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認知症になった母親と娘である関口祐加監督の日々の暮らしを、コメディのような世界観で赤裸々にドキュメントした「毎日がアルツハイマー」。シリアスに描かれることの多い認知症のイメージをガラリと変えた話題作から2年、続編となる「毎日がアルツハイマー2」では、“認知症ケア”をテーマに、一人ひとりに最適なケアを導き出すイギリスの認知症ケア「パーソン・センタード・ケア」(PCC)の考え方が描かれています。映画製作、そして母親の介護を通じて認知症への理解を深めたことで、ケアをする側の危うさにも気付いたという関口監督は、これからの認知症ケアに何が必要だと考えているのでしょう。
プロフィール紹介
日本の大学を卒業後、オーストラリアで映画監督となり、1989年「戦場の女たち」で監督デビュー。ニューギニア戦線を女性の視点から描いた作品は世界中の映画祭で上映され、メルボルン国際映画祭ではグランプリを受賞。その後、アン・リー監督にコメディのセンスを絶賛され、重喜劇を意識した作品をめざすようになる。2010年1月、アルツハイマー型認知症になった母親の介護をしようと決意し、帰国。横浜で母親と二人暮らしをしながら、母親との生活を描いた「毎日がアルツハイマー」「毎日がアルツハイマー2」を発表している。近著に『ボケたっていいじゃない』などがある。

「毎日がアルツハイマー」は
認知症を理解していく私の“クエスト”

画像/「毎日がアルツハイマー2」のワンシーン。左が関口監督の母・ひろこさん
(C)2014 NY GALS FILMS
「毎日がアルツハイマー」(以下、「毎アル」)は、アルツハイマー型認知症になった母を持つ私の“クエスト”です。認知症の「に」の字も知らなかった私が、観客の皆さんと同じ目線で、認知症を理解していく探求だと思っています。

1作目(2012年公開)で試みたのは、つらく、悲惨なイメージで描かれていた認知症を、オープンに語られるようにすることでした。私の得意分野は重喜劇(※)ですから、認知症になった母との暮らしを描くことで、認知症への理解を深めながら、この病気を笑いで包んであげよう、笑い飛ばそうという想いが強くあったんです。

認知症に限らず、人生は思うようにいかないことばかりで、言ってみれば悲劇ですよね。ただ、それはその悲劇的な部分だけをクローズアップして見ているからで、それをちょっと引いてみると案外、喜劇に見えたりする。悲劇と喜劇は表裏一体であることを意識しながら、製作したのが「毎アル」なんです。

※映画監督の今村昌平氏などに代表される、重いテーマを取り上げて喜劇として描くジャンル
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認知症を深く理解するためには
認知症の人の心を理解することが必要

画像/「毎日がアルツハイマー2」のワンシーン。イギリスでPCCのワークショップに参加する関口監督
(C)2014 NY GALS FILMS
1作目の上映後、講演や取材の機会も増えて、さまざまな方から介護の悩みを聞きました。そこから感じたのは、「介護がつらい」ということは、介護をしている側の問題であって、介護をされている側の問題ではないということでした。

これは、映画監督としての私の知恵でもありますが、ピンチはチャンスだと思うんです。例えば、母がガスコンロを付けっぱなしにしてしまう。普通だったら危ないからとガスを止めるだけでしょう。私の場合は、鍋底が熱くなったら自動でガスが止まるガス台に変えて、それを母に使ってもらいました。

ピンチになったとき、どうすればそれを切り抜けられるか。あるプランがダメだったら次のプランというふうにアイデアを出していくことが、認知症ケアでは大切だと思います。実は、人生でもそうなんですよね。

今回の「毎アル2」でイギリスのパーソン・センタード・ケア(以下、PCC)を取り上げたのも、PCCが「認知症の人の人間性や個別の問題を知ることで、カスタマイズされた認知症ケアが初めて可能になる」という考えが素晴らしいと思ったから。

「撮影したい!」「唯一無二のコンセプトであるPCCによる認知症ケアをもっと知りたい!」という欲求が膨らんで、取材先となった認知症ケア・アカデミーには、「毎アル2」の製作が決まる前からメールのやりとりをしていたんですね(笑)。

今回の取材を通して、認知症を深く理解するためには、ハウツーだけではダメだし、脳外科や内科からのアプローチだけでは追いつかないことをつくづく思い知りしました。

順天堂大学の新井平伊先生(※)も仰るように、認知症の人の心を理解することがとても重要なんですね。映画に登場する、精神科医で認知症ケア・アカデミー施設長のヒューゴ・デ・ウァール先生に「どうして日本では心理学や哲学、社会学の研究者が認知症の研究をしないのか」と言われてしまいましたが、これからはそうしたアプローチが日本でも求められてくるのではと思います。

