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博報堂のシンクタンクである「新しい大人文化研究所」では、これまで「中高年」「シニア」「高齢者」と呼ばれていた人たちにはない、新しい感覚を持った今の40~60代を「新しい大人世代」と定義し、この世代が生み出すさまざまな社会現象について調査・分析しています。若いころに日本の若者文化を生み出してきた団塊の世代が高齢者の仲間入りをしたことで、従来の高齢者像は変わりつつあり、「新しい形のデイサービスやシェアハウスが誕生することもあり得ない話ではない」と話す阪本節郎さん。日本の超高齢社会は、今後どのように変わっていくのでしょう?
プロフィール紹介
1975年早稲田大学商学部卒業。博報堂入社後は、食品・トイレタリー・自動車・OA・金融などのプロモーション企画実務を経て、プロモーション数量管理モデル・対流通プログラムなどの研究開発に従事。その後、商品開発、統合的な広告プロモーション展開実務に携わりつつ、企業のソーシャルマーケティングの開発を理論と実践の両面から推進。現在は、博報堂 エルダーナレッジ開発 新しい大人文化研究所所長を務める。

中高年やシニアと呼ばれる人たちが
大きく変わろうとしている

いま、「中高年」や「シニア」と呼ばれる世代が、大きく変わろうとしています。

博報堂は介護保険制度がスタートした2000年、社会の高齢化に対応するため、新しい大人文化研究所の前身となるエルダービジネス推進室を立ち上げました。50歳以上をエルダーと規定して、その生活意識の変化に注目して調査・分析を行う、広告業界で初めての専門組織です。そこで分かったのが、いまのエルダー層が従来の「中高年」「シニア」「高齢者」とは大きく異なってきていることでした。

ポイントは、彼らが新聞、テレビ、インターネットといったメディアに常に触れていて、ケータイやスマホにも抵抗がない「メディア生活者」であり、定年して会社を引退しても、社会からは引退しないということです。また、「成熟」から「センス」へという意識の変化が起こっていることも分かりました。例えば、中高年に対する褒め言葉といえば「成熟した人」というのが一般的でしたが、調査をしてみると、「若々しい」や「センスがいい」と言われる方がうれしいと答える人が多いのです。

調査をすればするほど、従来の中高年意識が消滅しつつあること、そして、そうした人が超高齢社会を本格的に変えていくだろうということが見えてきます。そこで私たちは、「中高年」「シニア」「高齢者」と呼ばれていた人たちにはない感覚を持った人たちを総称して「新しい大人」と呼び、特に従来の中高年意識が消滅しつつある40~60代を「新しい大人世代」と定義したのです。
▲「成熟した」よりも、「若々しい」「センスがいい」という言葉が、いまの40〜60代の基盤の意識となっている(図版:博報堂 エルダーナレッジ開発 新しい大人文化研究所HPより)
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経済成長を経験した新しい大人は
社会全体を変える勢いを持っている

いまの40~60代は、ポスト団塊、新人類、バブル世代と、みんな若いときに右肩上がりの経済成長を経験している世代です。調査を行うと、こうした世代の人がその感覚のまま年齢を重ね、社会全体を変える勢いを持っていることが見えてきます。

例えば、年齢を重ねるとだんだん粗食になるのが常識でしたが、いまの40〜60代の85%は肉料理が好き。また、団塊の世代を含む60代の男性は、退職金の17%を投資運用に回していて、いわゆる“貯蓄塩漬け高齢者”ではなく、お金に働いてもらうという意識が強い人が多いのです。そもそもいまの70代以上と団塊の世代とでは、育ってきた環境が異なることが、こうした変化の大きな要因といえます。

団塊の世代は日本で初めて若者文化を創った人たちで、ジーンズをはいたり、ロックやポップミュージックを聴くような、いま見かける光景は全て、彼らが初めてやったわけです。特に、団塊やポスト団塊の女性たちは、ミニスカート旋風を巻き起こしたツイッギーの来日を経験し、日本で初めてミニスカートをはいた勇気ある女性たち。男女の社会的な対等・平等を訴えるウーマン・リブも起こりましたし、恋愛婚と見合い婚の比率もこの世代から逆転しました。

大学紛争を経て企業社会に入った団塊の世代の男性と比べて、家庭に入って子育てを始めた女性たちは、ファッションやトレンドを追いかけながら、食の安全や環境など、社会的な問題にも関心を持ち続けてきた。言ってみれば、彼女たちが日本の新しい文化を常に創ってきたといえるのです。

