ヘルプマン
日本人の65歳からの理想の住まい方――そこに暮らす人が自ら運営に参加し、役割や生きがいを見つけ、地域とつながりながら、思い思いの暮らし方ができるコーポラティブハウス方式の高齢者向け住宅、それが「ゆいま~る(沖縄の言葉で“助け合い”のこと)シリーズ」です。高齢者だけでなく多世代が暮らす、参加型のコミュニティづくりを全国に展開する株式会社コミュニティネットの髙橋社長に、これからの高齢者の住まい方を聞きました。
プロフィール紹介
岩手県花巻市生まれ。株式会社CAOS建築設計勤務の後、株式会社連空間設計を設立し、コーポラティブハウスづくりを手掛ける。1987年、株式会社生活科学研究所を設立し、高齢者住宅や有料老人ホームづくりに本格的に携わる。2006年、株式会社コミュニティネット代表取締役に就任。高齢者向け住宅をひとつの入り口としながら、多世代が交流するコミュニティづくりをめざす。

ゆいま~るは、老若男女が集う“現代版長屋”

懐かしい里山の風景が残る栃木県那須町にある“現代版長屋”が「ゆいま~る那須」です。ここでは元美容師さんが居住者のカットをしたり、以前お蕎麦屋さんを営んでいたご主人が食堂でそばを打って居住者の昼食に提供したりしています。居住者は入居前から設計プランづくりに参加、全部で135種類の間取りから23種類に絞り込む作業や、食事についても試食会を開いて月々の費用を検討するなど、積極的に運営に参加してきました。

一方、東京都の郊外、日野市にある「ゆいま~る多摩平の森」は、団地再生型の最先端をいく高齢者向け賃貸住宅。築50年の団地をリノベーションし、若い社会人や学生が暮らす団地型シェアハウスや子育てカップルらが住む農園付き集合住宅に隣接しているので、日常の暮らしの中で、ゆるやかに多世代の交流が行われています。食堂は地域に開放されていますし、年末の餅つき大会は100人近い老若男女が集まって盛り上がります。

このように「ゆいま~るシリーズ」は、それぞれの地域や建物の特性に合わせて参加の仕方はいろいろ。自分の専門を生かして働き、わずかながらも給料をもらうのはひとつの理想形。入居者が講師となる藍染教室や書道教室、畑仕事や清掃などのボランティアのほか、毎月の運営懇談会で経営や運営、従業員についての問題点を指摘することも非常に大切な“参加型”の例です。
「ゆいま~る那須」では“働く”という参加の方法もある。
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してもらう、ではなく、
してあげたいのが高齢者

こうした住まい手参加型のコミュニティづくりのルーツは、私が生まれ育った岩手県大船渡市での長屋的な暮らしにあります。風邪をひけば、近所のおばちゃんがみかんを持ってきてくれるような温かさ、相互扶助の関係性がひとつの原体験でした。大学では建築を専攻し、20~30代には設計事務所で分譲マンションや建売住宅の設計に携わりましたが、そこには、服に無理やり身体を合わせていくような違和感がありました。

そこで28歳のときに独立し、始めたのが“コーポラティブハウス”。土地の段階から住む人が組合を結成し、事業主として要望を出し合い、住宅を作り上げていく、いわば注文型住宅です。実際に自分でも家族で住んでみて、他の家族と交流しながら暮らす楽しさに「コレだな」とひとつの方向性を見つけました。

参加型にしようと思ったもう一つのきっかけは、前の会社で高齢者向けのサービス付きマンションを設計し、自分もそこに住み込んで、一所懸命に先回りをしてサービスをしていたころ、「自分たちを神棚に飾るつもりか?」と怒られた経験でした。高齢者の方も一方的にサービスを受ければ満足かといえば、そうではありません。高齢者は誰かに何かをしてもらうだけではなく、誰かのために何かをしてあげたいとも考えています。「支えなきゃいけない高齢者」というイメージを払拭し、高齢者を社会資源として捉え、活躍の場をどんどん広げることで、輝かせることができると私は考えています。

居住者のおかげで、
バブル崩壊後の荒波も乗り越える

参加型の運営で大切なことは、居住者に対しては情報をすべてオープンにするということです。よいことだけでなく、直面する経営課題や施設内のトラブルなどもオープンにする。それが前の会社で得たもう一つの教訓です。高齢者住宅に入るために、居住者の多くは自分の家を売ってきますが、バブル崩壊後、家がまったく売れず、入居者がぱったりと途絶えて空室が増えました。

住宅経営の存続は居住者にとって死活問題です。居住者の中には元社長や経理部長、銀行出身という人もいましたから、彼らにアドバイスをもらって「手形を切らず現金決済にする」「不動産や株に投資しない」「銀行からは金を借りない」ということを原則にしました。もちろん会社の決算書はオープンにして、銀行の残高証明書までチェックされました。監査法人よりも厳しいチェックです。

