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社会福祉法人あかねが昨年8月に実施し、40名を超える子どもたちが参加したイベント『キッザケア』~子供たちが介護の未来を救う~。今年も介護医療サービスリゾート アマルネス・ガーデンにて5月5日に開催された。子どもたちが介護に関する3つの仕事を順番に体験し、働く楽しさを感じたり、介護への理解を深めるイベントだ。職業体験後に支給される報酬(専用通貨「キュア」)でお菓子やオーガニック野菜を購入し、「働く」「稼ぐ」「福祉への理解」といった社会の仕組みも学べる。広報マネージャー山本さんにイベントの目的や内容、取り組みについてお話を伺った。

『キッザケア』というネーミングは
本家「キッザニア」に由来

社会福祉法人あかね(以下、あかね)は、高齢者介護事業を中心に、保育所、シニア賃貸マンションなど、15施設を運営。福祉業界の枠にとらわれない発想で事業を展開し、固定概念を覆す施設建設や、独自の教育制度などがメディアからも注目されている。今回開催した『キッザケア』は、本家「キッザニア」への出店話から発展したという。

「尼崎市職員の方からたまたま『キッザニア』に空きブースがあるという話を聞き、『キッザニアに介護ブースを出す社会的意義って大きいよね』という会話から、一度『キッザニア』に出店価格を確認してみたんです。その話は、価格的に折り合いがつかず断念したのですが、それなら本物の福祉施設を使ってうち独自の介護職業体験ができないか、と企画することになりました」

その目的は、介護人員の確保だ。介護業界で働く人の数が減少していることに加え、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には介護人材が約38万人不足するといわれている。

「当法人では、福祉系の学生はもちろん、介護福祉を学んだことのない一般学生や、他業界からの中途採用希望者も採用するのですが、その大半が何らかしら介護に触れ合う機会があった方々です。核家族化が進む現代の子どもたちに、少しでも高齢者と触れ合う機会を提供して、『将来ケアワーカーになりたい!』という気持ちを持ってもらえればと。また、応募した小学生に加えてあかねの職員の子供にも参加してもらいましたが、働く親の姿を見せてあげるというのも『キッザケア』開催の目的のひとつでした」
▲『キッザケア』のオープニング風景。子どもと親が一緒に『キッザケア』の目的について確認する
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イベント準備期間は2カ月
現場とは別部隊で企画を推進

企画から実施までは約2カ月。短い準備期間でイベントを作り上げられるのは、独自の組織力によるところが大きい。あかねには、経営管理本部という部署があり、そこには人事部・クリエイティブチーム・エンターテインメントチーム・システムチーム・広報チームと5つのチームが所属する。「イベントやるぞ!」となれば、現場とは別部隊のこのチームが連携して企画から運営までを担当する。

「『キッザケア』では人事部が中心となり、介護士と管理栄養士の資格を持つあかね独自の職種・フードケアスタッフと連携をとりながら、企画からコンテンツづくり、段取り、現場との調整を行います。クリエイティブチームは、現場スタッフと同じ子ども用ユニフォームから小道具、専用通貨『キュア』などを制作。私たち広報チームはイベントの告知を担当し、エンターテインメントチームは当日のMCを担当して場を盛り上げます」

現場スタッフのサポートももちろん必要だが、基本的には法人全体からイベントのために人を集めるシステムで現場の負担を軽くし、「全てのことに妥協しない」というあかねの理念のもと、各チームのプロフェッショナルな仕事で『キッザケア』が行われるのだ。
▲経営管理本部のクリエイティブチームが、職業別のユニフォームから職業体験後に支給される専用通貨「キュア」、看護師のパートで使う人体イラストなどを、本物さながらのクオリティで作り上げる。この本気度合いが『キッザケア』成功の秘訣だ

尼崎市市制100周年記念事業に認定
周辺学校の協力を経て集客に成功

このイベント自体がボランティアであるため、「お金をかけずに告知する」ことも課題だったという。そこで着目したのが、尼崎市の市制100周年の取り組み。昨年のプレ記念期間に引き続き、今年も『キッザケア』は尼崎市市制100周年記念事業に認定された。

「タイミングがよかったですね。『尼崎市市制100周年記念事業』から補助金などは出なかったのですが、イベント自体に公共性を持たせることができたので、人事部が周辺の小学校にお願いした際もスムーズでした。小学校では、夏休みやゴールデンウィークなどの大型連休前に、休みの過ごし方などのプリントが必ず配布されるので、そのタイミングに合わせて『キッザケア』の開催日程を決定。そのプリントと一緒に渡していただけるよう手配しました。申し込みは公平性を考えて先着制に。ネットでも募集しましたが今回も30名の定員に対して2日で応募がいっぱいになり、うれしい悲鳴です。今年で尼崎市市制100周年記念事業は終わるのですが、この2年間の実績で、来年からも学校の協力は得られると思います」

今年のテーマは「楽しい思い出を」。昨年の経験を生かして、より子どもやその親、アマルネス・ガーデンに入居する高齢者たちに寄り添うプログラムを心掛けたという。

「子どもたちにいろいろ体験させてあげたいという気持ちが大きく、昨年は介護士・看護師・管理栄養士・広報という4つの職種を体験できる準備をしましたが、スケジュールがタイトでした。そこで今年は介護士・看護師・管理栄養士の3職種に絞りました。また、入居されている高齢者と触れ合う時間も短縮して、高齢者の負担を減らしました。親御さんからの『子どもたちの職業体験の様子を撮影したい』との要望から、今回は見学していただけるようになりました」
▲入居する高齢者の方が今回参加したのは、管理栄養士体験で子どもたちがつくった白玉を食べる役割。子ども好きの方が参加した

介護士・看護師・管理栄養士を体験
仕事の報酬「キュア」で買い物も!

