ヘルプマン
こんもりとした里山に、幼稚園や老人ホーム、古民家が点在する「ゴジカラ村」。ここは、子どもからお年寄りまでが一緒に暮らし、時間に追われることのない世界。いわば現代のユートピア。村長の吉田一平さんは、能力重視の価値観を捨てて、誰もが立つ瀬のある社会をつくろうと語りかけます。 (※この記事は2012年以前のもので、個人の所属・仕事内容などは現在と異なる場合があります)
プロフィール紹介
幼稚園、老人ホーム、看護福祉専門学校、古民家などがこんもりとした里山の中に共存する現代のユートピア、それが愛知県長久手町の「ゴジカラ村」だ。村長の「一平さん」こと吉田一平氏は、名古屋の鉄鋼商社を34歳で脱サラし、地元に戻ると宅地開発で里山が消えていく現実に直面、ひたすら自然の中で遊ぶだけの幼稚園をつくろうと思い立った。

ただ自然の中で遊ぶだけの幼稚園

1964(昭和39)年、東京オリンピックの年に高校を出て、知り合いのいる名古屋の鉄鋼商社に入社しました。

高度成長期ですから「とにかく猛烈にやれ」と徹底的にしごかれましたね。夜は接待、休みもゴルフで子供と風呂に入った記憶がないんです。そんな生活を15年続けていたら体を壊してしまった。会社に勤めながら地元の消防団で活動をしていて、二足のわらじも大変だったから、結局34歳で脱サラしました。

当時、消防団で町を回っていると区画整理でみるみるうちに山や田んぼが消えていくのがわかりました。ある日1本残っていた木を見て「これだけは切らないで」と思わず工事の人の前に立ちはだかっていました。深い考えがあったわけじゃなくて山がなくなっていくのがうすら寒く感じたんですね。で、手を尽くして仲間で土地を買い集め、何をやろうかと考えた末に「ただ自然の中で遊ぶだけの幼稚園」を思いつきました。

それがゴジカラ村の出発点です。
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童謡の世界を取り戻したい

私は子供の頃の自分を尊敬しているんです。小さい頃は座禅なんか組まなくても今を必死で生きていました。夕焼け小焼け、焚き火だ焚き火だ、の童謡の世界の中で毎日走り回っていた。そういう世界を取り戻してやろうと最初の幼稚園は、子どもたちがひたすら遊び、動物や年寄りといっしょに、農作業の真似ごとをするというイメージで始めました。ところが職員とお年寄りが、ウマが合わなかったりして、近くに老人ホームを創ろうということになりました。

いろいろ施設を回ってみると、多くの老人ホームはビルの中で、エレベーターがあり、受付があり、事務所があって、職員が制服を着て、電話があってと、まるで会社のようでした。

老人たちは確かにきれいなところで暮らしていますが、残念ながら表情がありませんでした。
幼稚園はといえば、みんな制服で同じ時間で動いていて、こちらも会社でした。
これなら自分がやればもっといいものができるはずだと思いました。

会社の価値観を捨てよう

世の中には「時間に追われない国」と「時間に追われる国」があります。
人間社会の捉え方としてこの2つの視点を持つことが大切だと思います。

「時間に追われる国」とは、学校、病院、企業、軍隊などの目的集団。同じ考えの人が集まり、目的のために最短距離を最高の効率で行く国のこと。
「時間に追われない国」とは、家庭や地域、子どもや老人などが暮らす生活集団。いろいろな人々が一緒に暮らし、遠回りすることや自然を楽しめる、いつも未完成な国のことです。

日本の一番の悲劇は、会社の価値観を家の中でも、地域の中でも押し付けてしまったことです。
お父さんは給料が低いと罵られ、子どもは成績が悪いと叱られる。いつも数字で締めつけられ、存在価値よりも能力価値が優先されるようになってしまった。

だから、時間に追われない未完成な国、それがゴジカラ村の目指す姿です。

外とつながるための仕掛けを考える

現在、ゴジカラ村には幼稚園や特別養護老人ホームのほか、愛知総合看護福祉専門学校、デイサービスセンター(日帰りの介護サービス施設)、ケアハウス(高齢者向けアパート)、3つの古民家などが点在しています。高齢者の施設の近くには必ず子どもたちがいるような敷地計画とし、気軽に施設を行き来できるようにしています。また、特養ホームの中庭にヤギやチャボを放し飼いにしており、子どもたちがお年寄りたちの間を縫って見に来られるような動線にしています。

介護職員がお年寄りのお世話をできるのは1日当たり2時間程度。残りの22時間に誰がどう付き添うのかは知恵の絞りどころで、動物や子どもとの触れあいのほか、農園や食堂も地域に開放し、いかに地域の人の協力を得るかが大切です。例えば「きねづかシェアリング部」は会社を退職した方たちが、「昔とった杵柄」を活かしてデイサービスのバスの運転や車椅子の清掃などを有償で手伝ってくれる組織で、頼りになります。

毎週日曜にはご家族と「杜人(もりびと=ご利用者のこと)」がビールなどを飲みながら語らえる「ベロベロバー」を開催、村に3軒ある古民家でもいろりを囲んで和む風景があります。そして、その傍らでは近所の若者が薪割りを手伝ってくれる姿も見かけます。

