facebook
twitter

最新トレンド

2014.09.11 UP

安全・安心、しかもおいしい! ベーカリーが開発した介護用食パン

「アンデルセン」「リトルマーメイド」「タカキベーカリー」など、パンの製造・販売を行うアンデルセングループ。そのグループ会社であるタカキヘルスケアフーズでは、かむ力や飲み込む力が弱くなった高齢者でも安全・安心に食べられる介護食「らくらく食パン」を開発・販売しています。パン食を好む高齢者が増えたいま、ベーカリーとして、誰もが楽に食べられるパンを提供したいという思いから開発されたこの商品。見た目は一般的な食パンと変わりませんが、固くて食べにくいミミまでやわらかいため大変食べやすく、味もおいしいと、高齢者施設や病院を中心に、パンの好きな高齢者から支持され始めています。

「パンを食べたい」と要望する高齢者が
安心して食べられるパンを提供したかった

画像/「らくらく食パン」はプレーン味、コーヒー牛乳味、あっさり味の全3種。2009年に開催された「第15回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会」で、高齢者にとってかみにくい食品のひとつであるパンで初めての介護食を開発したとして、最優秀企業展示賞を受賞しているいま、食生活の欧米化に伴い、パン食を好む高齢者が増えています。2007年にアンデルセングループが高齢者施設で調査を行ったところ、約8割の方が「パンを食べたい」と要望していることがわかりました。

ただし、パンはご飯と比べて水分が少ないため、かむ力が弱くなった方には食べにくいのです。また、唾液と混ざって固まりになると、飲み込みにくくなります。こうした理由から、パンは危険性が高い食品として、パンの提供をためらう施設や病院も少なくありません。

そこで、パンが食べたくても食べることができない方が安心して食べられるパンを提供したい、という思いから開発したのが「らくらく食パン」(※1)です。

一般的な食パンと比べて水分量が多く、UDF(※2)の区分3の商品として、舌でつぶせるほどやわらかく、スプーンですくって召し上がっていただくことができます。

※1 「らくらく食パン」を介護食として利用する際は、事前にかかりつけの医師、歯科医師、看護師、栄養士、言語聴覚士など専門の方にご相談の上、利用してください

※2 ユニバーサルデザインフードの略。「容易にかめる」(区分1)、「歯ぐきでつぶせる」(区分2)、「舌でつぶせる」(区分3)、「かまなくてよい」(区分4)の4つの区分に分けられており、日本介護食品協議会が制定する規格に適合したUDF食品のパッケージには「UDFマーク」が必ず記載されている

開発で特にこだわった、
やわらかさや見た目のおいしさ

画像/「らくらく食パン」はレンジで温めるだけの簡単な調理で楽しむことができる。味付けがシンプルなため、ジャムやはちみつ、シチューなどのおかずとの相性も良い介護食というと、食材を細かく刻んだ刻み食や、ミキサーにかけたミキサー食などがあり、召し上がる方の食べる力の強弱に合わせて提供されています。“視覚的なおいしさ”は食べる喜びにつながりますが、そのメニューが何なのかわからないものが提供されることも多いのです。

「らくらく食パン」の開発にあたって私たちがこだわったところは、やわらかさはもちろん、見た目も味わいも皆さんがなじみのある食パンにすることです。

「らくらく食パン」の製造工程は、皆さんが食べる食パンとほぼ変わりません。パン生地をこねて発酵させ、型につめて焼き上げていますから、ミミもしっかりついていますし、パンそのものの味や風味を楽しんでいただけます。

一般的な食パンのミミは固いですが、ミミまで柔らかくなるように、材料の配合や、特に焼く工程は工夫しています。ただ、狙いのやわらかさを工場で安定して製造できるようになるまでには結構時間を要し、開発を始めてから発売まで、およそ2年かかりました。

「らくらく食パンならペロッと食べられた」
「見た目も食パンだからうれしい」との声も

画像/高齢者施設で「らくらく食パン」を食べた高齢者の評価。かみやすさ、飲み込みやすさ、おいしさについて、高い評価が出ている(タカキヘルスケアフーズ提供)「らくらく食パン」は2010年にプレーン味を発売し、2011年にコーヒー牛乳味とあっさり味も発売しました。召し上がっていただいた方からは、「普通のパンでは食べることに時間がかかっていたが、『らくらく食パン』ならペロッと食べられた」とか、「見た目も食パンなので喜んで食べてもらった」などの声をいただいています。

売り上げはまだまだ小さいものの、病院や高齢者施設での導入事例が多く、個人のお客さまにも弊社の公式ホームページなどから購入していただいています。展示会に出展すると、施設や病院のスタッフの方から、「これならうちの患者さんでも食べられる」と、問い合わせをいただくことも多いですね。

低栄養の問題改善のため
カロリー量も改良を加える

高齢者が安心してパン食を楽しめるように、「らくらく食パン」は今後も改良を加えていきたいと考えています。

例えば、いま、高齢者の低栄養が問題になっていますが、現場の方々からのご要望を受け、発売当初は1枚で100キロカロリーだったものをリニューアルし、130キロカロリーまで増やしています。

また、「食パン以外のパンができないか」といったご要望もいただいていますので、さらに改良し、品揃えも増やしていきたいと考えています。

食事の問題を抱えている人々に
ベーカリーとして何ができるか

画像/たんぱく質の摂取を控えている人向けに、タカキヘルスケアフーズが開発した「たんぱく質調整ピザパン」。治療食の分野でも、ベーカリーならではの発想と技術で商品開発を行っている(タカキヘルスケアフーズ提供)タカキヘルスケアフーズでは、人が生まれてから亡くなるまで、それぞれのライフステージで求められる課題を見つけ出し、お客さまが健やかに暮らしていくための、おいしい商品を提供していきたいと考えています。

介護に限らず、食物アレルギーや糖尿病、腎臓の病気など、さまざまな事情で食事に問題を抱えている方に向けて、おいしいパンやデザートを提供することが私たちの使命なのです。

「らくらく食パン」以外にも、卵や乳製品を使わないパンやケーキ、たんぱく質を減らしたパンやケーキなども製造しています。

高齢者向けに開発した「らくらく食パン」も、実際に発売してみると、摂食・嚥下(えんげ)が難しい障がいのあるお子さんたちや、事故や病気で口腔機能が十分でない患者さんなど、高齢者以外の方からのニーズも見えてきました。

私たちが手がけている商品は、やわらかくする、卵や乳製品を使わない、たんぱく質を減らすなど、どれもパンづくりという面では制約のあるものばかりですが、私たちが目指しているのは、誰が食べてもおいしいもの。ベーカリーのプロフェッショナルである私たちが食べて納得のいくものを開発し、病気や年齢に限らず、皆さんから「これはおいしい!」と言っていただける商品を作っていきたいですね。

【文: 成田敏史(verb) 写真: 芹澤裕介】

一番上に戻る