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2023.05.16 UP

働き方が変われば、今のルールでは不利な人が不利ではなくなる。「ワークシェア」「シフトフリー」など、多様性のある働き方をつくるまで(一般社団法人NIMO ALCAMO 古市邦人さん)

複数の人でワークシェアをして、負担もシェアする「しごとの間借りプロジェクト」。一般社団法人NIMO ALCAMOの代表古市邦人さんは、働くことにつまずいてしまった人たちの就労支援を行う中で課題を感じ、プロジェクトを立ち上げました。仕事に合わせて無理して働くのではなく、個性に合わせて仕事の側を変える。この新しい働き方が生まれるまでのプロセスや、実践する上でのポイント、今後検討しているシフトフリーの事業についても教えていただきました。


▲古市邦人さん

 

本人を仕事に合わせてトレーニングして変える支援ではなくて、仕事側を変えて新しい働き方を作りたい

――古市さんがこの取り組みをされるに至るまでの経緯、感じていた課題や想いをお聞かせください。

前職は就労支援を行うNPOで7年ほど対人支援をやっていました。働くことにつまずいてしまった人たちの支援を行うことでわかったことは、できることには限りがあるにも関わらず、社会に出ると急激に求められるものが大きくなってしまうこと。「自分はこういうことが苦手だけど、でも我慢して仕事なので続けています」と、仕事に合わせて無理して働いている現状があります。
でも、働き方が変われば、今のルールでは不利な人が不利ではなくなるということが起こせるんじゃないかなと思っていました。例えば、病気のまま働けるとか障害があるままで働ける、コミュニケーションが苦手でも働けるとか。何か直してから働くとか、力をつけてから働くとか、基準を満たしてやっと働けるではなくて、できる部分だけで働くみたいな。

――もともと古市さんが運営していたカレー屋を活用して取り組みを進めたんですよね。なぜカレー屋だったんでしょうか?

就労体験の受け入れを目的として、カレー屋さんを実験的に自分家兼店みたいな形にして、土日の空いてるときに店を開けていました。

なぜカレー屋かというと、以前小豆島に移住しようと考えていたときに、「観光だけしてもらっても仲良くなくならない。島の人の手伝いをしたら仲良くなれるんじゃない」って言われたんです。「カレー屋が島にないんだよ」と言われて、そこから始めましたね。

――そこから「サーカスキッチン」を始められたんですよね。どのようなことをされていたんですか?

個性に合わせて仕事を作るにあたり、まずは自分をモデルにやってみようと思ったんです。僕の特性としては、“多動・飽き症・落ち着きがない
ですね(笑)そんな自分からすると、カレー屋を毎日やるのかと思うと、ちょっとしんどいんです。
そこで長所として捉える働き方を何か作れないかなと思ったときに、先ほどの小豆島の話を思い出し、「田舎に行けば行くほど専門店が少ない」ということを利用しようと思ったんです。マーケティングの観点から考えて、都市のような人口が多い場所は専門店が成立する。例えば超激辛カレー屋が都会では成り立っても、田舎では尖りすぎてて人が集まらない。でも田舎にも超激辛を食べたい人がいる。そこで、田舎で専門店をうまく運営するためには、頻度を下げるってことがポイントだなと思ったのです。そうすると、地域の人たちもカレーが食べられて嬉しいし、僕としても毎日同じ場所の営業じゃなくて、旅のように働くことができることはすごく楽しかった。そこで始めたのが「サーカスキッチン」。過疎地域に出向き、移動販売のカレー屋さんを運営するという事業です。

社会に参加できている、できていないの二分ではなく、どんな状態であっても社会に参加できる、境目がない状態を目指す

――「しごとの間借りプロジェクト」が立ち上がるまでのプロセスを教えてください。

「サーカスキッチン」を実施して見えてきた課題が2つあります。料理人のブッキングの難易度の高さと、収益が少なく、費用(移動費・宿泊費)で利益が飛んでしまうということです。ちょうどその時に、就労支援の助成金公募に通ったことから、就労支援へ本格的にシフトをすることにしました。
個性に合わせて仕事を作ること自体は同じで、ワークシェアつまり1人分の仕事を複数人で分けるっていう働き方を、カレー屋という元々あったツールを使ってやってみようというアイディアです。場所を間借りするように、やったことのない仕事を間借りする。それが「しごとの間借りプロジェクト」です。
このプロジェクトにおいては、僕が運営するカレー屋や近所のカフェスペースの空いている時間帯で実施しました。そこでは、メンタル的な不調などの理由で仕事を休む方でも働くことができるようにしました。
きっかけとしては、店舗を手伝ってくれた大学生の子です。ずっと引きこもっていたんですが、1回だけ行ったバイト先でめちゃくちゃ怒られてしまい、「ちょっと社会厳しすぎませんか」って話していたんです(笑)本来の全力を今は出せない状態の人がいること、でもその状態で働ける選択肢が世の中にはないんだと教えてもらいました。

