ヘルプマン
いままでになかった「福祉ネイリスト」という仕事を確立し、一般社団法人シニアチャレンジッドメンタルビューティー協会(以下SMBA)を立ち上げ、育成する仕組みまで作り上げた荒木ゆかりさん。「思い立ったら、スグ行動!」の荒木さんは、持ち前の直感力と行動力で、現在では約20校の福祉ネイリスト認定校を持つ協会の理事長だ。そこで今回、荒木さんに、ネイルサロン経営から現在の立場に転じたきっかけや、一般社団法人立ち上げの経緯や福祉ネイリストの仕事内容、現在の活動などをお聞きした。
プロフィール紹介
2003年、出張ネイリストとして仕事を開始。2005年に大阪府岸和田市のショッピングモール内にネイルサロンを出店。2012年にデイサービス施設へ出張ネイルに行ったのをきかっけに、介護福祉施設への出張依頼が増え、喜ばれるサービスであると実感。2014年9月、施設でのネイルサービスを全国に広めるためシニアチャレンジッドメンタルビューティー協会を立ち上げる。2015年、高齢者だけでなく、障がい者など幅広い福祉施設へのネイルサービスを行うため同協会を一般社団法人化。

福祉ネイルのきっかけは
デイサービス施設からの問い合わせ

岸和田市のショッピングモール内でネイルサロンを経営していた荒木さんが福祉業界へと足を踏み入れたのは、ある高齢者との出会いがきっかけだった。近くのデイサービス施設から、『杖のデコレーションをやってもらえますか?』という問い合わせがあったのだ。ネイルはもちろん、携帯カバーのデコレーションなども手掛けていた荒木さんのサロンを探し当て、連絡してきたという。

「本当ならお店に来ていただくところですが、近くということもあり、直接施設に伺いました。紹介されたのはとても穏やかな雰囲気の70代の女性。倒れたのが原因で麻痺も残り、家でふさぎ込んでおられたそうです。『杖にデコレーションしてもらえば、重い気持ちも明るくなるのでは、と夫が施設の方に相談してくれたの』とおっしゃって。夫婦仲がよくて素敵だなという印象でした」

デコレーションした杖を納品するために再度施設に行った際、荒木さんは、その女性に「素敵なお話のお礼にネイルを」と申し出たところ、最初は「麻痺があるので」と断られた。が、ヘルパーの方たちが勧めたこともあって、ネイルを行ったのだという。

「翌月、施設の所長さんから『すごく気に入ったみたいだから、また今月もネイルに来てもらえますか?』との電話がありました。とても意外だったのですが、続けて通うなら正規料金をいただけるようお願いをして、了承いただきました。こうしたご縁で毎月通うようになり、わたしが行けないときはスタッフが行くようにして、まるで家族のようなお付き合いになりました。当時はサロン業務の一貫として施設に通っていましたね」
▲ご自身の体験談を笑顔を交えながら語る荒木ゆかりさん。「ネイリストは人と話すのも仕事のうち。でも私はそれが好きなんですね」
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介護施設に入居する女性の言葉で
「この仕事を一生続ける」と決意

荒木さんには、「一生をかけて福祉施設でのネイルの仕事をやっていきたい」と決意するに至った出会いがある。

「デイサービス施設での仕事をきっかけに、大型の介護福祉施設へ伺うことになりました。施術を希望する方は10名くらい。1回目から、その方と話が合ったことは覚えていました。3回目の出張ネイルのとき、道に迷って15分くらい遅れたんです。すると、大きな自動ドアのところで、私たちを待っていてくださり『来ないかと思った』と一言。そして、ネイルをしているときに、ご自身のこれまでの人生について話してくださったんです。住み慣れた土地を離れて10年前からこの施設にお世話になっていること、昔は毎月ネイルサロンに通っていたこと、ここに来てからネイルサロンを探したけれどもう諦めていたこと、最近私たちが来てすごく嬉しかったことなど。『昔のワクワクが戻ってきたの! だからあなたが来ないと困るのよ』と言われたときには涙が出て……。その方の手を握り『あなたのためだけにでも来ます。約束します』と伝えていました」
▲「高齢者の方にネイルをするとパッと笑顔が生まれるんです。特にアートは知らない方が多く、とても喜ばれますね」

