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認知症の高齢者や障がい者など、判断能力が不十分な方々の権利を守るためにできた「成年後見制度」。悪質商法や経済的虐待などから、高齢者を守る切り札として注目を集めています。フリーターから、手話通訳のボランティアをきっかけに司法書士をめざした木原道雄さん。いまでは、成年後見制度の第一人者として講演活動にもひっぱりだこです。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)

成年後見制度とは?

「成年後見制度」は、大きく「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つに分類されます。前者は、本人の判断能力が十分なうちに、判断能力が不十分になったときに備えて、あらかじめ成年後見人となる人を指名しておくもの。後者は、本人の判断能力が不十分になったときに、家族や親族、市町村長などが家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が法定後見制度の候補者名簿の中から成年後見人を指名していくものです。「法定後見制度」には、「後見」「保佐」「補助」の3つの段階があり、本人の判断能力のレベルに応じて家庭裁判所の審判により決定されます。選任された成年後見人は、その段階に応じて、不動産や預貯金などの財産管理や介護サービスや施設への入所に関する契約の締結、遺産分割の協議を行います。最近では、判断能力が不十分な認知症の高齢者や障がい者を狙った悪質商法から守るためにも、成年後見制度が注目されています。
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誰だって幸せになる権利がある!

高校を卒業後、東京の大学へ進学。法律の勉強をしていましたが、卒業後はスーパーでのアルバイト経験を活かして小売店に就職しようと思っていました。しかし、当時は就職氷河期。思うように就職が決まらず、松山に戻ってアルバイトをしながら将来を模索していました。松山に戻った時、大学時代に手話の経験があったので、松山市総合福祉センターに行き、そこの手話サークルに顔を出したら、「それなら手話通訳者に登録してみれば?」と。そこで、勧められるまま、その当時の登録をするための検定試験を受け、手話通訳者として活動をするようになりました。

病院や裁判所内で活動するなかで「この人は聞こえないから言っても無駄。ほっといていいよ」と、聴覚障がい者がなおざりにされているのを目の当たりにし、「聴覚に障がいがあるからといって、幸せに生きる権利を反故にされてもいいのか?」と強い憤りを抱くようになりました。その他、知的障がい者などにも関わりを持ち始めたちょうどそのころ、成年後見制度が施行されることを知り、「これなら通訳以外にもサポートできることが増えるんじゃないか」と、司法書士資格を取得しようと一念発起したんです。

悪徳商法からおばあさんを救え

初めて後見人制度と深く関わったのは、司法書士事務所を開業して半年後の2004年9月のこと。認知症のおばあさんのお宅に通っているホームヘルパーから、地域の社会福祉協議会(以下、社協)に「どうやら悪質商法の被害に遭っているらしい」と報告があり、すぐに社協から私に相談がありました。調べてみると、様々な業者がとっかえひっかえ商品を買わせる「次々販売」の被害に遭っていることが判明。

実際に訪問してみると、健康食品の段ボールが何十箱も積み上げられ、怪しい商品が山のようになっており、数社からは代金の支払いを求める督促状(とくそくじょう)が来ている状態。

財産を差し押さえられてしまう恐れがあったため、社協から親族に連絡をとってもらい、すぐに後見人の申し立てを行い、この時は、前から関わっていた社会福祉士さんが後見人となり、契約の取消権を行使したり、示談交渉や訴訟などをしたりして何とか事なきを得ました。その後、社協を通じて悪質商法被害に遭っている高齢者や障がい者からの後見依頼が急増。

問題の根深さを痛感し、こうした被害が拡大しないよう、ろう学校や介護事業所などで悪質商法についての講習会を行っています。

入院費の滞納で経済的虐待が発覚

2006年4月には「高齢者虐待防止法」が施行され、それまでの悪質商法対策に加え、「経済的虐待の防止」の観点から、成年後見制度が利用されることが増えました。経済的虐待とは、例えば高齢の親の預貯金や年金を子どもが勝手に使うなどして、親が十分なケアが受けられないケースなどを言います。

脳梗塞で倒れたある高齢の男性の場合、病院が入院費の支払いをその男性の長男に依頼したところ、その長男が親の資産を使い込んでいたことが発覚。さらに、税金も滞納しており、介護サービスも受けられない状態で、困った病院側から相談を受けました。しかし、後見をするには、家族もしくは親族からの申し立てが必要なのですが、唯一の親族が当の長男のみ。そこで法に基づき市長から申し立ててもらうように何度も依頼。ようやく申し立てが行われたのは、事態が発覚してから2年も経てからでした。