――ワークシェアに取り組むにあたり、働く人に対する社会的な課題も感じていらっしゃったんですよね。

この10年で、精神的な理由により傷病手当をもらっている若年層は倍ぐらいに増えているんです。でもその人たちは、障がい者という枠組みには当てはまらない。しかも休職経験があるだけで、次の就職のハードルが上がってしまう。また、体力や気持ちも落ちこんでいるために、いきなりフルで働けないということもあります。彼らにとっては、「ゆっくり働く」ことが必要だけど、そういう仕事がない。
というのも、最近ではアルバイトが簡単な仕事ではなくなってるんです。ここ30年間、最低賃金がずっと上がり続けてきた一方で、初任給は上がってない。最低賃金が初任給に追いついてしまっている現状で、難しい仕事も求められてしまいがちです。
このプロジェクトでは、障害福祉サービスを選べない人、例えばただ、1回休職しただけ、ちょっと今落ち込んでいるというような、福祉サービスの手前にいる方のために、中間的就労としてアルバイトとボランティアの間のような低いハードルで働ける働き方を作りました。そうすると、かなり多くの人が、「そういう働き方が欲しかった」と言ってくれて、手応えを感じましたね。

――働くメンバーはどのように募集していましたか?

1年間のうち、上半期は就労支援機関にチラシを置いていただいたりしましたが、下半期はSNSのみで募集していました。東京や鳥取などの遠方からも問い合わせをいただきました。「毎週夜行バスで通います」という声もあって、さすがに「大変だと思うよ」とお断りもしたんです (笑)。
彼らには、「アルバイトとボランティアの間」という働き方や、4ヶ月の期間限定であること、「小さく働いて、それから考える」「働かないと。でも、どこで何を?」というようなコピーが響いてるようでしたね。
仕事でメンタル不調になって辞めた人が次のキャリアを選ぶのってすごい難しいんです。だからこそ、何をやるかを考える時間が必要なんですが、今ある支援の場合、何をするのかが決まってないと受けづらい。自分に何が向いてそうなのかを試す、モラトリアムを過ごすような選択肢が、制度上圧倒的に不足してるなと思っています。アルバイトでさえも、長く働く覚悟を結構求められるけど自信がない。だから、4ヶ月間だけ限定でやってみて考えようよということがはまり、申し込みが多かったのではないかと思いますね。

――具体的なプログラムを教えてください。

このプログラムは2つに分かれています。一つ目である「実践」プログラムは、飲食店のブランド開発(2か月)と、店舗運営(2か月)を実際に行います。この実践をきっかけに、自分はこれからどんな仕事をしていけばいいだろうかを考え、向き不向きを確認していく。加えて、二つ目のプログラムでは、目標の設定や実践の振り返りをし、整理するために、内省や対話の場として、ワークショップを定期開催しました。必要に応じて個人面談も行います。

このプログラムは、飲食店へ就職する準備をするものではなく、飲食業務には様々な業務があるので、運営を通じてやりたいことをやっていただくというプログラムでした。
さらにこのプログラムには、「サーカスキッチン」のいいところも残しているんです。店舗運営の中で、各チームが1回ずつ地方出張に行くんです。生計を立てるためにやっている訳ではないので、彼らにとっては、修学旅行的に思い出も残すことができて、旅費がちょっと浮くぐらいの感覚で参加してくれる。地域の方からすると、こんなかき氷食べたことない!と喜んでくれる。利益優先でやると続かなかった事業が、win-winの取組みになりましたね。

――プロジェクトにおいて、ハードルに感じた点はありましたか?

