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福祉人材確保の問題に行政がより深い一歩を踏み出しました。それが、京都府が取り組む、“きょうと福祉人材育成認証制度”です。これは、府内の福祉事業者を対象に、人材育成の仕組みや働きがいと働きやすさが両立する制度などが整備されているかを確認した上で、府が「認証」を付与するもの。この制度の狙いは2つあります。一つは、若い人材が“安心して働ける職場”であることを見える化すること、もう一つは、認証の獲得を通して事業者のレベルアップと福祉業界全体のボトムアップを目指すこと。取り組みの背景には、福祉業界における慢性的な人手不足があります。将来を見据え、行政としていち早く業界の課題に先鞭をつけた、京都府健康福祉部の取り組みについて話を聞きました。
プロフィール紹介
“京都府介護・福祉人材確保総合事業”を担当する、京都府健康福祉部介護・地域福祉課のメンバー。左から事業全体を総括する藤田育さん、京都府北部地域の人材確保に力を注ぐ瀧本尚子さん、“きょうと福祉人材育成認証制度”を推進する後藤順子さん。就職フェアなど福祉の仕事の魅力発信を担当する堀雅清さん。藤田さんは、「この試みを京都のスタンダードではなく、日本のスタンダードにしていきたい」と話す

福祉業界の課題を整理したとき、
働く環境の改善に行き着いた

若い人材が安心して働ける職場であることを認証する“きょうと福祉人材育成認証制度”。その立ち上げに関わった京都府の後藤順子さんに話を聞いた。

「認証制度の狙いは働く環境が整っている事業者を特定することではありません。より多くの若者に福祉業界への興味を持ってほしいと考え、学生が福祉業界にどんなイメージを持っているか調査したところ、『特別な資格がないと就職できない』『給与などの待遇面が不安』『定着率が悪い』『将来的なキャリアが見えない』など、働く環境への不安の声があがってきました。この課題を解決するには、単にイメージアップを図るだけでは難しい。福祉事業者の職場環境を改善し、それを見える化することが必要だ、と」

福祉業界に若手人材を集めるために、業界そのものの底上げが必要だと考えた京都府。それが、なぜ“認証制度”として昇華されたのだろうか。

「まさに、そこです。認証制度の特徴は、認証を目指すと宣言した事業者が無償でさまざまなサポートを受けられること。人事制度の整備や教育研修プログラムの作成など、事業者の内部だけでは解決しにくい課題を行政が一緒になって解決する。そうすることで事業者のレベルアップと福祉業界全体のボトムアップを行うことが大きな狙いのひとつなのです」
▲“きょうと福祉人材育成認証制度”を紹介するパンフレット。認証マークキャラクターは「ここまる」。人材育成制度やキャリアパスなど17項目の認証基準について具体的なガイドラインを示す、より詳しい冊子も用意されている
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コンサルタント、人材系企業…
行政以外のプロも巻き込んで

認証制度は、立ち上げのプロセスにも工夫があった。後藤さんは続ける。
「認証制度自体のあり方について、認定基準や事業者へのサポート内容を決める際に、府の職員だけで閉じず外部も巻き込み進めていきました。学識経験者や大学関係者などで構成する会議での検討はもちろん、人材系の企業や福祉系コンサルタントなど、多彩なプロからリアルな意見やアイデアを集めたことで骨格の確かな制度になったと思います」

ちなみに認証の基準となるのは、人材育成プログラムが充実しているか、キャリアプランが明確か、休暇取得や労働時間縮減の取り組みをしているか、上記が施設内で周知されているかといった観点だ。

「大切にしたのは、学生が就職先を選ぶときに、他業界と比べて遜色のない職場環境なのか? という点。そして、認証の際には実際に事業者を訪ね、この条件がクリアされた上で若手はどんな働き方をしているかなども確認して認証に至っています」

制度の立ち上げから関わり福祉事業者へのコンサルティングを行う、エイデル研究所の小林雄二郎さんにも話を聞いた。「コンサルティングと一口に言っても、一つひとつの事業者を回ることは時間的にも不可能。そこで研修体系や評価制度などの作成は集合研修の形で行う。会場は京都市内だけでなく人材不足の課題の大きい北部地区でも設定する。課題の大きな事業所については個別訪問をするなど、サポートの仕方も細かく決めていきました」
▲エイデル研究所の小林雄二郎さん(中央)。事業者への制度の周知や、大学でのセミナー開催など、認証制度の推進活動を中心に行うパソナの小島有貴さん(右)。「立ち上げ時から関わり、認証制度への思い入れは大きい。そう思えるのも、後藤さんをはじめ府の皆さんがいるから。何かあって連絡すると、どんな遅い時間でも答えてくれる。そんな姿勢が現場で動く私たちの支えになっています」と口をそろえる
▲京都府福祉人材育成認証事業推進会議の座長として、きょうと福祉人材育成認証制度の制度設計から関わる山田尋志さん。「府が外部団体に委託せず、自前でやることに強い熱意を感じる。仕組みを構築し、雇用の安定、人材育成、組織を見える化すること。これらを京都府が発信し、全国的なモデルにしていければいい」と話す

