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本書は、『おひとりさまの老後」が大ベストセラ―となった上野千鶴子さんが、「在宅ひとり死(C)」は可能なのかをテーマに、当事者の立場から医療・看護・介護のフロントランナー11人に切り込んだ対談集です。介護保険制度成立から15年間蓄積してきた知恵やノウハウを伝えたい、在宅ひとり死を可能にした介護職たちにスポットを当てたいとの思いが込められています。さらに、カリスマたちに続く次の世代に向けての期待を伺うと、「カリスマを目指してはダメ」と意外な言葉が。この言葉に込められた本当の意味とは。
プロフィール紹介
1948年富山県生まれ。東京大学名誉教授、立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘教授。認定NPO法人WAN(ウィメンズ アクション ネットワーク)理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニア。近年は介護とケアへ研究領域を拡大。著書に『家父長制と資本制』(岩波文庫)『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『ケアの社会学』(太田出版)『上野千鶴子が訊く、小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』(共著、朝日新聞出版)など多数。

現場で支える人がいる限り
介護保険制度は信じられる

最新刊『ケアのカリスマたち』では、介護の現場で働く11人のカリスマと対談を行っている上野千鶴子さん。なぜ、今回は“現場の人”を題材にしたのだろう。

「これまでケアの現場を歩いてきて、“この人たちが支えている限り介護保険制度を信じられる”と思わせてくれる人たちがいました。日本は世界に類をみない超高齢社会。介護保険の導入から15年が経ち、経験と情報が蓄積され、制度が熟しています。知恵と工夫がわき出ている“現場のいま”を伝えない手はないと思いました。

また以前、『おひとりさまの老後』という本を書き、大きな反響がありましたが、実はこれ、学術書である『ケアの社会学』を書いたときの副産物。おひとりさまの老後のために汎用性のあるマニュアル本を作りたかったんです。今回は、そんな私の“私利私欲シリーズ”として、『おひとりさまでも家で安心して死ねるのか』という問いに役立つ、スーパー実用書にもなっています。

この『在宅ひとり死(C)できるか』という問いに対して、医者が“できる”と言えるようになったのは現場の介護職のおかげです。それなのに、介護職の人にはなかなか日が当たらない。そういう人たちを売り込みたいという思いもありました。この本は、介護職の応援本でもあります」
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人材とインフラの充実、
時代の変化が可能にした在宅ひとり死

▲カリスマのひとり、訪問看護師の秋山正子さんと対談中のひとコマ
当事者として上野さんが11人のカリスマに問いたかったのが、「家でひとり死できるか」ということ。「在宅ひとり死」は、一人で老いて一人で死んでも「孤独死」と言われたくない、と上野さんが生み出した言葉だ。これについて、あとがきでは、「安心という最大の成果を得た」と書かれている。

「介護保険制度が始まる以前、在宅で死ぬためには、同居家族がいることが前提でした。家族の支えがあって初めて、病院ではなく自宅で看取ってもらえるというわけです。しかし、その状況は介護保険が始まって15年の間にがらりと変わりました。制度によって人材とインフラが充実したことは大きく、介護をアウトソーシングできる環境が在宅ひとり死を可能にしました。

むしろいま、医師も看護師も介護職も、口を揃えて言うのが、家族など関係者が少なければ少ないほど自宅での看取りは実現しやすいということ。家族がいるとかえって病院や施設に入れられてしまう。本人が自宅で死にたいと言っても、死なせてもらえないのです。

おひとりさまである私は、自宅で死ぬのに反対する人がおらず、サービスを提供する側も“独居なら楽勝”とまで言ってくれています。これを、私は医師や介護職のプロから直接聞いて、『これなら安心して一人で死ねる』と確信できるようになりました。

ただ地域格差は大きく、人材とインフラが十分でないところがあります。在宅ひとり死のためには、介護職の存在は重要。介護は生活を支える面、看護は線、医療は点、それらのあいだの連携が必要です。医者が一人でがんばったって無理。それをさまたげている要因のひとつは、医療・看護・介護職のヒエラルキーです。利用者の立場からみると、現場の細分化された分業とヒエラルキーは、なければないほどいい。そのためにも、介護職はルーティンワークに収まらず、もっと力量をつけてほしいですね」

カリスマに共通するのは
チャレンジ精神と当事者目線

上野さんは、本書に登場した11人を、“ケアのカリスマ”と位置付けている。これは、彼らに共通したあるスピリットを感じたからだという。

「彼らは、いままで誰もやってこなかったことに取り組んできた人たち。カリスマはパイオニアという面も併せ持っていて、チャレンジスピリットとベンチャースピリットを持っています。ただ、利益をあげるのが目的のベンチャービジネスと介護・福祉業界では大きく違う点があります。

それは、当事者目線があるかどうか。介護・福祉業界のカリスマは、目の前の人から目をそむけずに、その人たちのニーズにどう応えていくかから逃げない人たち。ニーズに応えるためならば嫌われ役も辞さない覚悟があります。

介護老人保健施設で現場指揮官として奮闘されている高口光子さんは、“好きな年寄りにえこひいきしてケアをしてもよい”とか、“なぜあの年寄りはみんなから嫌われるのか、一緒に考えよう”と常識はずれな研修を実践されています。でも、それによって職員のモチベーションもアップして、結果的に介護研修のカリスマ、施設立て直しのプロとして頭角を現しています。

