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ヘルプマン

2014.09.29 UP

関わる人みんなをケアする 31歳・最年少のエリア事業部長

これまでに新たなホームの立ち上げを3度経験し、その都度新たなポジションを任されてきた髙島さん。2014年には最年少の31歳で事業部長に就任し、9つのホーム、約250人のスタッフをケアしています。異例の抜擢にも、「そのときそのときで自分が何をなすべきかを考え、精一杯応えてきただけ」と答えます。役職が変わるたびに視点が広がり、決して満足することがないという髙島さんの歩みから新しいリーダー像を探ります。

一つひとつのケアが全部、
ご利用者様と向き合う時間

何かを新しく始められる環境が、私は好きです。就職活動では、地元の銀行とベネッセで最後まで迷いましたが、ベネッセの介護事業という未知の世界に魅力を感じたのと、「自分や家族がしてほしい介護」に取り組むベネッセの姿勢に共感し、入社しました。しかし、いざ入社してみると、次から次へと仕事が待っています。モーニングケアでは、一度に13人のご入居者様の起床やトイレのサポートをして、戦場のようでした。

先輩スタッフに、「全然、ご入居者様とお話しする時間がないですよね」とこぼしたところ、「本当にそう思う? その方をケアしている一つひとつの時間には、目の前にお客様がいるでしょ。いかにコミュニケーションをとるかが、私たちの仕事の大切なところだよ」という答え。大事なのは会話のための時間をつくることではなく、ケアの一瞬一瞬を大切に、いかに心を通い合わせることができるかです。

いま、マネジメントの立場で現場を回っても、「目の前のご入居者様とその時点で最大のコミュニケーションを」と考えるスタッフは、どんどん関係性が深まっていくし、視野も広がっていきます。気持ちの持ち方ひとつで、その人の成長度も変わるのです。最初にホーム長を務めた「グランダ仙川」で。9つのホームすべてに週に一度は顔を出す

自分が正しいと思うケアではなく
ご入居者様が望むケアを

最初のホームでは、同じフロアの男性のご入居者様お二人が、犬猿の仲で困りました。体育会出身でチームの和や友情を重んじる私は、何とか仲良くしていただこうとお互いのよさを伝え、歩み寄る機会がないかと奔走。ところが、あるときお二人のうちの一人から、「あんたの考えていることはわかる。だがもう80年90年生きてきて、自分の好きに生活したいし、人との相性もある。だからほっといてくれ」と言われて気付いたのです。

こちらがよかれと思ってしていることをご本人は望んでいないし、むしろ離れて快適に過ごすことがご本人の希望なんだと。それからは、二人が休憩する時間帯を少しずらすなどの配慮をするようにしました。「本当にその方が望んでいるケア」とはどういうことなのか、このときに少しわかったような気がします。

2年目の秋には、新たにオープンする「グランダ池上南」のサービスリーダーを任されました。とはいえ年齢も経験値も自分は一番の下っ端。「偉そうに指図なんかできない」という自信のなさが表に出ていたのでしょう。あるとき、自分の母親くらいのスタッフさんに、「若いとか経験がないとか関係ない。リーダーはあなたなんだから、声に出してみんなを引っ張っていきなさい。ちゃんと私たちはついていくから」とお尻を叩かれました。それからは言うべきことは言うと同時に、口だけで指示するのは嫌だったので、現場のシフトに入ったときには、誰よりもがむしゃらに自らの方針を実践するようにしました。撮影中も頻繁にご入居者様から声をかけられる髙島さん

やれることをやりきっていこう!と決心

運営スタッフという副施設長的な立場を経て、ホーム長になったのは「グランダ仙川」オープンのとき。まだ4年目で、「果たして自分に務まるんだろうか」という不安でいっぱいの1年でした。実際にご家族からも「お若いのに、大丈夫なの?」と声をかけられることもありましたが、「年齢はどうしようもない。若い自分ができるホーム長像をつくっていこう」と覚悟。まずはそのときそのときを一生懸命に、わかっていること、やれることを「やりきっていこう」と考えました。

自らダイニングに入って食事配膳を一緒にしたり、トラブルの振り返りでは自分から中に入って意見を言ったり。ご家族とのコミュニケーションでも変に大人びることはせず、正直に、素の自分の勢いのまま向き合い、自分が思うことを伝えるようにしました。オープンから半年後の夏祭りの日、若くて経験不足が不安だとおっしゃっていたご家族の方が、別のご入居者様に対して、「本当によくやってくれて、若いけど頼りにしてるのよ。娘みたいで応援してあげたくなっちゃうの」と私のことを紹介してくれました。目の前の方に向き合い続けていけば、ご家族はちゃんと見ていてくれるのだと胸が熱くなりました。4年目でホーム長に。「肩書だけで中身は不安でいっぱいの1年でした」と振り返る

