ヘルプマン
経営戦略室、クリエイティブチーム、エンターテイメントチームなど、社会福祉法人にはめずらしい部署名が並ぶ。経営戦略室を率いる松本さんは金融会社出身。その他のメンバーも異業界出身者が集まった。ここから「ケアマイスター」「介護オリンピックあかねグランプリ」など、介護・福祉という先入観を抜きにした新しい試みを次々と発信。新たな施設には待機者が列をなし、就職フェアではブースに学生が押し掛ける。高齢者の暮らしや最期を演出するプロフェッショナル集団をめざすあかねは、いま目が離せない存在だ。
プロフィール紹介
関西学院大学大学院経営戦略研究科修了。大手金融系企業で営業や人事部門を経験後、2002年にあかねに入社、統括本部長に就任。各現場で民間の経営感覚を生かした改革に着手、2009年に独自の介護技術認定制度「ケアマイスター」を導入。2010年には、営業・人事・企画・広報を専門で担当する経営戦略室を発足。介護業界の枠にとらわれないサービスや経営手腕が評判となり、各種メディアなどにも数多く登場。

自分たちの給料を上げていくのは
自分たち自身

民間の金融業界から介護業界に転身して感じたのは、現場内に経営感覚が乏しいこと。当時は介護保険制度がスタートしたばかりで、サービス力や実績向上を含むマネジメントに対する意識が希薄でした。一般企業の社員と比較しても引けをとらないスタッフを育成するため、名刺を持っての外回り営業や、コスト管理、事業計画の作成など、直接的には介護に直結しないと思われるようなことも業務に加えていきました。

スタッフの社会性や人間力の向上に必ずつながると信じて行ってきたその取り組みを通じて、当時まだまだ低かった基本給を「自分たちで上げていく」ことにつながるのだということを伝え続けました。いまでは各部門長から毎日業績報告があがり、実績が厳しければ私以上にそれぞれが知恵を絞り、対策を講じる習慣が身についています。

また、全社的な改革をスピーディに行うために、異業種出身者を中心に人材を採用し、営業・人事・企画・広報を専門で行う経営戦略室を4年前に立ち上げました。ここではちょっと目を引く採用手法や、人事評価制度、集客戦術などのアイデアを出し合い、真面目なものから面白いものまで、いいと思ったものはどんどん実行に移しています。
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技を究め、講師料を稼ぐ「ケアマイスター」

経営戦略室では、隔週開催の定例会議のアイデア出しの時間に全員が複数案を持ち寄り、新たな施策の多くを生み出してきました。マネジメントの柱ともいえる介護技術認定制度「ケアマイスター」も、メンバーのひとりである山本雅則の発案によるもの。山本が経営戦略室の前身であるシステム広報室にいた当時、技術が高くて周囲の信頼感は厚いのに、管理職には向かないという人がいて、こうした人を積極的に評価する制度をつくれないかと考え、思いついたのがこの制度です。

引っ越し業者の「マイスタークオリティ」にヒントを得て、革製品職人の技術認定制度を参考に、仕組みを整えていきました。転職を繰り返すのではなく、ひとつの組織で長く勤め、個人技能を高めつつ、しっかりと人に指導する力をつけ、指導者レベルにまで到達すれば、独立することも可能です。

制度を一歩進めて現在は、あかねが中心となって社団法人日本ケアマイスター協会を設立。試験を実施する施設から試験料をいただく代わりに、マイスターが出張して監督・審査員・指導講師などを務めます。マイスターに手当以外にも講師料を支払うことができれば、昇進・昇格しなくても年収アップが可能になります。そういうかたちで技を究めた人たちに報いることが、私の数年前からの夢だったのです。
グレードは無資格も含めると6つのステップで構成
ケアマイスターの実技試験の様子

競争でチーム力を鍛える
「あかねグランプリ」

組織の課題のひとつがチーム力の強化、つまり中堅職員のリーダーシップ不足の解消と現場のさらなる活性化でした。解決するアイデアを模索していたところ、やはり山本が漫画から「組織を手っ取り早く強化するには、敵対する勢力を作ること」というヒントを得てイベントを提案、「シーツ交換」「おむつ交換」「更衣」の3つの介助技術をエリア対抗で競い合う大会「介護オリンピックあかねグランプリ」が誕生しました。

毎回、予選の参加人数は500人以上で、お客さまにもレクリエーションのひとつとして公開しています。決勝大会は体育館を借りきって行い、マイスターが審査員を担当、「速さ」と「美しさ」を基準に競い合います。賞金は総額120万円。優勝旗や王冠、マント、トロフィーもイベント会社を一切使わず、自前で作成する大会です。

2013年は「更衣」がテーマで、更衣王は初の男子。彼は2012年のおむつ交換で2位に終わったのが悔しくて、1年間鍛錬を積んだ末に、念願の頂点に立ちました。大会に向けて先輩たちは熱心に新人を指導し、勝つための工夫を重ねる中で、指導力や団結力が培われていきます。2014年からは他の法人も加わって実施する予定。さらに緊張感が高まり、「絶対に負けられない戦い」が繰り広げられることになりそうです。
2013年の「介護オリンピックあかねグランプリ」は「更衣」がテーマ
競技は大きく個人戦、ペア戦、団体戦に分かれ、熱い戦いが繰り広げられる

戦隊ヒーロー、大喜利、サーカス…
イベントも妥協知らず

顧客満足の向上や集客を目的に、レクリエーションの企画・演出・実演を専門に行うのが、経営戦略室エンターテイメントチームです。「カール織田」こと織田基秀チーフを中心に、毎日異なるメニューのイベントを各施設で開催しています。