介護予防を8割以上が実践
「老人」にならない人がこれからは増える

新しい大人世代は、自分たちを「シニア」や「中高年」だとは考えていません。例えば、「あなたはシニアと呼ばれて自分のことだと思いますか」という質問に、「そう思う」と答えた50代は19%です。60代では半数を超えるものの、「シニアと呼ばれてみたい」と答える60代はわずか12%です。

こうした世代の象徴といえるのが、2014年11月に亡くなった高倉健さん。83歳で亡くなってしまいましたが、彼は結局「老人」にはならなかったですよね。また、オノ・ヨーコさんが2014年のフジロックに登場しましたが、誰も「おばあちゃんが来た」とは思いません。

ようするに、これからは老人にならない人が増えていく。実際、団塊やポスト団塊の世代で孫がいる女性は、孫に「おばあちゃん」と呼ばせず、名前か「大ママ」というふうに呼ばせるという調査結果があります。女性誌『GLOW』の創刊がきっかけで「○○女子」という言葉が広がり、いまや10代も70代も全て「女子」とくくられる時代です。

こうした世代は「カッコいいこと」をよしとしているし、自分の親の介護を経験したり、介護保険制度が浸透してきたこともあって「介護予防」の意識も強い。団塊の世代を含む40〜60代の約82%が要介護状態にならないために何らかの心掛けをしており、60代になるとその割合は約90%に上るのです。
▲「要介護にならないための日頃心掛けていること/実行していること」の質問より。60代全体の約9割がすでに介護予防策を実行しており(赤枠内)、年代が上がるに連れて上昇する傾向があることがわかる。また、60代の「介護予防の具体的な取り組み」で高いスコアとなったのが、①「適度な運動」、②「定期健診」、③「散歩などで歩くことを心掛ける。」で、いずれの項目も女性が高い(図版:博報堂 エルダーナレッジ開発 新しい大人文化研究所レポートより)

共助の気持ちが強い新しい大人が
介護の形も変えていく

新しい大人世代は、自分が要介護状態になったとしても、地域の人たちと助け合っていく共助の気持ちが強いですから、介護の形も変わっていくでしょう。

そもそも団塊やポスト団塊の女性たちは、自分の子育てが終わると地域の介護NPOの設立に取り組んできた世代。男性も、仕事はリタイアしても社会的なことに従事するという気持ちが強いですから、介護についても共助が始まるのは必然的な結果といえます。実際、ある地域で行われた、自分のキャリアを社会活動に生かすためのセミナーに人が集まり過ぎてしまったという話があるくらいです。

2015年から地域包括ケアの一環で生活支援コーディネーター制度の開始が予定されていますが、これからのデイサービス施設では、団塊の世代が生活支援コーディネーターとなって、彼らが介護される側から介護する側に転換する可能性もあります。団塊の世代自らが運営するデイサービス施設や、介護度の軽い人たちがお互いに足りないところを補うシェアハウスも増えていくでしょう。

介護のプロたちは彼らのよきアドバイザーであり指導員であるというふうに、地域の中のリーダー的な立ち位置になる。さらに、デイサービス施設が介護が必要な人をケアする場としてだけでなく、介護離職をした人や要介護者の家族がお互いの悩みを相談できる場、地域で助け合う「コミュニケーションカフェ」のようなかたちに生まれ変わることも考えられます。

新しい大人文化の社会が
高齢化をポジティブな機会に変える

新しい大人世代の台頭や、目に見えて人口構造が変わってきたことで、エンドユーザー向けの商品を展開している企業は、ここ数年で変わらざるを得なくなってきています。商品の対象となるユーザーの年齢が上がってきているため、各企業でシニアプロジェクトを立ち上げたりと、切実度合いが高まってきました。

日本では長い間、マーケットの中心が若者で、ヨーロッパのように連綿と続く大人文化はなかったわけですが、まったく新しい大人文化が生まれる可能性があるのです。

これまでの大人といえば、若者を叱るものでしたが、これからは新しい大人と若者世代が共に支え合うクロスジェネレーションが生まれようとしている。例えば、「大人世代と若者世代がお互いのよさを認め合いながら、交流・協力し、新しい文化や潮流を創る時代」について、40~60代の68%が共感すると答えています。また、「大人世代が若者世代を応援することで、若者世代からも新しく社会的にも意義のある文化や潮流が生まれる時代」になることにも、62%が共感しているんです。

高齢化が進むことはネガティブに捉えられがちですが、新しい大人によって新しい大人文化の社会ができれば、高齢化という問題がポジティブな機会に変わり、世界のモデルケースになる可能性も十分あるのです。


※本文内で紹介したデータは、博報堂 エルダーナレッジ開発 新しい大人文化研究所の調査を基にしています
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文: 成田敏史(verb)
写真: 高橋定敬
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