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介護業界人事部から

2014.08.12 UP

挑戦し続ける組織に人は集まり、人は育つ

挑戦し続ける組織に人は集まり、人は育つ/社会福祉法人 青森社会福祉振興団

■社会福祉法人から、地域の人々の「食」を守る

専務理事であり、「みちのく荘」園長である中山辰巳さんに初めに案内されたのは、むつ市の中心部から車で30分、さらに北上したところにある真空調理工場「みちのく城ヶ沢フードセンター」。今年5月に竣工したばかりの真新しい建物に足を踏み入れ、驚いた。

給食施設のようなものを想像していたが、マスクとヘアキャップ、靴カバーを着用し、エアシャワーを通って内部に入る。まるで食品メーカーの工場のような衛生管理。聞けば、HACCP(ハサップ:危害分析重要管理点)対応型だという。ここまでハイレベルな設備を整えている施設を、私は今まで見たことがない。――何を目的に作られた施設なのですか?

「介護サービスを必要としていない元気な高齢者は多いですが、食事を作るのは負担だし、ましてや身体にいいものなどそう簡単には作れないもの。運営施設だけではなく、むつ市2万世帯の“食”をサポートすることで、よりよい生活を支援していきたいと思っています」
「まずは、特別養護老人ホーム内での提供が中心になりますが、地域の高齢者宅への弁当宅配や、小学校への給食提供も行う予定です。今年中には高齢者向けのお弁当、お総菜を販売する予定です。現在は試験運転中なので1日650食程度の生産量ですが、1日3,000食程度を提供できるだけの生産能力があります。また、青森県は全国一の短命県なので、ワースト記録返上にも役立てればと考えております。さらには、コンビニで“高齢者向け弁当”の販売も視野に入れております」

――地域の食をサポートですか。すごい挑戦ですね! 最近増えている宅配のお弁当とは、どんなところが違うのでしょう?

「真空調理は、ホテルでも導入されている設備で、食材のうま味や香りをそのまま閉じ込めることができる上、栄養素が損なわれることがありません。少量の調味料でも味が浸透するので、塩分や糖分を控えられるというメリットもあります。また、調理後、急速冷蔵しパック時に窒素注入するため、雑菌の繁殖も抑えられ、保管・保存がきくのも特徴です」

「みちのく城ヶ沢フードセンター」責任者の澤田洋子さんにも、話を聞いた。澤田さんは元総務部所属だという。

――立ち上げから関わったということですが、自ら手を挙げたのですか?

「いえいえ、全然。中山園長から呼び出され、『ぜひやってくれないか』と言われたんです。事業の立ち上げ経験はもとより、栄養士の資格も持っていないので、初めは面食らいましたね。でも、中山園長の“地域の食を創る”というビジョンが非常に明確なので、話を伺う中で具体的なイメージが湧き、ビジョンに共感できたんです。私はもともと総務部にいたので、フードセンターが稼働することで、むつ市の方々にもっとみちのく荘を知ってもらい、『仲間になりたい』と思う人が増えるといいなと思っていました。だから、自信はないけれど、とりあえずやってみようと。いったん走り出したら、だんだん使命感が強くなり、やる気に火がついたことが自分でもわかりました。気づいたら、夢中で取り組んでいました」

――無事にフードセンターが完成し、稼働を開始しました。今、どんなことを感じていらっしゃいますか?

「フードセンターの稼働が、人材採用や人材定着に好影響を及ぼしていると実感しています。各施設で朝食を準備するとなると、朝5時には出勤しなければなりません。冬場のむつ市は雪が多く、出勤前に除雪しなければならないこともしばしば。そのため、起床時間はさらに早くなります。でも、フードセンターから真空調理のメニューを提供できるようになったことで、朝は予め配送されたものを温めれば、作りたての味が再現できます。採用のネックになっていた“超早朝出勤”がなくなったことで、人が集まり、定着するようになりましたね」

介護施設としては他に類を見ない新たな挑戦。チャレンジし、業務改善することで、働きやすい職場になり、人が集まる。そして、実現したいビジョンに共感して人が成長し、定着するのだと、澤田さんの話を聞いて感じた。▲「みちのく城ヶ沢フードセンター」内。厳しい基準を自ら設け、ホテル並みの設備を整えた。「地域の食を創る、という中山園長のビジョンに共感し、走り出す過程で、自らの想いも高まっていった」と責任者の澤田さんは語る

