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行政・自治体の取組

2022.04.20 UP

デジタルの力で地域に開けた施設に!誰でも施設に訪問できる「すこともWEB美術館」長岡市

例年、2日間で約2万人もの来場者で賑う、県内最大規模の福祉と健康の祭典『すこやか・ともしびまつり』。新型コロナウイルス感染症拡大防止のため2020年度は中止、2021年度は規模を縮小した上での開催となった。このような中、市民で構成する『すこやか・ともしびまつり実行委員会」と、市・介護・障害福祉事業所の3者が連携し、デジタル技術を取り入れた官民連携による新たな取り組みとして、『すこやか・ともしびまつり特別事業』を実施。その事業の一環として「すこともWEB美術館」を開館した。今回は、イベントを企画したすこやか・ともしびまつり実行委員会事務局である長岡市の清水様に、詳しいお話を伺った。

約250点の作品と30施設がWEB上で見学できる美術館

――今回の『すこともWEB美術館』を開催するまでの経緯を教えてください!

例年、県内最大規模の福祉と健康の祭典『すこやか・ともしびまつり』を9月に実施しています。そこでは、市内事業所利用者の作品を大々的に展示するなどをし、2日間で約2万人もの来場者がいらっしゃるイベントでした。

▲例年の『すこやか・ともしびまつり』において、介護体験をする様子

しかし、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため昨年度は中止。これまで『すこやか・ともしびまつり』に来場し、広いスペースで作品の閲覧を楽しむ施設利用者の方々が、コロナ禍で施設や自宅に居ながらも生きがいを感じてほしい。そうした想いで、今年度は規模を縮小した上での開催をする運びとなりました。そのうちの一つが『すこともWEB美術館』です。この『すこともWEB美術館』は、WEB上で介護・障害福祉事業所の施設内や施設利用者の作品を見ることができるというものです。
WEBでの開催へ変更するにあたり、ただ作品をWEB上に陳列するだけでは閲覧者が増えない可能性があると考えました。そこで、WEBを通じて施設見学を行う介護施設の取り組みを参考に、この機能を私たちも使うことができないか、とこの企画が生まれました。

本美術館を行うにあたり、目指したことは2つ。1つ目は、まるで施設内で作品を鑑賞しているかのように、視覚で楽しく体感できること。2つ目は、作品の紹介だけでなく、施設内の紹介を兼ねることで市内の介護・障害福祉事業所の認知度向上や福祉に触れるきっかけ作りをすることです。日ごろ福祉に関わらない方からすると、福祉事業所が地域にあっても、知らないまま通り過ぎてしまうことが多いと思います。そんな方々にも、楽しく知ってもらいたいという想いがありました。

アイディアを形にするにあたり、協力いただいた方は、市内のIT関係企業、事業所のスタッフや利用者です。ICTをイベント事業に取り入れたのは、今回が初めて。それまでは、直接来場いただいてこその行事だと思っていましたが、出来上がりを見て、そのような先入観はなくなりました。

公開に向けて、参画事業所の募集から始まり、事業所内の撮影・編集。約4か月ほどで公開をスタートさせることができました。
募集の際は、説明の仕方を工夫しました。というのも、初めての取り組みということで、市内の介護・障害福祉事業所の方が実施内容を想像しづらいためです。今回は“検証”としてやること、参画法人の皆様からお声をいただき、来年度の新たな展開も視野に入れていることを伝え、ご協力を依頼しました。また、これまでは書類で募集し、応募用紙を送付いただくやり方が通常でしたが、今回よりWEB上のフォームで募集し、双方の手間がかからない方法としました。結果的に、30の介護・障害福祉事業所にご協力をいただくことができました。

――そのほかに工夫された点や具体的な美術館の内容についてお教えください!