もともと織田のイベントはお客さまに大人気で、所属していた施設でのイベント開催日には、いつもより多くの人たちが集まっていました。この価値を全施設に普及させるため、介護士の織田をイベント専業にして、エンターテイメントチームを立ち上げました。チームの一番の狙いは、たくさんの高齢者にデイサービスに来ていただくこと。織田を中心にあかねにしかできない企画を打ち出し、お客さまがお客さまを呼んでくれるような魅力づくりを行っています。

例をあげると、漫才、大喜利、クイズ番組、時代劇、サーカス、9メートルの巨大巻きずしづくり、戦隊ものなどなど、すべて本格的で、全力投球の妥協のないパフォーマンスが人気の秘密。チームとして各施設を回り始めて2年半ですが、織田がサービスのレベルを示すことで、各現場のイベント力も確実にアップしていることも、大きな波及効果です。
経営戦略室エンターテイメントチーム織田基秀チーフ。「一人でも多くのお客さまを、笑顔にすることが僕の使命。これからもみんなをあっと言わせる斬新なイベントを企画します!」
これが噂の戦隊ものコント「介護戦隊天河マン」のコスチューム

プロの広告制作会社と肩を並べる
クリエイティブ集団

人材の確保は介護業界の大きな課題です。高いデザイン力と企画力で、積極的な企業ブランディング活動を行うことによって他の法人と差別化し、人材の獲得につなげていくのが経営戦略室クリエイティブチーム。この部署には広告代理店や制作会社で、ものづくりに携わってきた専任デザイナーを3名配置し、会社ホームページやパンフレット、採用ツール、ムービー、施設建築の際にはロゴや看板に至るまで、社内で制作しています。

デザインのクオリティも妥協なし。社内報ひとつ、イベント用ビデオひとつとっても「プロの制作会社に頼んだレベル」でないとOKを出しません。ユニフォームにもこだわりました。業界の常識であるパステルカラーのジャージという既成概念を壊す、自由な発想のデザインを求めて、試行錯誤の上、大阪モード学園とのコラボレーションによって、いまのデザインが実現しました。

私は「福祉のレベルはこの程度」という世の中の常識を壊したい。すべてをプロのレベルで作っていくクオリティの高い介護事業者が増えていくことで、介護業界のポジションや、業界人の視点も上がっていくと思います。ひいてはそれが、この業界に多くの人材が流入し、超高齢社会を担っていくことにつながるのだと確信しています。
大阪モード学園の学生が描いたデザイン画と実際のユニフォーム

介護士は「暮らし」や「最期」を
演出するスペシャリスト

私たちが運営する高齢者ホームは、入居された方々が安心して亡くなっていくための場所でもあります。それだけにスタッフには、ご家族が「よい最期だった」と納得して終えられる演出のスペシャリストであってほしいと考えています。また、在宅で暮らす高齢者の場合なら、その方が残された時間を存分に享受できるように、家族にはできない生活の飾り方を、レクリエーションなどを通じて提供することに全力を投じてほしいと考えています。

「最期」を演出し、「暮らし」を演出する。そこが私たちのすべての活動の要だと思っています。また、私たち経営陣は、ご家族が親御さんを預けたことを自慢できるような施設を提供することこそが、使命だと思っています。

今後、介護が日本の未来を担う一大産業になっていくのは間違いありません。最近では、出会う同業の経営者の多くが他業界経験者だったり、自分よりも若い人たちになっています。営業職か、介護職か、というふうに、介護が他の仕事と同列の選択肢に並ぶ時代は、もうすぐそこまで来ています。まだまだ介護は面白くできるし、仕掛けていく余地が十分にある世界です。
総合介護福祉施設とクリニックを併設した「アマルネス・ガーデン」

■面白がれる人に“面白い”を届けたい

経営戦略室クリエイティブチーム 係長 山本雅則さん
僕は多くの人たちに「こんなに面白い会社があるんだ」ということをアピールしたい。「面白いことをやってるから入りたい」という人に来てもらわないと、いま以上に面白いことができないと思っているので、そういう人への情報発信が重要だと考えています。従来のイメージで福祉を志してきた人には、あかねは変わった法人に映っているかもしれません。誤解を恐れずに言えばあかねは、いわゆる「介護だけをしたい」という人には向いていない法人かも。あかねがあくまでも求めているのは、イノベーションの風を吹き込む先駆者なんです。
自社案件だけでなく、他社のパンフレット作成やムービー作成までもこなす

■ケアマイスターでみんなの意識が変わった

アマルネス・ガーデン ミドルマネージャー(副施設長級)マイスター 福田望さん
最上位クラスのマイスターを取得すると、資格手当が月1万4,000円になります。他の資格手当と合わせると最低でも4万円くらいが給与に加算されます。ケアマイスターができたことで、みんなの意識が変わり、毎年年末になると「勉強せなアカン」というムードになります。最近は「教えてください」とメンバーからも声が掛かります。講師役として新幹線で東京に出張、なんていままでは考えられないこと。大学時代の仲間に話すと「介護士で出張って何で?」と驚かれますが、他の地域の施設で話をするとモチベーションも上がるし、ケアの考え方や経営手法の違いなど、いろいろな気付きもありますね。
現在は育児休暇取得中。施設には社内託児所もあるので、復帰後も安心
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文: 高山 淳
写真: 濱野哲也
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