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行政・自治体の取組

2019.09.10 UP

山形県が若手介護職員の交流会を実施。「介護の仕事の魅力を再発見し、新たな絆を生む」

高齢社会が進む中、介護業界においても今後さらなる人材不足が懸念されている。山形県では、介護事業の魅力を高める多様な取り組みを続けており、その一環として、県内で働く入職3年未満の新人介護職員を対象とした若手介護職員交流促進事業を展開してきた。今回の交流会では、事業所の垣根を超えた絆づくりを目的とし、新人ならではの悩みや、それぞれが実感してきた介護職の魅力ややりがいなどを共有しながら、モチベーションを高めていくプログラムを展開。将来の山形県を担う若手介護職員を集め、人と人のつながり作りを積極支援するこの施策では、「同じ志を持つ者同士が集まり、互いを高めながら次のステージに向かう未来」を目指す。2019年7月、山形市内で行われた交流会の様子と、介護業界を盛り上げる施策に取り組む山形県健康福祉部の思い、その先に描く未来を紹介する。

山形県内で働く若手介護職員27名が参加。
グループワーク形式で仕事の魅力を再発見

「山形県 若手介護職員交流促進事業」における交流会は、2019年7月25日、山形市内にて開催された。山形県内の介護事業所で働く入職3年未満の若手職員を対象に、一般公募で参加者を募り、27名が参加。

交流プログラムは、介護・福祉分野を目指した理由や実現したい目標、仕事の中でモチベーションが上がった際の要因やきっかけなどを個々に振り返り、それらをグループ内に展開するグループワークを実施。それぞれが初心に立ち返ると同時に、互いの思いや考えを共有していく作業を行った。

また、ベテランの先輩たちから指導を受ける立場の若手職員には、「壁にぶつかって悩んだ時、同じ立場で共感してくれる仲間がいない」と孤独を感じるケースも少なくはない。そのため、今回のプログラムでは、どのような時に落ち込みやすいのか、また、どのように自分のモチベーションを上げているのかを掘り下げていくワークも合わせて実施。同じ立場の若手職員同士が互いの悩みに同意して共感を高め合う一方、それぞれの強みにフォーカスしながら長所を発掘していく機会となった。

▲目指した理由や実現したい目標、仕事の中でモチベーションが上がった際の要因やきっかけなどを振り返り、付せんに記入。記入した内容を元にグループ内で思いや考えを共有

▲同じ立場の若手職員同士のため、会話が盛り上がる。グループワークの最中も笑顔がこぼれる

研修会では若手介護職員が自己紹介。
活動への意気込みや期待を語った

更に、グループワークを通じて発見した互いの強みを中心に、励ましやアドバイスなどをグループ内で交換し、事業所を超えたつながりを広げていく機会をつくった。

プログラムの最後には、各自が今後の目標を立て、「今後、自分の強みをどう生かしていくか。職場に戻ってからどのようなことに挑戦していくのか」をグループ内で発表し合った。交流会の集大成ともいえる内容だが、どのグループにも和やかな笑い声が上がり、プログラムの中で交流を深めたことが窺えた。

開催後のアンケートでは、「参加者同士で話をすることで刺激になった」「お互いの悩みを共有できてよかった」「共感してもらうことで、自分だけではないという安心感を得られた」などのコメントが見られた。交流会への参加は、多くの若手介護職員に意識の変化をもたらしたようだ。

▲各自への応援メッセージを読み上げてから交換へ。真剣に耳を傾ける参加者

▲応援メッセージは、同じグループの参加者に対して書き、互いに交換し合った

▲交流会終了後、今回のワークの成果をまとめた用紙を掲げる参加者たち

 

参加者2名に交流会の感想をインタビュー。
若手職員の現状と思いを聞いた

今回の交流会参加者の一人である高橋侑輝さんは、グループホームに入職してから3カ月目を迎えたタイミングで、この交流会に参加したという。

「グループホームの主任から『若手向けの交流会があるから、参加してみたら?』と促されたことがきっかけです。職場の先輩たちは年上の方がほとんどで、なかなか同じ境遇の人と話す機会がないと感じていたので、参加しようと思いました」(高橋さん)

ベテランの先輩たちは多くの経験を積んでいるため、日頃から悩みや不安を打ち明けても、“共感”より“アドバイス”が中心となることを実感していたという。

「アドバイスはもちろん嬉しいんですが、同じ目線じゃないとなかなかストレートな気持ちは打ち明けにくいもの。交流会の同世代の参加者と正直に話す中、『自分だけが悩んでいるわけじゃないんだ』と感じ、安心できました。また、他の参加者の話を聞く中で、自分には見えていなかった問題があったり、同じ問題でも異なる視点を持つ人がいたり、若手の働き方を見直すさまざまな発見がありました。また、応援メッセージの交換では、自分ではわからなかった長所や強みを知ることもでき、僕自身の今後の働き方につなげていけると感じました。今回の学びを明日から意識して、今後もご利用者さんのことを第一に考えていきたいと思います」(高橋さん)

▲「理学療法を学んで得た技術知識を生かし、より多くの人の役に立ちたい」と考え、介護職を選んだ高橋さん。「ダイレクトに『ありがとう』の言葉をもらえることが、この仕事の一番の魅力」と語る

一方、特別養護老人ホームで働く須貝瞳さんは、入職半年目だ。彼女もまた、職場の主任から交流会への参加を促され、「面白そう」と感じたという。

「実習では同世代と触れ合う機会も何度かありましたが、職場は経験豊富な先輩方が中心です。親身なアドバイスを頂けることを感謝しつつも、『もっと頑張らないと』というプレッシャーを感じることもありました。今回の交流会では、悩みを素直に吐き出すことができたし、グループのメンバーと仲良くなれて楽しかったです」(須貝さん)

