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法人や事業所の枠を超え、地域内の介護施設が基本的な介護技術を統一し、“要介護者が安心できる介護サービス”を提供する人材を育成しようと「ケアライセンス制度」が北海道で始まった。また、こうした介護技術を介護施設の職員だけでなく、在宅介護をする家族、さらにはホテルなどサービス業のスタッフにも広げ、“地域ぐるみ”で介護者の育成を目指している。

徹底して利用者目線にこだわり
あらゆる場面で応用できる内容に

その名称は「羊蹄山ろくケアライセンス制度」。考案した運営主体は、後志(しりべし)老人福祉施設協議会・羊蹄山ろく地区ケア向上委員会。同委員会は、北海道老人福祉施設協議会後志管内の1市12町3村のうち、羊蹄山ろくの5町村に存在する特養やグループホーム6施設で構成されている。

同制度は、テキストおよびDVDの教材で介護技術を学習し、チェック表で自己評価⇒相互評価⇒外部評価を重ねて合否判定を行い、ライセンス獲得を目指すというもの。テキストは、「食事」「入浴」「排泄」など介助領域ごとにそれぞれ軽度から重度までの数段階に分かれて作成されている。それぞれA4判で10ページ程度のボリュームだ。実際の動き方を学ぶDVDは、介助領域ごとに30~40分程度の内容となっている。

ライセンスの受検者は、テキストおよびDVDでの自己学習や職場研修の受講後、チェック表に従って自分の介護技術について自己採点する。不十分のところを再度練習して“できる”ようにし、次に職場の同僚との相互チェックを行って、さらに練度や確度を高め、“できる”ことを積み上げていく。その上で外部評価者の検定を受ける、という流れだ。

2016年5月現在は、ベテラン介護職員の中からその評価者を選定している段階。8月ごろまでに30名ほどを選出する。評価者の選定基準は、検定問題を100%クリアできること。一般の介護職員の場合は、80%のクリアを目標としてライセンス授与を検討している。

「ライセンスづくりでは、徹底して利用者目線にこだわりました」と委員長の福山典子さんは言う。介護を受ける利用者の立場に立ち、利用者の安全やプライバシーを守ること、利用者が不快な思いをしない言葉づかいや動作に気を配ったという。さらに、例えば「食事はトイレを済ませた後にしてもらった方がゆっくり味わってもらえる」「声をかけるときは正面から笑顔で近づきゆっくり穏やかに話しかけると安心してもらえる」など、なぜそうした方がいいのかの根拠や原則を示し、介護者があらゆる介護の場面で応用できるよう工夫した。

「この『羊蹄山ろくケアライセンス』は、新任職員には介護の基礎を学ぶものとして、リーダーなどの立場の職員は自分の介護の見直しと原則を確認するものとして活用します。さらに、各施設においては職員の介護技術や知識の習得状況の確認、および施設全体の介護知識・技術を統一する基準としても活用していただくことで、利用者様に安心していただける介護サービスを提供できる職員の育成に役立つものであると自負しています」
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「先輩によって指導内容が異なる」
“困った”状況への対処が契機に

「ライセンス制度づくりは試行錯誤の連続で、結果的に5年がかりとなりました」と福山さん。制度づくりのそもそものきっかけは、2010年ごろのこと。新任職員研修で、ある受講者が発した「介護の手順や方法について、指導してくれる先輩が変わるたびに内容も違って困っている。誰の指導をお手本にしたらよいのか?」という一言だった。

「職員が困っているということは、その先の利用者様はもっと困っているのではないか、と。さらに、施設によってバラバラならば、羊蹄山ろくの住民の皆さんは安心して複数の施設を利用できない状態であるわけです。この困った現実を改善する必要を感じました」

また、「ホームヘルパー」や「介護福祉士」といった資格を取得していても、実際の介護現場で必ずしも適切な介護ができるとはいえない。逆に、無資格者でも優れた介護ができる人材も少なくない。

「そうした資格がなくても、ライセンス取得者は胸にエンブレムをつけたり、施設に名前を掲示するなどすれば、それが自信につながってモチベーションがあがり、介護の質が一層高まるとの考えも制度づくりの推進力になりました」

制度づくりに関わったのは、前述の6施設の介護主任や生活相談員。若手職員に指導する立場の熟練者だ。

「それまで口伝的に教えてきた介護技術を出し合い、一から一つにまとめていきました。自分たちも明確な根拠があってのことではなく経験知に頼る部分がほとんどであっただけに、自らの反省も込めながら作成していった感じです。また、全員が現場を持ちながらの作業でしたのでなかなか集まれず、さらに時間を要してしまいました」

と福山さんは制度づくりの苦労を語る。なお、活動の費用は会員施設に会費として年間7万円程度を収めてもらい、その予算で対応しているという。

在宅介護の地域住民や
地域のサービス業にも広げていく

数年前に、いったん出来上がったテキストを用いて職員研修を行った。その際、「どうしていいかわからなかったが、理解できた」「あの介護にはこういう意味があったのかということがわかった」などといった感想が寄せられたという。

「教材やライセンスの内容は常に更新し続けます」と福山さん。介護をめぐる環境は常に変化し続け、また正解は一つではない世界だからだ。

本制度は、当面は6施設の介護職員を対象として実施し、利用者がどの施設に行っても同様の介護が受けられるようにしていく。その先は、地域の住民やホテルなどのサービス業にも広めていく。

「羊蹄山ろくの住民にも、在宅介護をしている人は数多くいます。家の中での介護は難しい場面も多いのですが、知っていればぐっと負担が減る知識や技術は少なくありません。そういった方々に一つでも二つでも役に立てていただければ、という思いです」

同地区は小さい町や村が集まっている。住民と行政の距離が近く、「認知症サポーター養成講座」など介護に関する行政の催しに参加する住民も多いという。また、同地区にある唯一の高校では、介護福祉士を養成するコースも設けられている。自宅で要介護の祖父母と同居する生徒は少なくない。

「行政や学校で私たちがライセンス制度に基づいてレクチャーするチャンスもあると思います。そういったことも通じて、広まっていくのが理想ですね」

ホテルや飲食店などのサービス業に要介護者が来店した場合も、スタッフが身につけておけば要介護者は快適に過ごせるはずだ。

「サービス業をはじめ、介護の基本的な知識や技術が地域全体に広がることで、お年寄りが外出しやすくなり、また新たな雇用も生まれます。ケアライセンス制度をきっかけに、地域振興にもつなげていけたらと願っています」

“羊蹄山ろく介護スタンダード”が確立されれば、日本全国に広まる可能性も十分に考えられるだろう。
[
文: 髙橋光二
イラスト: 株式会社コットンズ
]
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