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女子必読の書『おひとりさまの老後』著者であり、「おひとりさま」代表の上野千鶴子さん。介護をめざす若者には、「起業なさい!」と熱いメッセージを送ります。さらに、目前に迫った超高齢社会を生き抜くヒントとして「就職は一生ものではない」「会社人、家庭人、社会人という3つの役割」「収入源は複数持つ」という3つのポイントを教えてくれました。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)
プロフィール紹介
女性学、ジェンダー研究のパイオニアにして、ベストセラー『おひとりさまの老後』(法研)の著者。上野社会学の集大成となる『ケアの社会学』(太田出版)では、超高齢社会を生き抜く「共助の思想と実践」について説いた。一方、20代の若手社会学者古市憲寿氏との共著『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』(光文社新書)では世代を超えて議論を展開する。

見えにくくなった「死」と「介護」

若者が介護に興味がないのはあたりまえのことです。
だってまだ自分の老後のことなんて考えられないでしょう。

私も20代の頃は、30代になることさえ夢にも思わなかったし、30代以上の大人など信用ならないと思っていましたから。

幸か不幸か日本は今、超高齢社会に突入しました。でも、老いがあたり前になったのに、死や介護は逆に見えにくくなってしまった。病院や施設に送ってしまえばそれっきり。これまで家族の介護は嫁や妻がその役割を担ってきましたが、調査によると主たる家族介護者が1人決まると他の家族は手も足も出さなくなる傾向があります。だから介護者は家族の中でも孤立し、悩みを抱えてしまいます。

これまでの女性は、「こんな辛いことは自分一人でたくさん」と夫はもとより、子どもや孫を介護に引きずり込まないできましたが、とくに男性のみなさんには年寄りの介護に息子や孫として参加してもらいたい。自分と同性の親が目の前で衰えていくのを見て、どんな老い方をしていくのかを、自分の目と手で、しかと確かめる貴重な機会を失ってはなりません。
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私が「ケアの研究」をはじめた理由

近年、私がケアの分野に研究の主題を移していったのは、2000年の介護保険制度のスタートがきっかけです。それまで「介護労働」は、家事や育児同様、家の中の女性が担う、見えない労働、感謝されない、評価されない、賃金をもらえない「不払い労働」でした。これが介護保険によって「見える労働」になり、社会的にも評価され、お金になる時代が来ました。

育児も、介護も、看護も、障害者介助も、食事、排泄、入浴といった生活の基本に関わるケアですが、そのなかでもまっ先に介護が仕事として認められたのは、世の中の中間層の人々が家族介護負担を少しでも減らして重荷をおろしたかったからです。日本のそうした転換期と、私自身の加齢、女性の不払い労働の問題が一致したことがきっかけとなり、私にとってケアの研究に進むことは必然性がありました。これまで介護の研究の多くは、サービスを提供する側からの視点で行われてきましたが、私は利用者側の視点に立ち、「よい介護とは」何かを追究しています。

「おひとりさまの老後」では、高齢者のシングルライフのノウハウを紹介しましたが、家族のない人だけでなく、家族のある人もいずれおひとりさまになるので、結果的に私の研究は、みなさんの役に立つということになりました。

介護は明らかな成長産業です

介護職の現状を見ると、給与水準やキャリアステップなどで課題があるのは事実ですが、一方で介護業界ほど成長が期待できる産業はありません。まず、介護の人材については、資格があるのに生かしていない休眠人材が充分にいます。

多くの若者が社会に貢献したいと思っていますし、介護現場に行けば、他人の役に立ちたい、自分らしさを活かして人と接したいという若者がたくさんいます。
日本の若者が自己中心になって、年寄りを顧みないという意味での人材崩壊は少しも起きていません。

だから介護の人材崩壊とは、労働条件が悪すぎることからくる人為的な人手不足なのです。

もう一つは、日本経済が国際競争の波に呑まれ、製造業が停滞する中にあっても、介護は明らかに成長産業だということ。
人口学的に見てもマーケットは拡大していますし、ただボリュームが大きいというだけでなく、要介護者たちが購買力を持っており、高齢者から若者へと資源移転が起きるチャンスがある。

言葉は悪いですが「年寄りはカネになる」ということです。
若者が活躍できる場としての素地が、介護業界には充分にあると思います。

介護を目指す若者たちよ、起業なさい

介護職を目指す若者たちには「起業せよ」と私は言いたい。
介護事業の中でも比較的参入障壁の低いのが小規模多機能型居宅介護施設。

これは日本型とでもいうべき業態で、ニーズもあるし、成長しています。
初期投資も少額で済みます。私が成功事例として取り上げている小規模多機能型施設では、大卒男子が働いていいて、30代で年収はおよそ300~400万円台が標準です。

少ないと思うかもしれませんが、共働きなら年収600万円で、しかも安定雇用です。
土地建物も借り上げ方式ならリスクがありません。

『ケアの社会学』で紹介した「このゆびとーまれ」という小規模多機能のパイオニアはNPOですが、代表の年収は840万円。しっかり税金も払っていて、収益事業となっています。

ベンチャービジネスの創業者だと思えば、これだけの報酬を受けとってもふしぎはないでしょう。
業態はどんな形であれ、私は介護のメニューが増え、プロバイダーも増えて、どんどん健全な競争をしてもらいたいと思っています。

ヘルパーさんを指名できる訪問介護!?

