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2022.04.06 UP

「ICT・AI・アウトソーシング活用セミナー」レポート第2弾 介護ロボット導入のポイントと介護業界の未来

2022年1月21日、HELPMAN JAPAN 主催のオンラインセミナー「ICT・AI・アウトソーシングがもたらす未来」が開催された。今回のレポート第2弾では、セミナー後半に実施された「介護ロボット導入の可能性や注意点」の講演と「介護業界の未来」について語ったパネルディスカッションの様子を紹介する。

現在、介護業界では人材が必要とされる状況が続いているが、その未来をよりよいものに変えていくためには、さまざまなアプローチで現場の働き方を改善し、「より働きやすい職場、働きがいのある仕事としていくこと」が必須の課題となっている。今後、ますます高齢者が増えていく中、ICT・AIを活用した介護ロボットやアウトソーシングのサービスをうまく活用することがカギとなるだろう。
本セミナーでは、介護の現場を支援するためにICT・AI・アウトソーシングサービスの提供・普及に注力している事業者や自治体などが登壇。業務改善につなげた好事例や、導入のメリットと効果、導入時のノウハウなどについて講演を行った。当日の様子と共に、働きやすい職場づくりのヒントとなる講演内容を参考にしてほしい。

目次

前回のレポート(第一弾)
介護ロボット導入の失敗事例からヒントを紹介
介護ロボット導入を成功に導く要因とは
ICT活用による「職員満足度を高める効果」とは?
今後、取り組むべきことや目指すべき姿

 

介護ロボット導入の失敗事例からヒントを紹介。
「現場の課題を理解し、ロボットに任せることを見極める」

今回のセミナーのメインコンテンツは、ICT・AI・アウトソーシングサービスの提供・普及に尽力している4名の講演だ。セミナーレポート第2弾では後半に登壇した2名の講演内容を紹介していく。

セミナー第1部の講演で3人目に登壇したのは、介護ロボットの導入支援に注力している株式会社NTTデータ経営研究所の足立圭司さんだ。足立さんは、厚生労働省による「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム事業」をはじめ、国や自治体の介護ロボット活用推進施策に取り組んできた人物であり、導入に失敗した事例の共通点を熟知しているという。

「介護ロボットを活用した代表例としては、介護サービスの質の向上と自立支援に『歩行をアシストするロボット』を役立てた事例等が挙げられます。また、居室内の状況をタブレットで確認できる『見守りセンサー』を導入したことで、訪室回数を約3割削減し、その分の時間を他の業務に充てられるようになった事例もあります。一方、国は現場の負担を軽減するために、介護ロボット活用を推進し、導入の補助金制度を設けましたが、実際には活用できず失敗に終わる現場が非常に多いのです」(足立さん)

介護ロボット導入でよくある失敗事例は、「補助金をきっかけに経営層のトップダウンで購入に踏み切るケース」だと足立さんは話す。

「職員の負担軽減のために導入したはずが、現場自身が解決すべき課題を十分に認識していないため、活用できないまま倉庫に眠らせてしまうケースが非常に多くあります。現場のスタッフは、『そもそもロボットに介護ができるわけがない』『忙しい中で操作を覚える時間がない』『余計な手間が増えた』などの反発や不満を抱えてしまいますし、十分に活用できずに期待はずれの結果となることで、介護ロボットにさらなる抵抗感を持つことになってしまうのです」(足立さん)

介護ロボットの導入においては、その機能をきちんと理解した上で、職場の課題を分析し、「介護ロボットを活用してどのような介護を実現したいのか」を現場の職員をはじめ組織全体で意思統一することが大事だという。

「介護ロボットの機能と現場のオペレーションをうまく組み合わせることで、ようやく導入の効果がじわっと生まれます。また、導入のステップでは、基準やルールをしっかり決めて徹底し、いかに従来のオペレーションにテクノロジーをなじませていくか、その丁寧な取組が大事です」(足立さん)