カレー屋の運営自体のハードルは高くないんですが、作ったものがちゃんと売れるかどうかがハードルだと感じます。やはり働く人にとって「売れて嬉しい」という喜びが大事なんですよね。今回のプロジェクトでは、カレー屋とかき氷屋の2種類があったのですが、カレー屋は元々お客さんが既に付いているカレー屋の空き曜日にやっていました。一方でかき氷屋さんは、別の店舗を新たに借りて運営したんです。そのため、かき氷屋の集客については結構苦戦しましたね。
お客さんが来ないとモチベーションが下がる可能性があるので、既に売る先が決まってる状態をいかに作れるかがポイントなんじゃないかなと思います。需要と供給のうまいバランスを調整しながら運営できると、集客の悩みは減らせるかもしれませんね。

――このプログラムでは、雇用ではなく業務委託という契約体系にされていますが、気にされたことはありましたか?

厚生労働省が中間的就労のガイドラインを作ってるんです。それも参考にしながら気をつけています。例えば、
・最低賃金以下の報酬になるため雇用契約を結べない
・中間的就労の覚書、もしくは業務委託契約を締結する必要がある
・支援を明確にする(担当者が付く、または定期的に面談をする)等
実際の社員と同じ働き方と判断されると、契約書上は中間的就労と謳っていていても、労動基準法が適用される(=雇用となる)ので気を付けなければなりません。また、労災保険が適用されないので別途加入しなければいけません。これは、インターンシップや有償ボランティアと同様ですよね。

――「しごとの間借りプロジェクト」のプログラムを受けた方の声を教えてください。

事前と事後のアンケートで定性や定量で把握しています。結果としては、「居てもいい場所があると感じる」「焦りが減った」というスコアが高く、「働いていく自信がついた」「自分に合う仕事を複数挙げることができる」というスコアも伸びていました。
このような声をいただけたのも、参加者が「家庭でしんどいことがあって、ここに来たときにすごい疲れてる顔をしているときがあるかもしれない。けど、私はここに来ることが癒しの時間になってるから、疲れてる顔してても気にしないでくださいね!」ということを話してくれる。そういう話をすると、疲れた顔をしていてもいいんだと、他の参加者も思える。無理しないでいられる関係性や方法を、吐き出し合えるワークの設計をしているのも居心地の良さ作りには繋がっていったんじゃないかなと思います。また、サポートするスタッフ側も、どういう働き方をすればいいかを考えながら、気持ちよく働けるようなチーム作りもやっていましたね。

――今後検討していることについて教えてください!

2023年7月には、24時間いつ来てもいいというシフトフリーの働き方ができる場を提供しようと考えています。具体的には、常設でチャイのオンライン販売やカフェ兼製造所の運営ですね。
「しごとの間借りプロジェクト」とは異なり、対話などの場はありませんが、シフトフリーやワークシェアという自由度の高い柔軟な働き方を通じた業務的関わりの中で、自己探索や就労へのステップを踏める場を作っていきたいと思っています。
この事業では、「アバター接客」も考えています。例えば、アトピーの方。先日お話した相談者の方は、接客業の方ですが社会人になってからアトピーがひどくなったそうです。休職して治療に専念したのですが治らず、人と会える気持ちになれなくて、辞めざるを得なかったという方でした。また、摂食障害で自分の姿や体型について言われると怖くなって職場に行けなくなってしまう方もいますね。そのように、接客や人と話すことが好きなのに、今の自分を見られたくないって人がいる。そういう方にアバターを使って、在宅で自分の姿を見せずに、安心して接客ができるようにしようと思っています。
※チャイ店オープニングメンバー募集中(〜2023年5月31日(水))
https://note.com/nimoalcamo/n/n81a257c1e929

――今後はこのような働き方をどのように広げたいと考えていますか?
僕がやろうとしているのはショーケースでして、まずは上手く運営ができている事例を作っていきたいと思っています。また、企業や福祉事業所との連携も今後ぜひできたらと思っていて、例えば2023年度には、京都にある金融機関と一緒に新しい働き方のチャレンジをしようと企画しています。金融機関としては、中小企業の人材支援もやっていて、人材不足に課題を感じています。
例えば京都の旅館業ではインバウンドに対応しきれない一方で、いくら広告費をかけても人が来ない状況。そこで、働き方を変えて、これまで働けなかった人が働けるような職場作りを実験的に導入することができたらと思っています。それこそ、アバター接客とかも可能性ありますよね。福祉就労ではなく、一般企業にも歩み寄りをしていただき、ハードルが低い仕事を導入していただけるよう、時間をかけて仕組みを作っていけたらと思っています。

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 一般社団法人NIMO ALCAMO】

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