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2016.07.21 UP

若さはないが勇気はある!平均83歳のダンスグループの挑戦

目標は、ラスベガスで開催される
ヒップホップダンス世界大会出場

ニュージーランドの東側、人口8,000人の島、ワイヘキ。のどかな島で誕生した平均年齢83歳の世界最高齢のダンスグループ、「ヒップ・オペレーション・クルー」。この映画は、彼らの挑戦を追ったドキュメンタリーだ。

彼らが挑戦するのは、ヒップホップダンス。94歳のスターダンサーに、83歳の元オペレッタ歌手、主婦歴70年の93歳、73歳の若手……。車いすのメンバーや、目がほとんど見えない人もいる。島にある公民館に集まって練習するものの、ダンスを覚えたり、全員で合わせるのにも一苦労。そんな中、彼らの振付師でありマネージャーでもあるビリーが、驚きの提案をする。それは、“ヒップホップダンスのオリンピック”ともいわれる世界大会に出場すること。開催場所は、エンターテインメントの聖地、ラスベガスだ。

メンバーに提案した時点では、世界大会出場の許可が得られているわけではなかった。そこでビリーは、「特別枠」での出場を目指し、必要書類を揃えたり、大会主催者にメンバーの映像を送るなどして交渉を重ねる。そして、待ちに待った主催者からの1本の電話が。「ぜひ2013年の世界大会に出てほしい」という正式なオファーだった。

ラスベガス行きが決まったとはいえ、前途多難な目標だった。聞きなれない音楽に思うようには動かない体。持病もあるから、医者から行くのを止められるかもしれない。何かあれば家族に迷惑もかかる。旅費もないし、パスポートもない……。それでも、彼らには新しいことにチャレンジしたいという“勇気”があった。悪戦苦闘もジョークで笑い飛ばしながら、メンバーは一つひとつの問題をクリア。「ラスベガスに行く」という夢のために一直線に進み、ついに目標を果たす。10代の若者たちとの触れ合いも楽しみ、「いまが一番楽しい」と語る前向きでチャーミングな彼らの姿に、誰もが笑顔になるはずだ。▲一人ひとりのキャラクターが際立つ「ヒップ・オペレーション・クルー」のメンバーたち。共通するのは、困難さえ楽しむ強さや明るさだ。写真左下はマネージャーのビリー

メンバーを動かしたのは
大きな夢への小さな好奇心と勇気

映画では、メンバーのこれまでの人生を掘り下げていく。「私になびかない男なんていなかったの」と若いころを語る元オペレッタ歌手。ほとんど目が見えない73歳の若手メンバーは「障害がある人も誰にも遠慮せず外へ出ていくべき」と語る。70年以上連れ添った夫が認知症になり、それでも彼をいまだに“私の美青年” と呼ぶ93歳のテリーは、乳がんの経験者だ。そして、94歳のスターダンサーが語るのは、5人の子どもを抱えてシングルマザーになったいきさつと、若いときの恋の話。

彼らは偉業を成し遂げた人ではなく、隣にいそうな“普通の人”。メンバー自身が「これは、奇跡のようなものよ」と語るように、新しいことへの彼らの小さな好奇心と勇気は、やがて周囲に影響を与えていく。グループの活動を知って取材が来たり、アーティストからミュージックビデオの撮影や楽曲提供のオファーが来るなど、多くの人を動かしたのだ。▲ダンス中の風景。車いすのメンバーは、音楽に合わせて腕や上半身を巧みに動かしている

彼らを支えるマネージャーの思いは
「日常から一歩踏み出してほしい」

マネージャー兼振付師のビリーがワイヘキにやってきたのは、ニュージーランド史上最大の災害と言われる2011年の「クライストチャーチ地震」がきっかけだった。過去に、マーケティングや広報の仕事で経験を積み、当時、クライストチャーチの市議会で働いていたビリーは、この災害で怪我を負い、買ったばかりの家も失ってしまう。

その後、ビリーは失意のうちにワイヘキに移り住み、島の高齢者たちと触れ合うように。未来に希望が持てず、「自分は孤独で世の中から隔てられている」と感じている高齢者たちとビリー自身が重なり合ったのだ。しかし、彼女はそんな状況を打開しようと動き始める。「ヒップ・オペレーション・クルー」は、そうした活動の延長線上で結成されたのだった。

ビリーは、ダンスの経験はないが、メンバーからの信頼は厚い。それは、子どものころおばあちゃん子だったこともあるが、これまでの人生で多くの苦難を乗り越えてきた彼女が、メンバーとの交流を楽しみ、「いつも通りの日常から一歩踏み出してほしい」という熱い思いで彼らに接しているからだ。
▲ニュージーランドの「デザイア・ダンス・アカデミー」の若いダンサーたちとの交流。彼らとはラスベガスの世界大会でも再会する

★★HELPMAN Point!★★

ビリー率いる“世界最高齢のダンスグループ” が、ダンスを通じて10代のヒップホップダンサーたちと交流するのもこの映画の見どころ。孫のような年齢の彼らと友人のようにハグをし合い、語り合うメンバーたち。その姿から見えるのは、年齢を超えて尊敬し合う人対人の関係性だ。「老人といえば、いつも不機嫌で俺たちを目の敵にしてくる存在だった。でもみんながイメージを変えてくれた」「年をとっても踊っていたい」と若者たち。彼らも自分の祖父や祖母のようなメンバーたちに勇気をもらったのだ。

こうした高齢者と周囲の人との交流は、どこか「介護を受ける高齢者」と「介護に携わる人」との関係にも似ている。というのも、両者の間には、心の触れ合いや、お互いへの思いやりを通して人間的なつながりが築かれていくからだ。介護に携わる人にとっては、共感できる点が多いのではないだろうか。

挑戦することや人生を楽しむことに年齢は関係ない。目標に向かって多くの壁を乗り越え、若いマネージャーの応援を受けながら10代のダンサーとも交流するメンバーの姿に、誰もが元気をもらえるはずだ。ラスベガス・世界大会でのダンスシーンは、ドキュメンタリーならではの臨場感。この映画を観た後は、新しいことに一歩踏み出したくなるかもしれない。


★「はじまりはヒップホップ」
2016年8月27日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
予告編URL
https://youtu.be/IPcUdgPDu98

【監督】ブリン・エヴァンス 【出演】The Hip Op-eration Crew 【プロデューサー】ポーラ・ジョーンズ 【製作総指揮】アレックス・リー【音楽】トム・フォックス、マーシャル・スミス、サウンドルーム【撮影監督】ベヴァン・クローサーズ【編集】ピーター・ロバーツ【後援】ニュージーランド大使館 【協力】ニュージーランド航空 【配給】ポニーキャニオン
© 2014 Rise And Shine World Sales / Inkubator Limited / photo_Ida Larsson

【文: 池内由里】

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