その間にも滞納金はますます膨らみ、もはや一刻の猶予もありません。すぐに長男と世帯を分離し、財産を調査し、未申請だった生命保険の手続きをすぐに行って、その保険金で滞納していた入院費や税金をすべて払いました。介護サービスも申し込めるようになり、今では十分なケアを受けられるようになりました。

地域やケア・スタッフとの連携がカギ

前述のケースでは、病院からの相談で問題が発覚しましたが、在宅で介護されている方が、同居する家族に経済的虐待を受けている場合、発見が非常に困難です。いかに早期に発見するかが課題となる中、解決の糸口になるのは、私は地域の包括支援センターや社協などとの連携以外にない、と考えています。

地域包括支援センターには、それぞれ保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーの専門3職種がおり、介護事業所などの福祉のプロたちとの連携をとっています。彼らは常に利用者のそばに寄り添い、小さな変化にも注意を払っています。普段から成年後見制度の勉強会や悪質商法対策の講習会などで面識を作り、連携をとっていれば、万が一、利用者の異常を感じたホームヘルパーや、ケアマネジャーから情報があがってきた包括支援センターや社協から相談を受けた場合にもすぐに私に相談が来て、早期に対処できるようになるのです。

「この目で現場を確かめる」のが鉄則

私が後見をする際、モットーとしているのが「必ずお宅まで足を運ぶこと」。

直接本人やご家族にお会いすることで、生活環境や家族関係などを肌で感じ、後見方針を決定する際の判断材料にします。また、ホームヘルパーやケアマネジャーなど、本人のケアにかかわる方たちとのサービス担当者会議(カンファレンス)にも積極的に参加。カンファレンスに加わることで、後見の方針や注意事項などをケア・チームのメンバーに共有してもらうことができます。

その一方で、本人に寄り添う介護のプロの方々と一緒に、介護サービスのプランや方針を一緒に考えることで意思疎通、意識共有を図れば、チームが一丸となってスムーズな後見活動ができるようになるのです。

独居老人の葬儀で、後見人の意義を痛感

まだ、私が司法書士になりたてのころ、独り暮らしの高齢者の後見人を引き受けたときのこと。成年後見の申し立てが完了した直後、その方が突然亡くなられてしまいました。その方は金銭関係のもつれから家族と絶縁状態だっため、私と当時事務所を手伝っていた妹、出入りしていたホームヘルパーの数人で、葬儀を執り行いました。家族が誰もいない寂しい葬儀で、胸が締め付けられる思いがしました。

よく、「後見人さえつけば何とかなる」と言われることがあるのですが、経済的虐待を受けていた方の預貯金の管理や世帯分離を行ったからといって、その方が幸せになるとは限りません。

だからこそ、後見人は預貯金の管理だけでなく、家族関係の修復にまで想いを巡らせながら、「この人に心からの笑顔を取り戻してもらうにはどうすればいいか」を見据えた後見を行うことが大切なのです。

成年後見制度をメジャーにしたい

リーガルサポートに登録している司法書士は全体の25%程の5143名(注A)。65歳以上の高齢者数が2901万人(注B)なので、数としては圧倒的に少ないのが現状です。

しかし、この制度を有効活用すれば、認知症の方や障がい者などの「基本的人権」を守ることができます。実際に、身体的・経済的に虐待されていた方が、後見制度を通じて保護され、十分なケアを受けて徐々に回復されたり、金銭面でこじれた家族関係が元に戻ったりするのを見ると、「この仕事をやってよかった」と強く思います。現在、超高齢者社会を迎え、成年後見制度の重要性はますます高まっています。

まずは、この制度を普及させるため、広く一般の方の認知を高めたい。そしてこの制度の意義を知ってもらうことで、人権擁護に真剣に取り組む人材が増え、救いを求める声にすぐに手を差し伸べられるような体制を作ることが、今の私の夢。成年後見制度について、高校や専門学校、司法書士試験の合格者向けの研修で講義活動を行うのもその第一歩です。

将来、「木原さんの講義を受けて成年後見制度をやるようになりました!」という人が現れるのを、心待ちにしています。

(注A) 社団法人成年後見センター・リーガルサポート2010年6月19日時点の登録数
(注B) 内閣府「平成22年版 高齢社会白書」より(2010年5月14日発表)
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文: 高山 淳
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