対談
「今月のヘルプな人」第2回(前編)/日本の介護をテーマにした漫画『ヘルプマン!』(講談社)の作者・くさか里樹さんが、さまざまなジャンルの“ヘルプな人”と対談するコーナー。第2回のゲストは、宇宙飛行士の山崎直子さんです。対談は東京・お台場にある「日本科学未来館」で行われました!「宇宙と介護」といわれても、いまいち接点がないように思えますが、宇宙空間では、高齢者をはじめ、地球上の私たちにも役立つさまざまな研究が行われているのだそう。大人用おむつもNASAの技術開発で生まれたもの!? 宇宙と介護の思いがけない接点の数々が、山崎さんから飛び出します!(対談の模様は、5月と6月の2回にわたりお届けします)

認知症改善でも宇宙空間でも
“水”がキーワード

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山崎さんには『ヘルプマン!』の<認知症予防編>(※)を
描くに当たって、一度お話をうかがったんですよね。
宇宙のことや宇宙飛行士の訓練の過程について。
介護とつながる部分もいろいろとあって、とても興味深かったです。
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あのときの話の内容を、漫画の要所要所で織り交ぜてくださっていて。
漫画を読んで、こんな形でしっくり収まるのだとびっくりしました。
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よかった(笑)。
漫画で一番伝えたかったのは、認知症の症状が
“1日1500ccの水分補給”で劇的に改善することでしたが、
山崎さんも国際宇宙ステーション(以下、ISS)の中では
「水」がとても大事だとおっしゃっていましたよね。
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そうですね。水はキーワードだと思っています。
いま、ISSではできるだけ地上からの補給に頼らないで、
水をリサイクルする研究が進められているんです。
トイレから回収した尿を浄化して、
飲み水や生活用水に再生するというふうに。
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にょにょ~ん! そんなことができるなんて、すごい!
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限られた資源を大切に使っているとはいえ、
飲み水は1日1人2リットル必要ですし、
身づくろいや、宇宙食を食べられる状態に戻すときにも水を使います。
ですから、ISSという人工的な空間の中で、
水は命の証しというか、シンボルみたいなイメージなんです。
※ 漫画『ヘルプマン!』25巻に収録。60歳の元女性宇宙飛行士・汲田光が、認知症になった父親と同居しながら、研究者、娘として認知症を深く理解していくストーリー。1日1500ccの水分補給が、認知症の予防や改善に効果があることが紹介されている。
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超高齢社会に役立つ研究が
宇宙で進められている

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宇宙空間では、筋肉が衰えるっていいますよね。
それは身体で感じるものなんですか?
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自覚はほとんどありませんが、宇宙空間では何もしないと
筋肉の衰えが早くなり、骨密度も減っていきます。
筋肉量は、太もものあたりなら1日で約1%、
骨の密度は1カ月で1~2%くらい減っていくんですよ。
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まさに“老化”ですね。
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それを防ぐために、ISSの中では定期的に運動をします。
長期滞在している宇宙飛行士の場合は1日2時間、
エアロバイクやランニングマシンを使って。
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2時間も! 
アスリート並みですね…。
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そうですね(笑)。
宇宙飛行士の向井千秋さんが室長を務めている、
JAXAの宇宙医学生物学研究室というところでは
こうしたトレーニング方法をはじめ、
宇宙空間での健康面についての研究を進めているんですよ。
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他にはどんな研究があるんですか?
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ISSという閉鎖された空間でのメンタルヘルスケアやストレスのマネジメント、
遠隔地で診断や治療を行う遠隔医療システムについてなど、さまざまです。
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ふむふむ。
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こうした研究は、高齢者の骨粗鬆症の予防とか、
医師が不足している地域での遠隔医療など、
宇宙飛行士だけではなく、地球に住む私たちにも
広く還元しようと、進めているものなんです。
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すごい。これからの超高齢社会にも
役立つ研究が、宇宙で始まっているんですね!

大人用おむつは
NASAが技術開発した?