納得できる最期を迎えるために

7年目になり、メンバーはもちろん、ご入居者様やご家族とも心を通わすことができるようになり、ホーム長の面白さがわかってきたころ、初めて「メディカルホームくらら武蔵境」という既存のホームを担当しました。メディカルホームは医療依存度が高く、24時間ナースが常駐するホームです。終末期に近い方も多いため、約半年で15名ほどの方の看取りも経験しました。

看取りに当たってはしっかり医師とご家族の話し合いの場を持って、方針を決定します。ところが、老衰で自然に逝かれると方針を決めた場合でも、「今日は100ccしか水を飲んでいません」「今日はプリン1個しか食べていません」と報告が入ると、ご家族の間でも最後の最後に心配や葛藤が生まれ、心が揺れ動きます。

例えばあるケースでは、一度施設での看取りを決めたもののお父様の苦しんでいる姿を見て、ご長男様が「苦しんでいるようだから入院させたほうがいいのでは?」と迷われる一方、他のご兄弟はそのまま施設での看取りを希望されていました。ご長男の奥様が間に立って困った表情をされていたので、私から「何か迷われていますか?」と声をかけて、悩みを伺ったうえで「私からご主人に話してみましょうか?」とご提案するなど、ご家族の間の橋渡しをさせていただきました。

大切なのは、みんなが納得できる最期を迎えていただけるようなケアをすること。ご入居者様の看取りを通じて、ご本人はもちろん、ご家族への視点の大切さにも気付くことができました。「メンバーの成長が何よりもうれしい」と髙島さん

働く人をケアするケア職

現在、武蔵野エリアの9ホーム約250人のメンバーを統括するエリア事業部長として、売り上げや入居者数、コストの管理はもちろん、各ホーム長のサポートや採用面接、研修講師なども行っています。9つのホームを同時に見ているので、お互いのホームの優れたところを共有したり、共通の課題は何でそれをどう解決していくかにも知恵を絞ります。

例えば最初に感じたのは、ホームごとに介護士と看護師のコミュニケーションに差があること。経験の浅い看護師だとつい「医療的な観点ではこうすべき」と主張し、介護士は「ご本人の生活のリズムを大切にしたい」といった言い方になって、それぞれの立場ではご入居者様のことを思っているにもかかわらず、平行線をたどることがあります。こういったことが続くと、結果的にご入居者様のケアが滞ってしまうことになります。そんなときは、ご入居者様の生活をよりよくしていくという目標はどちらも一緒であり、役割の違う専門職であることに気付かせることが、自分の役目だと思います。

対策の一つとして、それまでは行われていなかったホーム間での看護師のシフト交流を導入、キャリアのある看護師を中心によりよいケアに向けた業務の改善や相互のコミュニケーションのあり方を見直してもらうようにしました。このように「ケアスタッフとして働く人をケアする」ことも、エリア事業部長の一つの役割だと思います。介護士と看護師の間に入り、ご入居者様にとってのよりよいケアを一緒に考える

ケアの仕事は満足したら辞めるとき

ホームを地域に開放し、行政や他の施設と連携して介護予防から看取りまでのサービスをシームレスに提供していく「トータルシニアリビング」が、ベネッセの地域に対する考え方。例えば、最近取り組み始めた「地域活性化プロジェクト」では、小金井市の「小金井さくら体操」という介護予防体操を一般に広めるお手伝いをしたり、周囲の学生と一緒にイベントの開催を計画したりしています。

こんなふうに、ポジションが変わるたびに目を向けなければならないこと、やらなければいけないことが次々に出てきて、飽きることも立ち止まることもありません。以前、あるリーダーから「すべての人にとっての満足感なんて絶対ありえないけど、介護はそこを追求していく仕事。この仕事は満足したら辞めるときだよ」と言われたことがありますが、本当に介護は満足することのない仕事だと実感しています。

現場からリーダー、ホーム長、事業部長と歩んできましたが、役割ごとに目線が変わり、見える世界も変わります。その面白さをぜひ多くのみなさんに気付いてほしいと思います。お互いの近況について情報を交わす間も、笑顔が絶えない

【文: 高山淳 写真: 中村泰介】

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