さらに、足立さんは導入ステップで注意すべきポイントについても紹介してくれた。

「導入を主導するチームの責任者やメンバーの選び方、組織として導入の目的を共有する合意形成、課題の見える化や計画づくり、実行における評価指標のひも付けや手順書の作成方法など、注意すべきポイントはたくさんあります。また、導入後も、新しいオペレーションに慣れるまでは業務効率が下がるため、現場からの反発が必ずあるものです。そのため、『導入後は業務効率が一時的に下がって当たり前』ということを、しっかり宣言しておくことが重要です」(足立さん)

▲株式会社NTTデータ経営研究所 情報未来イノベーション本部 先端技術戦略ユニット シニアマネージャー・足立圭司さん。講演内で紹介した導入ステップの詳細は、埼玉県のホームページ内に掲載されている
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/77104/kaigo-robot-tebiki.pdf
https://www.nttdata.com/jp/ja/

介護ロボット導入を成功に導く要因とは。
「全職員で導入の目的を共有することが重要」

最後に登壇したのは、北九州市保健福祉局の堀江吏将さんだ。北九州市にて介護ロボット導入支援に取り組む堀江さんは、導入を成功に導く「北九州モデル」のアプローチについてこう話す。

「現在、北九州市では市内の施設の介護ロボット導入・活用を支援しています。私たちは北九州モデルと呼んでいますが、導入の際には、『業務の見える化・仕分け』『ICT介護ロボットの選定』『業務オペレーションの整理』という3領域に対し、専門相談員が窓口となり、一緒に課題解決をしています」(堀江さん)

まず、「業務の見える化・仕分け」では、実施業務量と配置人員の勤務時間数から、時間帯ごとに余剰・不足している人員数を算出するという。これによって、「入浴や夕食準備の時間に人員が足りないなどの課題を見える化することができる」と堀江さんは話す。

「重要なのは、『道具を使う目的を考えること』です。道具はあくまで人の手助けをするものです。業務の中の何を任せるのかによって導入すべきものは変わりますし、道具によって人のオペレーションも変わります。そして、何よりも重要なのは、導入によって生まれた余剰の人員や時間を使って、『何がしたいのか』という目的を、実際に道具を使う職員たちと一緒に考えることです。ノーリフトケアやご利用者さんとのコミュニケーション向上、職員研修の実施、年次有給休暇や産育休の取得率向上など、目的は施設によっても異なるでしょう。職員全員でその目的を考え、共有することで、現場の意識や取り組み方が変わります」(堀江さん)

また、多くの失敗事例では、「導入直後に楽になるイメージ」があるため、新しいオペレーションに慣れるまでの間に、負担を感じてモチベーションが低下することがあるという。

「足立さんのお話にもありましたが、実例では、導入から3カ月後にようやく『楽になった』と実感するケースがほとんどです。現場で苦しむ職員がやりがいを持って取り組めるよう、導入プロジェクトを開始する時点で『最初の3カ月間を乗り切ることが大事』と伝えることがポイントになります。介護ロボット導入・活用の支援窓口は北九州市だけでなく全国各地にあるので、ぜひ活用していただきたいです」(堀江さん)

▲北九州市保健福祉局 先進的介護システム推進室 次長・堀江吏将さん。北九州市は、介護現場に時間のゆとりや笑顔を生む「うむ、介護」をスローガンに掲げ、伴走型の介護ロボット導入支援を提供している
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/ho-huku/ho-senshin.html

第2部のパネルディスカッションで各登壇者が語った
ICT活用による「職員満足度を高める効果」とは?

