ヘルプマン
光岡佳奈子さんが働くのは、女性の入居者が8割を占める有料老人ホーム。そこで、女性が楽しめるアクティビティをと企画したのが「クレープづくり」でした。久しぶりの料理に皆さん大喜び。ご利用者さんの「できたらいいな、を形にしたい」という光岡さん。日常生活のなかでご利用者さんに寄り添い、気持ちの変化を察することが大切だと言います。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)
プロフィール紹介
早稲田大学スポーツ科学部で学んだ光岡さんは、中学から大学までボート競技に明けくれ、将来は体育教師を目指していた。しかし、デイサービスでの就業体験をきっかけに気持ちが一変。専門外の介護業界へ飛び込んだ。

自分を変えた5日間の就業体験

私がいたスポーツ学科部の場合、体育教師の道に進む人が多く、私も教員免許を取るための準備をしていました。

そんな自分が、今ここで働いているのは、大学の課外授業でデイサービスに5日間の就業体験をしたことがきっかけでした。最初はご高齢の方々との接し方がまったくわからず戸惑っていたのですが、利用者の方から「学校でどんな勉強をしているの?」と話しかけていただき、会話を交わすうちに打ち解けて、あっという間に5日間が過ぎていきました。最終日を迎え、お世話になったお礼に、自分なりに想いを込めた詩をポストカードに書き、お一人おひとりにプレゼントすると、皆さん「わあ、うれしい!」と、私の想像以上に喜んでくださいました。

この経験により、高齢者の生活の支援を通じてその笑顔に触れることが、こんなにも得難いものなんだ、ということを発見できました。
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ベネッセスタイルケアとの出会い

その就業体験で介護業界を就職先のひとつとして意識するようになりましたが、他にもいろんな仕事に触れてみようと、各社の就職セミナーにも参加しました。

気になる企業をいくつか見て回ったのですが、なかなかピンと来る企業と出会うことはできませんでした。逆にその間も、デイサービスでの体験の充実感が忘れられず、就職活動を本格化するときには、この業界一本に狙いを定めました。就業体験の際に自分でホームヘルパーの資格を取得していましたが、もともと介護業界を志していたわけではありませんから、専門知識も技術もない自分が、果たしてこの業界でやっていけるのか、やや不安な気持ちもありました。それを解消してくれたのがベネッセスタイルケアでした。

説明会に参加してみると、教育面が充実していて、経験・スキルを積むことによって明確なキャリア形成が描ける人事制度があることを知りました。自分の中で進むべき道が次第に明確になっていきました。

想いが交差したベネッセの面接

ベネッセスタイルケアが他社よりも際立っていたのは、面接を特に大切にしていた点です。

他社では面接なのに漢字の試験をするようなところもあって、対応に違和感を感じ、あまり印象に残っていないのですが、ベネッセスタイルケアの面接は今でもよく覚えています。私は幼少のころ、大好きだった祖父が脳卒中で倒れたため、よく祖父の身の回りの手伝いを買って出ていました。子どもながらに「少しでも祖父の役に立ちたい」という気持ちがあったのでしょう。その話をベネッセスタイルケアの面接で話したところ、人事の方が「何よりも相手が自立して生活ができるよう、『役に立ちたい』と思えることがこの仕事に携わるための前提条件。ご入居者様の暮らしのお役に立つという私たちの目標は、あなたの想いにもつながるのでは?」とおっしゃってくださったのです。

想いを共感できた気がして、内定をいただいた時には、二つ返事で「よろしくお願いします!」と答えていました。

言葉は時に薬にもなる

入社後は約3週間の集合研修を経て、現在の「グランダ要町」に配属されました。初めて担当させていただいたのは、「ここで小説を書き上げたいんだ」とおっしゃっていたご入居者様。ところが持病の神経痛のためか、思うように執筆が進まないご様子で、食事以外の時間はお部屋にこもりがちでした。少しでも気分転換になればと、イベントにお誘いしたりしましたが、想いは通じず、「ほっといてくれ」と怒られてばかり。なかなか心を開いていただけないまま月日が流れたある日のことです。その方と廊下ですれ違う際に、「悪いけど僕は笑えないよ」と溜息混じりに話しかけられました。

それを聞いた私は、とっさに、「そうですね。笑顔は作ってできるものじゃないですよね」とお答えしました。

それから数ヵ月後、たまたまお部屋に伺ったとき「あのときのキミの言葉で救われたよ。一度お礼が言いたかったんだ」と話され、私の何気ない一言が、そんなにもその方の心に響いていたことに驚きました。残念ながら、その方は小説を完成することなく亡くなられましたが、自分の放つ言葉がそれほど相手の心の中に入っていくものなのだと知ったこの出来事は、今でも私の教訓となっています。

企画のヒントは、会話の中に

ご入居者様の日常生活を支援する中で、ご入居者様が潜在的にやりたいと思っていることを感じ取り、日々の生活に取り入れることも、私たちの役割です。「グランダ要町」のご入居者様は約8割が女性で、ご入居前は自宅で家事をなさっていた主婦の方が比較的多くいらっしゃいます。

そこで、今の生活にはなくて、以前は慣れ親しんでいた「料理」をアクティビティ(毎日の生活を楽しんでいただくために、イベントや体操などを行う時間)に取り入れてみたらどうかと考えて、毎週1回、おやつ作りのアクティビティを企画。第1回目はクレープ作りに挑戦していただきました。「何を入れようかしら?」とおしゃべりしながら生クリームを絞ったり、生地を焼くことに思い切って挑戦したり、皆さん久しぶりの料理に大はしゃぎ。できあがったクレープは、ホットケーキほどの厚さにはなってしまいましたが、すごく楽しんでいただけました。