■職員の企画コンペで出来上がった、理想のデイサービスセンター

次に案内されたのは、2008年開所の「みちのく金谷総合デイサービスセンター」。フードセンターで作られた食事を、ここでいただくことになった。ホールに入り、まず目を引かれたのは、70インチの巨大モニターに映し出された「本日のランチメニュー」5種。この中から、好きなものを選ぶことができるという。この日のメニューは、チキン南蛮、シーフードカレー、鮭の塩焼き、塩ラーメン、中華丼。どれもおいしそうで、選ぶのに迷ってしまった。

――通常、デイサービスの昼食は1種類ですよね? なぜ5種類も用意しているのですか?
「誰にでも好ききらいはあるし、『今日は○○って気分じゃないな』というときもありますよね。何より、食は人生においての最大の楽しみであるべきで、『今日は何を食べようかな』という選ぶ楽しみを感じてほしい。だからこそうちでは、バラエティに富んだメニューを用意しています。近々、5種類から6種類にメニューを増やす予定ですよ」

迷った末、シーフードカレーをチョイスした。真空調理されたカレーは、魚介のうま味が口の中に広がり、実においしい。レストランで提供されるような味わいだ。

施設の充実ぶりにも、目を奪われた。広いホールの周りを囲むように、カラオケルーム、シアタールーム、麻雀ルーム、料理教室用のキッチンなどが配置されている。なんと、エステサロンまであるのだ。「食事だけでなく、参加いただけるプログラムも、カラオケや麻雀、料理、映画など、豊富なメニューの中からご自分で選択していただけるようにしました。利用者にとってのアミューズメントパークのような存在をめざしています」とのことだ。

ふと麻雀ルームをのぞくと、ロフトが設置されていた。他の部屋も、すべてそうだった。

――このロフトは、何のために設置されているのですか?
「ロフトの上には、災害時のための備蓄品が保存されています。食料品や日用品、紙おむつなども用意しています。これは、2008年の竣工時に、東日本大震災のような大きな災害を想定して造りました。この施設で大勢の利用者様が何日も過ごすことになるかもしれませんからね。あらゆる状況を想定し、ロフト設計を考えたんです」

なお、このデイサービスセンターを建設するにあたっては、企画段階で全職員から参加者を募って3つのプロジェクトチームを作り、チームごとに自分たちが理想とする施設の企画をまとめ、コンペティションで競わせた。各チーム10名、計30名が参加したという。
企画を立てるための視察などに充てる資金は、1チームに付き200万円。どこに行って何を調べても自由、その代わり、建物の図面から収支計画の作成まで、すべてを一から作らなければならない。どんなプログラムを組めば何人の集客が見込め、それにかかる人員は何人、だからこれぐらいの必要経費がかかる…という微細にわたる計画まで考えさせた。
結果的には、3チームの企画のいいとこ取りをすることになり、賞金は山分けになったが、皆が経営者意識を持つ、いいきっかけになったという。視察では、大手ゲーム機器メーカーが運営する施設や高級旅館やレストランなど、一流サービスを体験しに行く者もいたという。

プロジェクトに参加した、事務管理部の折舘謙一さんは、こう語る。
「まったくのゼロからアイデアを出すのは難しい作業でしたが、考えたものがどんどん形になっていく喜びがありました。そのうちに、会話するときの主語が『みちのく荘では…』になる。自然と経営者視点が身につくのです。やる気がある人にはチャンスがあちこちに転がっている、そんな環境がうれしいですね」

未体験のことにも、手を挙げることができ、果敢に挑戦できる。そんな環境の中だからこそ、スタッフ一人ひとりにコスト感覚と徹底的な顧客視点が身につき、経営者意識が備わるのだと感じた。▲食事、プログラム…利用者の「選べる楽しさ」を徹底して追求したデイサービスセンター。利用者が笑顔で集い、語り合っているのが印象的だった。自らコンペティション参加に名乗りを上げた、30人の職員のアイデアが詰まっている

■介護施設の現場にビッグデータの考えを取り入れる

デイサービスセンターに隣接する、特別養護施設も見学させてもらった。
足を踏み入れてすぐに目についたのは、ところどころに設置されたTVカメラ。これで入居者の普段の様子を撮影しているという。

