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2018.01.18 UP

お笑い芸人とリハビリの仕事経験を生かし、 介護現場に「笑い」と「生きがい」を届ける!

作業療法士でケアマネジャー、そしてフリーのお笑い芸人、舞台俳優でもある石田竜生さん。多くの肩書きをまとめて「介護エンターテイナー(R)」と名乗り、「笑い」がなければ介護じゃない!「生きがい」を生まなきゃ介護じゃない!と介護業界に一石を投じる。そんな石田さんが作業療法士になったきっかけや、お笑い芸人を目指して入学したNSC時代のエピソード、日本介護エンターテイメント協会を設立した経緯、現在の活動内容などについてお話を伺った。

作業療法士の仕事を辞めて
小さいころからの夢だったお笑いの道へ

両親は公務員、姉と兄が看護師という石田さんは、リハビリテーションの仕事に興味を持つようになり、高校卒業後に作業療法士を目指して新潟の福祉大学に通っていたという。一方で、小さいころからの「お笑いをやりたい」という夢も捨てきれないでいた。

「5歳のころ、幼稚園の演劇で主役を演じて、親御さんたちが笑っているのがうれしくて。いま考えると、そのころから人を笑わせるのが好きだったんですね。それから、ずっとお笑いをやりたいという気持ちはありました。ただ、医療・介護業界は安泰だし、資格があればいいなあくらいの感覚で大学に進学しました」

卒業後、富山県の介護老人保健施設で作業療法士として働き始めるが、TVで活躍する芸人を見るたびに、「お笑いをやりたい」という気持ちが高まり、わずか1年で吉本興業のお笑い芸人養成所であるNSCへの入学を決意する。

「『お笑いで成功する』という覚悟でした。作業療法士の仕事については、お笑いのことが頭にあったからか、リハビリをもっと楽しいものにできるはず、と考えることもありましたが、どこか俯瞰で見ている感じでしたね」

同期は尼神インターやバンビーノ。NSC30期生として、1年間介護老人保健施設で働いたお金をつぎこみ、卒業までバイトなしでお笑いに没頭。「自分が一番面白い!」という550名の中で、選抜大会に出場するなど上を目指していく。

▲白髪のタマネギ頭は、とある介護の演劇でかぶって以来、石田さんのトレードマークだ

ボランティア活動を通してつながった
お笑い×リハビリ×レクリエーション

NSC卒業後は、アマチュアとしてbaseよしもと(劇場)に出演したり、M-1やR-1などのオーディションに出場しながら、東大阪のデイケアセンターで作業療法士の仕事をするという、二足のわらじ生活が5年続く。

「オーディションがあれば駆け付ける、というお笑いメインの生活をしていたので、作業療法士はパート勤務でした。でも、芸人の道もなかなか思うようにいかず、このまま作業療法士として働くのもいいかなと、どこか中途半端な5年間でした」

そして30歳。年齢的にもどうしようかと悩む中、知り合いに依頼された介護施設でのボランティアが転機となった。

「ボランティアで、体操を交えたレクリエーションを行ったのですが、高齢者の方が無邪気に笑う姿が印象的でした。若い人と高齢者って、笑わせるコツがまったく違うんですが、作業療法士として高齢者の方と接するうちに、自然と身についていたんですね。おじいちゃんおばあちゃんの笑顔が、自分の励みになっていることにも気が付きました。そこで、『お笑いとリハビリはつながる!』とひらめいたんです」

その後、自分にしかできないお笑い×介護の道を突き進もうと「介護エンターテイナー」という肩書きを作り、日本介護エンターテイメント協会を設立する。

「エンターテイナーとは、心地よい空間を生み出す人だと思っています。機能回復を目的にしたリハビリと、楽しみ・娯楽としてのレクリエーションを、お笑いのスキルでつなぐことで、高齢者の方々にとって心地よい空間を提供することを目的として、協会を設立しました」

▲「介護だとか、笑いだとか、いままでの固定概念に限定しないで、その殻を打ち破ろうよ!という気持ちで、介護エンターテイナーという言葉を作りました。商標登録も取得したんです」

SNSを活用して自身をプロデュース
ボランティアで150カ所以上の介護施設を訪問

「介護エンターテイナー・石田竜生」として自身をプロデュースする石田さん。ブログやフェイスブックなどSNSを活用し、「おじいちゃんおばあちゃんに明日への活力を!」「スタッフにはコミュニケーションやレクリエーションのヒントを!」と、日々の活動やメッセージを拡散。交通費だけ施設に負担してもらうボランティアで、全国行脚も始めた。

「SNSで発信するだけで、ボランティアのオファーが殺到しました。拡散力のすごさに驚きましたね。ボランティアを通した社会貢献は、活動の広報にもつながっています。時間を投資することで、仕事に広がりが生まれました」

デイサービスやグループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームなど、ボランティアで訪れた施設の数は150カ所以上。入所者は数人から数十人まで、その規模もさまざまだ。訪問先では、30〜40分間、体操をベースとしたレクリエーションを実施。作業療法士のリハビリの知識を取り入れた身体と心の体操で、眠っていた感情や潜在能力を引き出していく。

「失敗を誘う、というのは高齢者の方を笑わせるコツのひとつです。『手を一緒にたたいて〜』と手拍子しながら、途中でとめる。または、最初からたたかない(笑)。これで場の空気をつかんで進行します。介護職員の方や利用者のご家族からは、『あんな表情、初めて見た』と喜ばれることもありますね。ボランティア活動のメリットは、多くの施設を見学できること。視察を重ねながら、介護職としてのノウハウも蓄積していきました」

