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2017.05.26 UP

保険外サービスと斬新なプログラムで 「次世代型デイサービス」を実現

リハビリやレクリエーションから、入浴時間、食事内容まで自由に選べる。そんな「次世代型デイサービス」を提供するのが、エムダブルエス日高だ。2013年、「地域福祉交流センター」を開設し、最大定員400名という大規模デイサービスをスタート。「1日の過ごし方は自分で決める」ことを基本とし、要支援・要介護の区分にとらわれない200種類以上のプログラムを用意。同時に、保険外サービスも積極的に取り入れ、1日に平均250人程度が来館しているという。また、地元スーパーと提携した移動販売車の運営、ICT(情報通信技術)を活用した予防・改善型のリハビリ・プログラム開発など、多様なチャレンジを続ける同社代表の北嶋さんにお話を伺った。

介護保険収入に頼らない
持続可能な仕組みを作る

医療法人社団日高会でソーシャルワーカーを務めていた北嶋さんは、介護保険制度の導入に向かう時代に、介護事業の立ち上げを任される形でグループ会社のエムダブルエス日高に移籍。当初は訪問入浴からスタートし、訪問介護や訪問看護ステーションなどの事業を展開。2002年からはデイサービス事業も開始した。

「デイサービス事業では、認知症ケアを必要とする人、自立支援の機能訓練を求める人など、ご利用者さんの要介護度や症状によって、ニーズのパターンが異なることに気付きました。そこで、施設ごとの特色が出るよう、認知症ケアの専門家や機能回復の手助けをする柔道整復師、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)などを置き、個々のニーズに応えられるようにしました。これにより、ケアマネジャーから相談を受けることが増えていったのです」

当初から北嶋さんが掲げ続けている理念のひとつが、「ご利用者さんの要介護度を下げて自立支援につなげ、自立できたら健康を目指せること」だ。

「私は“治療”を目的とする病院に長く勤務していたこともあり、介護においても、状態をよくするサービスを提供することが当然であり、王道だと思っています。要介護度を下げれば介護報酬は下がりますが、口コミで評判が広がれば、施設の稼働率が上がって収益性も高まり、職員の給与もアップできる。ご利用者さんもスタッフも集まるような、持続可能な仕組みを作ることを目指したのです。介護報酬の改定で、介護保険外サービスの導入が叫ばれるようになった昨今ですが、当時から介護報酬などの国の仕組みに頼らず、株式会社として企業努力で利益を上げる方法を考えていましたね」▲「“株式会社”であることも私たちの強み。自由にトライ&エラーができ、介護報酬に左右されない事業を展開しやすい」と北嶋さん

自己管理・自己選択で行動。
お金を払うこともリハビリに

現在、介護業界内でも大きな注目を集めるのが、同社の手掛ける「地域福祉交流センター」だ。延べ床面積3,200平米、最大定員400人という大規模なデイサービスセンターに、学童保育のスペースやシニア専用ジム、カフェなどが併設。ここでは、「自己管理・自己選択」が基本であり、いつ、何をするのかはすべて利用者が自分で決めている。

リハビリやレクリエーションのプログラムは、手芸や陶芸、ネイルサロン、麻雀、カラオケ、パン教室にパソコン教室、シミュレーションゴルフ、バレエ、さらにはスポーツ吹矢まで用意。本人が選んで予約する形式だが、費用がかかる場合でも材料費代の500円程度だ。一般的にデイサービス施設は男性の利用者が少ない傾向にあるが、この施設の男女比は半々だという。

「施設に財布を持参することもOKとしています。お金を払って釣り銭をもらうという行為もリハビリにつながるからです。また、必ずしも送迎車に乗る必要はなく、『タクシーを呼べば自力で帰れる』という選択肢があることも、安心感の醸成につながっているようです。入浴も予約制ですし、お食事はバイキングコーナーやカフェ、売店などの選択肢から自由に選ぶことができます。中には、リハビリ・プログラムの料理教室に参加し、自分で作ったものを食べる方もいらっしゃいます。職員に指示されることなく、自主的に選択し、予定を入れて行動する。こうした一連の活動を続けるうちに、『楽しんでいたら、いつの間にか元気になっていた』という流れが究極の目標ですね」

