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行政・自治体の取組

2022.02.24 UP

奈良市が取り組む「女性の就業支援」+「介護業界の人材確保・定着支援」。 HELPMAN JAPANも協働し、セミナー・イベントを開催

『HELPMAN JAPAN』は、奈良市が推進する「女性の就業支援事業」と協働。これまで蓄積した介護業界のブランディング・採用・定着に関する知見を生かし、奈良市の求職者の就業および介護事業者の採用機会創出・職場定着の支援を行っています。取り組みの概要と、これまでの反響についてご紹介します。

結婚や出産後、「再就職」を目指すも障壁にぶつかる女性を支援

奈良市が女性の就業支援および介護事業者支援に取り組む背景と、これまでの経緯について、奈良市産業政策課キャリア支援係の横田さん・松田さんにお話を伺いました。

――これまでの取り組みの背景・経緯をお聞かせください。

2016年、子育て世代の女性の就職や活躍を支援する「女性キャリア支援係」(現在はキャリア支援係)を発足しました。
奈良市の課題の一つに、女性の年齢階級別就業率のくぼみ――いわゆる「M字カーブ」の落差が大きいことが挙げられます。調査データによると、第一子出産後に退職する女性が60%にも達している状況です。

地理上、奈良市在住の女性は大阪や京都等の近隣市に1時間ほどかけて通勤する方が多いため、育児をしながら仕事を続けることが難しく、また、奈良市内で再就職を目指そうにも、他市に比べて企業数が少ないという実情があります。
働きたくても働くことが難しい女性が多いという地域の課題を踏まえ、女性が活躍できる職場づくりのための企業への支援や女性へのサポートなど、企業と求職者双方への働きかけを通じ、子育て中の女性の就業の促進と職場定着につなげるための支援に乗り出したのです。これまでに奈良市では、求職者向けの個別就職相談会、合同企業説明会、職場見学バスツアー、クラウドソーシングの周知・実践などを行ってきました。

そして2021年、初の試みとして「介護業界」に特化した就業支援を開始しました。市として、女性の就業先の選択肢の中でも人材不足の業界へのアプローチをと考え「介護業界」「IT業界」が浮かんだのです。製造や建設など、人材不足の業種は多数ありますが、育児と仕事を両立させたい女性にとって就業時間の融通が利きやすいこと、そして、もともと女性の雇用に積極的な事業者が多いことから、当事業では介護業界に注目しました。
「女性の就業率の向上」と「介護業界の人材不足の解消」の双方の実現こそが、この事業を開始するに至った経緯です。

――事業推進のパートナーとしてリクルートのHELPMAN JAPANを選んでいただいたのは、どのような理由・期待からでしょうか。

手探りの状態で始めた事業ですので、これまでにさまざまな自治体と連携してこられた実績を持つHELPMAN JAPANの知見に期待を寄せました。
特に、これまでは手薄だった事業者支援においては、「魅力発信(ブランディング)」「定着支援」という2つの観点に着目。HELPMAN JAPANのノウハウを導入することで、昨年度を大きく上回る就業支援実績数を実現したいと考えました。

「採用力アップセミナー」で、魅力の打ち出し方を工夫

奈良市とHELPMAN JAPANが組んで行うメインイベントが、求職者向け合同企業説明会「介護のおしごと はじめて相談会」。介護業務未経験者または無資格者の求職者と、人材確保に取り組む介護事業者に対し、マッチングの場を提供するイベントです。

その開催に先立ち、介護事業者向けに「採用力アップセミナー」を実施しました。このセミナーでは、人材確保のための広報戦略として、「採用マーケティングの考え方」「ミスマッチを防ぐための採用ターゲットの設定」「職場の魅力の見つけ方」「魅力をPRする方法」などのノウハウを解説。その後、個人ワーク・グループワークで、自社の「持ち味」を考え、採用ツールの作成に取り組みました。

▲採用力アップセミナーの様子(HELPMAN JAPAN撮影)

セミナー終了後、参加事業者の皆様からは次のような感想を頂きました。

●他者から見た介護職の魅力・不安点を教えていただき、どうアプローチするかのヒントをいただいた
●魅力はあっても、伝えることの難しさに気付けた。一方的に伝えるだけでなく、求職者を知ることが大事だと分かった
●自社のパンフレットに掲載している写真は、建物・内装・設備ばかりだったが、「スタッフのイキイキした表情の写真を使った方がいい」とアドバイスを受け、納得。さっそく差し替えたい
●職場から3人で参加。日頃話せないことや将来のイメージを語り合えてよかった
●採用に向けた話し合いは、なかなか時間を設けることができないので、よい機会になった

▲イベント当日に配布された、各事業所の法人紹介パンフレット

奈良市キャリア支援係の横田さん・松田さんにも、取り組みの手応えについてお聞きしました。

――「採用力アップセミナー」実施の効果は感じていらっしゃいますか。

受講された介護事業者さまが、このような感想をおっしゃっていたのが印象的でした。
「これまで、求職者に対して自社をPRするとき、どの年代・性別の方にも同じフレーズを使っていた。けれど、個々の方に応じて伝え方を変えるべきなのですね。人によって魅力を感じるポイントは異なる。その人の興味やニーズに応じてアピールすることが大切だと気付きました」と。
この気付きによってPR手法がブラッシュアップされ、魅力が伝わるようになれば、と思います。

