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今、急成長中のデイサービスがある。「男性向けコンテンツ」の充実に力を入れた、我喜大笑が運営する「夢楽」だ。利用者の94%が男性で、実施されるプログラムはもちろん、施設の造りに至るまで、男性が楽しく通えることに徹底的にこだわっている。同社取締役で、介護運営事業部部長の林矢磨人さんに話を伺った。

男性がストレスを感じず、
通いたくなる施設を作りたい

待機児童の解消を目的とし、保育園運営事業を行っていた我喜大笑が、高齢者福祉事業に進出し、デイサービスを作ろうと考えたのが2010年。どのようなデイサービスなら社会支援につながるかと情報収集を進める中で見えてきたのが、「男性がもっと通いたくなるデイサービス」の必要性だったという。

「調査もかねて、関東圏の20ほどのデイサービスを見学し、100人以上の利用者にヒアリングを行いました。すると、多くの女性はデイサービスに通うのが楽しいと話す一方で、男性の多くが何かしらストレスに感じているということが分かったんです。知らない女性たちの輪ができている中に入っていきづらい。だけど、家庭の事情などで、日中気軽に行ける場所があるわけではない。そんな現実に直面し、彼らが楽しく通所できる場所を作りたいと思いました」

既存のデイサービスのほとんどは女性の利用者の方が多く、また、プログラムやレクリエーションも、どちらかというと女性向けのものが多い。だからこそ、男性が喜ぶコンテンツを充実させた、いわば“男の夢”が詰まったデイサービスがあってもいいんじゃないか……。そうして実現したのが、2011年7月に開業した「夢楽 志村坂下」だ。
▲好きなことを自由に楽しむ雰囲気があるため、利用者はもちろん、介護士たちも笑顔が絶えない
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業界の常識では考えられない
インパクトのある事業

「男性向けコンテンツが充実したデイサービス」というかつてない事業は、業界にかなりのインパクトを与えたようだ。

「営業を開始した当初、最も多かった反応が、『何それ?』でした。女性の利用者の方が圧倒的に多く、しかも女性の方が休まず通ってくださいます。そのため、これまでの業界の考え方でいえば、男性にフォーカスしたビジネスが成り立つわけがないというのが常識だったようです。しかも、そうした施設はそれまでありませんでした。東京都への申請も前例がない分、大変でしたし、『男性に向けた』という部分の表現的な制約も多く、苦労は尽きませんでしたね」

実際、一度は「男のデイサービス」という名称で申請し、準備を進めていたが、後日、名称変更を余儀なくされたという。しかし、不幸中の幸いか、「少しの間でもその名称を使って営業活動ができたことで、多くの方に“何か面白いことをやろうとしている”という印象を持ってもらえた」という。問い合わせも多く、集客面での苦労はいまだに少ないそうだ。

「実際にケアマネジャーさんのところに説明に行くと、『実は男性にどういうサービスを提供したらいいのか困っていたので、選択肢として非常にありがたい』という声を多くいただいたんです。そういう潜在的なニーズに合致したことも大きかったですね。時期的にも、『高齢ひきこもり』が社会問題化していて、彼らが外に出るための場所が増えるのはいいことだという風潮にも後押しされました」
▲我喜大笑の施設では、利用者の94%が男性。少数いる女性利用者については、「女性が多い環境が苦手」という方が多いという。中には「男性に囲まれたい」という理由で利用する人もいるのだとか

男性が好きなものを揃えた
「男性の尊厳」を守る工夫の数々

「夢楽 西小山」に伺うと、他のデイサービスとは明らかに雰囲気が違う。圧倒的に男性が多いのはもちろんだが、設備や、聴こえてくる音も全く違うのだ。

「例えば、手すりの高さをとっても、通常の位置では男性にとっては低いので、少し高めの場所に付けてあります。また、お風呂も少し大きめの浴槽を用意していますし、随所に男性が利用しやすい仕様を取り入れています。細やかな設計面まで配慮しましたね」

当然、毎日のプログラムは男性が好きなものが充実している。麻雀、将棋、囲碁、カラオケ、トランプといった娯楽が、好きなだけ楽しめるようになっているのだ。また、デジタルなものが好きな人のためにiPadなどのタブレットやパソコンも各種用意。最新式のマッサージチェアも複数台設置して、家ではなかなか味わえない“高級感”も担保している。

「私も男だから分かるのですが、その場の雰囲気で塗り絵や切り絵を楽しむことはあっても、それが“本当にしたいこと”というわけではないと思います。無理にやっていることも多いのではと。そこを突き詰めた結果、行き着いたのが『男性の尊厳を尊重すること』です。この方針を現場に浸透させるために、スタッフ教育も重視しました。トイレは便座に座ってではなく、立って行いたいのであれば、スタッフはそれができるように訓練する。全ての面で、男性の尊厳を傷つけないふれあいを徹底しています」

さらに付け加えれば、「すでにたくさんの男性が楽しんでいる場所であること」も重要だという。夢楽の各施設では、「そこに行けば楽しめる、だから毎日でも通いたい」といういい循環ができているようだ。
▲「男性の尊厳を尊重する」という理念に基づいたサービス提供が必要となるため、そのためのスタッフ教育が欠かせない。経験豊富なプロの介護士であっても、夢楽らしいケアを習得するには時間がかかるそうだ

「ここは楽しいよ!」と
笑顔で話す利用者たち

利用者の男性に声を掛けると、ほぼ全員が満面の笑みで「ここは楽しいよ!」と話してくれた。

「できることなら毎日来たいね。今日はもうカラオケ3曲目だよ。本当に最高の場所だよ!」とマイクを握り締めながら話してくれる方や、Googleマップを駆使し、かつて過ごした満州の地の思い出を職員の方と楽しそうに話す方もいる。

施設内は、カラオケの歌声や、麻雀牌を混ぜる音、将棋の駒や碁石を力強く打つ音が鳴り響いている。お互いに心を通わせながら、目の前の楽しみに夢中で打ち込む男性たちの姿が印象的だ。

「おかげさまで、皆さん楽しんでいただけているようです。特に仲間が見つかることを喜んでいただける場合が多いですね。『囲碁仲間が病気で碁会所に行けなくなり、打つ相手がいなかった。だけどここに来れば一日中囲碁が打てるし、仲間も見つかる』と楽しみに通ってくださる方もいます。夢楽のこだわりのひとつとして、全施設に『タバコ部屋』を用意しているのですが、かつての職場を思い出すのか、そこにたむろして知らない人同士が意気投合する場面もよく見られます」
▲「ここに来ちゃったら、他のデイサービスには行けないねえ」と笑顔で話すご利用者さん

現在は関東、関西に10施設運営
今後も「新しい介護」に挑戦したい

同社は、建築技術者の派遣事業を行う株式会社夢真ホールディングスを母体としている。つまり、異業種から保育・介護業界に新規参入するために同社が立ち上げられたという経緯がある。介護事業は現在6期目で、10施設を運営するまでになった。「今後もあらゆる地域で同様の施設を増やしていきたい」と林さん。

「後発で、しかも異業種から参入したわれわれだからこそ、できることがあると考えています。今後も、高齢者を取り巻く環境が変化していく中で、既成概念にとらわれることなく新しい試みにチャレンジしつつ、地域に根ざした新しい介護のスタイルをつくっていきたいと思っています」

利用者のイキイキとした笑顔が、介護業界でできることはまだまだあると感じさせてくれた。
▲「将来、自分の親や自分がデイサービスを利用することになったときに、心から通いたいと思える施設を作りたかったのです」と林さん
[
文: 志村 江
写真: 桑原克典(東京フォト工芸)
]
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