また、「買い物リハビリ」というユニークなプログラムもある。地元のスーパー・フレッセイが運営する移動販売車「フレッシー便」が毎日、食品や日用品を積んで同社の施設を巡回。利用者の自立支援を目的に始めたが、買い物に行くのが困難な周辺住民の高齢者にも役立っているという。

「家族に頼まれたものや、孫にあげるお菓子なども買えるので、家族の一員として役割を果たせることもリハビリになるのです。また、年に数回、温泉や観光名所を楽しむバス旅行の『リハビリツアー』も開催しています。ツアー参加を目標に、足腰を鍛えるリハビリに励む人もいますし、旅行を通じてコミュニケーションすることで友人ができるなど、いろんな効果がありますね」▲手芸教室の様子。施設内には、出来上がった作品の展示や販売をするコーナーもある▲買い物リハビリの移動販売車。スーパーと同じように棚に商品が並べられている。購入したものは施設内の冷蔵庫に保管し、送迎スタッフが帰宅時に自宅まで届けてくれる▲入浴施設の浴槽は個別タイプで、お湯も一人ひとり入れ替えている。ドレッシングエリアも完備。施設への抵抗感を払拭するため、スーパー銭湯のような「普通」の環境を整えた

学童保育やシニア専用ジムで
地域住民が自然に出入りする環境に

地域福祉交流センターに集まるのは介護が必要な高齢者ばかりではない。「地域の人々が自然に集う仕組みを」と考え、幼稚園児・小学生向けの学童保育や、一般の人も利用できるカフェを併設したのだ。

「地域の方と交流するためにお祭りやイベントを行っても、一時的なものになりがちです。幅広い世代と交流を深める方法を職員と一緒に考えていきました」

また、受験期の中高校生に向けて、夕方以降にデイサービスのフロアを開放し、毎日1時間はスポーツジムも利用できるというサービスも行っている。料金は月額1,500円だ。

「ご利用者さんは夕方には帰宅するので、スペースを有効活用しています。ほぼ利益にはつながりませんが、中高生のお母さんたちはご家族の介護を始める世代でもあるので、親御さんのデイサービスの利用を申し込まれるケースや、パートで働きたいと申し出てくれることもあります」

一方、昼間のスポーツジムは55歳以上のシニア会員専用としている。利用者は、健康な周辺住民のシニア、デイサービスでリハビリを続けて自立した利用者、付き添いでやってくる配偶者などさまざまだ。

「デイサービスを卒業した方も利用されますし、逆に、ジムを利用していたアクティブシニアがデイサービスを利用されることもあります。『地域にこの施設があってよかった』と言ってもらえればと思っています」

また、スーパーの移動販売や飲食系企業による施設内のカフェ運営、タクシー会社への送迎委託、旅行会社と連携したリハビリツアーなど、積極的に異業種の地域密着型の法人との連携を推進している。

「異業種とのシナジーで人が集まり、地元企業とご利用者さん、お互いの利益になればと考えているので、そこで手数料をいただくことは一切していません。介護業界も保険外サービスなどを取り入れなければ継続が難しい時代です。しかし、『あそこに行くとお金を使う羽目になる』と思われるような商売や、お金を持っている人だけが受けられるようなサービス提供は、本意ではありません。人の役に立ちながら、自分たちも存続していくための方法を生み出すことが大前提だと考えています」▲職員の提案で実現した「55歳以上のシニア専用ジム」。タクシー送迎付きで、週2回ジムに通えるサービス(月額4,000円)も好評だ。保険外サービスの利用者は700人程度という▲施設内のカフェ。デイサービスエリアの中に位置するが、外部の人が気軽に入れるようにカフェ専用の扉ももうけている

