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ヘルプマン

2013.09.27 UP

お笑いも介護もNPOも。 “笑い”という魔法の薬を届けたい

“笑って長生き”をテーマに活動するのが、介護福祉芸人メイミさんです。都内のデイサービスで介護福祉士として働きながら、ピン芸人として舞台に立ち、NPO法人笑顔工場として介護施設をまわり笑いを届けています。介護もお笑いも共通しているのは、その方が生き生きと楽しく過ごすために何かを提供することと話すメイミさんの活動を聞きました。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)

高齢者向けのお笑いを
目指しフリーの道へ

大手の芸能プロダクションで新人お笑い芸人として活動していたのですが、もっと活動の幅を広げたいと思い始めたのが7年前。さて何をしよう?と考えていた時、知人に頼まれて老人ホームでパフォーマンスをしたことを思い出したのです。観客のおじいちゃんおばあちゃんがネタにつっこみを入れてくるなど、いつものライブではあり得ないハプニングの連続。それがむしろ、会場にいるみんなでその場の雰囲気を作っているという一体感につながってすごく盛り上がったんです。それで、高齢者向けのお笑いで新しい道を切り開いていくのも面白いかもしれないと、フリーで活動をはじめました。

さっそく地元のボランティアセンターで「高齢者施設でお笑いをやりたい」とボランティアに登録。同時に、高齢者にはどんなネタが受けるのか、高齢者のことを知りたいとヘルパーのスクールに通い、ホームヘルパー2級の資格を取得しました。

それ以来、週3日デイサービスで働きながら、ピン芸人として舞台に立ち、「笑顔工場」として高齢者に“笑い”を届ける活動を続けています。

笑いで高齢者に元気を届ける
NPO笑顔工場の活動

NPO笑顔工場では、「笑いは副作用のない魔法の薬」をキャッチコピーに、高齢者向けにパフォーマンスを行っています。高齢者施設はもちろん、時には地元の銭湯などでシニアのお客さん向けにライブをすることも。高齢者施設では、約1時間のパフォーマンスのなかで、おしゃべりとぱっと見て楽しめるマジックやバルーンアートなどを組み合わせてショーを盛り上げます。私の持ちネタは、「コスプレ早着替えショー」。音楽にあわせて踊りながら、浴衣、セーラー服、和服、チアリーダー、そして最後はキラキラしたドレスへと早変わり。客席を回って、一人ひとり握手しながら目の前でポーズを決めていくと、なかには一緒に踊り出す方もいらっしゃいます。そして、ショーの最後に必ず行うのが手遊びによるフォークダンス。そばに行ってコミュニケーションすることで、楽しんでもらえたのかどうか反応がわかるからです。

最初の1年くらいは一人で活動していましたが、定期的に声をかけてくださる施設が増えてきたところで、芸人仲間と「演芸ボランティアユニット笑顔工場」を結成。さらに、この活動をボランティアだけでは終わらせたくないと、2007年にNPO法人化しました。新聞やメディアに取り上げもらったおかげでコンスタントに依頼が来るようになり、協力してくれる芸人仲間も増えました。

現在は、東京を中心に関東だけの活動ですが、今後、いろんな人に参加してもらいながら、もっともっと大きな活動にしていこうと奮闘中です。

漫談で介護のことを伝えたい
お笑いピン芸人の仕事

ピン芸人としては東京演芸協会に所属し、寄席に出演したり、イベントや企業のパーティーなどでパフォーマンスをしたりしています。寄席では、デイサービスでの出来事をもとにした介護漫談が定番。年配のお客さんが多いので、『ためになる話』と題してこんな話をします。「私を男の子と勘違いしたあるおじいちゃんが、『ボクなんちゃい?』と聞いてきたので、『わたし30ちゃいです』と答えました。すると、気まずいと思ったのか静かに目を閉じて眠ってしまいました。それくらいの年齢になると、都合が悪いときには寝てごまかすというワザが使えるらしいです」とこんな具合。