▲笑いの要素を取り入れた体操で、その場は笑い声や笑顔があふれるという

介護職員向けの講演やセミナーでは
石田流の笑いのコツ・ノウハウを伝授

「ボランティアを通して気付いたことは、高齢者にとって笑いなどの刺激を受けることがすごく大切なことなのに、それが十分ではない施設が多いことです。僕一人がやっていてもダメ。介護施設の職員さんたちが学べる場が必要だと思いました」

介護職員から「スタッフ向けにやってよ」という声が寄せられるようになったこともあり、石田さんは、介護士や看護師、作業療法士向けの講演やセミナー活動を開始。芸人・俳優活動から学んだコミュニケーションのコツを伝授している。例えば、「漫才から学ぶ4つの公式」というテーマでは、「つかみ」「動機づけ」「本題」「しめ」の4つを意識することを伝えている。

「芸人を始めて4年目のころ、フランス人とコンビを組み、その凸凹感をウリにして、若手300組が出場する大会で5位に入賞しました。これも『つかみ』です。特に高齢者にとって、つかみは重要で、最初から本題に入るのではなく、演者とお客さまをチューニングするというか、相手が身体と心を開放するために場を温めることが大切になります」

「白髪のタマネギ頭」もつかみのひとつ。最初はかぶっていなかったが、演劇でおばあちゃん役をやったとき、「これは使える!」とひらめき、それからは介護エンターテイナー・石田さんのトレードマークになった。

「『5秒で皆さんと同い年に変身します!』とかつらをかぶると、笑いがドカーン。かつらは、『このおばあちゃんに負けないようにがんばって!』と、同じ目線で応援する、という使い方もあります。高齢者の方に対する笑いって斬新ではなく、プラスワンという思考が大切なんです。僕の話を聞いた介護職員の方たちから、『明日から実践したい。反応が楽しみです!』と言ってもらえるとうれしいですね」

そのほか、セミナーでは、「今、介護業界で求められる人材とは」「自分の『強み』を活かした介護」「コミュニケーションに迷わないために」「壁を超えるための3つの『カン』」「TVディレクターから学んだ、絶対マンネリ化しないレクリエーション」といった、石田さんならではのテーマで話をするという。

▲石田さんのレクチャーに興味津々。まねをしながら、そのコツやノウハウを学んでいく

「自分の分身を増やしたい!」という思いから
リハレクトレーナー養成講座を開設

石田さんは、さらなる介護のエンターテインメント化を目指すため、2016年から「リハレクトレーナー養成講座」を開催している。

「レクリエーションに、機能回復という目的を持たせるため、まずは『リハレク』という言葉を作りました。介護職員さんの中でも1対1のコミュニケーションが好きな人、話を聞くのが上手な人がおられますが、そういった得意なことを生かすことが『リハレクトレーナー養成講座』のコンセプトです」

この講座では、石田さんが作成した2時間×3コマのカリキュラムを受講すれば、「リハレクトレーナー2級」という資格を取得できる。受講生は、ケアスタッフ6割、リハビリ職3割、一般1割。現在、6期まで終了しており、東京と大阪で約100名が卒業し、リハレクトレーナーとして活躍している。

「ケアスタッフのほか、セラピスト(理学療法士・作業療法士)や一般の方々の関心も高いですね。一般の方は、体操教室やヨガ、フィットネスなどのトレーナーの方が多く、高齢者の身体の仕組みや特徴を理解して、現場で生かしたいと受講されています」

▲東京と大阪で開催されるリハレクトレーナー養成講座、終了証書を手にみんな笑顔!1日で受講できるのも魅力

発信し続ければ、反応や成果は得られる
介護業界の皆さんはもっと発信を!

東大阪のデイケアセンターで週3、4日働き、あとはボランティアや講演会などをこなす日々をこの10年近く続けていた石田さん。今後、力を入れたいことについて伺った。

「やることがない、生きがいがないという高齢者の方に元気や笑いを届けたい、という思いがやはり強いです。そのためには、セミナーや講演会で直接発信することに加えて、YouTubeなどのメディアを介して、リハレクなどの動画を幅広く拡散し、多くの人とつながることに注力していきたいですね」

SNSを通じた発信を続ける中「継続は力なり」を実感しているという石田さん。特に介護業界の方はもっとメッセージを発信するべきだと力強く語ってくれた。

「社会的に介護の知識の必要性は高まっていますが、広く共有されていないのが現状です。特に、介護業界に関わる方は、外に向けてもっと発信するべきだと思いますね。セミナーに来てくれた介護職員の方から、『背中を押してもらった』『僕のやることに意味があるのかと思っていたけど、自信が持てた』といった声をいただき、やりがいを感じる一方で、介護業界で働く人たちが気持ちを共有する機会が少ないと感じています。グチも3年続ければ意見に変わり、社会を動かすきっかけにもなる。とにかく、内側にとどめずに自分の思いを発信してほしい。発信すれば、介護業界も変わっていきます!」

▲石田さんは、介護エンターテイナーのちらしやロゴ、Tシャツなどを作り、介護のエンターテインメント化に尽力している

 

 

【文: 高村多見子 写真: 川谷信太郎】

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