撮影は、展示作品を含む施設内外の様子は360度カメラで行い、利用者の作品は通常カメラで撮影する工夫を行いました。専門家であるIT関連企業へお願いしたこともあり、想定よりも作業時間は短く、1事業所あたり最短15分程度で撮影をすることができました。
苦労した点は、施設内を撮影するため、施設のこの部分は隠してほしいという要望や、ご利用者などの個人情報が記載された掲示物について、一つ一つ丁寧に撤去等の対応をする必要があったことです。

ではここからは、実際に『すこともWEB美術館』に入ったようなつもりになっていただけるよう、写真を交えてご案内します。
スマートフォンやパソコンでリンクにアクセスすると、まずは『すこともWEB美術館』開催に対する思いや経緯を記載しています。

▼すこともWEB美術館
https://sukotomo.whitesnow.jp/

そして、サイトの下部へ進むと今回参画いただいた30事業所の外観が並んでいます。

各施設の画像をクリックすると、施設の外に立っているかのように感じられ、矢印の方向に進むと、まるで施設内を歩いているかのように作品を鑑賞することができるようになっています。作品は、絵画、書道、貼り絵、手芸作品等、約250点もの作品展示を見ることができます。

施設内には、インフォメーションマーク(ローマ字のiマーク)が散りばめられており、そのマークをクリックすると利用者の作品が拡大表示される仕組みになっています。

以上、美術館の様子を体感いただけましたでしょうか。

――本取り組みの反響や今後検討していることも教えてください!

WEB美術館へは、6,000以上のアクセスを得ることができました。本取り組みをより多くの方に知っていただきたいと思い、これまで以上に広報に注力したこともアクセス数アップの一助になっています。例えば、市政広報ラジオ番組や福祉系の新聞へ取り上げていただくことができました。さらに、新潟県内の地方新聞にも載せていただき、市外の方々にも知っていただくきっかけも。また、『すこやか・ともしびまつり』やその原点にある『ともしび運動』の理念なども知っていただきたいと、市ホームページにリンク掲載もしました。

参画事業所や利用者からは「コロナ禍でも作品を披露する場を設けていただいてよかった。」「自分の作品が画像で見れて嬉しそうだった。」「なかなか見る機会のない他施設の中も見れて良かった」という声をいただくことができました。WEBで来場された方からは、「認知症の曾祖母は普段ショートステイを利用しており、認知症が進行していることに加えコロナの影響により2年以上会うことができていない状態。そんな曾祖母が普段から利用している施設を見ることができ、意外ときれいだったのと、曾祖母が暮らしている場所を見ることができ、安心する気持ちも芽生えた」との声もありました。さらに、遠方の親戚にも教えたという声もいただくことができ、市外の方でもいつでも見ることができる、WEBのメリットを生かしていただけました。

本取り組みを実施したことで、コロナ禍により外出や施設外の方との交流が難しくなっていた利用者が、自分の作品を大勢の方に見てもらうことができ、利用者の今後の活力や生きがいづくりに寄与することができたと感じています。また、コロナ禍で面会や施設見学会が開催できない中、自宅にいながらも施設内を見学することができるため、ご家族や求職者にとって有効に活用していただくきっかけができました。加えて、気軽にアクセスできることで、近所に事業所があっても中に入ったことがない、何をしているところかわからない、暗そう・汚そうというイメージを持っている方にも、福祉に触れるきっかけとなり、地域全体でともに生きる社会に繋げることができたと考えられます。

来年度以降も継続して実施し、あくまで目標ではありますが、現在市内にある全事業所350の公開を目指したいと思います。また、より実用的なものにするため、地図上へのマッピングや作品の材料や、作者のこだわりポイント・想い、スタッフと利用者の温かい雰囲気が伝わるよう工夫し、利用者家族や介護職を目指す方にも有効的に使用していただけることを目指したいと思います。

――清水様、ご紹介いただきありがとうございました。

新型コロナウイルス感染症により、施設見学や施設への出入りが難しくなり、ますます地域から閉じてしまうほか、ご利用者の社会との接点が失われてしまう可能性が生まれている。その中で、IT企業やデジタルの力を使い、施設内外がつながるきっかけとなり、ひいては地域に開かれた身近な施設となり、ご利用者のQOLも高める可能性を秘めていることを学ばされた取り組みであった。

【文: 長岡市・HELPMAN JAPAN 写真: 長岡市】

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