ヘルプマン
「余命数ヵ月と宣告をされてから5年間も暮らしている方もいらっしゃいます。ご利用者さんの人生に深く関われるのが僕たちの介護なんです」そう熱く語る増田淳さん。ケアにはチームであたりますが、メンバー同士でお一人おひとりの介助の方法について議論を交わし、その道のプロと言える先輩から多くのことを学び、小さな奇跡を積み重ねています。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)

身近な存在だった
カラオケ好きの祖母

両親が共働きだったので、自分たち兄弟三人の面倒は祖父母がみてくれました。祖母はカラオケが趣味で、僕が老人クラブの送り迎えをして、ついでに祖母が仲間の前で唄っているのを覗いたり、一緒にCDショップに行って、お気に入りの曲を探したりした思い出があります。祖父はすでに亡くなり、祖母はいま、私が働く施設のショートステイの利用者です。高齢者との触れ合いが自分にも合っていたことから、高校に進む時点で福祉に興味を持ち、福祉系の高校・大学を選びました。

ただ、就職活動の時点ではまだ福祉の道に絞り込む自信が持てず、不動産会社などを受け、内定もいただき、どうするか迷う時期もありました。

最終的には、むさしの園の施設長の明るい人柄と志、真剣に、熱く、「介護とは…」と熱弁を振るう主任の姿に心を動かされ、改めて介護の仕事と向き合うことを決心、今に至ります。
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初めての『同期の桜』体験

実際の介護の現場では、戸惑うことも少なくありませんでした。ご利用者の体の持ち上げや移動の仕方がうまくできずに腰を痛めたり、自分の祖母と同じようにふだんの会話ができるかと思いきや全然違ったり。認知症の方の場合、見知らぬ人間に対しては不安感を覚えて、拒否や怒りの感情を示したりすることがあるので、最初はやはりびっくりしました。まずは、顔を覚えてもらおうとあいさつを丁寧に繰り返し、距離感を縮める努力。

あとは、同じチームの先輩に「ご利用者への対処の仕方はどうしたらいいでしょうか?」とまめに相談し、心をつかむやり方を伝授してもらいました。

ある男性の場合、軍歌が好きだという情報を聞いたので、戦時中のお話を聞きながら、「何か一曲聞かせてください」とお願いすると、元気に右手を振りながら「きさまとおーれーとーはー」と『同期の桜』を朗々と歌われるので、僕も見よう見まねで歌い、以後は距離感がぐっと縮まりました。

チームで「感じて」「察する」力

現在のチームは、体が硬縮してガチガチだったり、寝たきりだったり、要介護度4、5の自立生活が困難な、いわゆる「全介助」の方が対象。メンバー8名が交替で、最大26人のご利用者をケアします。僕たちの目指す介護は、ご利用者の立場に立った介護。それを実践するうちに、ご利用者が笑顔になっていただけたらなおうれしい。また、それはご利用者の向こうにいらっしゃるご家族に、安心して任せられると信頼していただける介護でもあるはず。これをチームで実践するため、日々メンバー同士で一人ひとりの介助の方法についても議論を交わします。

例えば、「Aさんは嚥下(えんげ=のみくだす)能力が低下気味なので、おかずを召し上がっていただくペースを少しダウンして、飲み込んだのを確認してから次を召し上がっていただくように」といった情報が、誰かれとなく発信され、共有されていきます。

大切なのは、「感じて」「察する」力。ご利用者の目線で、この人が何を望んでいるのか、「ふとんがかかって暑いんじゃないか」「この体勢は苦しいんじゃないか」と想像することができ、その場で臨機応変に対処していけることが大事だと思います。

自分たちの手でカイゼンに取り組む

各チームのメンバーは、自分の業務のほかに、広報委員、レクリエーション委員、生活向上委員などの役割を受け持っています。僕は生活向上委員で、各チームから集まってできる生活向上委員会のリーダーを務めています。ここでは、ご利用者が日常生活をより快適に過ごせるような環境の整備や、経営面からもより効率的な運用ができないかをテーマに改善活動に取り組んでいます。

過去の例では、朝・昼・夜に使用する顔ふき用のフェイスタオルを、それまでレンタルで使用していたのを、自前で調達するようにし、洗浄、殺菌、使用という業務サイクルを構築し、コスト削減に取り組んだ例があります。タオルの質にもこだわり、ちょっとだけ手間はかかりますが、ご利用者からも「気持ちがいい」と好評でした。各委員会とも職員が自らのアイデアを活かし、施設の運営に参加できるような活動を目指して取り組んでいます。

各分野に「師」がいます

最近では、食事の際にご家族が介助しても吐き出してしまうのに、僕が介助するとしっかりと飲み込んでくださるようなノウハウも少しずつ身につきました。これも先輩方の介護の技術の蓄積の賜物です。

むさしの園にはそうした介護の「技術の師」のほか、介護という生き方や死について一家言を持つ「生き方の師」、そしてカラオケやお酒の飲み方などアフター5専門の「遊びの師」もいます。祖母の影響か、僕もカラオケ好きなので、その師や仲間たちと「ミスチル」なんかを熱唱しては、ストレス発散しています。

今後のキャリアについては、当面チームリーダーを目指し、後輩や実習生の指導にじっくり取り組みたいですね。理想の後輩は「遊びと真面目の切り替えができる人」。この仕事はメリハリが肝心です。あとはやはり相手の気持ちに立てる人。外見は別に派手だったりしていても構わないけれど、心の優しさは必ず相手に伝わるので、忘れずに持ってきてください。

増田さんからメッセージ

むさしの園では、余命数ヵ月と言われながら、当施設で5年間生きている方もいらっしゃいます。大げさに言ってしまうと、ご家族にできない介護を実現する、不可能も可能にする、ご利用者の人生も変えていく可能性があるのが、僕たちの介護です。介護の現場は日々変化しています。

今のみなさんは技術や知識がなく、不安だと思いますが、まずはセミナーや面接などにガンガン動いてみることをお勧めします。動いてから考える。現場を見て、感じることが何より大切です。
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文: 高山 淳
写真: 山田 彰一
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