仲間とのたこ焼きパーティの席で
協会を立ち上げることが決定

2012年、まだ「福祉ネイリスト」という言葉もなかったが、デイサービス施設や老人ホームの訪問を経て、荒木さんの本格的な福祉ネイル活動が始まった。利用者はネイル経験のない方がほとんどだったが、「爪がキレイになって元気になった」「ネイリストとの会話やスキンシップで心が癒やされた」との声がリピートにつながり、次第に訪問先も増加。次第に手が回らなくなり、スタッフからは「これ以上無理です」と言われたという。そこで仲間を増やそうと「介護施設へ行くネイリストさん募集!」とサロンで告知したところ、60代で定年退職したお客さまが立候補。それをきっかけに2名ほど荒木さんが直接指導し、ネイリストとして育てた。そして、SMBA構想はいきなり持ち上がる。

「2014年7月頃、ネイリスト仲間とたこ焼きパーティをしたとき、みんなで夢を語ろうと順番に話し始めたんです。私は、最近の福祉ネイル活動から『利用者さんが思った以上に笑顔になる。いまは2名ほど仲間が増えたけど、もっと広めたい』という話をしたところ、『そんないい活動、なんで自分だけでやってるん? 広げんとあかんやん!』と、いつの間にか9月15日の敬老の日までに個人で協会を立ち上げる、という話に飛躍しました。『人を育てないと、岸和田だけで終わってしまう』と、福祉ネイリストの講師を育てるシステムを作ることに。そのとき仲間がつけてくれた名前が、現在のシニアチャレンジッドメンタルビューティー協会。残り2カ月はもう必死で、HPやロゴ、カリキュラムなどをまとめていきました」

2014年9月15日の敬老の日、仲間たちがサプライズパーティを開催。「我々は美容サービスを通じて生活に彩りを放ち、万人が輝きある人生を送れるようサポートすることで社会に貢献する」という理念のもと、荒木さんはSMBAを設立した。認定校という制度を作り、各校で福祉ネイリストを育成する仕組みだ。このとき、ようやく「福祉ネイリスト」という言葉が生まれ、2015年5月には一般社団法人として「福祉ネイリスト」の商標登録も行った。
▲荒木さん直筆の決意表明。たこ焼きパーティでの夢の話からSMBAへとつながった

ビジネスとして成立させるため
+αのメニューを作成して応援

「福祉ネイリストとは、地域の老人ホームや障がい者就労支援施設、または何らかの事情でネイルサロンにご来店いただけない方のもとへお仕事として出張し、ネイルの力で“癒やし・元気・希望”を感じてもらい、笑顔になっていただくことを目的としています」

最初の認定校は、2名の知り合いのネイリストだった。その後、SNSや各地域での説明会を経て、関西から中国、関東と広がりを見せ、1年後には認定校が約20校に。認定校や福祉ネイリストになるためには、福祉業界の知識を身につける必要がある。荒木さんは、介護福祉士の本で独自に勉強し、培った知識と経験をカリキュラムに盛り込み、ユニバーサルマナー検定3級の認定証も取得。介護福祉施設にとどまらず、障がい者就労支援施設や、クリニックなど、その活動の幅を広げている。SMBAの取り組みはネイリスト新聞でも取り上げられ、JNA(日本ネイリスト協会)30周年の記念本にも掲載された。ただ、「ビジネスとして成り立つのか」というと、十分とはいえないのが現状だ。

