ヘルプマン
寝たきりや治療の難しい慢性期の患者が、確実に増加していく超高齢社会。富家病院は以前からこの慢性期医療に特化し、積極的に患者を受け入れてきました。その富家病院が経営する、高度な医療と患者のアメニティの両立をめざした、慢性期患者のための住まいが「メディカルホーム」です。一人ひとりの患者の人生の物語に寄り添う“ナラティブアプローチ”で、身体と心のケアに取り組む富家隆樹(ふけ たかき)理事長に、お話を伺いました。
プロフィール紹介
帝京大学医学部卒業。同大学第二外科入局。その後アメリカセントルイスメルビル大学大学院経営修士課程留学を経て、1999年に富家病院院長に就任。「されたい医療、されたい看護、されたい介護」を理念とし、医療、看護、介護の融合をめざし、重度慢性期患者の受け入れを積極的に行う「慢性期病院」をつくり上げた。日本慢性期医療協会常任理事など多くの団体の理事や幹事などを務める。

写真やノートで紡ぐスタッフと患者の物語

富家グループの病院や療養施設には、月に数回、プロのカメラマンがやって来ます。入院中の患者さんがお孫さんと笑っている顔や、リハビリ中の真剣な顔など、日常の一コマ一コマを切り取り、そのときのエピソードとともにアルバムに残していきます。

その一部は「物語の階段」として、施設の階段の壁に額に入れて飾っており、家族や職員が通るたびに眺められるようにしています。患者さんの枕元にはノートが置かれていて、そこには病院や施設のスタッフ、美容師さん、お掃除のスタッフなどが自由に書き込めるようになっています。

このアルバムもノートも、富家病院がめざす「ナラティブホスピタル」としての取り組みの例。「ナラティブ」は「物語の」という意味ですが、患者さんの人生をひとつの物語として捉え、これまでの患者さんの人生を知り、私たちもその物語の一部となって、新たな章を一緒に紡いでいこうという思いで、日々、患者さんと向き合っています。
患者さんの生き生きとした笑顔の写真が並ぶ「物語の階段」
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ナラティブで正のスパイラルへ

私たちがナラティブホスピタルをめざした理由のひとつは、スタッフ一人ひとりに優しい気持ちのスイッチを入れてもらい、患者さんの生活に寄り添う看護や介護を実践してもらうため。

中には意思を通わせることが難しい方もいらっしゃいますが、「たとえこの人がしゃべれなくても、動けなくても、関わる私たちによってこの人の人生が変わる。この人とともに物語が進んでいく」と思えば、より前向きに看護や介護に向かうことができます。

ポジティブな気持ちがご家族にも伝わると、お互いの気持ちが和らいで、いいスパイラルに入っていくことができます。患者さんが退院したときや亡くなったときには、アルバムやノートをご家族に手渡していますが、それを眺めながら涙を流すご家族や、スタッフに感謝の思いを伝えてくれるご家族の姿があり、最期までいい時間を過ごしていただけたことを実感します。
日々のエピソードが綴られたナラティブノート

慢性期医療のスペシャリストとして

富家グループはかねてから、慢性期の患者さんを対象としたケアを中心に行ってきました。一般に医療は急性期、回復期、慢性期などに分かれます。例えば急性期の医療は、ケガをしたらケガを治す、骨が折れたら骨をくっつける、癌になったら癌を治療するというものです。

脳の血管が詰まってしまう脳梗塞の場合、急性期で手術をして一命を取り留め、回復期を経た後も、手足がマヒするなどの障がいが残るケースが少なくありません。このように重症な患者さんであっても、命をつなぎ、尊厳を保ちながら生活していくためにあるのが、慢性期の医療です。

慢性期で重症の場合、他の病院では看てもらうことが難しく、ようやくここに辿りついたという方もいます。私はそんな方にも最高の医療、看護、介護を受けていただきたいと考えています。だからこそ、富家グループでは医療というツールを最大限活用した「高度先進慢性期医療」と看護・介護の融合で、患者さんの機能維持・回復をめざします。同時に、ナラティブアプローチで、看取りの瞬間まで、安心して過ごせる環境を提供しているのです。