――合同企業説明会に向けては、出展事業者さまが来場者へ情報提供するツールとして「Airワーク採用管理」も提供し、採用ホームページも作成いただきました。ご覧になった感想を伺えますか。

「事業概要」「求人情報」など各項目がフォーマット化されているので統一感があり、見やすいですね。その中でも、法人さまごとに個性や特色が表れていたと思います。これまでも合同企業説明会を開催したことがありましたが、来場者向けの情報提供ツールは自社でそれぞれご用意いただいていました。そのため、提供情報の量や質にバラつきもあったと思います。こうしたツールの準備からサポートいただけるのはありがたいですね。

なお、合同企業説明会開催の広報についても、これまでは紙媒体に掲載したりチラシを配布したりするPRが中心でしたが、今回HELPMAN JAPANからSNSを使ったPR広告の提案をいただきました。その手法も初めて導入しましたので、今後もターゲット層に応じて活用していきたいと思います。


▲「介護のおしごと はじめて相談会」に出展された医療法人田北クリニック『グループホームあみ』のAirワーク採用管理原稿


▲当日来場者向けのパンフレットとして配布した、出展事業所紹介のためのAirワーク採用管理原稿一式(HELPMAN JAPAN撮影)



▲SNS(Twitter/上・Facebook/下)内に広告を出し、市の公式アカウントにてイベントに関する情報発信を行った

 

13社が集結。イオンモール高の原で「介護のおしごと はじめて相談会」を開催

求職者向け合同企業説明会「介護のおしごと はじめて相談会」は、12月9日、木津川市と共同主催で開催されました。

▲イベント会場の様子。新型コロナウイルス感染症対策を行った上で開催した

会場には、13社の介護事業者ブースと、ハローワーク奈良・ハローワーク木津の相談ブースが並びました。「グループ内異動OK」「学童保育あり」「5年勤務者ハワイ旅行」「資格取得支援」など、自社の魅力ポイントを大きく打ち出したポスターを並べて張っているブース、施設内の様子のスナップ写真を壁一面に飾って現場の雰囲気を伝えているブース、プロジェクターで施設周辺の風景や介護現場の映像を投影しているブース、利用者の手作りの法人名の看板を掲げるブースなど、各社のブースは個性豊か。

▲各法人の相談ブースの様子。法人の魅力を分かりやすく表現するポスターなどを張り、来場者へアピールした

来場者は興味を持った事業者のブースを訪れ、入職後の業務の説明を受けたり、面接では聞きづらいようなざっくばらんな質問をされたりしていました。

出展事業者の方々からは、「来場者の方々と話してみて、私たちが『こんな条件を求めているだろう』と想定したことと、実際に求めていることは異なっているのだと気付いた」「未経験者の方々が気にしているポイントがつかめた」「他社さんのブースの装飾を見て『こんなアピールの仕方があるのか』と勉強になった」――といった声が聞かれました。


▲来場者が相談ブースを回るためにスタッフに相談する様子(上)、参画法人が来場者の相談を受ける様子(下)

来場したある女性は、「家から通いやすい場所に施設がある事業者4社のブースを訪問し、どんな仕事の種類があるかを聞いた。『実際の施設をご案内する』と言っていただけたので、見学に行く予定」とおっしゃっていました。

このほか、会場内には履歴書用写真を無料で撮影できるコーナーも設置。さらに、「介護・福祉業界の未来について」をテーマとする業界研究セミナーも開催し、介護業界の昨今のトレンドや今後の展望をはじめ、性格タイプ別・仕事選び、企業選びのポイントなどをご紹介しました。


▲履歴書用写真撮影コーナー(上)と業界研究セミナー(下)の様子

 

介護業界の魅力を伝えたい。そして、女性たちに「働く喜び」を感じてもらいたい

「定着」の支援策として「新人介護職員モチベーション向上セミナー」も別日程で開催。経験年数・職種が同程度の概ね入職後3年未満の若手職員が横のつながりを構築できるよう、事業所を超えた交流の促進支援をしました。

▲新人介護職員モチベーション向上セミナーのグループワークでは、自分の意見を書いたふせんを模造紙に貼り、お互いに共有した(HELPMAN JAPAN撮影)

奈良市の今後の目標について、横田さん・松田さんに伺いました。

――女性の就業支援と介護業界の人材確保・定着支援を通じ、どんな未来を目指していらっしゃいますか?

介護業界に対してネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃいますが、そのイメージを払拭し、労働人口増加につながる事業を継続していきます。奈良県には「奈良県福祉・介護のお仕事PR隊」という、福祉・介護事業所認証制度の認証を受けている事業所の若手職員で構成された組織があります。福祉・介護の仕事の魅力の情報発信、理解促進に向けた活動を行う組織です。お仕事PR隊の取り組みも参考に、介護業界の魅力を発信し、介護業界をもり立てていきたいです。

そして、女性の皆様がそれぞれのライフステージに応じて働きやすい職場を見つけ、長く働き続けられるようになればと思います。もちろん、家庭内で家族のために働くことも大切ですが、お仕事を通じて得られる喜びもあります。多くの女性が働く喜びを感じられるように、今後とも求職者・事業者双方にとって一助となる事業を実施し、より働きやすい奈良市を目指すことで、就業率向上を実現していきたいと思います。

【文: 青木 典子 写真: 奈良市】

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