私が理事長をしているWANもNPOですが、NPOというのは基本的にお金にならない。だからこれにお金になる事業を組み合わせないと持続可能性がありません。介護保険制度で持続可能な事業の基盤を作ると同時に、自己負担型の介護サービスをプラスしていくのも一つの方法。

例えば代表が30代で訪問介護を始めた三鷹のある介護ベンチャーの場合、ヘルパーに指名制を導入しています。私は以前からヘルパーさんに評判のいい人と悪い人、あるいは相性の善し悪しがあるのは当然だから、指名制を導入して指名料を取るべきだと言っていました。

ここではヘルパーのリストがあって、顔写真つきで「整体師の資格があります」「ヨガのインストラクターの経験があります」といったキャリアが添えられています。指名料は通常プラン+2割増で、若い女性障害者がイケメンを指名する場合もあるとか。そんなふうにこの業界はニッチ産業として、色々とアイデアを活かせる余地がいくらでもあるのです。

利用者にとって「よいケア」とは何だろう?

利用者の立場に立った場合、「よいケア」とは何かというのは、重要なテーマです。介護を受ける側として選ぶべき基準は「集団ケアよりも個別ケア」「施設ケアよりも在宅ケア」「雑居ケアよりも個室ケア」。いわば個人の事情に応じたカスタム・メイドの個別ケアが「よいケア」だというのが私の持論です。

正直、私個人は要介護になってもデイサービスなんて行きたくない。
なんで年寄りが集まって同じことをしなくちゃならないのか。やはり在宅ケアが理想です。

今、厚生労働省が舵を切りつつある方向の一つが、24時間型の「定期巡回・随時対応サービス」。高齢者住宅との組み合わせで一回当たり15分の滞留時間で、24時間の巡回介護を行います。これならひとり暮らしでも安心でしょう。それから小規模多機能包括契約定額制という制度もつくりました。通い、泊まり、在宅、看取りまで24時間切れめなくケアを提供するというしくみです。

これならひとりでいることもできるし、他人と過ごしてもいいし、不安なら泊ることもできます。選択肢が広がることが必要です。

介護保険は世界に誇るべき日本の制度

先日、デンマークに視察に出かけた際、現地の20代のヘルパーさんと同じ制服を着て、在宅介護を体験して来ました。
施設も在宅も見て来ましたが、このレベルのケアなら日本にだってあると感じました。ないのは施設の広さと介護につぎ込める国の予算ですが、ケアの質だけは負けないと確信しました。

他の福祉先進国を見ると日本のほかに介護保険制度があるのはドイツ。
ただし、ドイツと日本の違いは三つあり、まず日本型は税金と保険の折衷型で高齢者の負担が軽減されていること、二つめは給付水準が日本の方が断トツに高いこと、三つめが日本では家族給付がないこと。家族給付は家族が自前で介護をするとおカネが支給される制度。日本では大議論があったのですが、これは制度化しなくて正解でした。

反対の理由は家族給付を行うことで保険主体である自治体がサービス供給の責任をさぼるのと、家族に支給しても実際には家庭内は密室で何が起きているかわからないからです。そういう意味でも日本の介護保険制度は先進的ですし、”Uniquely Japanese”つまり他のどこにもない、世界に誇るべき制度だと思います。

家族にできない介護こそ、プロの介護

世界に誇れる介護を行っているのだから、私は介護職のみなさんにプロとしてのプライドを高く持ってほしい。本当にすばらしい介護サービスを実践しているワーカーの方たちがよく「家族のような介護で」と話すのを聞くたび、私は「家族も及ばぬ介護をやっているあなたたちが、そんなプライドのないことでいいのか」と思います。

日本では家族介護が最も望ましい介護と思われていますが、それは結局、家族介護を望んで手に入れることができなかったかわいそうなお年寄りに、他人が代用品を提供するという発想です。

代用品はしょせん二流品ですよ。
絶対に家族には勝てないのだから。

家族にできない介護こそ、プロの介護。介護の現場においてはプロが大事だし、絶対に必要です。

超高齢社会を生き抜くための
「三つの処方箋」

最後に若者のみなさんに、この超高齢社会を生き抜くためのヒントをお話しましょう。

その1。「就職は一生ものと思うな」。どんな大企業に入ろうとその会社が定年まであると思うな。あるいは定年まで自分が同じ場所にいると思うな。組織と心中するな、です。

その2。「会社人、家庭人、社会人という3つのバランスを、どんな年齢の時にもうまく取ること」。昔ながらの「地縁・血縁」、学校とか会社の「社縁」、自分でコミュニティを選ぶ「選択縁」(と私は呼んでいますが)、その3つのバランスがあるほうがよい。女性も子育てをしながら仕事をし、NPOの会員など地域での顔も持っている方がいいと思います。

その3。「マルチプル・インカムでリスク分散」です。今は個人でも家庭でも収入源を一つに絞って、大黒柱一本で生きていく時代じゃありません。ダブルインカムどころかトリプルインカム、マルチインカムでないと。貪欲に小銭をかき集めて、どれかがダメになってもリスク分散できるように、収入源をキープしておきましょう。

もっともっと自由な発想で

介護職の面白いところは、人に使われるには資格が要るが、人を使うには資格が要らないこと。
だから経営者になってしまえば資格は必要ないし、チャンスも広がります。

前述のNPOの例にもあるように、介護保険内事業だけでなく保険外事業を多角化して「マルチプル・インカムでリスク分散」すればいいんです。

例えば私の知っているある社会福祉法人は他にNPOと株式会社を運営していて、3種類の法人を上手に使い分けています。社会福祉法人としては特別養護老人ホームでユニットケアや、デイサービスを提供、株式会社としては富裕層向けに個室型の有料老人ホームを経営するなど、多角的に展開しています。

若手起業家ではNPOで小規模多機能型居宅介護施設を運営しながら、ほかにリサイクルショップやコミュニティカフェなどを経営している人もいます。意欲と能力とアイデアさえあれば、可能性に満ちているのが介護業界。ニーズは至る所にころがっています。

おひとりさまは若者の自由な発想に期待しています。
[
文: 高山 淳
写真: 山田 彰一
]
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