事務所にある70インチのテレビモニターで、録画内容を見せてもらい、驚いた。入居者が転倒するシーンばかりが、ずらりと保存されているのだ。

――なぜカメラを設置し、入居者の様子を記録しているのですか?
「事実をリアルに把握し、有効な手を打つためです。『転倒した』という情報だけを得ても、どんな場所で、どんなふうに転倒したのか把握できないと、対応策は考えられません。入居者様のさまざまなシーンを撮影し、把握し、情報を蓄積して解析することで、より精度の高い対策を考えることが可能になります」

この日、中山園長やさまざまなスタッフの口から特に多く聞かれたのは、「徹底的にお客様視点に立つ」「お客様満足度の向上に向けて改善する」「事実を把握する」「システム化し、無駄を排除する」「お客様満足のための先行投資」という台詞。世の大企業では当たり前のようにいわれていることばかりだが、介護事業者が、スタッフ一丸となって、ここまで徹底的にやり抜いている例を私は知らない。すごい施設に来た、と思った。▲施設内の随所に取り付けられたカメラは、決して監視するためのものではない。入居者の行動を記録し、分析することで、次のサービスに役立てるためなのだ

■30年前は倒産寸前。残高はわずか46万円…

なぜ、ここまでチャレンジできるのだろうか?

「みちのく荘」は今から39年前の1975年、中山園長の父が開所した。当時、中山園長は東京の大学を卒業し、メーカーで汎用機系システムエンジニア職に就いていたが、1984年1月、父から「もう歳なので手伝ってほしい」と青森に呼び戻されたという。

「通帳を見たら、残高が46万円しかないんです。しかも、帳簿を見るとなんと人件費率が90%を超えていました! こんなのとてもやってられない!と東京に逃げ帰りたくなりましたよ。でも、入居者様はいるし、職員もいる。投げ出すわけにはいきませんでした。少しでも経費を削るために、ゴミ袋ですら再利用するありさまでしたよ」

その年の5月、全職員が参加する研修旅行が行われた。毎年恒例のもので、函館にある医療施設を見学することが以前から決まっていたが、「研修旅行」とは名目だけで、その実は単なる観光旅行だったという。
しかしそれが、「みちのく荘」の大きな転機になった。

■思いもよらぬ転機が。改革を決意させた「津軽海峡事件」とは?

「当時はまだ青函トンネル開通前でしたから、青函連絡船に乗り、函館の医療施設に向かいました。初めにざっと施設の説明を受けた後、自由見学の時間があり、1時間後に会議室に戻ってきて皆でディスカッションを行う計画でした。しかし、約束の時間になっても、私と看護主任、医療主任以外、誰も戻って来ないのです。皆、完全に旅行気分で、気が抜けきっていたのでしょうね」

すると、先方女性事務長の雷が落ちた。ダラダラと戻ってくる職員たちに向かって、「戻って来なくて結構。もう帰ってください!」と一蹴したのだ。
「私たちはお客さまのために、1分1秒を惜しんで働いている。利用者様のための貴重な時間を割いているのに、この体たらくは何ごとか!というのです。恥ずかしかったですね。このままではいけない、その後、青函連絡船内で4時間にわたる議論を行い、このままではいけない、私たちは変わらなければ!と皆で決意しました」
このエピソードを、中山園長は“津軽海峡事件”と呼んでいる。この経験がなかったら、今の「みちのく荘」はない、とっくに潰れていると振り返る。

■評判の介護業者に職員を無償派遣し、「まねぶ」を繰り返す

――そこから、改革が始まったのですね。

「そのとおりです。まず着手したのは職員の意識改革。挙げればきりがありませんが、例えば、入浴介助を特定のスタッフが対応するケースが多く、その時間も長いことが気になっていました。そこで、ストップウォッチでひそかに時間を測ったところ、長い人で1時間以上もゆったりと長風呂を楽しんでいたんです。もちろん、勤務時間内に。そこで、それらをすべてデータ化し、リストにして皆にみせました」
「当然反発はありましたが、すべては勤務時間内でのことです。それに、データで示せば納得感がある。それ以降、仕事はQC手法を導入しデータ化するようになりました」

――サービス改革はどのように行ったのですか?

