ヘルプマン
ボーカル・ユニット「FreeFace」のメンバーとして、広島を拠点にイベントやメディアなどで活躍するKeNこと木原健太さん。音楽活動の一方、ホームヘルパーとしての顔も持っています。ミュージシャンは、歌を届けることで聴く人を元気にし、誰かが聴いてくれているということで輝ける。それは介護職も同じと、思いを語ってくれました。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)
プロフィール紹介
ボーカルユニット「FreeFace」メンバー。2006年広島フラワーフェスティバル「歌のコンテスト」でグランプリ受賞。広島インディーズの祭典INDIKET HIROSHIMAで06、08、09、10で人気投票第1位を獲得。2010年ファーストアルバム「ADVANCE」を全国リリース

きっかけは祖父母への恩返し

音楽が大好きで、小学生の頃には歌を仕事にしたいとはっきり意識していました。中学に上がると、本格的にオーディションを受け始め、中高時代は、広島はもちろん東京のオーディションまで、受けまくっていましたね。けれど、そう簡単にデビューできるわけもなく・・・。

高校を卒業する直前になって「さあ、卒業して何をしよう?」と。 そんな時、改めて過去を振り返ってみると、自分の家はもともと9人の大家族で、子どもの時はひいおじいちゃんに面倒 を見てもらっていました。ふと、そのことを思い出し、今後お年寄りも増えていくと言われているし、自分がおじいちゃん、おばあちゃんにしてもらっ た恩を少しでも返すことができたらいいなと思ったのです。

大学にいくつもりで入学金も払っていたのですが、介護の仕事がどんなものなのか、まずは勉強してみようと専門学校へ進むことにしました。
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介護は未知の世界

僕にとってもともと介護は未知の世界。
子育てもしたことがないし、他人の排泄ケアまでするなんて想像がつきませんでした。
「臭いんだろうなぁ・・・」とか、そういうイメージくらい(笑)。

まして、ホー ムヘルパーであれば、料理を作ったり、家の掃除をしたり、家族以外の人に対して何ができるんだろうか。他人の家の中で、自分がちゃんと存在していられるのだろうかと不安に思ったこともあります。

けれど、専門学校で勉強をしていく日々の中で徐々に「自分はこの仕事に向いている」と 思えるようになりました。もともと人と関わることが好きだったし、認知症もケア(関わり方)ひとつで状態が安定していくのを目のあたりにして、これは掘り下げていくほど面白味がある分野に違いないと思うようになったのです。

カルチャーショック

その一方で、少しずつ疑問も生じていました。

実習に行った施設で、食事の時に職員の方がご飯の上におかずもデザートも全部乗っけて、それをかき混ぜてスプーンでお年寄りの口に運んで いたのです。


僕なら絶対、別々のスプーンで食べたい。


「何で、そんなことするんですか?」と尋ねたら、「時間がないから仕方がない」と。
ショックでした。

学校で習ったことと、現場で起きていることは全然違うじゃんって・・・。職員の方も本当はもっと丁寧にしてあげたいけどできな い、仕方ないんだっていう葛藤を感じました。

施設では、高齢者一人ひとりのペースではなく、職員のペースになってしまうのは仕方がないことなのか、僕のやりたい介護はこういうことなんだろうかとずいぶん悩みました。

感激したホームヘルパー実習

そんなとき、ホームヘルプの実習に出ることになったのですが、同行してくださったへルパーさんとご利用者さんの関わり方にすっかり感激してしまったのです。時間にゆとりがあって、その人のペースにあわせて一 緒にいることができる。普段それほど話をしないご家族も、ヘルパーが入ることで会話のキャッチボールができる。表情をあまり出さないご利用者さんが笑ってくれる。

「この仕事いいな!」と思いましたね。

「季節ごとに、この家の庭にどんな花が咲くのか、この木にはどんな花が咲いて、実がなるのかということを知っておくと利用者さんと話ができるから、頭にいれておくといいよ」
その時、ヘルパーさんが教えてくれたことですが、 当時の実習報告日誌にびっしり季節と花の名前を書き込んだほど、僕にとって印象的な経験でした。

利用者さんに育ててもらう仕事

就職では迷わず、ホームヘルパーを選びました。男性のホームヘルパーはまだまだ少数派です。
「同級生の中で唯一、僕だけがヘルパーの職に・・・。仕事があるのかな?」と思いましたが、ご利用者さんに本当に本当に恵まれ、可愛がってもらっています。

中でも、初めて担当させていただいた方は、小学校の先生を何十年もやってこられ、保護司もされており、若い子を育てるのが得意分野。「どこのお宅に伺っても恥ずかしくないように、私が全部教えてあげるけぇ」と、掃除の仕方、食材の調理方法や味付け、掛け軸の掛け方まで、ヘルパーとしての基礎を全て教えてくださいました。もうお亡くなりになりましたが、僕にとっての大恩人です。

よく言われることですが、高齢者の方は人生の大先輩。サポートをするのは僕たちの仕事ですが、その代わりに“人生勉強”をさせてもらっているのです。

じっくり向き合うのが自分流

現在、サービスに伺わせていただいているお宅は、行き始めて、かれこれ5〜6年になります。
日曜日以外毎日、朝から伺って夕方まで、食事介助や入浴介助、天気のいい日は外出の付き添いにとほぼ一日を一緒に過ごさせてもらっています。