「なぜ、有料にこだわるかというと、プロとしてお金をいただいて、もらったお金以上のものを置いてくる。『ネイルを通じて感動を与える』のが福祉ネイリストの使命だからです。そこがボランティアと大きく違うところ。実際、認定校の中にもボランティア経験者がいましたが、無料だと施設の方や利用者が遠慮してしまい続かないケースも多いのです。価格は、というと訪問美容と呼ばれるヘアカットは1000円が主流。そこからかけ離れると施設にお声掛けいただけなくなるため、SMBAを卒業した福祉ネイリストのメニューはマニキュア1000円(お色10本+アート1本/カット付き)が基本。ただ、それだけではビジネスとして成り立たない。そこで、いままで衛生面で問題のあったフットチームを立ち上げ、高齢者がケアしたい巻き爪の予防講座や訪問など+αのメニューを作成して、福祉ネイリストの自立支援に取り組んでいます」
▲SMBAの教科書。これらすべてを荒木さんが考案。「カリキュラムは改良、改良で常に見直しています」

次の目標はパラリンピック!
人と人をつなぐのがいまの仕事

認定校や福祉ネイリストを目指す人は、現役ネイリストから一般の方まで幅広い。荒木さんが障がい者就労支援施設で出会った少女も、福祉ネイリストを目指して荒木さんのもとで学び始めたひとりだ。

「仲間にネイルをしてあげたいという気持ちからです。彼女は車いすに乗り、手に麻痺もあり、目も悪く、集中しようとすると肩が固まってしまう。最初は10本爪を整えるのに2時間もかかっていました。体調がよくないときは、講習を休むこともありますが、1年かけて練習している最中です。時には『自分にネイルしてもらっても誰も喜ばへん』と少しすねてしまうことも。あるとき、『もし、パラリンピックに出る選手にネイルをしてあげて、その人が金メダルとったらうれしいやろ?』『めちゃうれしい!』『じゃあ、選手たちにネイルしに行こう』という話になって。正直、どうしようかと思いましたよ。実際、そんなツテなんてありませんから」

そこからが、荒木さんが他の人と違うところ。東京でシニアビジネスの交流会に出席した際、「今日は関西から威勢のいいお姉ちゃんが来ています!」とマイクを渡されたので、ここだ! と思って「パラリンピックに行きたいんです。でも、行き方がわかりません!」と話した。すると、面白がってくれた新聞社の方が「この人に会うといい」と声を掛けてくれたという。そこから人から人へとつないでもらい、ついに日本パラリンピック委員会の方にたどり着く。いまでは、リオの選考会などにも公式に参加し、選手たちにネイルをしているそう。「2020年、彼女とパラリンピックに行きます。リオも旅費さえあれば行けるのですが」と笑う。少女は、2020年までに福祉ネイリストになるべく奮闘中だ。

「SMBAが2年目となる今年は福祉ネイリストを150名から300名に増やすのが目標。つい最近、志をひとつに社会貢献する福祉ネイリストを育てるべく、認定校のカリキュラムを厳しく刷新しました。福祉ネイリストのカリキュラムも『ネイリストコース』と『初心者コース』があり、使う教材もどんどん変えています。また、福祉ネイリストの活躍の場を広げるために、介護団体の会合があれば顔を出し、お名刺をたくさんいただいて、地方ごとにつながってもらいます。いまは人と人をつなぐのが私の大事な仕事です」

全国を飛び回り、忙しい日々を送る荒木さん。それでも、最初に紹介した「あなたのためだけにでも来ます。約束します」と伝えた方のところに、いまもネイリストとして通っている。
▲SMBAに併設したネイルサロン。ここのスタッフは、岸和田市のショッピングモールのころからの仲間だ

荒木理事長との出逢いをきっかけに
SMBAの認定校を開校

SMBAの認定校「福祉ネイルサロン&スクールゆずりは」を経営する平栗有紀さんにも話を聞いた。

「小さいころ、祖母の介護を手伝った経験から、大学卒業後は介護医療の専門学校を母体とする企業に就職。介護医療系人材派遣業や、生涯教育事業などの仕事に7年間携わりました。結婚を機に広告業に転職、独立を意識してマーケティングの勉強をしながら独立準備するなかで、『趣味で続けていたネイルを福祉業界で活かせないか?』と考え、ネイルの資格を取得しました。前職で施設営業をしていたこともあり、リハビリに繋がるレクリエーションを取り入れることが多いことを知っていたので、ネイルも介護予防につながるのでは?と思い、そこにビジネスチャンスがあると考えたんです」

