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2014年11月より、全国で順次公開の映画「0.5ミリ」は、安藤桃子監督が自身の実体験をきっかけに書き下ろした同名小説の映画化です。物語は、介護ヘルパーの主人公・サワが、ある事件をきっかけに無一文となり、ワケありのお年寄りを見つけては“おしかけヘルパー”をするという破天荒な人情ドラマ。サワの天真爛漫な振る舞いに、社会や家族の中で居場所をなくしていたお年寄りたちが徐々に心を開いていく光景は、「介護」という言葉では言い表すことのできない、ひとつのコミュニケーションのカタチが描かれているといえます。創作の背景には、高齢者をないがしろにする社会に対する怒りがあったと語る安藤監督。映画にどんな想いを込めたのか。そして、安藤監督が思い描くこれからの介護の姿とは?
プロフィール紹介
1982年生まれ。高校時代よりイギリスに留学し、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。その後、ニューヨーク大学で映画作りを学び、監督助手として映画界に入る。2010年4月、監督・脚本を務めたデビュー作「カケラ」が、ロンドンのICA(インスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アート)と東京で同時公開。多数の海外映画祭に出品され、国内外で高い評価を得る。2011年、初の書き下ろし長編小説『0.5ミリ』(幻冬舎)を刊行。2014年11月より、同作を自ら監督した映画「0.5ミリ」が全国公開中。監督業のほか、NHKEテレの福祉番組「ハートネットTV」にも出演している。

在宅介護の実体験から
「0.5ミリ」は生まれた

画像/映画「0.5ミリ」のワンシーン。主人公のサワは予期せぬ大事件に巻き込まれ、“おしかけヘルパー”として生活していくことになる
(c)2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS
「0.5ミリ」は、私の実体験がきっかけで生まれた物語です。小さいころから私の面倒を見てくれていた大好きな祖母が、脳腫瘍がきっかけで寝たきりになり、認知症も発症してました。家族と一緒に8年間、在宅介護する中で、人は生まれてきたら必ず死ぬという、生き物全てに共通する最大の矛盾を強く感じたんです。

認知症が家族にとって世間に隠したいものであったり、敬意を持って接してもらっていいはずのお年寄りが見放されるような、介護に対する疑問、社会に対する怒りもありました。

祖母の介護を始めるまでは、介護は遠い世界のことでした。でも、介護や死って、実は突然やってくるもので、「いつまでも元気でポックリ逝きたい」と言っていても、思い通りにならないことがほとんどですよね。それが良い悪いということではなく、単純に、生まれたときから良い死に方の準備が始まっていると思ったんです。

みんな子どもが産まれる話はしたがるのに、どうして介護の話は避けてしまいがちなのか。死というゴールに誰もが向かっているのなら、早い段階からいろんなことを考えた方が得なのか。祖母の介護を通して私の中に生まれたたくさんのQuestionを、映画「0.5ミリ」を見てくれた人が共有してくださることで、自発的に考えるきっかけになればと思っています。
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主人公・サワを通して描いた
心の距離の取り方

画像/映画のワンシーン。本作はほぼ全て、安藤監督が移住した高知県でロケが行われた
(c)2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS
「『0.5ミリ』は介護映画か?」と言われたら、私は違うと答えます。介護でも戦争でもいじめでも、ひと言で「○○」とくくることは、安易に一般化しているだけだと感じるからです。

認知症にしても、私はできることなら「認知症」と言いたくない。別の星の人、もしくはワンダーランドの人々。ひとつ視点を変えるだけで、本当はどこにもマイノリティの人なんて存在しない。「認知症にはなりたくない」と思い込んでしまいがちな世の中だけど、実際に認知症の人と接してみると、彼らには彼らのルールがあるだけで、「認知症にならない生き方が幸せ」という価値観にとらわれていた自分の方がおかしいとさえ感じました。

だからこそ、主人公のサワちゃん(安藤サクラ)と老人の関係を描くときも、その間にあるものが「介護」だとはあえて説明したくなかった。サワちゃんは破天荒な「おしかけヘルパー」に見えるかもしれないけれど、彼女の行動は「介護」というひと言でくくられるものではなくて、いまの世の中で必要とされているコミュニケーション、世代が違う人同士の心の距離の取り方だと思うんです。

一人ひとりのお年寄りの思いを
私たちは受け継がなくてはならない

画像/映画のワンシーン。津川雅彦をはじめ、織本順吉、坂田利夫、井上竜夫ら錚々たる面子が、クセのある老人を演じている
(c)2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS
実際の介護施設にも、何度も足を運びました。老人ホームには、さまざまな人生を歩んできたお年寄りが集まっていますよね。社長だった人もいれば、茂(坂田利夫)のように修理工だった人もいる。特に、元海軍の方から直接聞いた戦争体験は強烈で、そこから生まれたキャラクターが義男先生(津川雅彦)です。