ほとんどの訪問介護事業所のヘルパーさんたちは1日にあちこちと何軒ものお宅を訪問すると思いますが、僕のこのスタイルはかなりご利用者さんと関わり度が深いと思います。外出に付き添うと「息子さん?」といつも家族と間違われます(笑)。ご利用者さんの主治医も、今では僕に一番丁寧に病状を説明してくれます。

部屋には、僕ら「FreeFace」の写真をいっぱい貼ってくれていて、車椅子に乗りライヴも応援しに来てくれるんです。
実は、僕は会社をいくつか変わっているのですが、変わるたびにずっと僕を指名し続けてくれています。以前の会社では支店長も経験したのですが、僕はご利用者さんとじっくり向き合うスタイルが合っているので、当分はこのまま現場で頑張っていきたいですね。

FreeFace結成。そしてCD発売

ホームヘルパーとして働き始めてからも諦めることなく、歌のオーディションを受け続けていました。あるオーディションを受ける日の前夜、カラオケBOXで練習をしていたら、こっそり部屋の外で僕の歌を聞いていた見知らぬ人が、「自分の友達と一緒に歌ってみないか?」と言ってきたのです。ビックリしました。

そうして出会ったのが、「FreeFace」の相方TOM。
それから、二人で路上ライヴをやるようになり、オリジナル曲で挑んだ2006年の「広島フラワーフェスティバル 歌のコンテスト」 でグランプリを頂きました。

今は、音楽の仕事とヘルパーの仕事、どちらにも迷惑をかけないようにスケジュールを調整しながらやっています。以前、ヘルパーの仕事を休んで音楽活動のために1年間東京で生活したこともありますが、ご利用者さんをはじめ、応援してくれるみんながいてくれたからこそできたことです。ありがたいですね。

介護と音楽のコラボレーション

新曲の「hands」は、介護の経験を通して感じたことを詞にしました。
誰にでも共通して言えると思うのですけど、“人は、いつも人に支えられて生きている。一人じゃないんだよ”というメッセージ性の強い楽曲です。聴いてくださる皆さんの心が温かく、逞しくなることを願い、書きました。

これは、自閉症の男の子とお母さんの姿から着想を得て書いた曲なのですが、喜怒哀楽の表情がほとんどない男の子が、お母さんの姿を見るなりお母さんのもとへ走り出しお母さんの“手”を掴んだ。お母さんの手を掴んだ小さな手から溢れる想い。その光景が印象的で「hands」というタイトルに決めました。

TOMは割と恋愛にまつわる歌詞を書くことが多いですが、僕が書く詞は応援歌が多いですね。「自分を信じて頑張ってみたらいつかいい日が来るよ!今はつらいかもしれないけど、自分を信じてみてもいいんじゃな い?」って。僕自身にも投げかけています。歌を唄う以上、誰かが見てくれ、聴いてくれている=支えてくれているという想いを込めて書いています。

僕は、歌を通して、介護を通じて、周りの人に心も身体も元気になってほしいんだと思います。
今は、僕らの歌を、県外の人にももっともっと聴いてもらうことが目標です。

ありのままのその人を丸ごと受け止める

ありのままのご利用者さん、ご利用者さんを支えるご家族。人間の営みをみて、感じ、受け入れ、受け止める。ご利用者さんが残りの人生をどう選択されるか、これからの人生という旅をどう歩もうかと考え悩まれる時、決断される時。ご利用者さんを囲むご家族の想いを引き出し、“家族”という絆が今よりももっと深まっていくには・・・?と試行錯誤しながら、多彩な心と向き合い寄り添うことができる仕事。僕は、それが介護だと思います。今の日本を創り上げた高齢者の皆さんのお世話をするのは、僕らの役目。ご利用者さんに必要とされれば僕も頑張れるし、輝ける。
逆に、ご利用者さんを僕が必要とすることでご利用者さんが輝く。何度もそういう場面を経験しました。

その点で音楽の仕事と介護の仕事は共通点があると思います。
いい歌で聴く人に元気になってもらえたらうれしいし、歌い手も、歌を聴いてくれる人たちに必要とされれば輝きが増します。
歌を聴いてくれる人の生き生きした表情に、僕は今まで何度も励まされてきました。

介護と音楽はそういう職業だと思います。僕は看護の仕事と比べても、介護の仕事の専門性って負けないと思うのです。
看護は病気の部分を診る、介護はありのままのその人を丸ごとみる。信頼関係が築けた時のやりがいや、よろこんでもらえた時のうれしさは何ものにも代えがたいものがあると思っています。

木原さんからのメッセージ

全く介護(福祉)の分野を知らない人にとっては、難しく考えてしまったり、不安な気持ちを抱いたりするかもしれません。人と関わる仕事は勇気もいると思います。けど、新たなチャレンジだと思い挑戦してみてください。素晴しく、楽しい仕事だと思いますよ!

FreeFace 公式サイト…
http://www.so-crossroad.co.jp/FreeFaceOfficialWebSite/FreeFacePCtop.htm

Free Face Official Blog…
http://ameblo.jp/ff-2voice/
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文: 鹿庭 由紀子
写真: 山田 彰一
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