平栗さんも「やる!」と決めたら、すぐ行動。個人で出張ネイルと自宅サロンを同時展開し、施設への飛び込み営業から、チラシの配布、地域イベントへの出店、人脈づくりなど、勢力的に営業活動を行った。マンションでプライベートサロンも開店し、企業向けやキッズネイルなどにも活動の幅を広げる中で、一緒に活動できる仲間がほしいと感じていたころ、荒木さんと出逢う。

「異業種交流会をきっかけに荒木理事長と出逢い、同じ志で社団法人を立ち上げて、全国に展開されていて、福祉ネイリストの育成も行っていることに衝撃を受けました。『これで仲間を増やせる!』と認定校を志望したのです」
▲平栗さんは福祉業界や広告業界を経て独立。荒木理事長との出逢いをきかっけにSMBA認定校を設立した

わずか2カ月で生徒は13名に
受講者の仕事サポートにも尽力

SMBAの認定校「福祉ネイル&スクールゆずりは」は2016年4月設立。フェイスブックやブログなどSNSで情報を拡散、2カ月余りで13名の生徒が「福祉ネイリスト」目指してやってきた。

「生徒の方は、新卒から50代まで幅広く、中には福祉業界の方や美容に興味のあるアクティブシニアも。ネイリストで認定校志望の方は荒木理事長につなぎますし、うちで福祉ネイリストとなって認定校を目指すケースもあります。皆さんやる気があって、日々上達されています」

平栗さんは、そんな受講生に活躍の場を作っていきたいと、現在は営業に走り回る日々だ。

「事業をやったことがない人に『福祉ネイリストとして活動を』といっても、すぐにはできません。認定校としてサポートできるよう、希望者には弊社と業務提携して頂き、営業活動や訪問サービスの活動が円滑にいくようサポートするという仕組みを作りたいと考えています」
▲2人の生徒が互いにネイルを施術し合った後、先生による評価、お手本へと続く

「ゆずりは」の生徒が語る
福祉ネイリストの可能性

「ゆずりは」の生徒で、介護福祉士の梶原直美さんにも話を聞いた。以前、「高齢者の方に爪のケアができれば」とネイリストへの門をたたき、JNA3級を取得。その後、「福祉ネイリスト」の存在を知って、SMBAの関西エリア認定校の説明会に参加し、現在は「ゆずりは」で再勉強中だ。

「爪をキレイにする前に、爪の構造や特徴、病気などをしっかりと学ぶことにまず驚きました。私自身は介護福祉士なので知識がありますが、カリキュラムには、介護保険や高齢者、認知症、障がい者についての幅広い内容が組み込まれています」

梶原さんは介護の仕事の中で、福祉ネイリストとして何ができるかを考えているという。

「施設では、利用者の爪を切るのも仕事です。ファイル(爪やすり)を使って爪のケアを行う方が、爪切りよりも安全で、時間も変わりません。この技術は施設と相談して取り入れることができればと思っています。福祉ネイルは、大きな意味で“自発的なリハビリ”だと感じますし、ネイリスト出身ではない私にしかできないことを見つけていきたいですね」
▲取材時は7回中6回目の講習。「来週はテストなのでドキドキです!」と梶原さん。生徒はネイリストや介護業界の人が多いが、なかには初心者もいるそうだ
▲認定校の教材はSMBA教科書やネイルの指南書であるJNA教科書、介護系の教科書など
福祉ネイルを確立し、人と人をつないで全国に広げる活動を行う荒木さん、福祉の仕事経験と趣味のネイルを活かして独立し、認定校として講師業や営業活動を行う平栗さん、施設で働く介護福祉士として福祉ネイルの実践を構想する梶原さん。福祉ネイルは、今後ますます広がりそうだ。福祉ネイルをきっかけに介護や福祉に興味を持つ人も増えていくだろう。
[
文: 高村多見子
写真: 出合コウ介、川谷信太郎
]
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