社会事業家として課題解決を。
職員の就労リハビリのアイデアを実現

デイサービスの常識を覆す多様な取り組みを続ける北嶋さんだが、こうしたアイデアは職員から出てくることも多いという。

「そもそも介護事業をスタートした当初から、介護の既成概念にとらわれない人材に来てもらおうと、体育大学や法学部出身者など多様性を重んじた採用を行ってまいりました。そして、職員には『現場のニーズからビジネスの機会を捉え、課題を解決していく社会事業家である』という意識を持ってもらうようにしました。パートの方も同じく多様性を重視した採用を実施。そのおかげで、『福祉の世界で一緒にイノベーションを起こそう』という土壌を作ることができましたね」

フィットネスクラブから転職したスポーツトレーナーの秋谷知さんは、平行棒とエアロビクスを融合し、洋楽に合わせて踊る「平行棒ビクス」プログラムを作った。

「ご利用者さんの意欲が上がり、行動変容する瞬間のやりがいはとても大きいですね。この業界に転職してよかったと思っています」(秋谷さん)

また、2年前に看護師の提案で実現した「DAY JOB事業」は、自立に向かう利用者の社会復帰を支援する就労リハビリだ。

「ご利用者さんがリハビリに励み、できることが増えていくと、5段階のグレードが上がっていく仕組みです。グレード4になれば当社でパートとして働ける権利、グレード5なら正社員として働ける権利を付与しています。現在、数名のご利用者さんが挑戦中ですが、まだ正社員の事例は出ていません。パートとしてご活動中の方は元料理人で、食堂の皿洗いの仕事に就きながら、週3日はデイサービスに通っています」

別途、「昼前にテーブルを掃除する人」「パン教室の先生」など、ハローワークのように貼り紙で求人をする就労リハビリもあるという。▲「自分の経験を生かし、介護の世界で『やったらいい』と思うことを実現できる。それも大きなやりがいですね」とスポーツトレーナーの秋谷知さん

ICTを介護に取り入れ、
新たなイノベーションを起こす

北嶋さんは、経済産業省の委託事業として、AIの周辺技術を活用する「ICTリハ」の実験・検証も手掛けた。要介護者のパーソナルデータと介護度が改善した人のデータをビッグデータで照合し、 個々に最適なリハビリのメニューを提案する仕組みだ。

「ICTリハを活用した1,200人と、普通のリハビリを受けた1,000人、それぞれ1年後の維持改善率を調査したところ、ICTリハ活用者は83%という高い結果が得られました。科学的な視点によるリハビリによって、維持改善率が上がることは明らかなのです。ICTリハは今後、外部でも販売していく予定ですが、全国から問い合わせがあり、見学にも来られています」

現在、大手企業とタッグを組み、高齢者を中心とする交通弱者を支援するシステム開発にも着手しているという。

「群馬県は免許の保有率が最も高く、車がないと生活ができない状況です。高齢者の運転による悲しい事故が相次ぎ、免許返納が問題となっている今、私は、『車がなくても不便にならない社会』を実現したいと思っています。高齢化が進めば、さらに多くの社会的課題が出てくるでしょう。しかし、『何ができるのか』という視点を持てば、今までにない新たなサービスを生み出せるはず。介護業界は、民間企業が介入してまだ17年しか経っていません。だからこそ、イノベーションを起こせる。志を持つ若者にぜひチャレンジしてほしいと思っています」

2025年には、アクティブシニアである団塊の世代が後期高齢者となるが、こうした背景に伴い、介護の世界も変わりつつある。生活の介助だけではなく、人生の喜びや生きがいを提供し、自立支援に向けた多様なアプローチが求められているのだ。介護業界は新たなイノベーションを起こす面白い業界となるはずだ。

【文: 上野真理子 写真: 阪巻正志】

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