須貝さんにとって特に有意義だったのは、仕事の悩みや喜びを感じる瞬間を話し合うグループワークだったという。

「自分以外の若手介護職員の気持ちを知ることができて良かったと感じます。グループの中で『こんな時にどうすればいいと思う?』など、具体的な悩みが出た時、私がやっていることを話したら、『それ、いいね。やってみる』と言ってもらえたことが嬉しかった! また、応援メッセージで『人に頼らないところがあるから、もっと頼っていい。甘えてもいいんだよ』という言葉をもらったことも印象的でした。自分では気づかなかった部分です。今後は自ら周囲に協力を仰いでいけるようにしたいと思いました。交流会で得た気づきを大切に、ご利用者さんに信頼される職員を目指します。少しでも長く幸せな時間を過ごすお手伝いをしていきたいと思います」(須貝さん)

▲「介護は感謝される仕事。人に役立っていることを日々実感する喜びがある」と話す須貝さん。小学生時代に家族が介護を続ける姿を見て育ち、「人に役立つ介護の仕事を目指そう」と心に決めたという

 

「同じ志を持つ仲間が、絆を深める機会を」
山形県健康福祉部の担当者が背景を語る

今回実施された若手介護職員の交流会事業をはじめ、山形県内の介護業界を支援する様々な事業を手がける山形県健康福祉部・山口仁さんにもお話を伺った。

「少子高齢化による人材不足は、日本の産業全体が抱える問題であると認識していますが、その中でも介護業界は特に厳しく、介護職への入職希望者は少ない状況にあります。山形県内の介護事業者においても、深刻な人材不足が理由で事業規模やサービス領域を縮小するケースが出てきています。介護労働安定センターによる『介護労働実態調査(平成29年版)』によれば、山形県内における介護離職者のうち、63%が入職3年未満の方であることがわかっています。私たちは、まずは介護職に入職した方々の離職防止と定着化を図り、若い人たちに働きかけることで、介護業界全体を活性化する取り組みを進めていこうと考えました」(山口さん)

山形県では、数年前より若手介護職員交流促進事業として入職3年未満の若手職員を対象とする交流会を実施している。いずれも参加者の満足度は高く、今回の開催に至ったという。

「同じ立場、同じ志を持つ人たちが触れ合い、絆を深めていく機会を作り、介護の仕事に対するモチベーションを高めてもらえればと考えています。他の業界と同様、仕事とプライベート、それぞれにおける悩みは切り離せるものではなく、苦しい局面を乗り越えねばならないこともあります。しかし、力を一つに合わせ、互いの知恵や経験を共有し、それを明日からの個々の取り組みに生かすことができれば、乗り越えることができると思っています。今回のプログラムは、人材育成の知見を持つHELPMAN JAPANに協力を仰ぎましたが、業界団体とはまた違う視点や手法で、介護業界に新たな風を吹き込んでもらうことを期待しています」(山口さん)

山形県では、今後も引き続き、若手介護職員を対象とする交流会事業を手がけていく予定だという。

「盛り上がったものを形にしていくために、一度きりで終わらせず、人と人とのつながりを広げていくことが重要だと考えています。こうした機会の提供を続けることで、『仲間と一緒に何かを成し遂げよう』という積極性を生み、次のステージにつなげていくことができればと。まずは、現場の若手職員の意欲を高め、仕事への取り組み方をより楽しくやりがいあるものへと変えていく。それによって、介護業界全体のイメージを変えていきたいと思います」(山口さん)

▲山形県健康福祉部の山口さんは、「変化していく社会構造の中でその時々にできることを探していく。介護業界全体を盛り上げるという一つの目的に向かって、多様な施策を展開していきたい」と語る

 

将来を担う若手人材を育てる環境を作り、
10年、20年後の未来を変えていきたい

現在、都市部においては、2025年問題として、近い未来に75歳以上の後期高齢者人口が急増することが予想され、早急な対策が求められている。しかし、山形県においては、2015年から2025年までの後期高齢者人口の伸び率は全国で最も低い見込みだという。

「山形県は、もともと高齢化率が高いため、都市部のような急速な高齢者の増加は想定されません。しかし、こうした状況は日本全体の問題でありますし、山形県においては生産年齢人口の減少という別の問題が起きています。全国各地で介護人材をしっかりと育て、互いにカバーし合えるようにスクラムを組んでいくことが重要だと考えています。これまで私たちは、介護福祉の道を志す人に向け、養成学校への入学資金等を補助する奨学金の貸付けや、介護業界のイメージアップを目的にPRを行う各種団体の事業支援を行ってきました。また、NPO団体による介護職員育成のワークショップの支援なども行い、今後も民間団体の取り組みを推進していく予定です」(山口さん)

今後は、介護事業所の認証評価制度の導入・整備などにも取り組む予定だ。優れた取り組みを行う事業者をしっかりと評価する独自のルール体系を目指し、県内全体の介護事業の質を高めていく。そうすることで、「より多くの介護職員に仕事の喜びを実感してもらえる環境作りを後押ししていきたい」と話す。

「この先、介護業界にAIやロボットなどが導入されても、介護の基本は、やはり“人”です。また、自立支援が中心となる今後、介護人材にはより深い理解力と高いスキルが求められるようになるでしょう。若手のうちから事業所を超えて交流し、知識やスキルを高め合いながら、将来の業界を担う人材になってほしいと考えています」(山口さん)

「10年、20年後には、介護職員自らが積極的に情報を持ち寄り、知恵を出し合っていろんな取り組みに挑戦していくような未来を実現していきたい」と語る山口さん。様々な取り組みで介護業界の変革を目指す姿に、期待が高まる。

【文: 上野 真理子 写真: 刑部 友康】

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