セミナーの第2部では、講演を行った4者によるパネルディスカッションを行った。「ICT・AI・アウトソース活用による職員満足度の変化」については、業務の質や現場の連帯感、個々のやりがいや意欲の向上、人材育成など、さまざまな面で効果を期待できるというお話をいただいた。各登壇者が語った内容のポイントのみを以下に紹介する。

「おやつのアウトソーシングは簡単に導入でき、目に見える業務効率化を実感できます。さらに、その実感から他の業務も効率化しようという発想が芽生え、職員が自発的に業務改善を考えるようになります。また、職員・ご利用者の皆さんの双方がおやつをきっかけにコミュニケーションすることで連帯感が高まったという事例もありました」(たびスル株式会社・吉田さん)

「ICT活用によって業務プロセスにおける課題を定量分析できますし、科学的介護の実践によってご利用者さんの機能改善にどう貢献しているのかを可視化することも可能です。自分の仕事がどう役立っているのかを実感できますし、一人ひとりの仕事を定量的に評価することで職員のやりがいを高めていくことができると考えています」(株式会社Rehab for JAPAN・池上さん)

「これまでの事例から、導入時にプロジェクトチームを組み、チームメンバーに積極的に参加してもらうことは、人材育成のプロセスそのものになると実感しています。職員の成長や連帯感につながりますし、施設としての理念の明確化や、教育における振り返りなどにも活用できます」(株式会社NTTデータ経営研究所・足立さん)

「導入の際、ロボットや他の職員に任せられること、任せられないことなどの業務を仕分けすることで、自分のやるべき仕事の特性を明確にすることができます。自分が何をすべきか、自分にしかできないことは何かを意識することは、個々のやりがいや業務の質を高めることにプラスになると考えます。また、業務の質が高まれば、ご利用者さんの満足度も高めることができるはずです」(北九州市・堀江さん)

 

それぞれが語った「介護業界の未来」。
今後、取り組むべきことや目指すべき姿が見えた

最後に、「介護業界の未来」について、それぞれが語った内容を紹介する。変化する社会の中、個々の介護施設はもちろん、介護業界全体が目指すべき姿や取り組むべきことの方向性とは一体どのようなものなのだろうか。

「この先、介護業界はさらに深刻な人材不足となる時代が間違いなく到来するので、われわれのような周辺事業者は常にアンテナを立て、現場で置いてきぼりになっているニッチな課題を解決していくことが重要であると考えます。介護施設の皆さんがちょっとした困りごとでもどんどんぶつけていけば、周辺事業者を動かすことができます。外部の力をうまく活用し、より現場に役立つサービスの開発につなげていただければと思います」(吉田さん)

「これからの時代、高度成長期やバブル期を経験した方々が高齢化していくことで、要介護者のニーズは変化していくと考えています。戦前・戦時中を過ごした方々と比べ、自分のやりたいことを楽しむ日々を過ごしてきたため、従来の介護のやり方に満足しないことが予想されます。今後は保険外のサービスを充実させていくことが重要です。介護保険制度の改定で、より自由競争の激しい業界となっていく中、新たなことにチャレンジできるよう、現場の業務に余裕を作っておくことが可能性を広げていくと考えます」(池上さん)

「グローバルな視点で見ると、日本は介護領域における先進国であり、世界が日本の介護に注目しています。いずれテクノロジーを活用した介護ノウハウのパッケージを輸出する未来が訪れるのではないでしょうか。私はそのタイミングを10年後と想定しているので、世界に発信していけるだけの研究を重ねていくことが必要だと考えています」(足立さん)

「自治体としての立場では、どんな未来が訪れても介護保険制度は持続させねばならないと考えています。私たちは、施設の皆さんを支えていけるようにがんばることはもちろん、現場のニーズを拾いつつ、自らさまざまな取り組みを試して、その効果を実証していきます。介護事業者の皆さんも、自治体などのサポート環境をぜひ活用していただければと思います」(堀江さん)

介護の現場と周辺事業者、国、自治体が連携し、ICT・AI・アウトソースを上手に活用していくことによって、介護業界の未来をよりよいものに変えていくことができる。そんな期待感を高め、2時間半のセミナーは終了した。各登壇者の語った講演内容が現場における業務改善のヒントになり、介護の仕事をよりやりがいあるものとしていくために役立てば幸いである。

【文: 上野 真理子 写真: 北九州市,株式会社NTTデータ経営研究所,HELPMAN JAPAN】

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