facebook
x

HMJ活動紹介

2022.04.06 UP

「ICT・AI・アウトソーシング活用セミナー」レポート第1弾 介護現場の職員満足度を高めるICT活用の可能性

2022年1月21日、HELPMAN JAPAN 主催のオンラインセミナー「ICT・AI・アウトソーシングがもたらす未来」が開催された。今回のレポート第1弾では、セミナー前半に実施された「介護ロボット活用による従業員満足度調査の解説」と「アウトソーシングサービス・ICT活用の可能性」についての講演を紹介する。

現在、介護業界では人材が必要とされる状況が続いているが、その未来をよりよいものに変えていくためには、さまざまなアプローチで現場の働き方を改善し、「より働きやすい職場、働きがいのある仕事としていくこと」が必須の課題となっている。今後、ますます高齢者が増えていく中、ICT・AIを活用した介護ロボットやアウトソーシングのサービスをうまく活用することがカギとなるだろう。
本セミナーでは、介護の現場を支援するためにICT・AI・アウトソーシングサービスの提供・普及に注力している事業者や自治体などが登壇。業務改善につなげた好事例や、導入のメリットと効果、導入時のノウハウなどについて講演を行った。当日の様子と共に、働きやすい職場づくりのヒントとなる講演内容を参考にしてほしい。

目次

ICTを含む介護ロボット活用を推進している施設は働く職員の満足度が高い傾向にあった
ICTを活用したおやつ手配のアウトソーシングで業務効率化
機能訓練プログラムを自動生成できるICT活用サービス
次回のレポート(第2弾)

 

ICTを含む介護ロボット活用を推進している施設は
働く職員の満足度が高い傾向にあった

セミナー冒頭では、介護業界における働く人の満足度とICTを含む介護ロボット活用の関係性を紹介した。
介護ロボットに対し、「人間のように働く人型のロボット」をイメージする人も少なくないが、「人が担っている業務の一部をアシストするための機器」というのが実態であり、例えるなら自走式お掃除ロボットや防犯に役立つセキュリティ監視システムなどに近い。現在までに、介護の現場の業務領域である「見守り・コミュニケーション」「入浴支援」「移乗介助」「介護業務支援」などに役立つ多様なロボットが開発されている。

しかし、「令和2年度介護労働実態調査」(公益財団法人介護労働安定センター)によれば、2020年度になっても業界内での介護ロボット導入は進んでいないことが分かる。事業所側の回答は、各領域のロボットについて、「いずれも導入していない」が80.6%を占めている。また、利用者情報(ケアプラン、介護記録など)の記録や共有、介護保険の請求などに役立つICT機器(パソコン、タブレットなどの機器)の活用についても、「いずれも行っていない」との回答が25.8%となっている。

一方、2018年にHELPMAN JAPANが実施した「介護サービス業で働く人の満足度調査」(HELPMAN JAPAN)では、「仕事に満足している」と回答した介護職従事者は全体の49.5%と半数以下となった。しかし、ICT・AI活用の介護ロボットを導⼊している施設では、未導入施設と比べて「働く人の満足度」が6.7ポイント高く、IT導入施設でも未導入施設と比べて11.4ポイントも高い結果となっている。
こうした背景から、今回のセミナーでは、ICTを含む介護ロボットを活用することの可能性や、導入・活用の注意点などを紹介し、「働きやすい職場づくりのヒント」としてもらうことを目指した。

以降は、セミナー第1部の前半で行われた2つの講演について紹介していく。

ICTを活用したおやつ手配のアウトソーシングで業務効率化。
「小さな成功体験で、職員の意識まで変わった」

メインコンテンツとなる講演の前半は、ICT・AI・アウトソーシングサービスの提供に尽力している2名が登壇した。

1人目は、たびスル株式会社の代表取締役・吉田裕紀さんだ。同社は、おやつの手配からメニュー決定、そして、施設に届けるところまでを全てアウトソーシングできる「おやつお届けサービス」を提供している。

「私たちはICTを活用し、予算・人数・ご利用者さんの嗜好などの条件設定から最適なおやつメニューを自動生成できる仕組みを作りました。とあるデイサービス施設では、毎月の手配に8時間かけていましたが、導入後は実質0時間となりました。一方、デイサービス・グループホームを複数展開する企業では、小口現金の精算や予算管理など、本部サイドの業務負荷も軽減しています。」(吉田さん)

