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福祉系専門学校を運営する敬心グループ。代表の小林光俊さんが目指すのは、日本の介護福祉士を世界のスタンダードにすること。その視線の先にあるのはアジアの高齢化です。アジア全体の生活水準が上がり、経済成長を遂げたころに訪れる高齢化社会。そのとき、超高齢先進国の日本がアジアでリーダシップを取るために、教育現場が果たす役割とは?  (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)

「人生100年モデル」へのパラダイムシフト

日本は猛スピードで超高齢社会に突入し、私たちの平均寿命は80~100年になろうとしています。

しかし、厚生年金、医療保険など日本の社会システムは、かつての「人生50年モデル」からまだ脱しきれていません。社会システム、インフラの「人生100年モデル」への変革を急がなければなりません。2000年の介護保険制度施行はその第一歩であり、この10年で自らサービスを選択するという新たな「介護文化」が生まれて来ました。今後さらにこれを進化させ、高齢者の生活に必要な次代の介護文化を生み出していく役割を専門学校は担っています。かつて看護も、ファッションも、ITも、美容も、専門学校がその担い手となる専門職を送り出し、大学がこれに追随してきました。

「人生100年モデル」の見本はまだ世界のどこにもありません。日本がその文化を創造し、世界に見本を示さなければなりません。
その牽引者となり、文化創造の担い手となるのが介護の専門職なのです。
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介護を知らない人が言う「3K」

しかし、現状を見ますとマスコミのネガティブ報道の名残で、介護は3K(キツイ・キタナイ・キケン)という誤ったイメージが、いまだに解消されていません。
これらは専門的教育を受けることによってすべて解決できることです。

「キツイ」は主に、対象者の無理な体位移動により腰痛を引き起こすことに起因していますが、例えば50kg以下の介護福祉士が80kg以上の人を無理なく介護するボディメカニズムは、北欧諸国では25年前から研究・確立されており、専門機器もあります。「キタナイ」は職場を清潔にすればよく、専門職がリーダーとなり改善を進めていけば解決できます。介護対象者の「キケン」については、医師や看護師も同様で、危険を回避する方法と体制を整えればいいのです。

逆に介護現場に3Kがある場合は、専門知識と技術でこれを改善できることが専門職の証であるとともに、介護福祉士の役割であるというのが、業界の一般的認識です。

国際的に通用する介護のプロに

介護福祉士は「生活支援の専門家」です。単に食事、入浴、排泄介助に止まらず、対象者の背景や生活環境、地域コミュニティとの関わりなど、さまざまな形の社会参加や生きがい指導までを視野に入れたサポートが求められます。

具体的には地域のボランティアと協力しながら、在宅の認知症の方のケアを行ったり、時には看取りに立ち会ったりということも含みます。生活支援の専門職の立場から利用者に寄り添い、医師や看護師など他の専門職とチームケアの一員として対等に話ができて、時には医療ケア等の研究開発ができる専門性を備えた介護福祉士の養成も必要です。

さらに言えば、グローバル社会の中で今後は国際社会で活躍する介護専門職として、国際的に通用する介護のプロフェッショナル・マスター・ドクター(介護専門職修士・博士)の育成も必要になってくるでしょう。

医療行為の解禁で高まる
介護福祉士の専門性

2011年6月の介護保険法の一部改正では、介護福祉士による痰の吸引や経管栄養(例えば胃ろうのように人工的に、胃に小さな穴を作ってチューブを設置し、水分・栄養を流入させる処置)など一部の医療行為が認められることになりました。こうした医療行為はこれまで介護福祉には認められていませんでしたが、一方で家族や本人には認められるという矛盾があり、現場の家族や介護福祉士からは疑問の声が挙がっていました。

改正により、介護福祉士は自らの仕事の領域を広げることができ、専門性が加わり、社会的評価の向上にもつながります。中には「責任だけ生じて負荷が増えるだけだ」という人がいますが、それはお門違い。国民が困っている時にこれをどう支援するかを考え、前向きに自らの領域を広げていく姿勢がなければ、専門職の発展はありません。

専門性を磨き、国民の信頼を得た上で、待遇面も含めた真の意味での専門職が確立されていくと私は考えます。

フィンランドに学べ

私は2010年9月にフィンランドの「キャリア教育・職業教育」の研修視察に行き、目からうろこが落ちる思いをしました。フィンランドは「教育と経済活性化の国」として世界から評価されており、国際学習到達度調査(PISA)では、年間の授業時間数が最も少ないにもかかわらず、世界トップクラスの成績を続けています。「国際経済競争力」(世界経済フォーラム)でも、6年連続世界一位を続けており、ノキアなどのグローバル企業も存在します。フィンランドの教育原則は、「一部のエリートを作らず、また一人の落ちこぼれも出さない」「教育の最終目標は生活に役立つ知識と技術を持ち自立することにある」というもの。