ご入居者様の中には「こうして欲しい」「こういうことがやりたい」という意思表示が難しい方もいらっしゃいます。だからこそ、毎日の様子や会話の中から、相手の気持ちを察することができるように努力しています。

「できる」を信じ、そっと見守る

この仕事の本質は、ご入居者様が「やりたい」ことや「できる」ことを支援することであって、奪うことではありません。例えば、ゆっくりならば自力で歩ける方には、安易に手を貸さずに、周りの安全を確かめながらそばで見守ります。「一人で過ごしたい」という方には、安全確認のため、一定時間ごとにご様子を伺いながら、自室で過ごしていただきます。

どのように「できる」ことを支え、どこから手を差し出すべきか、そのバランスを見極めることが私たちに求められるサービスだと考えます。
そのためには、ドクターや看護師との連携や、スタッフ全員が日々のちょっとした変化に気づくことが欠かせません。ある80代の女性の方の場合、ご入居当初はご病気の影響で声かけや介助を拒否されたり、急に感情が高ぶったりすることがありました。そこで、毎日の様子をメンバー全員で共有し、気づいたことをノートに記録しておき、通院時にドクターに相談しました。

その情報をもとに、その方の病状に合った適切な処置をしていただいたところ、わずか数ヵ月で体調が回復し、安定されました。本来の穏やかで優しい性格に戻られ、笑顔を見せていただいたときには、「この仕事をやっていて良かった」と思いました。

せかせかしない、理想の時間

1年目は仕事を覚えるのに無我夢中で、あっという間に過ぎていきました。2年目に入り、気持ちに少しだけゆとりができたこともあり、ご入居者様の些細な変化にも気づくことができるようになってきたように思います。また、認知症などの場合、体調や病状、気持ちの変化に気づいたら、すぐに行動に移さないと、事故につながったり、その方の生活リズムを壊してしまったりすることもあるため、とっさの判断、行動力が問われます。

「今日はちょっと違うな」と思ったら、「どこか体調が悪いんですか」とお声をかけたり、「このご入居者様は、日中のご様子はこうでした」と申し送りができたり、最近は思いやりを具体的な行動に移せるようにもなりました。ご入居者様の想いや要望を先回りして汲み取れるようになると、不安が解消されるためか、ご自宅のように寛がれ、穏やかな気分でいてくださるようになります。

そんなご入居者様と一緒にいると、時間がゆっくり流れている感覚を覚えることも。そう感じられるときは、「満足いただけるサービスが提供できている」と実感できる幸せな瞬間です。

これから挑戦したいこと

普段、私たちは何気なく歩いていますが、介護度の高い方にとって自分で「歩く」ことは必ずしも容易ではありません。このためホームには手すりが設置され、極力段差をなくすなどのバリアフリー設計になっています。ただ、ホーム内は歩ける方も、外での散歩は狭い路地ではシルバーカーが使いにくいなどの理由から、危険度が高まります。運動量を増やすため、意欲のある方が歩く練習をお手伝いしたいのですが、なかなか実現に至っていません。そこで、いま私が目指しているのは、ホーム全体の業務改善を行って、もっとご入居者様のご要望にお応えできるチャンスを作ること。

ゆくゆくは、外出したいというご要望だけにとどまらず、ご入居者様からリクエストされる前に「こんな介護サービスがあったらいいな」を形にし、ご入居者様に「ここに来てよかった」と言っていただけるようにホーム全体を変えていきたいと思っています。

行動の本質を指導できる先輩に

間もなく3年目を迎え、私も後輩を指導する立場になりました。右も左もわからない私に、丁寧に指導してくださった先輩たちのように、今度は私が介助技術だけでなく「なぜそうしなければならないのか」「なぜこうした方がいいのか」といった行動の意味や本質まで、しっかり指導できるようになりたいと思います。

当社には、サービスリーダー、ホーム長など、ご入居者様のそばでキャリアを積み上げられる道や、人事、教育・研修、営業、お客様窓口といった、別の側面からご入居者様を支えるキャリアへの道など、思い描くキャリアプランに添って、様々な方向で経験や能力を発揮できるチャンスがあります。また、役割や位置づけを明確に定義した等級制度も整っているので、ゆくゆくは、こうした制度やチャンスを生かして次のキャリアに挑戦してみたいと思います。今は現場の仕事が楽しく充実した日々を送ることができているので、まずはここでご入居者様の気持ちを自然に察することができる専門性をしっかり身につけてから、次のキャリアを考えていこうと思っています。

光岡さんからのメッセージ

ホームにはいろんな考えを持った、支援すべき状態の異なるご入居者様がいらっしゃいます。
そのお一人おひとりに寄り添い、支援していくためには、やはりいろんな考えを持ったスタッフが必要です。

また、毎日の生活は、一見同じようでいて、ご入居者様の体調や気分は日々変化します。支援の仕方によっては、それまで歩けなかった方が歩けるようになったり、食事の支援が必要だった方がご自分で召しあがれるようになったりと、「できること」をご入居者様と一緒に増やしていける奥深さがこの仕事にはあります。こうした変化をご入居者様と共有し、楽しめるような方が仲間に加わってくださるといいなと思います。
[
文: 高山 淳
写真: 山田 彰一
]
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