介護保険制度のおかげで、介護事業には8兆円規模のマーケットができました。そこで儲かるビジネスをやる人たちもいます。問題は、当事者ニーズにとって『よいサービス』か『困ったサービス』かということ。当事者にとって困ったサービスでも、家族や事業者にとってよいサービスの場合もあります。本当によいサービスを提供する人たちが、ちゃんと報われる仕組みがあってよいと思います」
▲カリスマとの対談にあたっては、全ての仕事現場に同行し、取材して対談を行った。画像は市原美穂さんの「かあさんの家」で入居者と記念撮影する著者

第二世代はカリスマを
目指すべきではない

カリスマたちが蓄積してきたノウハウに信頼を寄せる一方で、上野さんの期待は早くも次なる第二世代に向けられている。しかし、第二世代に求めることは、次のカリスマを目指すことではないという。

「今後の介護業界は、カリスマなしで動けるシステムをどう構築していくかだと思います。つまり、普通の力量と普通の意欲を持った介護・医療職たちが無理せず働いて目的が達成される環境をつくること。なぜカリスマが生まれるかというと、制度の欠陥や社会の空白があるから。カリスマなんて生まない社会であることに越したことはありません。

もちろん、いまの制度には欠陥がたくさんあります。介護職の人は現場が好きで、やる気を持って業界に入ってきているのに労働条件が悪すぎる。介護の人手不足は人災です。でも、それに甘んじないで、介護職も職能団体をつくって発言するべきです。そうでなければ、地位の向上なんてありません。当事者が要求しなければ誰も応じてくれないでしょう」

「これから先、超高齢社会には次から次へと未曽有の状況が起きるでしょう。そういう意味では介護現場は日々動いている領域、むちゃくちゃ刺激的で面白い。その中で第二世代が持つべきものは、誇りあるプロフェッショナリズム。システムの中で自分たちの仕事を組み立てていくようなプロとしての力量をつけてほしいですね。

いまの介護業界は価格と品質が連動していません。それは当事者が選ぶというサービスがなく、競争を抑制するような仕組みになっているからです。そんな参入障壁をつくらず、どんどん入ってどんどんつぶれていけばいい。その結果、困ったサービスがなくなって、すぐれたサービスが残るのが理想です。そこで、個人としても事業体としても選ばれるサービスの提供者になっていってほしいと思います」

プロフェッショナリズムとは
徹底的な当事者主権であること

次なる第二世代に対し、プロフェッショナリズムを持ってほしいとエールを送る上野さん。介護職における“プロフェッショナリズム”とは、いったいどのようなものなのだろう。

「徹底した当事者主権の立場に立つということです。北海道に、“介護されるプロ”と名乗る人がいます。『札幌 いちご会』を主宰されている、全身性障害者の小山内美智子さんです。被介護歴が60年を越える彼女以上に長い介護の職歴を持つ“介護するプロ”はいないでしょう(笑)。その彼女が、介護の本質を突いたメッセージを発しています。それは『手慣れたベテランのプロの介護は堕落する』という言葉です。介護というのは身体と身体のコミュニケーション。人にとって一番無防備なところに関係する仕事。全てが一度きりの出会いですから、手慣れることなどあってはなりません。

アルチザン(=職人)とアーティスト(=芸術家)という言葉があります。両者の大きな違いは、アーティストには固有性(他人にまねできない)が必要だけれど、アルチザンには汎用性(他人に学べる、まねできる)が必要だということ。だからアーティストの仕事には名前が残るけど、アルチザンは名前が残りません。むしろ名前が残らないことがアルチザンの誇りです。学者もアーティストではなくアルチザンです。私は、介護職の人たちには、そんな名もなきプロ、アルチザンになってもらいたいと思っています」
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★『ケアのカリスマたち 看取りを支えるプロフェッショナル』
価格:1600円+税

【著者】上野千鶴子 【発売日】2015年3月23日 【ISBN】978-4-7505-1427-7 【出版社】亜紀書房

(内容)
『おひとりさまの老後』の上野千鶴子が、日本の在宅介護・医療のフロントランナー11人に体当たり! 在宅看取りのノウハウからコストまで、大胆に切り込んだ対談集。

・おひとりさまでも、最期まで家で暮らせますか?
・在宅の看取りにはいくらのお値段がかかりますか?
・おひとりさまの在宅死に必要な条件はなんでしょうか?
・介護を担う家族がいなくても、安心して老後を迎えられますか?
・わたしたちの老後には、どういう選択肢があるのでしょうか?

本書に登場する人々 ※原本引用
・山崎章郎(在宅ホスピス医/「ケアタウン小平クリニック」院長)
・松村真司(総合診療医/「松村医院」院長)
・英裕雄(都市型在宅医/「新宿ヒロクリニック」院長)
・秋山正子(訪問看護師/「ケアーズ」代表)
・小山剛(地域包括ケアのモデル/「こぶし園」総合施設長)
・高口光子(介護アドバイザー/「星のしずく」「鶴舞乃城」看・介護部長)
・藤原茂(作業療法士/「夢のみずうみ村」代表)
・近山恵子(高齢者向け住宅プロデューサー/「コミュニティネットワーク協会」理事長)
・柳本文貴(ホームヘルパー/「グレースケア機構」代表)
・柴田久美子(看取り士/「日本看取り士会」会長、「なごみの里」代表)
・市原美穂(「かあさんの家」運営/「ホームホスピス宮崎」理事長)
[
文: 岡本のぞみ(verb)
写真: 成田敏史(verb)
]
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