あかねが運営する認可保育園「星児園 七夕」から園児たちを呼び、予行演習を実施してから望んだ本番。今年は6〜8歳の35名が参加した。見学に来た親たちが合間に楽しめるようにと、フードケアスタッフがスイーツビュッフェを用意しておもてなし。子どもたちは、「あか」「きいろ」「あお」の3チームに分かれて施設見学をした後、いよいよお仕事体験が始まる。

「介護士」では車いすと歩行補助を体験する。

「子ども同士ペアになり、乗ったり押したりと交代しながら車いすの仕組みを学び、最後は大人に乗ってもらい子どもが押します。障害のある道をペアで歩く歩行補助体験では、アイマスクをつけて目が見えない怖さを体感し、誘導者は声掛けの大切さを学びます」

「看護師」では、口腔体操と物を食べてから消化するまでの仕組みを学ぶ。

「実際の腸の長さや便の固さを体感し、口腔ケアまで学びます。そして子どもたちは看護師として3人1組で施設内の大人のところへ行き、問診とお腹のマッサージ方法を口頭で伝授。それを先生に報告します」

「管理栄養士」はフルーツ白玉を作る実技だ。

「咀嚼の難しい人でも簡単に食べられる豆腐を混ぜたフルーツ白玉を作り、普通の白玉との違いを自分たちで食べて確認した後、入居している高齢者の方々に食べていただきました」

職業体験の後は、3つの仕事で得た報酬の専用通貨「キュア」で買い物体験も。あかねが自社農園で作った野菜や駄菓子の販売ブースは大賑わいとなった。9時半からスタートしたイベントは13時すぎに終了した。
▲子どもたちはそれぞれのユニフォームを着て、介護士、看護師、管理栄養士を体験

一番人気は介護士体験
介護業界を知るきっかけに

職業体験をしたことで、あかねから「看護師認定書」、「キッザケアマイスター」(介護士の認定書)も手渡され、達成感を得た子どもたち。『キッザケア』終了後、お礼のメールや手紙が続々と届いた。

「実際に体験してもらったなかで一番人気は、介護士体験と食べ物系の白玉づくりでした。『キュアがもらえてうれしかった』『仕事も楽しかった』『時間もちょうどよかった!』などのお声を多数いただきました。アマルネス・ガーデンという介護福祉施設のインパクトも大きかったようで、いままでまったく知らなかった介護業界の入り口には立ってもらえたかな、と思っています」

「今回参加してくれたのは、アマルネス・ガーデン特別養護老人ホームの入居者。その中でも子どもが好きな高齢の方で、『刺激になった』と喜んでおられました。入居される高齢者の方々で『キッザケア』に参加できるのは、子どもたちに対応できる体力やコミュニケーションがとれる方に限られてきますので、今後は近隣のグループ施設にあるデイサービスのお客様に『キッザケア』に来ていただくなど、子どもと高齢者との交流をぜひ検討していきたいと考えています」
▲キュアをもらってうれしそうにお菓子を買う子どもたち

『キッザケア』を起爆剤として
業界全体で介護人員を増やす試みを

あかねでは、オリジナル認定のケアマイスター制度発足をはじめ、介護技術と組織力アップの向上を目指す介護オリンピック「あかねグランプリ」は2年前から他企業も巻き込んだ大会「C1グランプリ」へと成長し、14年に誕生したレクリエーション介護士の促進など、新しい取り組みに積極的だ。

「問題は介護人員不足の解消です。当法人のアマルネス・ガーデンでも施設オープン時に100名の人員を集めるのに非常に苦労しましたが、ここ数年の新卒採用状況のほうがもっと深刻です。5年前にはその年最初の会社説明会に40名近くの学生が参加してくれていたのが、年々目に見えて減少。今年は10名いくかいかないかという人数です。同じようにハローワークからの中途採用希望者も激減という現実に、危機感を感じています。『キッザケア』もすぐに結果につながるわけではなく、いわば種まきの状態。現在は6〜8歳と対象年齢が低いため、実際に職業体験としてできることに限りがあります。高学年なら実際に『社会貢献』『ボランティア』という意識を持って、介護士の仕事ができるようになってくるので、今後は高学年向けの『キッザケア』を企画したいですね。『キッザケア』を体験した子どもたちが高学年になって、また体験する。そうやって次につなげていけたらいいなと思います」

兵庫県教育委員会が実施する、中学生の職業体験『トライやる・ウィーク』と『キッザケア』との連携も模索中だ。

「今回参加されたお母さんから『ぜひうちの学校でキッザケアをしてほしい』との要望もあり、実際に学校に進言して頂きました。今後は、『施設で行うキッザケア』と、『出張キッザケア』の両方を提供できればとも考えています。また、尼崎だけではなく別エリアでの開催も合わせて検討中です。とにかく、介護業界全体のネガティブなイメージを改善し、介護人員を増やすことは社会福祉法人としての責任であり、国にかけあうだけではなく、自分たちで変えていくという姿勢も必要だと思います。『キッザケア』が起爆剤となり、あかねだけのものではなく、別の医療機関や介護施設にも参画してもらい、介護業界全体の意識が変わればと思っています。そして少しでも多くの子どもに介護に触れる機会を提供していきたいと思います」
▲施設見学で入浴介助器具の説明を受ける子どもたち。今後『キッザケア』の対象年齢があがれば、入浴介助体験も可能になるだろう
▲キッサケアが開催された、介護と医療が融合した大型福祉施設アマルネス・ガーデン。2014年にはリビング・オブ・ザ・イヤー(高齢者住宅経営者連絡協議会主催)の経営者が選んだ日本の高齢者住宅7選に選出され優秀賞を受賞した
[
文: 高村多見子
]
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