その方の中には戦争に対する後悔の念と愛国心がいまだに矛盾したまま残っていて、平和を心から願っているけれど、心の中でどう整理したらいいのかわからないという迷いを延々と繰り返していた。

そういうお年寄りの思いを、家族だけで語り継ぐのではなく、しっかりと私たちみんなが受け継いでいかなければならない。先にお話ししたように、「戦争は悲しい出来事だよね」とひと言で片付けるのではなく、そこにはさまざまな人の人生や喜怒哀楽が詰まっていることを知ることが大切だと思います。

「0.5ミリ」を通じて見つけた
「子どもと老人」という糸口

画像/映画のワンシーン。認知症を発症した義男先生の妻を演じるのは草笛光子
(c)2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS
「0.5ミリ」では、ヘルパーと老人という関係だけではなく、男女の関係も描いています。年を取ったおじいちゃんを「キュート」と思うこともあるかもしれないけど、おじいちゃんである前に男だし、人間のきれいな部分も汚い部分も全て併せ持っている。だから介護は複雑で難しいけれど、裏を返せばとてもシンプルなことがテーマかもしれないと、いまは感じているんです。

その糸口が「子どもと老人」。昔から日本人は両者を大切にしてきましたよね。生の入り口に一番近いのが子ども、死の入り口に一番近いのが老人で、子どもと老人は神様に一番近い存在として敬われてきた。彼らを大切にするから、その間で生きている私たちが豊かに暮らせるというふうに。

いまはその両者が一番ないがしろにされていて、私たちでさえ、効率のためだけに働かされて、お金を稼がないと生きられないと刷り込まれています。でも、日本人が戦争や震災から復興した強い精神を持っていることも確かです。だからこそ、未来を担う子どもに、さまざまな体験をしてきたお年寄りが知恵を与える機会を増やすことが必要だと思うんです。

子どもとお年寄りが関わる
コミュニティが増えてほしい

いまの社会のシステムで見直していくべきだと思うことはたくさんあります。介護する人に対するケアももっと手厚くしてほしい。教育現場についても同じことがいえると思います。個性豊かな子どもたちを、本来なら一人ひとりケアしないといけないけれど、そんなことを言っていられない状況じゃないですか。

そういう意味では、私が移住した高知県は進んでいる土地だと思います。みんな平気で見ず知らずの人に声をかけますし、「こうでなければならない」という価値観の押し付けがない。日本なのに異国というか、ロンドンやニューヨークに住んでいたときと同じような感覚でコミュニケーションが取れるんです。

だから、子どもとお年寄りは「関わるもの」で、誰かが子どもを産むと言ったらみんなが張り切って、みんなで子どもを育て、お年寄りを見守るようなコミュニティも自然と残っている。いろいろな意味で未来に向けての価値観の方向性を、「そのとおり!」と肯定し、背中を押してくれた土地でした。

人は誰もが「必要とされる」ことを欲するけれど、いま一番「必要とされることを必要としている」のはお年寄りです。保育園と老人ホームを併設している施設が出てきましたが、そんなふうに、子どもと老人が関われる、日本人がもともと持っていたコミュニティが復活、そして増えてくればいいなと思っています。
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★「0.5ミリ」 
2014年11月8日(土)より全国ロードショー中

原作・監督・脚本:安藤桃子 出演:安藤サクラ 柄本明 坂田利夫 草笛光子 津川雅彦 主題歌:「残照」寺尾紗穂 配給:彩プロ 製作:ゼロ・ピクチュアズ リアルプロダクツ ユマニテ

(内容)
介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は、派遣先の家族から、冥土の土産におじいちゃんと一晩過ごしてほしいという依頼を受ける。しかしその当日、予期せぬ大事件に巻き込まれたサワは、家も金も仕事も全てを失い、人生の崖っぷちに立たされる。生活のため、ワケありの老人を見つけては“おしかけヘルパー”を買って出るサワ。彼女の天真爛漫な振る舞いは、不器用さゆえに社会や家族の中で居場所をなくしていた老人たちの心を開いていく―。

デビュー作「カケラ」で注目を浴びた安藤桃子監督の最新作で、自身の介護体験から着想を得て書き下ろした同名小説の映画化。主演は監督の実妹・安藤サクラ。クセのある老人たちを、津川雅彦、織本順吉、坂田利夫、井上竜夫ら錚々たる面子が演じ、味わい深い演技を見せている。ちなみに同作は、ほぼ全編にわたり高知ロケで撮影された。
[
文: 成田敏史(verb)
写真: 高橋定敬
]
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