※ 順天堂大学大学院精神・行動科学教授。「毎日がアルツハイマー2」で医学監修を務めている

「自分が相手を助けている」
という感覚がいかに危ういか

画像/「毎日がアルツハイマー2」のワンシーン。認知症ケア・アカデミーのヒューゴ先生にインタビューする関口監督
(C)2014 NY GALS FILMS
「毎アル2」では、認知症のケアをする側の人が、いかに怖い立場にいるかということも言いたかったんです。私の母は1作目のときから症状が進行して、認知症のセカンド・ステージに移行したわけですが、実は認知症ケアが大変になるのはここからなんですね。

なぜなら、ケアをする側の人間が圧倒的に優位な立場に立つからです。私の場合なら、親と子のパワーバランスが崩れて、子どもである私がある意味親の立場になり、“独裁者”の立場になるという理解です。

毒を盛った料理でも、今の母は素直に食べてくれるでしょう。そういう時にこそ虐待が起こる可能性があるといえると思います。そうした私個人の心配も、今回の映画では訴えたいと思いました。

映画の中でヒューゴ先生は、「介護をする人も孤独なのだ」と指摘しています。実は、ケアをする私たちに足りないのは、その認識なのではないでしょうか。

介護をする人にありがちな、「自分が相手を助けている」という感覚がいかに危ういことか。命を預かるということはとても恐ろしいことなんだということを、この映画では喚起したいんです。

自分が無力であることを知り
カミングアウトすることの大切さ

画像/「毎日がアルツハイマー2」のワンシーン。映画ではPCCを実践する施設スタッフの個人的な認知症ケアのエピソードも語られている
(C)2014 NY GALS FILMS
「毎アル」の製作を通じて常々思うのは、ケアをする側の人間が、自分がいかに無力であるかということを知ること、そして、自分ができないということをさらけ出し、カミングアウトすることの大切さです。

介護がつらいという人の中には、自分が何もかも背負い込んでしまい、自分を追い込んでしまう人もいます。でも、できないことを認めることはちっとも恥ずかしくない。そのことをカミングアウトできるかできないかで、つらい介護になるかならないかが大きく変わってくるんです。

いい意味で介護をギブアップして、その先は真のプロフェッショナルに任せようというメッセージを、「毎アル2」には込めているんです。

人の歴史や人間性を理解して
相手の尊厳を最後まで認めること

画像/関口祐加監督
だからこそ、これから求められるのが、介護施設にきちんとした教育を受けたプロフェッショナルがいるかどうかなんですね。

というのも、ショートステイにお願いすると、認知症の症状が進んだ状態で帰ってくることがあるらしいんですね。上げ膳据え膳でお世話することが介護だと思ってる施設が少なくないからでしょう。

もちろん、現場の介護士さんはいつだって大変でしょう。ただ、大変な方向性が違うのでは、と思うんですね。これから団塊の世代が高齢者になって、認知症になったら、学生運動を思い出して“角材”を振り回すことだってあり得るわけです。そんなときに、マニュアルやタスクでしか動けない介護スタッフが対応できるのでしょうか。

これからは、認知症になった人の歴史や人間性を理解して、その人の尊厳を最後まで認められるPCCのような認知症ケアが必要になってくると思います。問題を起こしたからと、単に薬を飲ませて大人しくさせるのではなく、角材を振り回す理由は何なのか、それをさせないためにはどうすればいいのかと、考えられるケアの仕方が求められると思うんです。

イギリスのPCCの専門家が言うように、認知症ケアは高度な技術です。だからこそ、介護士としてたたき上げの経験だけでもダメだし、単に資格を持っていればいいわけでもない。きちんとした理論を勉強することが大切なのだということを、これから介護の世界をめざす若い人たちや、介護の現場で働く人たちにも知ってもらいたい。それが私が切に願うことです。
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★「毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編」
2014年7月19日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開予定
公開期間中の土日祝は、ケアや介護を巡るトークイベントを開催。
また、上映劇場では漫画『ヘルプマン!』とのコラボ企画も実施! 『ヘルプマン!』の複製原画展も開催予定です。
詳細は、映画公式サイト www.maiaru2.com まで

企画・製作・監督・撮影・編集:関口祐加 プロデューサー:山上徹二郎 ライン・プロデューサー:渡辺栄二 AD・撮影・編集助手:武井俊輔 整音:小川武 編集協力:大重裕二 撮影協力:関口先人 医学監修:新井平伊 協賛:第一三共株式会社 製作:NY GALS FILMS 製作協力・配給:シグロ

(内容紹介)
アルツハイマー型認知症になり、本能のままに生きる母・ひろこさんと、娘である関口祐加監督の日々の暮らしを赤裸々に描いた「毎日がアルツハイマー」の公開から2年。ひろこさんの閉じこもり生活に少しずつ変化が表れたころ、関口監督は「パーソン・センタード・ケア」という考え方に出合い、認知症介護の最先端をいくイギリスへ飛ぶ。認知症の人を中心に考え、その人柄、人生、心理状態を探り、一人ひとりに最適なケアを導き出す認知症ケアとは何か―。関口監督が認知症ケアをテーマに、これからの認知症介護を追い求めるドキュメンタリー。
[
文: 成田敏史(verb)
写真: 成田敏史(verb)
]
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