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神奈川県は、2016年度から「かながわベスト介護セレクト20」を実施することになった。これは、介護サービスの質の向上やスタッフの育成・処遇改善に顕著な成果をあげた県下の介護サービス事業所を公募・選定し、最大20の事業所に一律100万円の奨励金を交付するというもの。2016年8月31日に応募を締め切り、11月23日に行われる「介護フェアinかながわ」で奨励金の交付および表彰が予定されている。そこで、神奈川県と、同制度に応募した介護付有料老人ホーム「フローレンスケア」を運営する工藤建設株式会社に取材を行った。※写真:フローレンスケア職員のみなさん

要介護度改善に対する取り組みが
報われるような制度に

まず、神奈川県 保健福祉局 福祉部 地域福祉課 課長 笹島大志氏にお話を伺った。

現在の介護保険制度では、利用者の要介護度が高いほど介護事業者への報酬金額が高く、要介護度が改善されると報酬金額が減額されることになる。つまり、利用者の自立を目指した事業者や職員の努力が報われにくい仕組みとなっている。

「この介護保険制度の矛盾点の改善については、当県としても国に要望しており、社会保障審議会で議論が進められています。しかし、要介護度の改善は事業者や介護職員の努力だけでなく、本人の努力や医療機関の協力、家族の支援などさまざまな要因が重なり合っています。このため、報酬のあり方を是正することは難しく、時間がかかると見込まれています。とはいえ、手をこまねいているわけにもいかないと、本制度の導入を決めたのです」

制度設計に際しては、「本来は介護保険制度内で解決すべき問題でもあり、単純に減額分を補てんするといった内容では、本末転倒」といった意見が出されたという。そこで、介護保険制度外で対応する県独自の新たな制度を創設することになった。

「要介護度を改善するためには、職員のモチベーションを高める必要があります。そこで、日頃の職員の育成や処遇改善にまでスポットを当て、より広範な視点から評価する制度にしようということになりました」
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一定の基準を満たす
事業所が応募可能

「かながわベスト介護セレクト20」の対象は、県下に約4万ある介護サービス事業所。「訪問系」「通所系」「居住系」「入所系」の4種類に分け、最大20事業所を選出する。サービス内容が近しい事業所同士を比較検討した方が、より公平かつ的確な選定ができるという狙いがある。

応募要件としては、まず「かながわ介護サービス等向上宣言」を行う必要がある。これは、質の高い介護の実現のため、「高齢者の尊厳」「サービスの質の向上」「福祉介護人材の確保、定着、育成」「地域包括ケアの推進」「地域社会への貢献」に関する5項目の取り組みを宣言し、事業所内の利用者が見やすい場所に掲示する、というもの。その上で、「事業所指定から3年以上経過していること」「介護サービス情報公表制度における事業所の運営体制や介護サービス提供体制などを示すレーダーチャート7分野がすべて4点以上であること」など、一定の基準を満たしていなければならない。

「基準を満たす事業所は20%程度です。これを機に残りの80%の事業者は、どこが不足しているのかを把握・改善し、来年度以降に応募いただけるように努めていただきたいと願っています」

評価項目は、「要介護度の維持・改善」などの「サービスの質の向上」、「介護職員等の離職率・勤続年数」などの「人材育成・処遇改善」、他には「介護サービス情報公表制度における得点」などであり、選考会でこれらの要素を総合的に勘案して決定する。基本的には数値で評価するが、具体的な取り組み内容に関しては実際に事業所を訪問して検証・評価を行うとともに、選考会においても評価を行う。選考会の委員は、学識経験者および介護に関する職能団体代表などの有識者が務める予定だ。

若手職員や県民の意見を尊重し
具体的、積極的に実行に移す風土

ところで、前述の介護保険制度における矛盾の存在については、ほどんどの自治体が感じているところだろう。そうした中、「かながわベスト介護セレクト20」のように広範な視点から評価し、介護サービス事業所を奨励する制度を導入したのは、神奈川県が全国初である。

「黒岩祐治知事は、県政に関する若手職員や一般の方の意見にも積極的に耳を傾けようと、『対話の広場』という意見交換会を開催しています。『かながわベスト介護セレクト20』についても、事業所からの要望があり、『対話の広場』において要介護度の改善に向けた事業所の取り組みを発表してもらっています。県庁にはそういった意見を尊重して具体的、積極的に実行に移していこうという風土があるように思います」

この制度は、2016年5月に予算が確定しプレスリリース。全国初の取り組みということもあり、県内の介護サービス事業所や各都道府県、および市町村などから問い合わせが続いているという。

「来年度以降については、本年度の実施内容や成果を精査し、より有効なものにブラッシュアップした上で続けていければと考えています」

こうした制度がより多くの自治体に広がれば、利用者の要介護度改善や自立支援を重視する介護事業者にとっては「日々の取り組みへの社会的な評価」につながるはずだ。さらに大きな視点で見れば、「介護保険制度の矛盾の改善」にも一歩近づくのではないだろうか。