運営懇談会では「社長の責任はどう取るんだ」「自分たちの生活はどうしてくれる」と詰め寄られたこともありました。でも、懇談会の後に一人の居住者が、「社長、倒産したらおにぎりぐらい食わしてやるから、がんばってよ」と言ってくれ、それで救われました。居住者が食堂の売り上げを上げるために、孫の誕生会をやってくれたこともありました。住宅の見学者には、居住者自ら、「ここは住み心地がいい」と営業を買って出てくれました。おかげさまで他の同業者よりも早く、バブル崩壊後の荒波を乗り越えることができました。

マイハウスを経営する、というキャリア

参加型といっても現在、経営はあくまで株式会社コミュニティネットが行っています。参加型をとことん追求していけば、究極はコーポラティブハウスに近づいていきます。つまり経営そのものを居住者サイドに任せてしまうやり方です。これを私たちは「マイハウス構想」としてすでに運用を始めています。

「参加型や地域開放などの基本的な理念を守ること」と「本部の経費とそのハウスが赤字にならないこと」のふたつが守られれば、運営や人事、居住者と地域の関わりも含めてそのハウスに任せます。手づくり雑貨の販売やお弁当の配食など新事業を始めるのもありでしょう。

「ゆいま~る聖ヶ丘」でモデル的に実施して、最終的には全部に広げていく予定です。ハウスの責任者は現在のハウス長がなることを想定していて、つまり、外食に例えれば自分のレストランを持つような感覚で、「自分のハウスを持ちたい」というふうに、スタッフに将来の目的や夢を持ってもらいたいと考えています。
「ゆいま~る中沢」の居室。

地域というキャンバスに絵を描こう

高島平や八王子では、空き家活用や団地再生プロジェクトで都市の空洞化という問題の解決にも取り組んでいます。団地の中で部分的に空室になった住戸をバリアフリーにリフォームし、サービス付き高齢者向け住宅として再生。1階の店舗を改造してフロントを整備し、団地住民に生活支援などのケアの仕組みをつくっていきます。このように私たちの仕事は、入居者、事業者、行政などの力を掛け合わせて暮らしを創造する“地域のプロデューサー”。あたかも、地域というキャンバスに絵を描いていくようなクリエーティブな仕事です。

今後は視点を東アジアまで広げ、相互扶助のコミュニティ拠点を1,000カ所つくりたいと考えています。当社が事業主体で進める以外に、他の企業やNPO法人をサポートするかたちも含めて推進していきます。5年後か、10年後か、20年後かわかりませんが、明治維新以来の、社会の在り方や価値観が180度変わる時期が必ず来ます。モノから心へ、消費から節約へ、輸入から自給自足へ、核家族化から支え合いへと転換する日が来ます。この拠点は日本が変わり、再生するための拠点なのです。

当社では留学生も採用しており、その一人で中国江蘇省出身の吴は、「自分のハウスを持ちたい。将来は中国で経営者になりたい」という夢を持っています。夢があるから問題意識が高くなり、困難に直面しても、修業のひとつとしてポジティブに捉えることができます。東アジアにそんな仲間を増やし、いつかEUのような福祉共同体を創ることが私の夢です。
「将来は自分のハウスを持ちたい」という吴耀琴(ごようきん)さんと。

「自給自足型の“マイハウス”をつくりたい」

ゆいま~る拝島 小西陸さん(31歳)
雑誌で「ゆいま~る那須」の記事を読み、高齢者が働いている様子を見て、「自分もこういうのがやりたかった」と感動し、転職しました。ゆいま~るは、“主体”という言葉の意味が他の施設とは異なる気がします。今いる「ゆいま~る拝島」でも、毎月の運営懇談会や囲碁、園芸、図書などの部会は居住者が率先して運営していますし、見学者に入居者の方が自ら対応することもあります。クリスマスの日の廊下の飾り付けなども、スタッフが知らないうちに居住者たちの手で終えられていたり。

ある80代の居住者の方は、要介護5と重度で立つことが難しく、両腕も動かせないため、ベッド上でほぼ寝たきりの状態でしたが、「囲碁が好き」ということをご家族から聞いて、囲碁部会にお連れしてみました。するとリーダーが対局相手となってくれ、口頭で指示を確認しながら一人二役で石を打ってくれました。負けても本人は「楽しみがひとつ増えた」と笑顔でした。

将来の目標は30代でマイハウスを持ち、「ゆいま~る那須」を超えるようなコミュニティをプロデュースしていくこと。理想は農園などがあって、体を動かしながら食糧やエネルギーもある程度、自分たちで賄いながら生活していく、自給自足型のコミュニティですね。
玉川上水沿いの「ゆいま~る拝島」のテラスで。
[
文: 高山淳
写真: 中村泰介
]
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