職業教育は高等学校レベルの職業訓練学校(ボケ―ショナルスクール)と高卒以上を対象とする高等職業専門学校(ポリテクニック)から成り、実践教育を重視しています。

最近の傾向では大卒で学位を習得しても就職が厳しい一方、ポリテクニック卒業者はほぼ100%就職し、ものづくりやサービスで国の活性化に貢献しています。このため大学よりもポリテクニックへの進学者の数が上回っており、さしたる目的意識もなくエスカレーター式に大学に進む日本とは大きな隔たりを感じます。

アジアの職業教育における
ハブ機能を果たす

フィンランドのすごいところは、「常に20年先に、人類(人間)に何が求められ、何が必要になるか」を考え、世界中にアンテナを張り巡らし、成果が出ている教育があれば、即座に視察団を送り、自国の教育システムに取り込む貪欲さです。これに習い、日本が20年後、人口が減り続ける中で世界に存在感を示し続けるための方法の一つは、日本がアジアの職業教育におけるハブ機能を果たすことです。高等教育における職業学位(プロフェッショナルディグリィ、バチェラー・マスター)等を創設し、日本の職業教育を国際的に通用するものとします。その上で、アジアを含む世界の優秀な人材の来日を促し、日本の若者と切磋琢磨してもらうのです。

これまで日本はODAを通じ産業支援やインフラの整備に貢献してきましたが、今後はハコよりも中味が大事。
現場を動かす中堅人材の養成こそ、日本が今最も期待されていることなのです。

アジア各国が経済成長し、保健・衛生・医療が発達した後には高齢社会が待ち構えています。その時こそ、日本の介護産業がイニシアチブを発揮するチャンスです。

「日本版NVQ」で専門性を見える化

こうした動きに合わせ、内閣府では「介護人材」「カーボンマネジメント人材(温室効果ガスの排出量の管理などを専門とする人材)」などの新成長分野を中心に、社会全体に通ずる職業能力・評価制度、いわゆる日本版NVQ※の具体化に向けて準備を進めています。介護については、2012年の秋に7つの段位が示され、介護に従事するみなさんが自分のレベルを認識し、次のステップを目指す枠組みが明確化される予定です。

例えばエントリーレベル1は現行のヘルパー2級研修の修了者、エントリーレベル5~6はプロのレベルのスキルを持ち、かつオリジナリティが発揮できる専門性の高い人、最高の7は分野を代表するトップ・プロフェッショナルといった想定です。

※NVQは1986年にイギリスで導入され、その後欧州に広まった国民共通の職業能力評価制度。

求められるマネジメント力

2012年からの介護保険制度改正では、新しいサービスシステム「地域包括ケアシステム」が創設されます。これは訪問介護と看護が連携し、24時間の定期巡回と随時対応を行うサービスなどが中心で、ケアの対象者を最もよく知る介護福祉士がチームケアの中軸を担い、チームもマネジメントし、さらに力のある人は経営マネジメントも学んで事業運営を行っていきます。

地域ケアシステムを担う事業者は今後、数多く必要になってきますし、仕事の領域としては確実に発展していく可能性があります。先駆けの精神で国民の期待に応えていけば、自分でいくらでも起業できるし、やりがいも得られる仕事です。

介護職の「虹の7K」

世界のどの国でも競争力の源泉は、優れた職業人材の育成・創出です。介護も同じです。
世界一の長寿国であるわが国の将来を左右する重要な要(かなめ)が優れた介護職の育成なのです。
最後に私が唱える介護の3Kならぬ7Kをご紹介しましょう。

介護とは国民の「期待」に応える仕事であり、
やればやるほど利用者や家族に喜ばれる仕事です。
介護は利用者に光を当て、人生に「希望」を持ってもらえる仕事です。
人々に「感謝」され、時に「感激」もされる仕事です。
今後は福祉器具や認知症に関する「研究開発」を急がないといけません。
挑戦した成果が形となり、利用者から「感動」を直接体験できます。
介護は人間の「幸福」を司る専門職です。

以上、介護職は7Kに輝くレインボーとして「人生100年時代」の新しい「生活文化」をクリエイトし、社会のイノベーションを進める優れたリーダーとなることを心がけるべきです。
[
文: 高山 淳
写真: 山田 彰一
]
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