【事業者インタビュー】
「かながわ介護サービス等向上宣言」に
理念や運営方針が合致

次に、「かながわベスト介護セレクト20」に応募した工藤建設株式会社にお話を伺った。

1966年に設立され、2016年で創業50周年を迎えた工藤建設株式会社。神奈川県や東京都で「フローレンスケア」ブランドの介護付有料老人ホーム10ホームをはじめ、デイサービス2施設、グループホーム1ホームを運営している。建設会社として発展してきた同社が2003年に介護事業に参入した経緯について、介護事業運営本部 課長の伊藤氏は次のように説明する。

「建設現場では騒音やほこりを出して、地域の皆さまにご迷惑をおかけしてきました。それでも受け容れていただいている恩返しをしたいという思いが根底にありました」

設立当時に同社で建物を建てたオーナーが歳を重ねており、地域に入居できるホームが必要になったことや、13年前の当時は不景気で、地域の人たちに職場を提供したいという考えが重なったという。そんな同社が「かながわベスト介護セレクト20」に手を挙げたのにはどういう動機があったのだろうか。

「『かながわベスト介護セレクト20』の応募要件に、『かながわ介護サービス等向上宣言』を行う必要があると書かれていました。その内容見本が、当社の理念や事業方針とまさに合致していたのです。そこで、せっかくの機会に、普段から私たちが行っている介護サービスを評価していただこうと考えて応募することにしました」(伊藤氏)
▲介護事業運営本部 課長の伊藤氏
同社の「かながわ介護サービス等向上宣言」は、次のとおり。

わたしたちは、質の高い福祉介護人材の確保、定着および育成を目指すとともに、質の高いサービスの提供を目指すため、次のとおり宣言します。
1 高齢者の尊厳を守り、自由を尊重します。
2 サービスの質の向上を目指します。
3 高齢者が安心して暮らし続けるための支援を行う人材を育成します。
4 地域包括ケアを推進するために積極的な役割を果たします。
5 地域社会に貢献できる人材を育成します。

「この宣言をホーム内に掲示していますが、これを見て『いい宣言をしたね』とおっしゃってくださるご入居者さまもいます。このように宣言して認知されている以上、襟を正してしっかりやらなければならないという職員の意識づくりに役立っていると思います」(伊藤氏)

「最期まで元気で過ごせ、
きちんと看取る」ことを方針に臨む

「フローレンスケア」では、「かながわベスト介護セレクト20」の評価対象となる介護サービスや人材育成、処遇の改善にどのように取り組んでいるのだろうか。フローレンスケア たまプラーザ ホーム長の齊藤氏は次のように説明する。

「介護、看護、リハビリテーションの三本柱が重点であることはいうまでもありません。そうした中で、特にリハビリテーションと看取りに力を入れ、『最期まで元気で過ごしていただき、きちんと看取らせていただく』ことを方針に臨んでいます」(齊藤氏)
▲フローレンスケア たまプラーザ ホーム長の齊藤氏
「フローレンスケア たまプラーザ」では、ホーム長の齊藤氏自身が作業療法士であり、もう1名の理学療法士が専任として常駐。全入居者に対して個別のリハビリテーション実施計画書を作成、週1回20分程度の機能訓練に取り組んでいる。

「さらに、朝起きてからトイレに行ったり食事をしたり、体操したりお風呂に入ったりと、日常生活のすべてをリハビリテーションと捉える“生活リハビリ”に取り組んでいます」(齊藤氏)

職員の処遇に関しては、介護福祉士などの資格取得希望者に対し、専門学校と連携して勉強会を開催するなどの支援をしているほか、資格取得報奨金や資格手当を支給する制度があるという。

こうした取り組みにより、『ダイヤモンド・セレクト』(ダイヤモンド社)2016年5月号の「老人ホームランキング」で、神奈川県におけるベスト10内に「フローレンスケア」の3ホームがランクインしている。
▲『ダイヤモンド・セレクト』のランキングでは「入居率」「看護・介護体制」「介護福祉士比率」「事業経験」「介護職員退職率」「夜間看護体制」「医療連携」「看取り体制」などの指標で評価された

運営体制やサービスのあり方を
見直す絶好の機会に

同社では、「かながわベスト介護セレクト20」の意義について、どのように受け止めているのだろうか。

「最近、介護福祉施設をめぐって事件や事故が続いています。ホーム当事者としては、自ホームの運営体制やサービスのあり方を見直すべきタイミングにあるのではないかと思います。そんなところに『かながわベスト介護セレクト20』が行われることになり、非常にいい機会ができたと考えています。これを機に、例えば入浴前にきちんとお風呂の温度を測っているかなど当たり前のことも初心に戻って見直し、ご入居者さまやご家族に安心していただけるホームづくりをしていきたいと考えています」(齊藤氏)

「『かながわベスト介護セレクト20』に選定されれば、世の中に対して一定の認知度が高まります。しかし、それらはあくまでも結果。大事なのは、日頃から介護サービスの質を高め、ご入居者さまが安全・安心な生活をしていただける環境を整える意味でも、職員の定着を図るとともに処遇を改善するところにあり、『かながわベスト介護セレクト20』はそのためのいい機会になります。また、選定されることにより、職員の意識がさらに高まることは間違いありません」(伊藤氏)
▲「がんばっている介護事業者」を評価する取り組みは、ホームで働く人にとっても励みとなるはずだ
▲フローレンスケアたまプラーザ
[
文: 髙橋光二
写真: 田部雅生
]
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