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行政・自治体の取組

2023.02.21 UP

滋賀県の介護をもっと身近に! 西川貴教さんがエールを送る! Vチューバ―とのコラボ動画が10万回再生を超える! 若年層に向けた介護のしごと魅力発信プロジェクト「しがけあ」(滋賀県)

全国的に高齢化が進み、介護サービスの需要が高まる中、介護現場では人材の確保が重要な課題となっている。滋賀県では2025年に約3,200人、2040年には約10,500人の介護職員が不足すると見込まれている(2021年介護人材需給推計)。2021年度の滋賀県における介護関係の有効求人倍率は2.82倍となっており、ここ数年厳しい状況は変わっていない。こうした中で滋賀県では、2021年度より若者層を対象とした「しがけあ」プロジェクトを本格スタート。滋賀県健康医療福祉部 医療福祉推進課の今井武義さんに、詳しいお話を伺った。

介護を“他人事”と思わせないために大切にした3つのこと

――「しがけあ」プロジェクトを立ち上げたきっかけや理由をお教えください
「これからの介護現場の中核になっていくべき若者の介護業界への関心が低い」との声を県内の介護業界からいただいたのがきっかけで、若年層に向けて介護の仕事の魅力を発信する取り組みがもっと必要であると認識しました。これまでも滋賀県介護職員人材育成・確保対策連絡協議会を基盤に、人材確保策として人材育成や定着支援に取り組んで来たところですが、その手前にあるイメージアップにも特化して取り組むために検討を始めました。
まずは、介護業界やその関係者、行政が一緒になって取り組むための検討の場として「滋賀県介護の魅力等発信部会」を設けました。部会のメンバーとして、老人福祉施設協議会、介護老人保健施設協会、介護サービス事業者協議会連合会、介護福祉士会、社会福祉士会、介護支援専門員連絡協議会、介護福祉士養成施設協会、福祉人材センターに参画いただきました。このように介護業界の関係者が、介護の仕事のイメージアップや魅力発信にスポットを当てて一堂に会して検討するのは、滋賀県ではこの部会が初めてでした。
また、介護業界は介護のプロですが、広報のプロではありませんから、広報の学識者である龍谷大学の築地准教授にも参画いただきました。

――部会ではどのようなことを話し合われましたか。
初期には、「情報発信」・「広報」とは何をすることなのかについて、築地准教授から学ぶ機会を作りました。例えば、人材確保のための「宣伝広告」と魅力発信のための「広報」は分けて考えた方が良いということを教えていただきました。そしてその学びをもとに、プロジェクト全体の方向性は「信頼を得ることやイメージ向上のための広報」に決まりました。また、個々の団体を宣伝するための活動ではなく、介護業界全体を盛り上げようと、メンバーの想いがまとまりました。

▲滋賀県介護の魅力等発信部会において「広報」と「宣伝広告」に区分けして整理したもの

――若年層向けということで、大学生もプロジェクトに関わっているようですね。どのように巻き込みましたか。
部会のメンバーである介護福祉士養成施設から学生を紹介いただきました。その学生たちには、介護の仕事の魅力を発信するということよりも、介護について学んでいく中で、身近な人に向けて感想を発信してもらうような形にしました。それが、「しがけあ学生プロジェクト」です。

▲びわこ学院大学短期大学部1・2年生がメンバーとなって実施される企画。「しがけあフェスタ(後述)」などの運営にも関わる。

そのほかにも、本県広報課では、若者が県政への関心を高めるため「青少年広報レンジャー」という学生参加型の広報活動を行っており、その学生にも部会で意見交換していただきました。福祉学科以外の学生である彼らには、業界の外からの目線で、介護の仕事のイメージについて語っていただいたところ、良いイメージや悪いイメージがあるわけではなく、そもそもイメージがないとの意見があり、その後の取り組みの参考になりました。

――そのほかに、本プロジェクトに関わった方はいらっしゃいますか。
このプロジェクトの発信は、その道のプロである広告会社に包括的にお願いしました。専門的なノウハウが必要なところはしっかりと委託業者に任せ、その能力を最大限発揮していただくことを大切にする一方で、ただ委託業務としてこちらが要望したことだけを実施するのではなく、チームの一員として部会にも加わっていただき、ミッションを自分事と捉えて取り組んでいただけるようにしました。

――「しがけあ」のメインターゲットとその対象者へ向けた工夫点をお教えください。
2021年度に実施した若年層向けのアンケートでは、介護や介護の仕事が社会に必要であると認識しているものの、自分には縁遠いものと考えていることがうかがえました。そこで、ターゲットである若い方々に、介護は他人事であると思わせないことが必要であると考え、そのために以下の3点を大切にしました。

1.自分の生活と関係があることを意識していただく
2.従来の介護とは異なるプロモーション展開をする
3.ターゲットの周辺においても話題になる雰囲気を醸成する

この方針を踏まえた実際の取組や活動の総称を「しがけあプロジェクト」と名付け、他人事と認識していた介護を身近な存在と認識していただけるよう、誰もが関われるものとしました。