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ISSは“閉ざされた空間”とおっしゃっていましたが、
山崎さんは宇宙に行って、どんなところが不便だと感じましたか?
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いろいろありますが、例えば排泄ですね。
慣れないうちは排泄するための筋肉がうまく使えないんです。
私も最初は違和感を覚えましたし、
人によっては、数日間トイレができなくなる人もいます。
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それ、わかる気がします。寝たきりの高齢者のことを知ろうと、
私も寝たままでおしっこをしてみたことがあるんですけど、
うまく出ない(笑)。
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感覚的なことや、重力との関係もあるんでしょうね。
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そういえば、大人用おむつはNASAが開発したものだという
話を聞いたんですが、ホントなんですか?
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私もそう聞いています。
宇宙に行くときは、打ち上げの約3時間前には
宇宙服を着て宇宙船に乗り込んでいますから。
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そんなに前から!
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ですから、大人用で大容量の水を吸収できるおむつを
NASAが技術開発したといわれています。
宇宙での船外活動でも、宇宙服を着て外に出たら
7時間近く作業し続けるので、おむつを使うんですよ。

宇宙でも介護施設でも
大切にされる心理ケア

画像/当日は山崎さんからヘルプマンジャパンにサインをいただきました!
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そういえば、山崎さんは以前、ISSと介護施設の環境は
似ているところがあるとおっしゃっていましたよね。
どんなところをそう感じたんですか?
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介護施設はあくまでイメージなのですが、
昔、アキレス腱を切って入院したことがあるんです。
相部屋で、プライバシーもない環境に24時間いるというのは、
ある意味ストレスがかかりますよね。
病気やケガで退院する時期が決まっていたり、
ISSのように滞在期間がわかっていれば違うのでしょうが、
介護施設という限られた空間に長い時間いるのは、
心理的に大変なこともあるのではないかと思って。
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確かにそうかもしれませんね。
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NASAでは、宇宙飛行士の心理ケアが大切だと認識されていて、
個人の嗜好品を宇宙船の荷物の隙間に入れてくれたり、
宇宙食でもチョコレートとかを“ボーナス食”として出してくれたりするんですよ。
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へ~!
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ミッションだから私物はいらないだろうとなってしまうところを、
むしろ、くつろげるような形にしようと変わってきたんです。
それはすごくありがたかったですね。
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そう思うと、人ってかわいい。
チョコひとつでうれしくなるんですから。
ホントにちょっとした配慮でいいんでしょうね。
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家族や友達と自由に会えないと、
作業効率がどうしても落ちてしまうことがあります。
ですから宇宙飛行士たちも、夜寝る前に
電子メールで地上の人としたり、
SNSでつぶやいたりする人もいるんです。
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へ~! 限られた環境の中でも、
何らかのコミュニケーションができれば違いますもんね。
いま、介護施設でもいろんな取り組みが行われていますが、
家族との面会や決まり切った“お見合い”みたいな交流だけではなくて、
かつてのご近所つきあいみたいな日常がつくれれば楽しいかも(笑)。


(続く/対談の後編は6月30日に公開予定)

★くさか里樹のつぶやき★

「ど日常の介護と、大気圏外の宇宙と、かけ離れてるかと思いきやさにあらず〜!介護ってやっぱ無限大です!しかし、山崎宇宙飛行士はステキすぎます♡」(くさか里樹)
================================================
★取材協力/日本科学未来館★
宇宙飛行士の毛利衛が館長を務めるサイエンスミュージアム。自分自身で触れ、楽しむことができる参加体験型の常設展示や企画展の他、実験教室やトークイベントなど多彩なメニューで先端科学技術を体験できる。全天周映像とプラネタリウムが楽しめる映像シアターや科学コミュニケーターでもある、ヒューマノイドロボットASIMOが人気。
親子で楽しめる新規コーナー!
6月13日より親子向け新規コーナー「“おや?”っこひろば」を公開。体を使って遊びながら「おや?」と不思議に思うことを自ら発見するための仕掛けがたくさん用意されている。子どもたちに次々とわき上がる「ハテナ」の生まれる瞬間を親子で一緒に楽しむことができる。ひろば内で実施される様々なイベントにも注目。
日本科学未来館
所在地:東京都江東区青海2-3-6
電話番号:03-3570-9151
URL:http://www.miraikan.jst.go.jp/
[
文: 成田敏史(verb)
写真: 片桐圭
]
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