▪️福祉事業者の声▪️
認証制度にトライし、職場の改善に成功

認証に向けさまざまなサポートを受けた事業者のひとつ、社会福祉法人京都眞生福祉会の堀井慎二さんにも話を聞いた。「制度が発表されたときから、チャンスだと思いました。うちは当時、設立したばかりで、とにかくいろいろなノウハウが欲しいとき。認証を目標にしてしっかりした職場環境をつくろうと決意したんです」

その中で最も難しかったのは、新人研修プログラムの構築だったという。「当施設は、一般的な介護だけでなく自分たちで大切にしているこだわりがある。それを何も知らない新人にどう教えるのか? と当初は不安だらけでした。でも、コンサルタントの方に話を聞きながら、自分たちの価値観や仕事内容を棚卸ししていき、納得のいく研修プログラムが完成。結果的に、組織が目指す介護の姿も明確になり、自信につながったと思います」
▲今回、認証を取得した、社会福祉法人京都眞生福祉会の堀井慎二さんと社会福祉法人マイクロ福祉会の水口泰貴さん。「認証制度への挑戦をきっかけに施設のレベルが上がり、人材育成の環境や自らの組織の強みが見えたことがメリット」と水口さんも口をそろえる

府民のためにできることを、すべてやる。
京都府のDNAが、福祉を変えていく

認証制度を通して施設の“働く環境”がよくなり、事業者同士の連携も高まりつつある京都府。そんな制度のこれからを、再び後藤さんに聞いた。

「認証制度が目指すのは安心して働くための基盤づくりです。すぐには無理でも京都府内のすべての福祉事業者がこの基準をクリアすることを目標にしたいです。ちなみに現在、認証を目指すと宣言した事業者は400を数え、うち133がすでに認証をクリアしていますね。これによって、就職先としての認知度が上がることが第一歩。そして、その先はトップアップを目指す“上位認証”をつくっていきたいのですが、まだ中身については検討中です」。

福祉業界における人材不足は京都府に限った課題ではない。にもかかわらず、ここまで行政が踏み込めた理由はなんなのか。「京都府は、知事の考え方もあり、新しいことにチャレンジしようという気質があります。以前と同じことを繰り返していても評価されない。どれだけ府民に役立つことを見つけ取り組むかが大切。そんな風土の中で育ってきたせいか、こうした問題に行政が踏み込むことに迷いはなかったですね。また、京都は大学が多く学生の数も多い。大学で京都を選んだ学生に、就職先として京都の福祉業界を選択肢のひとつにしてほしい、という思いもありました」。

最後に、介護ロボットの投入や海外労働者など介護を支える新たな戦力が見えてくる中、あえて「人」にこだわる理由を聞いた。「福祉の世界はこれから激変が予想されます。いまの労働力の代替手段も幾つもあります。でも、その中核に、しっかり福祉の意義を理解した人材が必要。そう考えたとき、いまのうちに若い人材を確保しておくことが大切、と考えたのです」。他の行政が手をこまぬく中、一歩進んで福祉事業者の職場環境の問題に一石を投じた京都府。ここから、新しい業界の変え方が見えてくる。
▲制度の運営に関わる4人は、福祉のこれからに熱い思いを抱くチーム。「京都府は、枠組みにとらわれず、どんどん新しいチャレンジを奨励してくれる。だから、自分たちももっとトライしなければ!」そんな強い意志を4人それぞれの言葉で語ってくれたことが印象的

▪️連携を深める福祉事業者▪️
施設の壁を越えて、学生向けイベントが誕生

認証制度をきっかけに福祉事業者同士が連携を取り合い、業界全体をよくしようという動きも出てきた。そのひとつが、“魅力発信プロジェクト”だ。これは、施設の壁を越えた有志が集い、福祉の魅力を言語化し学生に向けて発信していくもの。プロジェクトで活躍する若手スタッフ、老人保健施設 いわやの里の富永健資さんに話を聞いた。

「プロジェクトに参加して、日ごろの業務から離れて、福祉の仕事の価値を見直すことの大切さを感じました。福祉職場で働く人の多くが、日々の業務に追われて、“仕事の意義”という目線で考える機会がない。あらためて施設で話し合ってみて、自分たちの仕事の素晴らしさに気付き誇りを感じました」

こうした活動の中から学生向けのイベントも完成させた。「福祉の仕事で味わえる感動体験を伝えたいと、“人と接することで得られた感動体験”を発表するイベントを企画。大学に交渉してイベント会場を借り、チラシを作成し広報するなど、普段とは違う活動を行ったこともよい経験になりました。福祉のやりがいって何? と聞かれてうまく語れなかった僕たちが、自分から外に発信を始めたことは業界にとっても大きな一歩だと感じています」
▲“魅力発信プロジェクト”の中心となって活動した、富永健資さん。「府が中心になって福祉に関わる事業者を横軸でつないでくれているので、僕たちはそのネットワークを生かし、自らの力でさらに活動の幅を広げていこうと模索しています」
▲“魅力発信プロジェクト”の立ち上げに携わり、大学との連携プロジェクトも2年間務めた社会福祉法人南山城学園の岩田貞昭さんは「まだ福祉の魅力を自ら発信できていないことが課題。そこを若い人たちが積極的に取り組んで、新たな発信の方法を発見してほしい」と話す
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文: 戸部二実
写真: 中村泰介
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