生活環境を優先した“メディカルホーム”

慢性期医療に取り組む中で課題に感じていたことが、病院のアメニティです。よく病院の食事はまずいといわれますが、その理由は病院では医療や看護が先にあって、そこに療養(生活)環境が付け足されているから。そう感じていた矢先に出合ったのが「メディカル」と「マンション」を合わせた「メディション」というコンセプトでした。療養環境が先にあって、そこに医療を合わせていく施設のことで、「寄り添う医療」とは、まさにこれだと思いました。

法改正で医療法人による高齢者向け賃貸住宅の運営が可能となり、2009年に「メディカルホームふじみ野」を開設しました。ここでは施設っぽさを極力排除して、デザイナーズマンションかホテルのような、アジアンテイストを基調とした落ち着いた空間づくりをめざしました。

ダイニングルームのテーブルは2人用にして自由に席が選べるようにし、食器もメラミンやプラスチックの味気ないものではなく、家庭にあるような磁器にしました。割れやすく手間がかかりますが、ひょっとするとそれが最期のごはんになるかもしれないのに、子どもが食べるような食器では悲しいでしょう? 普通のマンションのように自治会もあって、コンビニの訪問販売の導入や、ホームで飼っている猫を増やすことも自治会で決めるなど、施設と入居者が一体でより住みやすい環境をめざしています。
自治会で飼うことが決まったクッキー(白)とキャンディー(茶色)
アジアンテイストで落ち着いた雰囲気のダイニングルーム

地域の慢性期医療の
セーフティネットをつくる

「メディカルホームふじみ野」の入居費用は、「要介護度が高い人でも、必要な介護サービスを受けながら、安心して生活できるようにしたい」という思いから、要介護度が上がるにつれて安くなる仕組みになっています。より重度な人を受け入れやすくし、病院とも患者情報を共有することで、慢性期医療のセーフティネットのひとつとして機能することができます。

富家グループは病院や老人ホーム、メディカルホーム(サービス付き高齢者向け住宅)、在宅支援に至るまで、地域の慢性期の患者さん向けに多様な選択肢を提供してきました。しかし、急増する地域の高齢者を支えるには、私たちの力だけでは自ずと限界があります。そこで私たちが中心となって立ち上げたのが「地域リハケアネットワーク」。

地域の事業者が連携するために、まずは「顔の見えるネットワーク」をつくることを目的に、勉強会の開催や情報を共有できるWebサイトの立ち上げに取り組みました。2007年から始まって勉強会はすでに7年目を迎え、2013年も医療機関や介護事業所、福祉用具や住環境整備、訪問理美容まで、約300名の関係者が交流を深め、介護サービスの連携を図っています。
地域リハケアネットワークの勉強会。漫画家のくさか里樹さんを迎えて

看護のアバターではなく、主役としての介護

「メディカルホームふじみ野」やグループの特別養護老人ホーム「大井苑」(※)では、多くの介護スタッフが、医療や看護と連携し、ご利用者の物語に関わるナラティブアプローチを実践しています。

介護はまだ歴史の浅い職業ですが、その人の人格や背景を理解し、認知症の方や重度の患者さんの生活全般を支える高度な専門職。看護職のアバター(分身)ではなく、介護という分野のアーティストです。医療は医療、介護は介護という名の専門分野で、それぞれ自分の分野に誇りを持って臨むべきです。

報酬についても、介護士や介護福祉士はそのスキルに応じて、将来は正看護師と同等の給料がもらえる給与体系にしたいと考えています。その施設のサービスの質は、看護ではなく、介護レベルで決まります。介護職の皆さんには、ぜひ専門職としての、自信と誇りを持って突き進んでほしいですね。

※2013年度の介護甲子園(日本介護協会が主催)で優勝。従業員や利用者の満足度向上をテーマに、全国の介護事業者が想いや取り組みを発表する大会。2013年度は11月17日に第3回の決勝大会が行われ、大井苑が最優秀事業所に決定した。
富家グループでは職員のスキルの向上のため、学会参加や院内・院外研修など、多様な研修を、職員が積極的に受講できるようにしている。
[
文: 高山淳
写真: 松田康司
]
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