「評判がいい介護施設を調べては、職員を1人1週間『無償派遣』しました。2~3日では単なるお客さんで終わるおそれがあるので、1週間かけてじっくり体験させ、真似すべき点をどんどんうちの施設に取り込みました。例えば、ナイトバス。それまでは、午前中にまとめて入居者様を入浴させていましたが、普通はお風呂は夜に入りますよね? われわれの都合で、無理に午前中に入っていただいていたわけです。確かに、夜に入浴させるのは職員の負担が大きく、帰る時間も遅くなります。でも、職員皆に『このままだと先はない』という共通の危機感があったから、がんばり切れました。よりよいサービスを実践するために、夜中まで議論する日々でしたね」

このように「いい施設を探しては派遣をお願いし、いいところを真似する」を繰り返し、5年間で約30施設に派遣したところ、ついに真似をするところがなくなったという。まさに「まねぶ(=真似て学ぶ)」だ。一歩一歩、少しずつ改善を繰り返した結果、今のようなチャレンジングな組織に変貌したのだ。▲よりよいサービスを追求する一方で、「もらうべき料金」は細かく徴収する。ショートステイのTVはプリペイド式、来所者用のマスクは1枚10円で販売する。各施設に設置されている「お菓子コーナー」も有料販売。これらの細かな「チャレンジ」も、職員に経営者感覚を持ってもらうのに有効なのだ

■24時間見守り訪問介護、介護ICT…みちのく荘のチャレンジは続く

同法人のキーワードは、今も昔も「チャレンジ」だ。今も、将来に向かって大きなチャレンジ計画を実行に移しつつある。

――いろいろなアイデアは、一体どこから生まれるのですか?

「海外視察から刺激を受けることが多いですね。昨年、カナダの訪問介護業者を見学して、衝撃を受けました。単に介護福祉士を派遣するのではなく、利用者の趣味や嗜好に合った人材を選び、派遣していたのです。これぞ究極のマッチングだと思いましたね。そして、このマッチングのために活用されているシステムは、日本企業が開発したものでした。『なぜこんないいシステムを、日本では活用しないのか?』と言われ、返す言葉がありませんでした。われわれはまだまだチャレンジが足りない、利用者様のためにできることはたくさんあるのだと実感させられます。こういう経験が得られるので、海外視察には必ず、これから大きなプロジェクトを任せる予定のスタッフを連れて行きます。井の中の蛙ではなく、視野を広く持ってもらいたいと考えています」

――次は、どんなことを考えているのですか?

「いくつかありますが、まず実現したいのは24時間見守りサービスです。一般企業と協同して、電気の使用量や温感センサーにより日々の行動パターンを分析し、『いつもと異なる動き』が検出されたら、アラームが鳴る仕組み。老老介護がますます増えるとみられますが、これにより、遠方に住む子ども世帯も安心して見守ることができます」
「介護ICT(情報通信技術)も、さらに進めていきたいですね。すでにiPhoneやiPad miniを使い、特養施設の入居者様の日々のデータを記録し、『見える化』を実施しています。例えば、一人ひとりの尿の量を測り、その方の『尿のサイクル』をデータで分析することで、『何時と何時に排尿する確率が高い』とわかるため、始終おむつを気にせずともデータに基づいて効率的なおむつ替えができますし、入居者様も、一番替えてほしいタイミングで、新しいおむつでサッパリ気持ちよくなれるというメリットがあります。このような情報収集・分析を、さまざまな場面で進めていきたいですね」丸一日、さまざまな施設を見学させていただいたが、チャレンジに次ぐチャレンジに、私自身も刺激を受けた。

とはいえ、初めからこの施設がすごかったわけではない。経営危機を経て、「まねぶ」ことから改革をスタートし、そしてそれを繰り返してチャレンジングな組織風土を築いてきた。そんな組織風土に惹かれて人が集まり、そして各々がチャレンジすることで人も組織も成長する。こんなエネルギッシュな環境からは、そうそう人は離れることはない――。外の世界に目を向けて「まねび」、お客さまと従業員のために徹底してチャレンジし続ける姿勢が生む好循環を、この目で見ることができた気がした。

【文: 伊藤理子】

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