――「しがけあ」の広報手法として具体的に行ったことを教えてください。
●特設WEBサイトの制作・運営
●広告・情報発信(オンライン・オフライン)
・YouTube動画の制作・投稿(Vチューバ―とのコラボ動画、有名人のインタビュー動画)
・インスタグラムへの介護施設の写真投稿
・WEB広告の運用(SmartNews・Googleバナー広告・YouTube広告・Instagram広告)
・滋賀県内の駅(JR琵琶湖線や湖西線など34駅)にポスターを掲示
・イベント「しがけあフェスタ」の開催  など。

取り組んだことについて、特に4つご紹介します。

1つ目に「しがけあ」WEBサイトの制作です。1年目である2021年度は、休みの日などのプライベートも伝え、介護職員としての生活をイメージできるようなインタビュー記事を掲載しました。生き生きとプライベートも両立して楽しく働く20~30代の方を取材することで、同じような年代が夢に向かって頑張る姿に共感を生むことができるのではないかと考えたからです。

▲「しがけあ」のトップ(https://shigacare.fukushi.shiga.jp/)。若年層に響くようなワード選定やデザインなどは広告会社から提案してもらった。

2つ目にYouTube動画の作成です。若年層に人気のVチューバ―とコラボをした2つのYouTube動画を作成。両動画ともに10万回再生を超えたほか、介護の仕事に関するプラスのコメントをいただくこともできました。この取り組みが一番反響が大きかったですね。

▲滋賀県在住の有名Vtuber「ぽこピー」とのコラボレーション動画(https://youtu.be/n_stecOX6Bc

3つ目にInstagramの運用です。こちらも若年層に人気の「カメラガールズ」という女性向けのカメラサークルとコラボレーションをし、滋賀県に在住するカメラガールズが介護施設の様子を写真撮影し、投稿する形式でInstagramを運用しました。中には、9万リーチを超えた投稿もあり、多くの方に介護施設を知っていただくきっかけとなりました。

▲しがけあガールズのInstagramトップ画面(2023年1月時点)https://www.instagram.com/shigacare_girls/

▼9万リーチを超えた投稿

4つ目にイベント「しがけあフェスタ」の開催です。対面によるコミュニケーションによって、介護の仕事への関心度が上がるのではないかという仮説のもと、イベントを実施しようと計画。介護のイベントという名目で公的な場所で行っても集客が難しいため、イオンモールなどの商業施設で映画上映やクイズ大会、ラジオ収録などを実施して盛り上げました。
2年目は、介護業界から発信するばかりではなく、自分の生活の周辺の方からも発信していただくことを目的に、いろんな方を巻き込むことも行いました。その一環として、滋賀県出身の西川貴教さんに取材をお願いしました。介護従事者の皆様に向けてもエールとなるような内容にしたいと思い、「Thanksエール」というタイトルにして、西川貴教さんが介護の仕事をされている方との関わりや想いについてYouTube動画内で語っていただきました。


また、同じように滋賀県の未来を考えている地元のバスケットボールチーム「滋賀レイクス」の選手にも動画取材をして、サイトをさらに盛り上げたほか、「しがけあフェスタ」もパワーアップ。12月に実施し、縁日やビンゴ大会などの催しを「しがけあ学生プロジェクト」に企画・運営をお願いしました。

――本魅力発信の取り組みから人材確保につなげていくために考えていらっしゃることはありますか。
一番の課題でもありますが、「しがけあ」の取り組みを通じて介護業界や介護の仕事への関心が高まったところに、滋賀県介護・福祉人材センターをはじめ民間の職業紹介事業者も含めて、その宣伝広告力で人材確保につなげていきたいという狙いや期待はあります。そういう意味で、就職支援のプロのその力が発揮されるような環境を築いていけるようにしたいと思っています。

――2021年度から始まった「しがけあ」プロジェクトについて、これまでを振り返り、どう感じていらっしゃいますか。
新聞や雑誌でも取り上げていただいたり、SNSやYouTubeにおいて視聴者からのコメントもたくさんいただくなど、とても好評だったと思います。介護現場のありのままを見せる・見ていただくことは、とても勇気がいることでしたし、受け入れられないのではないかと不安もありましたが、思い切って発信して良かったと思っています。
また、各団体がバラバラにやってきた流れから、一丸となって取り組んでいこうという流れに繋がったこともよかったですし、介護業界に携わる人が自分たちの仕事の魅力を改めて感じる機会にもなっているのではないかと思っています。今後の課題として、どのように人材確保につなげていくかを検討するうえでも、1年目と同様に2年目の取り組みについて、効果を測定する必要があると思っています。

――今後検討されている取り組みは何ですか?
ケアを受ける側のご利用者も関わるような企画があってもいいなと思っています。というのも、学生と会話をする中で「介護職員がケアを行っている結果として、ご利用者の生活や気持ちがどう変化して、どう過ごしているのかという意味で、ご利用者の様子を見てみたい」ということを聞いたからです。
そして、改めて介護業界内での認知やさらなる盛り上がりが必要だと部会でも声が上がっており、介護業界がより主体的に取り組んで行けるよう、部会で検討しているところです。介護の仕事の魅力を再確認・発信を行うことで、ターゲットとなる若年層からの好反応があり、さらにもっと知ってほしいと魅力発信をする。そしてまた好反応が生まれる、という好循環を介護業界内につくっていきたいです。

――今井様、ご紹介いただきありがとうございました。

【文: HELPMAN JAPAN 写真: 滋賀県】

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