また、「ご利用者さんがおやつの時間を楽しみにするようになり、おやつレクとしてコミュニケーションに役立っている」「効率化の小さな成功体験をしたことで職員の意識が変化し、業務効率を向上させる会議を積極的に開くようになった」などの、意外な効果もあったと吉田さんは話す。

「業務効率化で現場に余裕ができ、ご利用者さんの満足度は高まり、職員の意識も向上する。そんな好循環が実際に生まれていますし、業務効率化を図る組織文化の醸成にも役立つのではないかと考えています。アウトソーシングを最大限に活用することで、業界全体の未来をより良いものに変えていけると感じました」(吉田さん)

▲たびスル株式会社、代表取締役・吉田裕紀さん。現在、同社の「おやつお届けサービス」は、介護・学童保育の施設6,500拠点に導入されており、現場の業務負担軽減に大きく貢献しているという
https://tabisul.jp/

機能訓練プログラムを自動生成できるICT活用サービス。
「これからの時代は、科学的介護と業務効率化が必須」

2人目の登壇者は、デイサービスのリハビリ業務を支援する株式会社Rehab for JAPANの取締役副社長COO・池上晋介さんだ。同社は、ICT・AIを活用し、最適な機能訓練プログラムを自動作成できるサービスを提供している。池上さんは、「2021年、2024年の相次ぐ介護報酬改訂で介護事業者に求められることは大きく変化する」と話す。

「科学的介護による重度化防止と自立支援が推進されるこれからの時代、科学的介護の実現に加え、業務効率化による経営改善、そして、保険外サービスによる新たな成長が求められるようになるのです」(池上さん)

同社のサービスは、現場で収集した多くのリアルデータをもとに最適な機能訓練計画書を自動生成する仕組みとなっている。利用者300名を対象に、生活自立度スコアをとった結果、身体能力が向上しており、まさに科学的介護の実践に役立つものといえるだろう。

「今後は、こうした利用者体験のデータをICTシステムで可視化していくことも重要です。それを改善分析や課題発見に役立て、チームケアに活用していくサイクルで、よりよいケアの提供ができ、自立支援につなげていくことができます。また、ICT活用は業務効率化にもつながります。当社のサービスは、評価や報告書などを自動作成でき、電子化したデータをクラウド上で共有・管理できる仕組みがあるため、多くの現場が悩まされてきた各種書類への転記作業も一切必要なくなるのです」(池上さん)

サービス利用の成功事例には、「月10時間以上の業務削減を実現できた上に、モニタリング報告書がケアマネージャーへの信頼につながり、結果として営業ツールのような役割も果たしてくれ、稼働率が60%から90%に向上した」というケースがあるという。

「介護は『人の手あってこそ』のサービスですが、労働生産性を向上させていくためには、代替できる間接業務をICTや介護ロボットなどに任せていくことが大事です。削除した分の時間を付加価値時間へと変えていけますし、何より、職員の働くモチベーションにも大きく影響するはずなのです」(池上さん)

池上さんは、「介護業界を変えていくためには、業務効率化だけでなく、介護の仕事の価値を高めることが重要」と語る。
「ご利用者さんから感謝の言葉をいただく瞬間はもちろん大きなやりがいだと思います。しかし、『自分たちの仕事には確かな意義がある』と実感できる仕組みを作ることも非常に重要であり、定量的に評価できる体制・環境を構築していくことが必須なのです。私たちはICTやAIを活用してデータを集め、『科学的根拠』に基づいてその価値を証明し、業界全体のやりがいや給与水準を向上させていくことを目指します」(池上さん)

▲株式会社Rehab for JAPAN、取締役副社長COO・池上晋介さん。同社のリハプランを導入したことで、「リハビリ専門職が在籍していない施設が個別の機能訓練を提供できるようになった事例もある」と話す
https://rehabforjapan.com/

介護の現場でICT・AI・アウトソーシングを活用していくことによって、圧倒的に業務を効率化し、職員のやりがいや積極性を高めていくことができる。リアルな事例も紹介する講演内容は、ICT活用の可能性を実感させてくれた。次回のレポート第2弾では、本セミナーの後半に行われた「介護ロボット導入の失敗事例・成功要因」の講演と、介護業界の未来について語ったパネルディスカッションを紹介する。

【文: 上野 真理子 写真: たびスル株式会社,株式会社Rehab for JAPAN,HELPMAN JAPAN】

一番上に戻る