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2013年11月16日より、長崎在住のマンガ家・岡野雄一さん原作の映画「ペコロスの母に会いに行く」が全国公開されます。主人公のゆういちと認知症の母・みつえとの日常を、笑いと涙を交えて描いた原作は、介護に携わる多くの方の共感を呼び、2012年に書籍化されると20万部を超えるベストセラーになりました。岡野さんは現在も、母が入所しているグループホームに通いながら、執筆活動を続けています。どんな想いで認知症の母をマンガで描き始めたのか。岡野さんにとっての介護とは何か。地元・長崎でお話を伺いました。
プロフィール紹介
マンガ家。1950年長崎県生まれ。20歳で上京し、出版社で編集の仕事などに携わったあと、40歳で長崎にUターン。タウン誌の1ページに描き綴っていた、認知症の母・みつえとの日常を描いたエッセイマンガが地元で人気を呼び、自費出版本を書籍化した『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社)は20万部を超えるベストセラーになる。現在は西日本新聞や週刊朝日にエッセイマンガを連載中。

タウン誌の片隅から始まった
「ペコロスの母に会いに行く」

子どものころからマンガが好きで、小学生のころからよく描いてました。上京して成人向けマンガ雑誌の編集長をしていたときも、一年に一度くらいは仲間と同人誌を出していましたね。

40歳のときに息子を連れて長崎に帰り、いくつか仕事を転々としたあと、月刊のタウン誌を作ることになって。そこで、誌面の片隅の1ページをもらって描き始めたマンガが、今回の映画化に至るすべての始まりなんです。

初めは、自分の身の回りで起きたことを身辺雑記的に描いていました。ただ、1999年に親父が亡くなると、お袋がボケ始めて。そのころに初めて、母と自分のエピソードをマンガにしたんです。

母との日常を描き始めると、「こういうこと、あるある」と言ってくれる人が増えてきた。「あれ読んだけど、自分の親もそれくらいの年だからよくわかる」って、書店員や飲み屋で会う人が共感してくれたんですね。

それからは、母を登場させることが多くなったし、自分と両親との新しい接点を作るような気持ちで、親の人生を俯瞰で見るような、ちょっと長めのマンガも描くようになったんです。

画像/岡野さんが初めて母・みつえとのエピソードを描いた単行本未収録作品「シャウト!」
(C)岡野雄一
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深刻になりがちな介護や認知症を
自然に受け入れることが大切だと思う

しっかり者だったのに、いろんなことを少しずつ忘れていく。そんな母を僕はおもしろおかしく見つめられる余裕がありました。

母がボケ始めたときは「認知症」という言葉を知らなかったし、介護のことも今ほど世間で言われていなかったんです。年を取ると足腰が弱くなったり背中が曲がったり、その中のひとつとしてボケもあるのだろうというくらいの感じでした。

家で母を見ていましたが、運よく母の認知症の進行が遅かったことと、それをマンガのネタにしようという気持ちがあったから、イヤなことがあっても笑いのほうに持っていけたのかもしれません。自分のマンガをたまたま見つけてくださった詩人の伊藤比呂美さんは「親すらも食い物にするのは表現する人間の業(ごう)だ」とおっしゃってたけれど(笑)。それを聞いてなんだか安心しましたね。

マンガでも描いていますが、母はふとした瞬間に故郷の天草に帰っていたり、父親と会っている。そんな母を見ていると、「ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかもしれん」って思えるんです。

介護や認知症って何かと深刻になりがちですけど、自然に受け入れることが大切なんじゃないかって思います。

施設へ預けていることに
後ろめたさがあっていい

画像/岡野さんと母・みつえさん(2008年9月撮影)
母が脳梗塞で入院したとき、ケアマネージャーの方から初めて介護サービスのことをいろいろ教わりました。

結局、病気の進行を考慮して、天草が望めるグループホームに入所させることにしたんですが、僕らくらいの年代なら家に連れて帰って看病することが当たり前だと思っていた。だから、いまだに母を施設に預けていることへの後ろめたさがあるんです。

でも、それでいいと思っています。後ろめたさがありつつ、利用できるところは利用する。というのも、親の介護で気持ち的に破綻してしまう方っているじゃないですか。悩むということはそれだけ親想いなんだろうけど、親との距離が近過ぎるとも言えると思うんです。施設に預けるということを「手を延ばせば届くところに離れる」と考えて、距離感を持ってもいいと思うんですね。