介護漫談をするようになったのは、デイサービスでの出来事を家族に話をしているうちに、「面白いからネタにしてみたら?」と言われたのがきっかけ。

介護や老いについて、みんなどこかで嫌だなとか、できれば考えないでおきたいと思っているところがあると思うのですが、くすっと笑える話を通じて、聞いてくださった人が介護と向き合うきっかけになればという思いをこめています。また、若い人には「介護の仕事ってなんか面白そうだな」と知ってもらえたらいいですね。

自分の人生に力を与えてくれる
介護福祉士の仕事

今では介護福祉士の資格も取得し、週に3日、非常勤職員として区のデイサービスで働いています。
非常勤職員の仕事はご利用者さんの送迎や生活介助が中心ですが、私は進んでレクリエーションの際の司会進行役をやらせてもらっています。

こんな時には、芸人として培ったトークスキルが大いに役立ちます。認知症の方などその方に合わせてコミュニケーションに気をつけなくてはならないこともありますが、逆に、芸人としての柔軟性が鍛えられて舞台でのアドリブに強くなりました(笑)。人と接する仕事は、毎日何が起こるか分からない楽しさがありますね。

しかし、なんといっても介護の仕事の魅力は、自分の人生にとって力となる魅力的なものがつまっているということ。私の場合、もうお亡くなりになりましたが、ある方の言葉が忘れられません。当時100歳で、101歳の誕生日が近づいてきたとき、「101歳ですね。すごいですね」と話をしたんです。するとその方が、「気づかんかったーっ、夢中で生きてきたからね」と。100歳ともなれば、戦争や関東大震災も経験して大変な思いをされてきたはず。

いいときも悪い時もがむしゃらに夢中で、その時その時を生きていらしたんだな、かっこいいなと思いましたね。自分もそうでありたいと、つい怠けそうになった時にその方の言葉を思い出しています。

勉強のためにはじめた介護の仕事でしたが、どんどん興味がわいてきて、ほかの施設での取り組みやさまざまなケアについても知りたいと思うようになりました。

3つの仕事が互いにプラスになっている

よく、本業は何ですか?と聞かれることがありますが、私にとってどれが本業という考えはありません。

お笑いの仕事と介護の仕事ではやっていることは違うけれど、目的は同じで、「その方がいきいきと楽しく過ごしていただくために何かを提供すること」。

それぞれの仕事が互いにプラスに影響しあっているので、どれが欠けても私らしい生き方ではなくなってしまう気がします。私は、「あなたに会って元気がでた」と言ってもらえる人でありたいと思っていますが、その時、パワーを発揮するのは“笑い”です。笑うことで免疫力を高めて健康促進をする働きがあるという研究もあるんですよ。

今後はもっと、私のようなパフォーマンスする介護士が増えて行ってほしい。「笑顔工場」のように、芸人やまったく違う畑の人が介護とコラボするというのもひとつですし、逆に、介護の現場の人たちがお笑いに挑戦して、介護の現場に広がっていくっていうのもあると思います。最近、SNSを通じて知り合った50代の女性の介護士さんは「講談」をされていて、自分の職場以外の施設をまわってパフォーマンスしたいとメッセージをくださいました。この方のように、プロじゃないけど、「高齢者に“笑い”を!」という人ももっと出てきてほしいですね。

メイミさんからのメッセージ

自分の頭で考えるだけで、ほんとうにやりたいことを見つけられる人はごくわずかだと思います。

だからとにかく、目の前にあることをやってみることです。実際にやったこと、行動したことは嘘をつきません。やりたいかやりたくないかじゃなくて、やるかやらないか。もし失敗をしたとしても、その経験は無駄にはならないはず。

今、時代的に、職業を選ぶと言うより、どういう風に生きていきたいか、どういう人でありたいかを考える時代になってきたという気がしています。だから、職業にとらわれずに、こういう人でありたいという自分の気持ちに沿ってなんでもやってみたらいいんじゃないかな。

私自身、たまたまのきっかけを拾っていったら、こうして、やりたいことを見つけることができたのですから。

【文: 鹿庭 由紀子 写真: 山田 彰一】

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