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2016.06.30 UP

介護現場の効率化を実現する いま注目の「ITツール」とは?

介護現場で起こっているさまざまな問題を解決しようと、IT技術を取り入れた製品・サービスの開発が進んでいる。介護業界はなかなかIT化が進まないといわれるが、すでにそうしたシステムを導入することで一定の成果を出し、業務の効率化や生産性の向上を実現している施設も増えているようだ。今回は、いま注目しておきたいITツールを取り上げ、その特徴や効果のほどを紹介する。

入所者のコール時の状況を
いつどこにいても映像で確認

介護業界が抱える最も大きな課題の一つが、高齢化社会による要介護者の増加と、生産年齢人口の減少による介護職員不足だ。一人の介護職員が担う仕事量は必然的に多くなり、結果、疲弊によるミスも起こり得る。そうした介護現場における人手不足を解消するために欠かせないのが、ITを取り入れたワークフロー改革による業務の効率化だ。

最初に紹介するのは、コニカミノルタジャパン株式会社が2016年4月にサービスを開始した「ケアサポートソリューション」。同社が持つ光学・画像処理技術やセンシング技術(センサーを利用してあらゆるものを計測・判別する技術)を活用し、センサーとスマートフォンを組み合わせた業務効率ソリューションだ。

介護職員は日々、ケアを行うために施設内を絶えず動き回っている。そんな中で入所者からのコールがあれば、状況確認のために真っ先に駆けつけなければならない。しかし、「ケアサポートソリューション」を導入すると、入所者の施設内の居室の天井に取り付けたセンサーから介護職員が携帯するスマートフォンに情報が送られるので、その場で状況を映像で確認できる。万が一、転倒や転落が発生した場合は、映像記録により録画された事故前後の映像で状況を確認することができ、適切なケアおよび事故防止策への展開が可能となる。

「駆けつける前に映像で状況の把握ができれば、駆けつけなければならない必要性をその場で判断することができます。また、何人かのコールが重なった場合でも、状況を判断した上で、より緊急度の高い方から対応することが可能となります」(コニカミノルタジャパン株式会社・ソリューション事業本部ケアサポート事業推進部)

他の介護職員が対応中かどうかや、対応が済んだかどうかもスマートフォンを通じて分かるため、重複対応を防ぐことができる。なお、入所者の映像は、入所者の起床、離床や転倒、転落、呼吸による微体動異常といった行動を検知したときのみ確認が可能なので、「常に見張られている」という状況にはならず、プライバシーも守られている。

さらに、スマートフォンでケア内容の記録をその場で簡単に入力でき、そうした記録や情報の共有もリアルタイムで行えるため、メモを転記する無駄を省けるし、伝達の遅れや連絡ミスを減らすことができる。

こうした映像を使った行動確認や、入力業務・情報共有の簡素化によってオペレーション効率が高まり、「導入施設によっては職員の介護業務時間が全体で約3割減となったところもある」(同)とのことだ。
▲近赤外線を利用した「動体検知センサー」と、マイクロ波を利用した「微体動検知センサー」を使った独自センシング技術により、起床や離床、転倒や転落、呼吸による微体動の有無なども検知する

地域の情報共有を円滑にする
簡単ネットワークシステム

ネットワークを広げ、業務の質を高めるという点では、富士通株式会社が2016年2月にサービススタートさせたシステム「HOPE LifeMark−WINCARE」に注目したい。

介護サービス事業者向けの業務支援システムで、専用ツールを使って介護施設や医療機関、自治体などとの情報共有を強化することにより、要介護者をとりまく状況を包括的に理解・共有することが可能となるサービスだ。背景にあるのは、要介護者の増加による、病院や介護施設不足の問題だ。今後も一層深刻化するといわれる中で、いま以上に「地域包括ケアシステム」を整備しながら要介護者のサポートにあたることが必要になってくる。一言でいえば、そのためのネットワークづくりを可能にするシステムだ。

このシステムを導入する介護サービス事業者は、任意の病院の医師やスタッフ、看護師、自治体職員などに専用のIDを提供する。それだけで、ID保有者間でのSNS形式の情報共有が可能となる。Webサイトから情報共有機能にログインすれば、ID保有者同士のさまざまなやりとりも可能に。例えば、介護職員なら専門医から病状への対応や服薬の効果説明などのアドバイスを受けることができるし、自治体職員に介護保険の申請手続きの相談を行うこともできる。

介護プランニングにおいても、ケアマネジャーが作成した介護プラン案を、ネットワークでつながっているスマートデバイスによって、要介護者の家族宅に訪問した際にその場で簡単に共有できるため、検討や修正がスムーズに行える。

もちろん、介護職員は介護スケジュールや介護記録の入力・参照が、スマートデバイスによっていつでもどこでもできるようになり、その作業のために事務所に立ち寄るといった手間も省ける。要介護者の状況や行動内容などの情報を関係者間で即座に共有できるので、対応もスムーズに行える。