自分があってこその生活だし、親との関係ですから。言葉でいうときれい事だし、大変な思いをされている方から「甘い」と言われることもあります。それでも、「甘いけれど、このマンガを見て救われた」と言ってくださる方は多い。最近は「介護施設やサービスを上手に利用している典型例」だなんて言われましたが、本当にその通りだと思うんです。

母親が“ただ居る”だけで
豊かな何かを感じる

最近は母が弱ってしまって。人はこういう形で死んでいくんだなっていうことを、スローモーションで見ている感覚なんですね。そうすると、マンガを描いているせいもあるんでしょうけど、自分の“アンテナ”が今まで以上に張っている感じがするんです。どういうことかというと、今、母が生きているということは、母が今まで接してきたものの気配があるということなんですね。

例えば、母がいてくれることで親父の気配も感じるんです。母の娘時代の天草の景色が現れるというか。車いすの周りに小川が流れていたり、鶏が歩いているというふうに。それはあくまで想像なんですけど、母親が“ただ居る”だけで、豊富な何かを感じる。

だから今、母と一緒にいるとすごくいい時間を過ごせるんです。両親の手のひらの上にいるというかね。

画像/映画「ペコロスの母に会いに行く」パンフレットと、「週刊朝日」で連載中のエッセイマンガ「ペコロスの母の玉手箱」

映画はマンガと同じような
笑いと涙を丁寧に重ねてくれている

画像/映画のワンシーン。グループホームで暮らす母を見舞うゆういち
(C)2013「ペコロスの母に会いに行く」製作委員会
映画の仕上がりはとてもよかったですね。そこまで忠実に描かなくてもいいのにと思ってしまうほど、マンガと同じような「笑い」と「涙」を丁寧に積み重ねてくれていました。

岩松さん(了/主人公・ゆういち役)とは何度か飲みました。飲む時、僕の話し方やリアクションなんかを研究なさってたんじゃないかな。赤木さん(春恵/母・みつえ役)は僕の母と実際に会ったわけではないのに、母らしさがリアルに出ていて驚きましたね。

加瀬さん(亮/父・さとる役)と原田さん(貴和子/母・若き日のみつえ役)が演じられた昭和30年代の世界観もすごくよかった。家族と一緒に撮影現場を見学させてもらったんですけど、あの時代の空気が見事に再現されていて。僕、ボロ泣きでしたから(笑)。

この映画は、僕と同じ世代の方はもちろん、若い人にも見てほしいです。ある介護職の方が、「介護職のイロハを教えるマンガや本はあるけれど、目の前にいるおじいちゃんやおばあちゃんがどういう人生を歩んできたのか。そこに思いをはせることを、このマンガは教えてくれる」と言ってくれたんです。

年を取ったら自然にできることだけど、若い人ってそれがなかなかできないじゃないですか。だから、この映画がお年寄りの気持ちに寄り添うきっかけになってくれればうれしいですね。

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「ペコロスの母に会いに行く」 
2013年11月16日(土)より全国ロードショー

原作:岡野雄一 監督:森﨑東 脚本:阿久根知昭 出演:岩松了 赤木春恵 原田貴和子 加瀬亮 竹中直人 大和田健介 松本若菜 原田知世 宇崎竜童 主題歌:一青窈 配給:東風 製作:「ペコロスの母に会いに行く」製作委員会(素浪人/TCエンタテインメント/フォーライフミュージックエンタテインメント/東風)

(内容紹介)
小さなタマネギ“ペコロス”のようなハゲ頭の主人公・ゆういちは、地元・長崎で仕事や音楽活動を続けながら、認知症の母・みつえと暮らしていた。迷子になったり汚れた下着をタンスの中に隠したりする母と、マイペースに向き合うゆういちと家族たち。しかし、認知症は進行し、ゆういちは母をグループホームに預けることにする。認知症の母との日常を、笑いと涙を交えて描いた岡野雄一の原作を、「喜劇・女は度胸」「男はつらいよ フーテンの寅」などの人情喜劇で知られる名匠・森﨑東監督が映画化。
[
文: 成田敏史(verb)
写真: 成田敏史(verb)
]
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