誰もが「立つ瀬のある社会」をつくる

子どもやお年寄りは寝たきりの方も含め、存在することそのものに価値があります。

普通幼稚園は年長、年中、三歳保育というふうに分かれますが、それは同じ能力の子を集めると管理しやすくより早く進めるから。学校でも成績順に分けるのは、その方が先に行きやすいからです。

でも「時間に追われない国」は、みんな一緒。3歳と5歳の子が一緒に食事をすると、3歳の子がなかなか終わらない。そうするともともとが「時間に追われる国」から来た先生はイライラし出します。午後からの予定に入れないと。

だから私は予定を全部とっぱらうことにしました。
介護も同じ。

みんな一所懸命だから1時間に10人お風呂に入れようとがんばる人もいる。
丁寧過ぎて1人しか入れられない人もいます。経営者なら前者を評価するでしょう。
でも、お年寄りは後者の方がうれしいはず。

どちらも正解なのです。
中には「これでは頑張っても張り合いがない」と去っていく人もいます。

それが時間に追われることなく、誰もが役割を担える「立つ瀬のある社会」なのです。

雑木林のような「有機社会」

うちに見学に来る学生の中には、有機栽培や田舎暮らし、スローライフをキーワードに将来を考えている子が物凄い勢いで増えてきました。おそらくそういう社会に向けてみんな本能的に動き始めているのでしょう。

私はそういう彼らにこれからは有機栽培より有機社会だよと言ってやるんです。
子どもからお年寄りまで様々な世代の人々が混じり合って暮らし、生きる「雑木林」のような多世代共住コミュニティを一緒につくろうと。

さっき「ここは張り合いがない」と去って行った子の中には、思い直してもう一度ここに戻って来る子もいます。だ
から、職場で働くことの価値観が若者の中でも徐々に変わり始めているんでしょう。
幸いなことにこの仕事を30年間続けてきて、ようやく先が見えてきた気がします。

そこでまたひとつ2012年は新しいことに挑戦しようと考えています。

新しいタイプのシェアハウス

2012年末のオープンを目標に進めているのが「ミクスチャーハウス」。
お年寄りや、子育てファミリー、独身男女など様々な64世帯が「混ざって暮らす」4階建ての新しい賃貸住宅です。

住民はそれぞれのプライベート空間を持ちながら広いキッチンや食堂、リビングルーム、菜園、大浴場、露天風呂などの共用スペースを活用し、お互いの経験や知識を分け合い、交流を深めることができます。

もちろん、不便や煩わしさも同時に共有することになるので別名「辛抱ハウス」とも呼んでいます(笑)。

今の社会は核家族化し、煩わしいことを切り捨ててきたために「地域」はなくなってしまいました。
でも、いいことも煩わしいことも含めて「地域」があり、「暮らし」があるのです。

ここの廊下では、子どもたちが好き放題に走り回り、それを見たお年寄りが「コラーッ!走るな」と怒る姿が目に浮かびます。そこではお年寄りの立つ瀬も生まれます。若者の間では今シェアハウスが流行っていると聞きますが、新しいタイプのシェアハウスと考えてもらってもいいですね。

有能なリタイヤ組が
地域の役割を担える仕組みを

ミクスチャーハウスの設計にあたっては、建築学部や人間関係学部の学生たちにもワークショップに参加してもらい、いろんな意見をいただきながら徐々に形が見えてきました。

基本的な考え方としては箱としての施設を作るというより、心地良い「住まい」をつくるという感覚です。

この後、取り組んでいきたいのは、長久手の街づくり。自治体ごとに寄合所を作り、そこを拠点に若者とリタイヤした年寄りが地域の仕事を分担するシステムを作ります。自治体でやっている仕事の一部を地域に出して、有能な人たちに死ぬまで活躍できる役割と居場所を提供したいのです。人口5万人の長久手町ならきっと可能です。

ゴジカラ村の方では現在、駐車場を移動してそこに棚田をつくるプロジェクトを進めている最中。
そこで農業を手伝ってくれる人や、訪問介護での洗濯や食事、掃除のサービスを考えてくれる人など、人々の暮らしをサポートする新しい仕組みを考え、形にしていく人材が、ますます必要になってくると思います。

職員メッセージ 山本雅子さん
ユニットリーダー

施設の入所希望者の面接では、ご本人やご家族から要介護度などの情報を詳しく伺うのですが、入所後は様子を見ながら「○○さん、これはできるんじゃないかな」と声をかけると、意外な力を発揮なさる方もいます。そういったことを繰り返して、ご本人の自立度が上がると自分もうれしくなります。

また、ここではご家族・ご本人の希望で看取り介護を行うこともあり、終末期の杜人(ご利用者)さんを最後までみんなで励まし、悩み、葛藤しながら静かに息を引き取られた時は、悲しいことではありますが、最後までここでご一緒できて良かったと思いました。

一平さん(理事長)とはふだん道で会っても気軽に話しかけますし、月に1回は「もくもく」という無礼講の集いでお酒を飲みながらざっくばらんに相談をしています。先日も次の親睦旅行で「お遍路をやってみたい」と提案したところ、さっそく屋島のお寺がルートに加わっていてびっくり。リーダーは個々の裁量でチーム運営を任されているので、いちいち指示されず自由に運営できるのも私がここにいる理由のひとつです。
[
文: 高山 淳
写真: 山田 彰一
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