「すでに多数の問い合わせがあり、導入も進んでいます。2017年度末までに2,000セットの導入が目標です」(富士通株式会社)
▲SNS機能を使えば、このように看護師、医師、薬剤師の間の情報共有も簡単に行える。なお、利用者認証については高度なセキュリティ対策が取られているため、安心して介護記録の参照・入力ができる

医療と介護の
シームレスな連携が可能に

情報共有という点では、株式会社ワイズマンの「MeLL+(メルタス)シリーズ」も欠かせない。同社は医療も介護も自社で手掛けており、介護福祉向けシステムにおいては業界大手と言われている。

同社が2015年1月にリリースした「医療・介護連携サービスMeLL+(メルタス)」は、医療・介護の両方を手掛ける法人が、グループ内での情報共有などの連携をスムーズに行うためのクラウドサービスだ。2種類のラインナップがあり、「MeLL+professional」は病院や介護施設・事業所間の連携を、「MeLL+community」は地域における医療と介護の連携を実現している。

「今後、地域包括ケアシステムの構築が進めば、在宅医療のニーズは確実に増えていくはずです。病院や介護施設、在宅という流れの中で、一人ひとりの患者、利用者にかかわる全てのスタッフが同じ情報を共有できることは一層重要になるに違いありません」(株式会社ワイズマン・販売促進課 谷崎愛親子氏)

同社の電子カルテシステムや介護システムを既に導入している場合、それらの更新情報が自然に集約され、パソコンやタブレット、スマホなどからいつでも情報にアクセスできるようになる。そのおかげで、いつでも・どこでも最適な治療や介護サービスが提供できるというわけだ。

機能はそれだけではなく、多職種間のコミュニケーション支援でも力を発揮する。スタッフが気付いたことなどを書き込むことで情報がリアルタイムに共有できる「利用者コメント機能」や、特定の相手とSNSのように気軽にコミュニケーションがとれる「メッセージ機能」なども好評だという。

「低コストで導入可能なところや、利用者情報を訪問時に外出先で確認できる点などを評価していただき、導入件数も120件を超えています」(谷崎氏)▲パソコン上では、このように入所者ごとの予定やケア記録、検査結果などが一覧で確認できる

デバイスにICタグをかざすだけで
その日の予定や申送り事項が一発表示

最後に紹介するのは、NFC(近距離無線通信技術)を取り入れたサービスで業務改善を追求する、株式会社ロジックの「Care-wing(介護の翼)」。NFCと聞いてもピンとこない人も多いかもしれないが、電車に乗ったりお店で支払いをしたりするときにICカードをかざす、あの技術だ。

「Care-wing(介護の翼)」は、訪問介護・訪問看護の現場にNFCの技術とクラウドサービスを導入。訪問先ごとにケアの内容が異なる上に、一日に複数の現場を訪問する訪問介護・訪問看護の仕事において、多くのヘルパーさんの強い味方になっているという。

システムは極めてシンプル。ヘルパーさんは事前にダウンロードしておいたスマートフォンやタブレットのアプリを立ち上げ、自分専用のICカードを読み取るだけ。すると、その日の予定と申し送り事項が一覧になってスマホの画面に表示される。訪問時には、ご利用者さん宅に貼ってあるICタグを読み取ることで、サービスの開始時間と終了時間が自動的に管理画面に送られる。その日のケアの内容がスマホに一覧表示されるので、間違いなどのミスも起こりにくくなるわけだ。

この一連の流れの中で、デバイスに直接文字を入力する必要は一切ない。基本的にはカードをかざす以外には、画面上でチェックリストから選択したり、ボタンをタップするだけで全ての報告や情報共有が行える仕組みになっている。もし何かしら記入が必要な場合でも、音声入力で行うことができる。よって、スマホの操作が苦手なヘルパーさんがいても簡単に使いこなせるわけだ。

「導入は1事業所当たりの定額ですから、一定規模以上の事業者さんであれば簡単にコスト削減が可能です。それだけではなく、導入することで配置基準緩和や特定事業所加算に対応しているため、例えば導入後1年半ほどで総利用者数が1.5倍になったり、サービス提供責任者やヘルパーさんが3倍になるなど、導入を機に事業拡大に成功した事例もあります」(株式会社ロジック・執行役員・福島成典氏)

簡単に複製できるQRコードではなく、NFC技術を使っているため、不正ができないこともポイント。ちなみに、ビジネスモデル特許出願済みだ。

なお、現在は日本医師会の推進するORCAプロジェクト「給管鳥」など、5種類の介護保険請求ソフトと管理画面上で連携。現場からの要望が多い部分なので、今後は対応ソフトを増やしていく予定だという。
▲「Care-wing(介護の翼)」は現在は500を超える事業所で導入済み。ICタグを読み取るだけなので簡単だが、操作方法についてはサポート体制も整えている今回話を伺った4社が口をそろえたのは、「IT化が遅れている介護業界を何とかしたい」ということだった。それは、飽くなき技術への探究心というよりは、社会的課題を多く抱える介護業界を少しでも便利にし、多くの人の力になりたいという思いに他ならない。

今後もさまざまなツールが開発されるのは間違いなさそうだ。ぜひ注目してみてほしい。

【文: 志村 江】

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