市場の成長に対して追いついていないという現状があります。規模で一番を目指そうという会社は多いのですが、本気でサービスの質のNo.1を取りにいこうと思っている会社はほとんどないように思えます。だからこそ、「musubi」という質で語られる介護のブランドをしっかり作り上げ、広げていきたい。

ただ広げていくといってもフランチャイズ展開ではなく、安定的に収益を確保できる規模で、人材やサービスの質を高めていく。しかも高価格帯のサービスではなく、今世の中でもっとも必要とされている低価格帯のサービスで実現する。たとえば、一般的な施設は給食会社が食事を提供していることが多い中、「musubi」の食事は、一流ホテルの総料理長を長年務めたシェフが腕をふるい、できたての料理をオープンキッチンから提供しています。利用者やその家族から見れば、施設を選択する際に、今は「自宅から近いから」とか「値段が安いから」といった理由がメインになりがちで、サービスの違いまではわかりにくいのが現状です。

だから、「この価格でもこういうことが実現できるんだ」という基準を「musubi」が創りたいと思っています。

経営とは、会社の未来をデザインすること

僕は、経営とは会社を本当の意味で「デザイン」することだ、ととらえています。

どんなに表面的にかっこ良いものをつくっても中身が伴っていなければ、意味がない。人、風土、採用、人事考課、システム、ブランディングなどを会社のフェーズに合わせてデザインしていくことが大切で、「会社全体として社会に対してどう見せるか、メッセージするか」という一貫性にものすごくこだわっています。また、今、新たなステージとなる2棟目の施設の計画を練っていますが、そのプランニングを一緒に手掛けているのは、雑誌『Casa BRUTUS』などにも取り上げられる気鋭の若手建築家。この方は住む人の生活や住まいの中の仕組みについてとことん突き詰める方で、例えば、「散歩に行きたいという高齢者は多いけど、スタッフが多忙でなかなか付き添っていくことができない」という課題に対して、「じゃあ室内に庭を作ったらどうだろう」という感性で応えてくれる。

僕らも自分の知っている当たり前にとらわれていると「もしかしたら別の形があるかもしれない」ということに気付かない。こういうスペシャリストとのコラボレーションを通して、ハードとソフトを融合した施設から新しい高齢者の生活環境というものを社会に提案していきたいですね。

介護という枠を超え、
高齢者の生活を演出する

老人ホームは生活の場なので、利用者はどんなにいい介護を受けても、食事が自分の口に合わなかったら不満に思うし、逆に食事がおいしくても空間が自分に合わなかったら、居心地が悪いはずです。

介護も医療ももちろん大事ですが、生活の場だから衣食住にわたって満足していないと、たぶん「ココにいたくない」って誰でも思うでしょう。だから医療・介護は当たり前として、「musubi」ではそれ以外のこともしっかり考えていこうと、事業を「高齢者の生活を演出すること」と定義しています。

そして、生活も1つの施設の中だけで考えるのはおかしいと思っていて、温泉地にお泊りデイサービスを作ったり、リゾート地にも施設を作ったり、同じエリアでも違うコンセプトの施設を作って引っ越しができたりと、多様な生活を提案していきたいと思っています。他にも、いい食材を確保するための農園をつくったり、オリジナルデザインの福祉用具や食器を提供するメーカーとして、デザイン的にも機能的にも優れたモノをどこかとコラボレーションしてつくるなどして、どんどん生活をプロデュースしていきたい。高齢者の生活をトータルでカバーする事業を展開することが今後の事業展開の骨子。そうすることで介護保険に頼らない収益源も確保できますし、介護のマーケットで圧倒的なブランドになれる。

10年後20年後には「ああ、あの会社って老人ホームから始まったんだ」と言ってもらえる経営を目指したいですね。

地域との結び、社会との結びを考える

サービスの質を考えた時に「ホスピタリティが高い」というのはもちろん大切ですが、それだけじゃなくて、「地域に融けこむ」ということを僕はとても重視しています。地域を含めて「生活の場」なので、「点ではなく、面で考える」「高齢者を地域で支える」という感覚を重視していて、その中心となる場が「musubi」となっていくようなサービスが理想です。

僕は“地域交流”という言葉は、他動的な感じがしてあまり好きじゃない。「musubi」にカフェをつくったのもそういう理由からで、交流させようと思って人を集めるのではなく、自然とここに集まって来るような雰囲気、感覚というのを大切にしたい。この8月には夏祭りを実施したのですが、コンセプトは「昔なつかし、昭和レトロな夏祭り」で、近所のみなさんも気軽に立ち寄れるように、アットホーム感を大切にしました。当日はみんな割烹着や甚平など昭和レトロなファッションで、ご家族やご近所の人たちとスマートボールや射的を楽しみ、大盛況でした。

マネジメントが
介護サービスの質を変えていく

病院ではよく「良い病院は事務長さんがいい」と言われます。良い事務長が各種専門医を束ね、マネジメントすることで、サービスが連動し全体が機能するのですが、事務長のマネジメントが悪いとサービスとして目指すべきところの目線がそろわず、各自が専門領域に閉じこもってしまう。

実際に、介護業界で起業してみて僕が痛感したのは、こういったマネジメントができる人材の不足です。

介護は施設長や現場リーダーなどのマネジメントによって、現場のモチベーション、提供しているサービスの質すべてが変わると思います。だからこそ、採用に力を入れるし、入社後の育成もしっかりやっていく。元々の専門性に加え、マネジメントができるようになれば、将来的に広い視野をもって事業をデザインできるし、その人材の市場価値は高くなるはずです。

また、マネジメントができる人材が増えていくことで業界がもっと活性化すると思います。

安部さんからのメッセージ

起業やベンチャーといえばITというのが定番のようになっていて、介護業界はこれだけマーケットが広がっていて、誰もが認める成長産業なのに、起業をしたいと思っている人の中でも、介護の魅力に気付いている人は少ない。僕のように大学を出てすぐに介護で起業というケースはまだ珍しいのかなと思いますが、よく内定者や新入社員から、「大学時代に社長の話が聞きたかった」と言われることも多い。

だから今では、自分で機会を作ってどんどん大学に出ていって介護業界の可能性について話すようにしています。秋にもある大学の経営学部で講義をする予定で、経営を学んでいる学生のみなさんに「あ、介護業界って面白そうだな」「こういう選択肢もあるんだな」と気付いてもらいたいなと考えています。
[
文: 高山 淳
写真: 山田 彰一
]
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